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2026年07月20日 イイね!

F1のドライビング基準(制定経緯編)

F1のドライビング基準(制定経緯編)Forza Motorsportで遊んでいる際,他車と接触するとタイムペナルティを喰らう事があるのですが,時々「えっ!?なんで今のでペナルティ?」「明らかに向こうから当たりに来ているじゃないか!」と思う場面があります.

これはゲームに限らず,現実のレースの世界でもよくある事で,競っていて問題が起こると「相手が悪い!」と思いたくなるものですが,引いたカメラで公平に見ると実は自分が悪かったりもしますね.

ただ,どんなスポーツでもそうだと思いますが,競争中は頭に血が昇っているので,自分に不利な判定が出るとカッ!となって非を認められなくなったりもしますが,そういう頭に血が上った人間を冷静に治めるためには,公平な判断を下しているという「基準」が必要となります.情報量の多さからレースにおいて一番揉め事が起こるのはやはりF1なので,F1には「Driving Standards Guidelines(↓)」というドライビング基準が定められています.



このガイドラインは,FIA(Federation Internationale de l'Automobile:国際自動車連盟)がドライバー間のクリーンなレースを促すために定めたもので,これを指針としてスチュワード(競技委員≒審判)が裁定を下す事で公平性を保っています.中継だけを見ていると不可解な裁定に感じる事が多いF1ですが,このガイドラインを頭に入れて映像を見直してみると裁定に納得出来たりするので,前々から一度ちゃんと読んでみたいなぁ~と思っていたのですが,今回じっくりと読んでみる事にしました.

なお,今回参照するのは「2026年2月版」で,分かり易さを優先して多少意訳もしています.


まずは,本ガイドライン制定の経緯から.

2022年,特定の状況下におけるスチュワードの規則解釈に関して,ドライバーから明確化を求める要望があり,インシデント(事案)の調査やペナルティの適用におけるガイドラインとなる「ドライビング・スタンダード」を策定する事で合意された.これを受けて「FIA Driver Commission」は,既存の「F1 Driving Standards Guidelines」を,あらゆるサーキット・レース・カテゴリーに適用可能な文書に再編集した.

「FIA Driver Commission」にとって極めて重要なのは,下位カテゴリーの若手ドライバーが,将来最高峰カテゴリー(=F1)にステップアップした際,それまで適用されてきた「ドライビング・スタンダード」と同じ基準となっている事にある.「FIA Driver Commission」としては以下に掲げる目標が促進・推進される事を狙っている.



  ・安全なレース
  ・激しく競い合うレース
  ・フェアなレース
  ・スポーツにおける公正さ
  ・全カテゴリーを通じた一貫性
  ・全カテゴリーにおけるドライビング基準
  ・ 全カテゴリーにおけるレース運営の標準化

これらの目標の根拠となる考え方は以下である.

 ⅰ)オーバーテイクは推奨されるべきであり,不当または危険な方法で順位を守る行為を容認してはいけない
 ⅱ)若手ドライバーにとって,F1と同じガイドラインでレースを行うことは極めて重要であるが,
   経験不足による事故のリスクが高いため,F1より厳しく設定すべきである
   下位カテゴリーにおいて,規則をより厳格に適用することは若手ドライバーの育成に必要不可欠である
 ⅲ)これらのガイドラインは,イベント期間中,常に適用すべきである
   ドライバーやチームがガイドラインに関して疑問を抱いた場合,
   レースディレクターおよびスチュワードがその説明に応じなければならない
 ⅳ)スチュワードおよびドライバーアドバイザーは,可能な限りドライバーブリーフィングに出席しなければならない
 ⅴ)ガイドラインの適用は,イベント期間を通じて徹底しなくてはならず,
   特にイエローフラッグおよびトラックリミットの遵守には細心の注意を払う必要がある
 ⅵ)トラックリミットに関しては,違反が明白であることをスチュワードは常に確認しなければならない
   違反が明白でない場合,ドライバーに有利な判断(疑わしきは罰せず)がなされるべきである
 ⅶ)各カテゴリーまたはシリーズ毎に,ドライバースチュワードまたはドライバーアドバイザーを任命すべきである



これらのガイドラインが制定された背景にあるのは,2021年のF1で起こった件を踏まえての事ですね(↓).



