![[試乗インプレッション]マツダ・RX-8 TypeS 6MT 最後のロータリーテスト [試乗インプレッション]マツダ・RX-8 TypeS 6MT 最後のロータリーテスト](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/blog/000/024/266/178/24266178/p1m.jpg?ct=4723b6a4caa2)
先日生産中止がアナウンスされたマツダ・RX-8に改めてじっくりとテストする機会に恵まれた。孤高のロータリーエンジンをじっくりと堪能出来るラストチャンスかも知れず、背筋がピンと伸びる思いでテストに臨んだ。
今回テストに提供されたクルマは6MTの「TypeS」で価格は293万円(税込)。メーカーOPは装着されておらず、オーディオも無いスパルタンな車両だったが、ロータリーサウンドを存分に味わい、耳に焼き付けろ...という意味で前向きに理解した。
久しぶりに対面したRX-8は登場から既に8年以上が経過したモデルとは思えない程の存在感を放っていた。特にMC後モデルはセールス的に順調と言えなかった事もあり、路上でもあまり遭遇しないから、余計そう感じるのかも知れぬ。
いまや、全長4470mm全幅1770mm全高1340mmのボディはかなり低く感じる。登場時は随分とワイドに感じたが今では普通に見える。それだけ周囲が肥大化している証拠だ。当時親会社であったフォードの意向も反映しRX-8は観音開きの4ドアボディになったと聞くが、クーペ受難の今日ではライバルも少なく、むしろ個性が際立っている様にも思う。決して大きくは無いボディに、大人4名がキッチリと乗り込むことが出来るRX-8のパッケージングはもう少し評価されても良かったはずだ。
もちろん、世界で唯一のロータリーエンジンを搭載する事により、RX-8専用に設計・開発されているパーツもかなり多い。2~300万円台のクルマでここまで贅沢な設計が許されたクルマは少ないし、今後新たに登場するとは考えにくい。(燃費に目を瞑れば)RX-8は信じられないくらいバーゲンプライスなクルマだったと思う。
運転席へ収まりインテリアを見渡すと、オーディオレスと言うこともあるが、シンプルでスポーティな空間である。10,000rpmまで刻まれたタコメーターが視界の中央に鎮座し、速度はその脇にデジタルで表示される。ステアリングにテレスコが無いのは残念だが、好みのポジションは容易に確保出来たから問題は無かった。ショートストロークのシフトレバーも手を伸ばした先にピタリと位置しており、握りの良いステアリングと共にクルマとの一体感を高めてくれる。
エンジンを始動させると、ギュルギュルと言う独特のセルモーター音がやや長めに響き、ロータリーが目覚める。もちろん、アイドリングの段階からレシプロエンジンとは全然違う密度の濃いサウンドが心地よい。スッと決まるミッションを1速へ入れ、適度な手応えのクラッチを繋げば拍子抜けするくらいスムーズに発進する。以前、RX-8に乗った時にも感じた事だが、RX-7の時代は低速トルクが弱く、発進の難しさもロータリー乗りの腕の見せ所...と記憶していたが、最新のRX-8にそんな問題は存在しない。むしろ、こんなに操作し易いMTなんてそんなにあるもんじゃない。教習車の様な低回転域でのシフトアップにもシレッと追従してくる。6速で50km/h巡航が可能な位だ。もちろん、RX-8でそんな走りを続けていても全然楽しくない。遠慮なくアクセルを踏み込めばまさに「快音」と言うべきサウンドを響かせながら、レッドゾーンの始まる9000rpmを目指してタコメーターはグーンと跳ね上がっていく。RX-7の時代はターボを装着していた事もあり、FCの頃は7000rpm。FDの時代でも8000rpmからレッドゾーンだったと記憶している。RX-8はエンジンをNA化した事等によって9000rpmを実現。それも苦しげ無くアッサリと。オーバーレブ防止の為、クルマから"ピー"と言う電子音が鳴らなければ、どこまでも回りそうなエンジンなのだ。
こんな扱いやすく・快音を響かせ・どこまでも回るロータリーエンジン。時代の流れとはいえ、無くしてしまうのはあまりにも惜しい。
