
新品タイヤ投入も惨敗に終わったTC1000の原因を突き止めるべく,
過去実績と照らし合わせて分析してみた訳なのですが,そこから見えてきたのは・・・,
「ストレートが遅い!(特に3速領域)」
という事実.重量増がこの結果を招いている可能性もありますが,細かく見ていくと「コーナー脱出時のトラクション不足(クルマが前に進まない)」というのが根本的な原因のようです.
「トラクション不足」というと
LSDが真っ先に思い浮かぶのですが,そこに行く前にまずは直近の変化点から潰し込んでいこうと思います.
①
フロントスプリングの反発力変更(中反発→低反発) ・・・ ピッチ方向の挙動改善
②
ダンパーフォークブッシュ変更 (ピロ→ゴム) ・・・ 不具合対策
③
フロントキャンバー角変更 (4'00→3'30) ・・・ 不具合対策
①はちょっと横に置いておいて,フィーリング的に言うと②は違いがあるとは思えませんでした.
これはゴムブッシュ→ピロボールに変えた最初の時もそうですし,ピロボール→ゴムブッシュに戻した今回の時もそうです.厳密にはダンパーの上下動の動きのスムースさが違ったり,バネ下重量が微妙に変わったりしてハンドリングに影響を与えているんだと思いますが,今回感じた違和感の原因がコレだとは思えません.
一方,③(キャンバー)の方は走行後のタイヤ表面温度から,特に左フロントのショルダー部分の負担が増しているのは間違いなく,乗っている時もタイヤを追い込んでいくと,つんのめるような感触がありました.
この感触は,内圧不足で掛けられた荷重に対してタイヤが支えら切れなかった時の感触と似ており,恐らくタイヤが内側に倒れ込んじゃってるんじゃないかと思います(↓).
このタイヤが倒れ込む要因として「キャンバー不足」というのは十分有り得る話で,一般的にキャンバーを起こせば静止状態でのタイヤ接地面積は増える方向なのでトラクションは良くなるはずなのですが,ショルダーが捻じれたせいでその復元にエネルギーを喰われ,クルマを前に進める力が残っていない・・・というのは何となくイメージ出来る気もします.
という事で,トラクション不足の原因が①(低反発)なのか? ③(キャンバー角)なのか?を切り分けるためにも再びロガーデータを引っぱり出してみます.
まずはサンプルデータ.
【中反発(41.467)】
気圧:1012.7hPa 気温:12.3℃ 路面温度:15.9℃
【低反発(41.614)】
気圧:1016.1hPa 気温:9.0℃ 路面温度:12.5℃
低反発の方は,当日1本目のベスト(41.306)だと新品タイヤの影響(-0.2秒)を受けてしまうため,正確性を期するために多少摩耗が進んだ当日2本目のベストを用いる事にします.
では,データの比較です(緑:中反発 青:低反発).
低反発(青)の方がコンディションが良いにも関わらず,0.1秒以上遅いのが悲しいですが,全域で負けている訳ではなく,部分部分で速いところもあるので詳しく見ていきます.
ホームストレートエンド
やっぱり低反発(青)の方が最高速が低いですね(泣).1コーナー進入のブレーキングまでに全域2km/h程度は車速が低く,これで0.08秒の差が生まれています.繰返しになりますがコンディションは低反発(青)の方が良いので,この差はエンジンパワーではなくトラクションの問題でしょうね.
ならば!という事でアタックラップに入る前の最終コーナーのデータを確認してみます(赤:中反発 青:低反発).
車速の伸びはそんなに変わらないですね.むしろタイヤが新しい分だけ横Gが掛かった状態での伸びは低反発(青)の方が良い気すらします.ただ,気になる点としてちょうど100km/hを超えた辺り,この図の右端の辺りで両者の差が開き始めている部分.ここはちょうど2→3速に上げるポイントですので,やはり3速領域(厳密には3速を使っている時の負荷・トラクション・姿勢)に何か問題を抱えていそうです.
1~2コーナー
ここは低反発(青)を投入した狙い通り!という結果になっています.1コーナーの進入でブレーキングを終えた後,ブレーキをリリースしつつステアリングを切り込んでいく訳なのですが,この際にノーズがポン!と跳ね上がる事なく,沈み込んだ状態を維持し続けてくれるため,アクセルを開けた瞬間にアンダーステアに転じる事なく,姿勢を維持したまま2コーナーに向う事が出来ます.これによってボトム:90km/hというなかなかのコーナリングが実現出来ており,先程の0.08秒の遅れを取り戻すどころか,逆に0.06秒リードするような速さを見せています.