F1に限らず,どんなスポーツでもそうですが,違反を取り締まる審判役は嫌われ者になり易く,不公平な判断をしていると疑われ易いです.人間がやっている事なので時には間違った判断となる場合もある訳なのですが,1つの判断ミスがとんでもなく大きな影響を及ぼすのがプロスポーツの世界なので,審判を守り,競技に参加している選手達と信頼関係を築く意味でも,こういったガイドラインでアウト⇔セーフの基準を明確にする事は非常に大事に思えます.

ちなみに,国内のモータースポーツではレースに限らず,ⅶ)の部分が問題視されていますね.イベント毎に人が変わるため判定に一貫性がなく,選手が不満の声を挙げているのをよく聞きます.改善出来ない理由は色々とあるのでしょうが,少なくとも全日本格式のイベントくらいは体制を整えて実現して欲しいですね.


以上,まずは話の前振りとなる制定経緯編でした(次回に続く).
Posted at 2026/07/22 12:02:06 | コメント(0) | F1の技術 | 日記
2026年07月14日 イイね!

タイヤデータの読み解き

タイヤデータの読み解きYouTubeを見ていたら,海外のタイヤ比較の動画がオススメに出て来ました.

暇潰しに眺めてみるかぁ~と自動翻訳の字幕出して見ていたのですが,動画の中で「今回のテストのデータは全て公開している」というので,興味半分でリンク先に行ってみたら,ガチのタイヤテストデータでビックリしました(確かに動画中でもタイヤメーカーのテストと言っている).面白そうなので,そのデータをちょっと読み解いてみます.

まずは,その動画から(↓).



動画内では,以下のタイヤをテストしているようです(↓).

  ・Potenza RE-71RZ
  ・Hoosier Track Attack Pro
  ・Nankang Sportnex CR-S
  ・Vitour TEMPESTA P1
  ・Goodyear Eagle F1 SuperCar 3R

この中で気になるのは「71RZ」と「CR-S」でしょうか.VITOUR(ヴィッツァー)びいきの人を知っているので「P1」もちょっと気になりますね.


そして,テストデータはコチラ.タイヤサイズは「275/35R18」に統一されており,車両はF80型の「M3(↓)」.



搭載されているエンジンは直列6気筒 3.0Lツインターボで約430PS,7速のDCTと組み合わせるFR車両なのでリアタイヤは厳しそうですね.なお,細かなスペックとしてはこんな感じだそうです(↓).



コースは,アメリカ・ユタ州にある「Utah Motorsports Campus」で,テストは全長3.5kmの「East Course」で行われたようです(↓).




まずは,「71RZ(青)」と「CR-S(赤)」のベストラップを見てみました(↓).



  71RZ ・・・ 1:41.65
  CR-S ・・・ 1:41.22 (-0.43秒)

全体的に「CR-S(赤)」の方が立ち上がりで早くアクセルを開けられていますね.車重が1500kg以上ある重い車両なので,硬めのタイヤである「CR-S」の方がマッチしたという事なんでしょうか? タイムも「CR-S」の方が0.4秒も速いです.


この中で1箇所だけ「CR-S(赤)」の方がトラクションが掛かっていない部分があったので,そこにフォーカスして見てみると(↓),



ここはターン6(Satisfaction)の立ち上がりのようです(↓).



この部分のタイヤ表面温度を見てみると(↓),



「CR-S(下)」の方が「71RZ(上)」より外側のタイヤが加熱しているようなので,「CR-S」は熱ダレ(オーバーヒート)てグリップが落ちたんでしょうね.ただ,ここ以外は「CR-S」の方が全体的に温度が低く(=温度が上がりにくい),それがタイムに繋がっているようなので,「CR-S」はやっぱり重量級に向いた硬めのタイヤなんだなぁ~と思いました.


こんな感じで色々読み取れてなかなか面白かったのですが,個人的に興味が湧いたのは,タイヤの推移データ(↓).



線の色は以下の通りなのですが,

  LF(左前) ・・・ 青色 ※INTERNAL AIR TEMPERATUREだけデータ欠損
  RF(右前) ・・・ 赤色
  LR(左後) ・・・ 緑色
  RR(右後) ・・・ 黄色

スケールの問題かもしれませんが,FR車両の「内圧(2段目のデータ)」って前後・左右均等に上がっていくんだなぁ~とか,FR車両なので「タイヤの表面温度(3段目のデータ)」はやはりリアタイヤの方が上がり易いんだなぁ~とか,右周りのコースなのでやっぱり右側2輪(RFとRR)の温度が上がり易いんだなぁ~とか,「タイヤの内部温度(4段目のデータ)」は「タイヤの表面温度(3段目のデータ)」と全然相関性がなく,かなり遅れて上がってくるので,冬場に「TPMS(Tire Pressure Monitoring System)」を使ってタイヤのウォームアップを推測しようと思っても効果は低いんだなぁ~とか,色々と気づきが得られました.


