
引続き「Driving Standards Guidelines」の読み解きです.
ここまで
ガイドラインの制定経緯,
概要と来て,いよいよ中身に入って行きます.まず最初はコーナーでのオーバーテイクに関するガイドライン.一番気になる部分ですね.項目としては3つあり,A(イン側から抜く場合),B(アウト側から抜く場合),C(複合コーナーの場合)と分かれています.
A. コーナーのイン側からオーバーテイクする場合
・イン側からオーバーテイクする際にスペースを得るためには,オーバーテイクを行うクルマには以下が必須となる
ⅰ)エイペックスに到達する前に,自車のフロントアクスルが他車のミラーと並んでいること
ⅱ)進入からエイペックスにかけて完全にコントロールされた状態でドライブしており,
「dived in(強引な飛び込み)」を行っていないこと
ⅲ)スチュワードの判断で,妥当なレーシングラインを取っており,
トラックリミット内に残ったまま抜き切っていること
2つ基準が定義されており,「コーナーの進入~エイペックスまでの間」で,「自車のフロントタイヤ(の中心)が他車のミラーの横まで届いていること」がオーバーテイクを試みるための権利を得る条件となっています.
また,これだけだとコーナー進入時にブレーキを遅らせて強引に突っ込めば条件を満たせる事になるので,「強引な飛び込みではない」「曲がり切れるラインで進入した」といった付帯条件を付けて,満たさない場合は「抜く権利なし」と判断するようです.
B.コーナーのアウト側からオーバーテイクする場合
・アウト側での追い越しは,成し遂げるのが難しい操作であると常に見なされる
・スペースを得るためには,コーナー出口まで含めてアウト側からオーバーテイクする際,
オーバーテイクを行うクルマには以下が必須となる
ⅰ)エイペックスにおいて,自車のフロントアクスルが他車のフロントアクスルよりも前であること
ⅱ)進入~エイペックス~出口に至るまで,コントロールした状態で進入していること
ⅲ)トラックリミット内でコーナーを曲がれること
・曲率半径の大きいコーナーで,上記ⅲ)を満たした場合,,
明確なエイペックスが存在しない または 複数のエイペックスが存在するといった注目に値する特徴がある場合,
スチュワードはこれらを個々のケースに応じて扱う
まず,アウト側からオーバーテイクを試みる場合はイン側よりも難しいと明記されています.これはイン側よりも厳しめの判断を行うという事を意図しているんでしょうね.実際にイン側よりも基準が厳しく,「エイペックスにおいて」「自車のフロントタイヤ(の中心)が他車のフロントタイヤ(の中心)よりも前に出ていること」がオーバーテイクを試みるためのの権利を得る条件となっています.
また,権利の判断は「エイペックス」という1点で判断されますが,これだけだとコーナー進入時にブレーキを遅らせ,外から強引に被せれば条件を満たせる事になるので,「コーナーの進入~出口に至る全域でクルマをコントロール出来ているか?」「曲がり切れているか?」という付帯条件を付けて,満たさない場合は「抜く権利なし」と判断するようです.
なお,「エイペックスの1点で判断する」という基準は,ヘアピンのように明確なエイペックスが存在するコーナーであれば問題ないのでしょうが,一見するとエイペックスがないようにも見える緩い高速コーナーにおいては「どこをエイペックスと見なすのか?」が問題となるため,エイペックスの位置はスチュワードが判断するとして,柔軟性を持たせているようです.
C.シケインおよびS字カーブ
・「イン側」「アウト側」に関する上記の指針は,複合コーナーの各要素においても適用される場合がある
・一般的に,優先権は最初のコーナーの要素に対して与えられる
・但し,コーナーの権利を判断する際,スチュワードによって,
連続するコーナーといった他の要素も総合的な判断には含められる
これは,シケインやS字といったイン⇔アウトが入れ替わるコーナーにおける考え方ですね.こういったコーナーは言わば「2つのコーナーが組み合わさったもの」となる訳ですが,基本的には1つ目のコーナーで「優先権」が判断されるようです.但し,組み合わさっているため,「どこまでが1つ目で,どこからが2つ目か?」が問題となる事から,スチュワード側の判断に柔軟性を持たせているようです.
上記A・B・Cに関する重要な注意点
・レースは動的なプロセスである
・これらのガイドラインは,複数のポイントでクルマの相関的な位置を示しており,
インシデントを審議する際,スチュワードは全体的に事態がどのように推移したかを常に見ている
・例えば,以下のような点
ⅰ)インシデントに至るまで,何をしていたか?
(例:ブレーキを遅らせる,強引に飛び込む,ブレーキング中に動く等)
ⅱ)その操作が遅過ぎたり,楽観的だったりしないか?
ⅲ)ドライバー達は,はっきり見えていたか? 分かっていたか? 予測出来たか?
ⅳ)コース上で,その操作は完了出来たと我々は信じられるか?
ⅴ)アンダーステア,オーバーステア,ロックキングがあったか?
ⅵ)接触を避ける試みがあったか?
ⅶ)「優先権」を得るために,どちらかのクルマがブレーキをリリースしていなかったか?
ⅷ)インシデントの要因となるような,クルマの位置取りや操作を行った者がいたか?
ⅸ)コーナーの特性(例:勾配,縁石,カーブ,エイペックス)がインシデントの要因となったか?
ⅹ)タイヤ,タイヤの使用期間,グリップの相対関係はどうだったか?
最後に注意点.オーバーテイクは1点の切り抜き(静止画)で判断すると見誤るため,一連の動きを動的に見て判断する事となっているようです.ドライバーの操作やクルマの動き,コーナーの特性やタイヤのグリップ等,1つの情報だけでなく,複数の情報を参照して総合的に判断する事になっているようです.
「静止画でなく動画で判断すること」というのは,他のスポーツでもあったりしますが,これだけ色々考慮して判断するとなると,やっぱりスチュワード(審判)って大変な役回りだなぁ~と改めて思いました.審判の判断が自分にとって不都合な結果になると,つい暴言を吐きたくなるものですが,審判の苦労を理解して敬意を払うのがホント大事ですね.
以上,コーナー編でした(
次回に続く).
Posted at 2026/07/22 17:37:19 | |
F1の技術 | 日記