
色々テストして集めた情報から
ダンパーをどうしたいのか?が見えてきたのですが,そもそもこうなったきっかけはスプリングをレートアップした事にあります.
事の発端は
今年の2月.205/50R15で何とか40秒台に入れ,モノは試しとその直後に195/55R15で走ったら,なんと両者の差は僅か0.05秒・・・.13mmの幅の差って何なんだろう?と考えさせられ,サーキットアドバイザーから頂いた助言でレートアップに踏み切りました.
当時のバネレートは前後共に12キロ.これを前後共に+2キロして14キロまで上げました.
元々
このダンパーは,フロント:14キロ,リア:10キロ+ヘルパースプリングの仕様で設計してもらったため,スプリングの銘柄こそ違いますがフロントのレートは元に戻る感じ.なので,心配なのは設計値+4キロとなるリアの方で,こちらは減衰力が足りなくなるかなぁ~と思っていました.
しかし,実際に走らせてみると,結果は逆でフロントの動きに悩まされる事になります.
日光・
TC1000とプロに乗って頂いた結果,以下の指摘を頂きました.
日光 ・・・ 6コーナーの進入でフロントの減衰が足りず,荷重を掛けられない
TC1000 ・・・ 転がし気味にコーナーに入ると戻り(反発)が強く,フロントの荷重が抜ける
レートアップして以降,何となくフロント荷重をキープする事が難しい(=荷重が掛かり過ぎたり・突然抜けたりと一定の範囲に留めておけず,ドライビングの再現性が低い)印象を持っていたのですが,それを上手く表現出来ずモヤモヤしていたのを,プロは見事に言語化してくれました.
その後,LSDの仕様変更をきっかけに,リアのインリフトにも悩まされるようになり(↓),
晴れて(?),前後共にダンパーに問題を抱えている事が明らかとなりました.
そして,先日のTC1000のテストの結果,求めている方向性は以下(↓)である事が見えてきました.
フロント(縮み側) ・・・ 減衰力は弱めて,荷重をのせ易くしたい
リア (伸び側) ・・・ 減衰力を弱めて,リアのインリフトを抑えたい
フロント(伸び側) ・・・ 減衰力は強めて,荷重を抜けにくくしたい
リア (縮み側) ・・・ 減衰力を強めて,リアのロール量を抑えたい
縮み側と伸び側で求めている事が逆.更にフロントとリアでも方向性が逆という事で,これを実現するには
2wayダンパーの投入しかなさそうなのですが,その前に,本来レートアップしたらダンパーの減衰力というのはどういう方向性にすべきなのか?を勉強し直してみます.
まず,よく聞くのは「バネレートを上げたら,減衰力も上げる」という話.以前ショップの店長にも「バネレートを設計値から4キロ上げるなら,減衰力も上げないとダメ」と言われていたので,何となく「そういうもんなのかなぁ~」と思っていたのですが,理屈を正確に理解していなかったので改めて考えてみます.
最初は縮み側.
バネレートが低ければスプリングの反力が小さいので,ダンパーを押せばすぐに縮まります(青).バネレートを上げればこの逆となるので,ダンパーを押してもなかなか縮まらない事になります(赤).つまりバネレートを上げると移動量自体が少なくなるのは勿論ですが,それに加えて到達点までの移動速度も遅くなる事が分かります.
例えば,「ロール量を減らすためにバネレートを上げる」というケースにおいては,スプリングが固くなる事によって移動量(≒ロール量)が少なくなる事は狙い通りなのでOKですが,ダンパーの減衰力が同じだとロールが治まるまでの時間は必然的に長くなってしまいます.サーキット走行においてロールしている時間が長いのを好む人はいないでしょうから,バネレートを上げる前のロールスピードと一緒になるようにダンパーの減衰力を下げる事になります.
つまり,「バネレートを上げたら,縮み側の減衰力は下げるべき」という事ですね.
(アレ? 店長が言っていた事と逆だな・・・)
次に伸び側.
こちらは縮み側の逆となり,バネレートが低いとスプリングの反力が小さいため,一度縮んだダンパーを押し戻す力が弱くなかなか伸びません(赤).一方,バネレートを上げた場合はスプリングの反力が大きいため,ダンパーをすぐに元の位置に戻します(青).つまりバネレートを上げると元の位置に戻るまでの時間は短くなる,という事ですね.
従って,この元の位置に戻るまでの時間をレートアップ前と同じにしたいなら,ダンパーの減衰力を上げる必要があり,「バネレートを上げたら,伸び側の減衰力は上げるべき」という事になります.
(店長が言っていたのはコチラの事のようですね)
理屈が分かったところで,実際にメーカーはそういう設計をしているのか確認してみましょう.
一般的にダンパーの減衰力はなかなか開示されないものなのですが,HKSが車種毎に値を公開してくれていたので,今回はその中からFL5用のものをピックアップして見てみます(↓).

(HKS:
ハイパーマックスシリーズより)
このデータを,S→Rへのレートアップと見なして整理し直すと以下となります(↓).
【フロント】
バネレート ・・・ 10 → 14kgf/mm (+40%)
減衰力(縮み側) ・・・ 623 → 530N (-15%)
減衰力(伸び側) ・・・ 1055 →1172N (+11%)
【リア】
バネレート ・・・ 8 → 14kgf/mm (+75%)
減衰力(縮み側) ・・・ 412 → 280N (-33%)
減衰力(伸び側) ・・・ 348 → 294N (-16%)
フロントはバネレートを上げたら,縮み側の減衰力を下げて,伸び側の減衰力をげている事が分かります.先程の理屈通りですね.一方,リアの方は,バネレートが挙げて,縮み側の減衰力を下げているところまでは一緒ですが,伸び側の減衰力は逆に下げています.この辺りはフロントとリアで思想が異なるという事でしょうか?
(リアの伸び側の減衰力を弱めるという事は,より早くリアを伸ばすという事なので,インリフト対策な気もします・・・)
ちなみに,ここでは減衰力の単位が「N」となっていますが,これはピストンスピードが「0.1m/s」の時の値であるため(本来の減衰力の単位は「N/(m/s)」).ダンパーの減衰力はピストンスピードによって変化するため,ここでは「0.1m/s」の定点計測で比較し易くしていた,という事なんでしょう.なぜ「0.1m/s」なのか?という点に関しては,以前勉強した「
ダンパーのお勉強」のブログが参考になると思いますので,そちらを参照下さい.
以上,レートアップ時の減衰力のお勉強でした.理屈と事実を確認出来たところで先述の方向性と照らし合わせてみると,
フロント(縮み側) ・・・ 減衰力は弱めて,荷重をのせ易くしたい ⇒ ○
フロント(伸び側) ・・・ 減衰力は強めて,荷重を抜けにくくしたい ⇒ ○
リア (縮み側) ・・・ 減衰力を強めて,リアのロール量を抑えたい ⇒ ×
リア (伸び側) ・・・ 減衰力を弱めて,リアのインリフトを抑えたい ⇒ ○
という感じで,考え方としては合っていそうです.唯一違うのはリアの縮み側ですが,これはレートアップへの対応というより「こうした方がクルマが速くなる」という意味の方向性になってしまっているためと思われます.なので,ここは減衰の調整幅を持たせて,「設計としては減衰力を弱めても良いが,セッティング要素として強められるようにもしておく」というのが正確な要望なんでしょうね.