最後に「Vitour TEMPESTA P1」ですが(↓),



こちらのタイムは,以下の通り.

  71RZ ・・・ 1:41.65
  P1   ・・・ 1:41.50 (-0.15秒)

「CR-S」よりは遅いですが「71RZ」を上回るタイム.「71RZ」⇔「CR-S」の中間に位置するタイヤのようなので,ちょっと気になりますね.


以上,海外のタイヤデータの読み解きでした.
Posted at 2026/07/24 17:07:32 | コメント(1) | チューニング(タイヤ編) | 日記
2026年07月11日 イイね!

エンブレの強さ

エンブレの強さクルマがなくなりドライビングを楽しめないので,連日Forza Motorsportで気晴らしをしているのですが,ギヤ比のセッティングをしていて,ふと「ステップ比を均等に割り付けるより,ローギヤ側はタイトにしてエンブレ(エンジンブレーキ)を強めに効かせた方が良いのかぁ~?」なんて思いました.

そもそもエンブレの効き具合って一体何に左右されるんだろう?と気になったので,生成AIに聞いてみる事にしました.

「サーキット走行において0.1秒程度の差が出るレベルで,エンブレに影響を及ぼす要素を挙げよ」と指示した結果,以下が出て来ました(↓).

  1位(影響度:★★★) ・・・ 排気量
  2位(影響度:★★☆) ・・・ 圧縮比
  3位(影響度:★★☆) ・・・ スロットル開度
  4位(影響度:★★☆) ・・・ ギヤ比
  5位(影響度:★☆☆) ・・・ エンジン回転数
 

まず,そもそも「エンブレ(エンジンブレーキ)」とは何か?と言うと,



走行中にドライバーがアクセルを戻すと,スロットルが閉じ,エンジンの中に空気を入らなくなるので,シリンダー内で強い負圧が発生し,これが抵抗となってエンジンの回転を止めに行く方向に力が生じる(ブレーキが掛かる)現象の事です.


従って,負圧の発生に影響を及ぼす要素=エンブレの効きに影響する要素となるので,空気を吸い込む量→「排気量」,空気を吸い込む力→「圧縮比」といった図式でこれらの要素が上位に来るようです.

その次に「スロットル開度」が来ますが,これは通常エンブレを効かせると言うとスロットルは全閉だと思いたくなりますが,サーキットでは全閉ではなく,微妙にスロットルを残して負圧の発生量を減らし,エンブレの効き具合をコントロールするテクニックがあるので,それの事を指しています.


(とあるプロに聞いたら,TC2000の最終コーナーでそれをやってると仰っていました・・・)


その次に「ギヤ比」が来て,こちらは負圧に直接関係ありませんが,エンジンの回転数をタイヤの回転数に変換する要素が「ギヤ比」なので,エンジンの回転数が減った際,ローギヤであればあるほど(4速・5速よりも1速・2速の方が)タイヤの回転も一気に減るので,エンブレの効きが強くなるのだそうです.
(あまりにも急激に減り過ぎると,シフトロックと呼ばれる現象が起きますね)



そう考えると,クロスミッションにしてローギヤード化を進めると,加速は速くなりますが,それと等価で減速側も速くなるという事ですね.クロスミッションを入れるとどうしても加速側ばかり意識が行ってしまい,減速側はシフトダウンでオーバーレブでもさせない限り,あまり気にしないのですが,コーナー進入時のアンダー/オーバーステア挙動の要因の1つとして考えるべきだったなぁ~と今更ながら思いました.


最後に「エンジン回転数」となるのですが,これは低回転よりも高回転の方が空気を吸い込む量が多い=負圧の発生も大きいという図式になるので,エンブレの効きが強くなるとの事.



参考までに,B16A(青線)とB18C(赤線)の負圧によるネガティブトルクの大きさをAIにシミュレーションさせてみたところ,こんな波形になるのだそうです.単純な一直線ではなく,高回転側でやや二次曲線的な傾向が見られるので,減速時はヒール&トゥを使って,高回転域を多用した方が早く・短くクルマを止めれるという事ですね.ちなみに,このシミュレーション結果から排気量が200cc増えると,エンブレの効きは11~13%程度増えるようです.