ただ,このコーナリングを実現するのには結構苦労させられました.
ブレーキングを終えてステアリングを切り込み,OUT側のタイヤに荷重を掛けていくのですが,低反発なのでこの時に手応えがない・・・.乗っている時は「オイオイ,どこまでロールしていくんだ!?」という感じで姿勢が定まらず,クルマが不安定な印象を受けて,ここからアクセルを開けても大丈夫なのか?とかなり不安になりました.
その不安な気持ちを無理やり捻じ伏せて,アクセルを開けに行くとこういう事も起こる訳で(↓),
ステアリング越しに伝わってくる情報を遮断し,自身のこれまでの経験から進入速度を決めて,クルマの動きを無視してアクセルを開けに行かないとこのようなコーナリングは出来ず,乗っている時はホント変な感じでした.
いや,変というより,
気持ち悪い!という方がより正確な表現かな(苦笑).
この気持ち悪さを知ってしまうと,低反発を毛嫌いする人達の言い分は理解出来ますし,共感もしますね.如何にこっちの方が速いと言われようとも,まだ中反発や高反発を使ってクルマと格闘する方がマシ!と思えちゃうんじゃないでしょうか.低反発にはそれくらいの癖の強さを感じましたし,Swift(高反発)→HYPERCO(低反発)に変えた時も似たような戸惑いがありましたが,今回の中反発→低反発の差はそれ以上のものでしたね.
(ま,こうなるんじゃないかと思っていたので,ある意味
予想通りではあるのですが・・・)
インフィールド
大分長くなってきたので,ヘアピンは飛ばしてインフィールド.
低反発(青)の方がフロント荷重をキープし易いので,やや突っ込み気味(左側の赤丸)に進入しても破綻する事なく,大舵を入れてインリフトさせれば小回りと両立も出来るのですが(右側の赤丸),タイム的には今一つですね・・・.なお,ここから先は中反発(緑)から遅れる一方となります.
左高速コーナー
ここも低反発(青)は2→3速に入れて以降の車速の伸びが今一つですが,ここはしょうがないかなぁ~? 左高速はステアリングレスポンスの影響が結構大きいので,ライン取りを見た感じ(↓),
低反発(青)の方が若干切り遅れている感がありますし,ロールスピードが穏やかだと,ここの車速の伸びはどうしても鈍っちゃいますかね?
最終複合
乗っている時は低反発(青)の方が曲がらない印象を受けたのですが,ロガーデータで比べてみるとそんな事はなさそうですね.あれだけ「トラクションが掛からない!」とか言っていた割には,スムースに加速しているように見えるので,少なくとも低反発スプリングのせいではなさそうですね.
以上,低反発 vs 中反発でした.纏めると,
・低反発投入の理由である,「伸び側のスピードを遅らせる」は実現出来た
・それによりフロントの荷重をキープし易くなり,アクセルONでのアンダーステアは弱まった
・荷重をキープし易いので,その分だけ舵角を増やせるようになった
・但し,舵角を増やすとその分だけつんのめる挙動も出た
・これは低反発の「大きいストロークになるとレートが上がる」という特徴によるものと思われる
・低反発はその名の通り反発力が低いので,ステアリングレスポンスはかなり悪い
・レスポンスの悪化代を見越して操作しないと,速いコーナリングは出来ない
といったところでしょうか.予想していた通り,低反発はかなり癖が強いですね.単純な「良い」「悪い」ではなく「癖が強い」なので,使いこなせればこれはこれで武器になるとは思います.このスプリングのポジティブな部分を残したまま,ネガティブな部分を取り除けるようにセットアップを煮詰めれば何とか目があるかなぁ・・・.
問題の「トラクション不足」に関しては,今回のデータを見る限り,キャンバー角ではなく,低反発スプリングの方が原因っぽいですが,唯一最終複合のフィーリング悪化だけはキャンバー角が減ったせいかな? キャンバーを起こしたメリットは見受けられないので(特に制動力が強まった印象も受けませんでしたし),こちらは元の数値に戻したいところですね.
「フロントスプリングの反発力を下げたらトラクションが掛からなくなる」という理屈は今一つ思いつかないので,車速が伸びない理由は他にあるのかも? それがLSDなのか? エンジンなのか?はデータ不足で分からないので,もう少し情報を集めないとダメですね.