やはり、ロータリー車をマイカーに迎えるのは燃費を初めとする維持費の面で心理的ハードルがあり、容易で無い事は認めざるを得ない。ハイブリッド車で無くとも30km/Lを達成している時代にRX-8のカタログ燃費は9.4km/L(10.15モード値)である。しかし、e-燃費によるユーザーの実効燃費は8.39km/L(MC後モデル)であり、カタログ燃費に対して89%の達成率であるから、カタログ値との乖離は少ない方だろう。同サイトの実効燃費データによれば、フェアレディZ(現行Z34)の場合8.74km/L。インプレッサWRXSTi(現行4ドア/GVB)が8.09km/Lと見れば、決してRX-8だけが非常識にガソリンをガブ飲みしている訳では無い。まぁレシプロエンジン車よりは多少オイル交換に気を配った方が良いだろうが。本体価格の安さも含め、一部の偏見的認識は改める必要がありそうだ。
RX-8は高速道路でも、気持ち良いドライブが楽しめた。6速・100km/hが約3000rpmと最近流行の低中回転域トルクがモリモリ小排気量ターボエンジンでは考えられない回転数であるが、ロータリーエンジンの場合3000rpmなんてアイドリングに毛が生えた程度。そんなに音量が高まるでもなく、精神的負担は小さい。以前私が乗っていたホンダ・S2000は超高回転型のエンジンでかつ、サウンドボリュームが大きい為、あまり高速道路を延々と走り続ける様なパターンは遠慮したい(疲れるから)と感じていた事を思い出す。
先日テストしたホンダ・シビックTypeRユーロの場合はゴツゴツと堅い乗り心地が印象に残っているが、RX-8の場合、決して柔らかくは無くむしろ堅めの部類だがしなやかで洗練された乗り心地である。正直、シビックTypeRユーロとは価格帯も近似しているが、クルマの出来は比較対象にならない。
RX-8を山道のステージに持ち込むと、いつまでも走り続けたくなる程気持ち良かった。こういう感想は滅多に持つものではない。やはり、クルマとの一体感が高い。ボディの剛性感やブレーキのフィーリングも良く、安心してコーナーに飛び込んでいける。ロータリーエンジンの構造上、多少エンジンブレーキが弱い傾向にあるが、エンジンは高回転まで回るからオーバーレブの心配も低く、遠慮なくシフトダウンが決められる。ステアリング・シフト・クラッチのフィーリングに一体感があり、リズムを失うことが無い。やはりマツダはスポーツカーの作り方を良く知っている。
もちろん、完全にフロントミッドシップかつ低重心なエンジンレイアウトにより、前後の重量配分が50:50を達成している事によって、ステアリング操作に対し、極めてリニアなコーナリングが可能となっている事も大きいだろう。シビックTypeRユーロの様に実用車をベースに持つ「スポーツグレード」のクルマとは根本的な血統の違いが出る瞬間である。ロータリーの快音と気持ち良いシフトフィールを味わいながら、山道を駆け抜ける喜び。申し訳ないが、私が知るBMWのどのモデルよりも濃厚であるのは間違いない。やはりRX-8は本物のスポーツカーだと思う。
世の中にはRX-8よりもハイパワーで速いクルマは沢山存在する。タイムを測定すればオジサン・クラウンの方が速いかもしれない。しかし、RX-8の魅力の前ではあまり大きな問題ではない。クルマの価値をカタログスペックや加速力・到達速度で語るのは幼稚な事だと思う。使い切れない程の無駄なパワーは必ずしも楽しさには直結しない。もちろん、ある種のステータスや価値観は認めるのだが。そういうクルマが楽しいのならば、大排気量のドイツ製セダンに乗れば良い。簡単な話である。
私の考えるクルマの楽しさとは、クルマとの一体感であり、街角を曲がった瞬間でも感じ取れるフィーリングを重視している。クルマとの対話は濃厚で有るほど楽しいと感じている。マツダ・ロードスターのクラシカルなヒラヒラ感とも違う楽しさがRX-8にはある。やはりマツダが永年に渡ってコツコツと積み上げてきたロータリーエンジンの個性なんだろう。
RX-8の欠点を探せば燃費以外にも色々と列挙することは可能なんだろうが、このクルマの楽しさは現時点で代用品が無い。「孤高」と言う言葉を辞書で探すと「俗世間から離れて、ひとり自分の志を守ること」と記載されている。まさにRX-8の為に用意された様な言葉である。
マツダはRX-8の生産を来夏に終了するが、ロータリーエンジンの研究・開発は継続すると発表しており、数年後にはロータリー車が再びラインナップされる可能性が無い訳ではない。しかし、自動車メーカーを取り巻く環境を見れば平坦な道程で無い事は火を見るより明らか。RX-7が生産中止となった時は既にRX-8がモーターショーで出展されており、ロータリーの将来に不安を感じることは無かった。しかし、今回は後継車のアナウンスが無い。興味のある方は今のうちに、短時間の試乗でも良いから、ロータリーエンジンのフィーリングを味わっておくべきだ。
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Posted at
2011/10/24 01:26:42