以上,エンブレの強さに関する考察でした.
Posted at 2026/07/11 23:42:29 | コメント(0) | チューニング(エンジン編) | 日記
2026年07月07日 イイね!

DAYTONA UMA

DAYTONA UMA昔のゲームの解像度の粗いクルマを生成AIに修正させたらどうなるんだろう?とグランツーリスモのオリジナルカーをやってみましたが(GT1編,GT2編),そういえば,グランツーリスモの前にセガサターンで「DAYTONA USA」をやってたなーと思い出しました.

「DAYTONA USA」とは,ストックカーレースを題材にした3DCGのレースゲームで,元々はアーケード(ゲームセンターにあるヤツ)でしたが,1995年に家庭用ゲーム機であるセガサターンに移植されました.

当時はちょうど32bitゲーム機戦争の真っ最中で,セガサターンを選ぶか? プレイステーション(プレステ)を選ぶか?で別れましたが,私はサターンに専用の「レーシングコントローラ(↓)」があったので,これ目的でサターンを選びました.



まぁ,結局その後,プレステの方がタイトルが充実していたため,そちらへ移行する事になるのですが,「F1 Live Information」とか(↓),



「SEGA Touring Car Championship」とか(↓),



このハンコンでやりましたねぇ・・・.


そんな遠い記憶を辿りつつ,「DAYTONA USA」に話を戻すと,このゲームでメインに使っていたクルマは「HONET」という名前だったそうで,そちらをやってみたもののがコレ(↓).



今でこそストックカーの知識は多少ありますが,当時は全く知識がなく,まさかあんな重量級のクルマだとは思いもしませんでした.当時のハンコンはフォースフィードバックがないので,ステアリングは重くもならず,クルマの重量は感じられませんでしたからね.

ストックカーに関する遠い記憶を辿ってみると,子供の頃に親に連れられて地元のボーリング場に遊びに行った時に,天井から吊るされているモニターに,なぜかストックカーがオーバルコースでレースしている模様が映し出されていて,「よく分からんクルマが,ひたすらグルグル回っているだけでつまらんなー」と子供心に思ったのを覚えています.「DAYTONA USA」で遊んでいた時は「あん時のクルマだなー」くらいの気持ちで遊んでましたが,その後,実車の情報を仕入れて,グランツーリスモ5で初めてストックカーを触った時は,ハンドリングが酷くてびっくりしましたね(苦笑).


あとそうそう,サターン版の「DAYTONA USA」と言えば「DAYTONA UMA(↓)」.



一定の条件を満たすと,シークレットカーとして「UMA(馬)」が使えるようになるんですよね.「USA」に引っ掛けたジョークネタだったんだと思いますが,鋼鉄の塊であるストックカーに当たり負けしないし(笑),速かったのでとっても記憶に残っています.


以上,半分昔語りになった,生成AIで遊ぶ「DAYTONA USA」のお話でした.
Posted at 2026/07/12 12:49:50 | コメント(0) | シミュレーター・ゲーム | 日記
2026年07月06日 イイね!

F1におけるセッティングの難しさ

F1におけるセッティングの難しさ先日のF1イギリスGP,ホームGPで気合の入っていた好調ルイス・ハミルトン選手がスプリント予選でポールポジションを獲ったものの,日曜のレースに向けた予選では同じフェラーリに所属するシャルル・ルクレール選手に敗れて3位となり,レースもそのまま3位で終わりました.

イギリスGP開幕前まではパワーで劣るフェラーリは苦戦すると言われていた(フェラーリ自身もそう思っていた)のに,スプリント予選でのポール獲得は本当に驚いたのですが,その好調が最後まで続かなかったのか? 気になったので調べてみました.

まず,今回のイギリスGPはスプリントフォーマットで行われたため,P1(フリー走行)→スプリント予選→スプリントレース→予選→レースの流れで進みました.F1には「パルクフェルメ」という,部品変更やセッティング変更が出来ない期間があるため,スプリントフォーマットでセッティングを変えられるタイミングは以下の2回だけ.

  1回目 ・・・ P1~スプリント予選の間
  2回目 ・・・ スプリントレース~予選の間

スプリント予選でポールを獲ったハミルトンからすると,スプリントレース後の2回目の変更タイミングでは何もイジらないのでは?と思いましたが,実際はフロントウイングのフラップを寝かせたのだそうです.



なぜ寝かせたのか?というと,スプリントレースでメルセデスのキミ・アントネッリ選手に抜かれた8周目以降,ついて行く事が出来なかったため(↓).



この原因として,スプリントレース向けのデフセッティングだとオーバーステアが強く,フロントタイヤの負担が大きい状況だったそうです.決勝レースでは,スプリントレースよりもガソリンの搭載量が増え,更にフロントタイヤへの負担が大きくなる(=タイヤの摩耗が厳しくなる)と見たチームは,予選の前にフロントウイングのフラップを寝かせ,前後バランスをリア寄りにする事でオーバーステアを改善する選択をしたそうです.


ちなみに,現在のF1カーにおいては,フロントウイングで発生するダウンフォースの量が全体の約4割を占めるのだそうで(↓),


(SYNSETECH:現代フォーミュラカーのダウンフォースについて①より)

スプリントレース~予選の間は僅か3時間しかありませんから,大掛かりなセッティング変更は出来ず,フロントウイングのフラップ調整でなんとかしようとするのは,極々当たり前な行動に思えます.


では,続く予選ではどうだったのか?というと,今度はフロントウイングを寝かせ過ぎてしまったらしく,低速コーナーの「Village」で強度のアンダーステアに悩まされます(↓).



これに対処するため,予選でのラストアタックではフロントタイヤの内圧を1psi(0.1キロ)上げたようですが,結果はスプリント予選のタイムより0.082秒遅い,1:28.456で3位に終わりました.

スプリント予選と予選のコンディションは以下の通りで(↓),

  スプリント予選 ・・・ 気温:25℃  路面温度:38℃  風速:2.2m/s
  予選       ・・・ 気温:25℃  路面温度:38℃  風速:2.2m/s

完全に同じコンディションであった事から,タイムが伸びなかった原因はセッティング変更に起因している事は明らかです.「GP Tempo」で両者のタイム推移を見比べてみると(↓),



赤がスプリント予選のベスト,白が予選のベストとなるのですが,予選(白)では低速コーナーの立ち上がりで遅れており,ダウンフォースを削った割にはその後のストレートで車速が伸び悩んでいます.ここから察するに,コーナーの立ち上がりでクルマが曲がらず舵角が残ってしまい,立ち上がりの加速が鈍って終端速度が伸びなかったのだと思われます.この時点でちょっとセッティングを外した感があり,決勝は厳しい戦いとなりそうな雰囲気が漂っています・・・.


明けて日曜のレースはどうだったのか?というと,スタートでアントネッリをかわし,ルクレールに続く2位のポジションへと上がりますが(↓),



やはりアンダーステアに悩まされ,首位ルクレールのペースについていく事が出来ません(↓).


(縦軸はタイムなので,上に行くほど遅い事を示しています)

7周目にはフロントタイヤにグレイニング(熱が入らない事によってタイヤ表面が削れる現象)が出始め,これでフロントタイヤの負荷不足=ダウンフォースを減らし過ぎた事に気づいたようです.なお,この際チーム側からは「アンダーステアを減らすために(ステアリングの)左のトグル(↓)を使って」という指示が出ています.



このトグルは「モード」を変更するためのもので,以下の種類があるそうです(↓).


(ChronoGP:IL VOLANTE DELLA SF-26 PROGETTATO DA HAMILTONより)

  CHR ・・・ Charge(充電)
  TRQ ・・・ Torque(エンジントルク)
  KC  ・・・ Kinetic Charge(回生)
  FM  ・・・ Fuel Management(燃料調整)
  WG  ・・・ Waste Gate(ウェストゲート:ターボのアクチュエータ)
  EXT ・・・ Extraction(エンジン+モーターの併用)
  FC  ・・・ Fuel Consumption(燃料消費)

・・・等々.これを何から何に変えたのか?までは分かりませんでしたが,グレイニング対策と考えると,コーナー立ち上がりでのパワーの出し方(デプロイメント)を抑えたのかな?

この変更の結果,0.3秒程度タイムが落ちてしまい(↓),



アントネッリに抜かれ(↓),



ハミルトンは「このデプロイメントは良くない!」と不満を述べます.これに対しチーム側は,「The Loopで1速を使うのを止めろ」「Brooklandsは立ち上がり重視で」という指示を出しています(↓).



いずれも低速コーナーなので,恐らくリアタイヤを守る(ホイルスピンによる過熱を避ける)意図なんでしょうね.これで確かに0.2秒程度タイムは回復しています(↓).



しかし,その後14周目にチーム側から「モードTS」の指示が出ます.指示後のラップを比較してみると(↓),



赤が指示前,白が指示後なのですが,「Hanger Straight」で8速を使わず,エンジン回転数を高く保ったまま,車速が伸びていないのが読み取れます.ここから察するにモーターのアシストがない状態のようですから,「モードTS」というのは,モーター or バッテリーの温度(Temperature)を抑える保護(Safe)モードなんでしょうね.

保護モードなので当然ペースは落ち,ハミルトンは再びアンダーステアを訴えますが,チーム側はエンジンブレーキの設定変更で対処するよう指示して若干持ち直します(↓).



その後,21周目にハミルトンが「クレイジーなほどのアンダーステアだ!」と訴えた瞬間,チーム側はピットインを指示.ハミルトンは「まだタイヤはもつ」と不満げでしたが,翌22周目にピットインし,この際にフロントウイングのフラップを上げています(↓).



聞くところによると,ここで「5クリック」上げたそうです.
現在のF1のフロントウイングの角度調整はネジ式になっていて(↓),



調整用の穴にツールを差し込み,ネジを回してフラップの角度を調整しています.このネジが回転する際,カチッ!カチッ!といったクリック感があるため,これを5回回す事を「5クリック」と呼ぶのだそうです.1クリックでフラップの角度が0.5~1°変わるそうで,後のベルギーGPでフェラーリがアンセーフリリースのペナルティを受けた時のFIAのドキュメントを見ると(↓),



「フロントフラップを0.6°アジャストしようとした」という記述があるので,恐らくフェラーリは1クリック=0.6°なんでしょうね.


1クリック=0.6°だとすると,5クリックで3°.フラップの最大角度は10°前後と言われているので,「5クリック」と言ったら「全体の1/3近く上げた」事になるみたいです.これはF1ではなくチャンプカーのデータになりますが(↓),


(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)

フロントウイングのフラップを3°上げると,5%くらいダウンフォースが増える計算になるそうで,先述のフロントウイングで発生するダウンフォース量が全体の約4割という情報を踏まえると,40 × 1.05= 42% で「前後バランスを2%フロント寄りにした」と考えると結構大きな変化となります.それだけアンダーステアに苦しんでいたという事なんでしょうね.


さて,このピットインでタイヤのコンパウンドはミディアム(C2)→ハード(C1)に変わり(↓),



摩耗に対して余裕が出来たため,チームはデフの設定変更も指示します.これでタイヤは違えど,スプリントレースに近い状態となり,ハミルトンは首位ルクレールを上回るペースで周回(↓).



ピットストップの間に抜かれたジョージ・ラッセル選手と4位の座を賭けて争います(↓).



その後,ラッセルがタイヤのトラブルでピットに入ると,3位のマックス・フェルスタッペン選手に追いつき,38周目にこれをパス(↓).



42周目に2位のアントネッリがブレーキダクトのトラブルで後退し,ハミルトンは2位に浮上.そこから48周目にフェルスタッペンがコースアウトし,セーフティカー導入→ピットイン→3位後退→そのままの順位でゴールとなる訳なのですが,2位に上がって以降のペースはトップのルクレールを上回るペースでした(↓).



つまり,ハードでのバランス(フラップを上げた状態)は問題なかったという事で,スプリントレース~予選の間で行った「フロントウイングのフラップを下げる」というオーバーステア対策が失敗だったという事になります.たった「5クリック(≒5°)」の差で,これだけペースが変わるという事なんですから,F1カーのセッティングって本当に難しいんでしょうね・・・.


以上,F1におけるセッティングの難しさでした.

今回,初めて走行後のドライバーのコメント,無線でのやりとり,テレメトリデータを追い掛けながら情報を整理してみたのですが,これだけのドラマが裏側であるのですね.中継を見ているだけだと単に「○○が前に行った~」「△△が後ろに下がった~」しか分からないのですが,前に出れた理由,後に下がった理由が分かると数倍面白いですね.

モータースポーツの見せ方において,情報(解説)って大事なんだなぁ~と改めて思いました.
Posted at 2026/07/09 22:04:30 | コメント(0) | トラックバック(0) | F1の技術 | 日記

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「191として見返す http://cvw.jp/b/1684331/49359918/」
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