話題の新型モデル。トヨタ「シエンタ」にじっくりと乗ることが出来た。まだ街中で見かけることも稀なモデルなだけに、貴重な経験をさせて頂きました。
グレードは7人乗りのトップグレード"HYBRID Z 7人乗り(E-Four)"で価格は312.8万円(北海道地区)。メーカーOPが複数装着されていたので、少なくとも乗り出し価格は350万円を超えるなかなかの高額モデル。
新型のトヨタ「シエンタ」は3代目モデル。初代は2003年に登場し、2010年に一度生産終了したが、2011年に復帰を果たす珍事を経て2015年に2代目へスイッチ。
初代は人畜無害・プレーンなデザインだったが、2代目は一転して歌舞伎顔(?)スニーカー風(?)のクドい系のデザインに。ジャパンタクシー(JPN TAXI)が2代目「シエンタ」をベースに開発された事は有名なエピソード。
3代目となる新型「シエンタ」はまたもやキャラクターを変え、どことなく初代「シエンタ」や懐かしい「ファンカーゴ」を思い出させる道具感を強調したデザインを採用。一部からはフィアット「パンダ」とかルノー「カングー」に似ていると話題になったが、実車を見るとそんな声も無くなるのではないか。
個人的にも、初代/2代目「シエンタ」は興味が無かったが、3代目のデザインは結構好き。このジャンルでデザインが好きって結構珍しいので大いに注目しています。更に、モデルチェンジを機にTNGA-B プラットフォームを手に入れたことで、走りの性能も上がったと期待。
新型「シエンタ」の諸元は全長4260mm全幅1695mm全高1715mm(E-Four)でホイルベースは2750mm。車重は1420kg。
ハイブリッドのパワートレーンは3気筒1.5Lのガソリンエンジン(91ps/5500rpm・12.2kg-m/3800-4800rpm)と前モーター80ps/14.4kg-m・後モーター3.0ps/4.5kg-mを組み合わせる。
バッテリーは、従来型のニッケル水素。アクアで採用されたバイポーラ型ではない。ヤリスはリチウムイオンを採用するから、各モデル毎にバッテリーを変えられるのもトヨタの器用なところか。但し、後述するが、結構走りの印象も異なるようだ。
私はミニバンタイプの乗用車とは最も無縁なカーライフを送っているから、新型「シエンタ」がミニバンとしてどうなのか...は評価しない。ただ、テスト車を触って見た限り、3列目シートは緊急・短時間の用途に限定されるだろう。
そういう意味で、荷室をフラットかつ広々と使える2列シート車(5人乗り)の方が新型「シエンタ」のキャラクターともマッチするような気もするが、やはり折角なら「イザとなれば3列目が使える」方が好まれるらしい。
TNGA-B プラットフォームを共用する「ヤリス/ヤリスクロス」・「アクア」は内装の質感に不満を感じていたが、新型「シエンタ」は随所にファブリックが貼られ、造形にも気を配られるから特に不満は感じない。本来は「ヤリス」・「アクア」もこのレベル位までは頑張って欲しいところ。
テスト車で市街地を走り出して、直ぐに「ん??」と困惑。正直に言えば、クルマが重く非力に感じる。
物理的な車重(E-Four)でも「ヤリス」1180kg。「ヤリスクロス」1270kgに対し、新型「シエンタ」は1420kg。「ヤリス」より240kgも重ければ、相応に非力になるのも明白。
更に、バッテリーを従来型のニッケル水素とした結果なのか、明らかにモーターのレスポンスが悪くなっている。「ヤリス」はゼロ発進から40km/h位までの領域では積極的にEV走行が可能。レスポンスも良くなかなか爽快だった。「ヤリスクロス」になると若干重さは感じるものの、レスポンスは悪くなかった。
新型「シエンタ」は「EV」ボタンを押してゼロスタートしても、直ぐに「アクセルを踏みすぎ」のメッセージが出てEVモードが解除され、エンジンが始動してしまう。事実上、EVモードで市街地走行は困難。(あまりにも非力で遅いので周囲の流れに乗れない)せいぜい、パーキングスピード領域のみと感じた。
結局のところ、エンジン走行が主力で、モーターは裏方としてアシストに徹するタイプの乗り味になるから、新鮮味はなかった。
「エレクトロフトマチック」も直感的に操作し辛いので好みではない。シフトレバーはコンベンショナルなゲート式で良いのではないだろうか。
山道などパワーが必要となるシーンでは、遠慮なくアクセルをガバッと踏み込めばエンジンが頑張ってパワーを絞り出すから実質的な問題はないが、それなりのノイズと振動も感じるから、総じて350万円に達する領域の乗用車として褒められたものではない。
恐らく、そう遠くない将来ホンダ「フリード」がフルモデルチェンジを実施すれば、「フィット」や「ヴェゼル」同様の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」を採用するだろう。そうなると「シエンタ」は色褪せるだろうな...。
新型「シエンタ」の良いところも書いておく。
やはりTNGA-B プラットフォームを手に入れたことで、ボディの剛性感はガッチリと安心感があり、ナローかつ背高ボディの「シエンタ」でも軽快にコーナーに入っていけるのは最新世代ならでは。タイヤサイズは全車で乗り心地重視の185/65R15を履く。見た目重視の大径タイヤを用意しないことも良識。正直、山道を攻め立てるクルマではないから、このセッティングで正解だと思うが、個人的な嗜好に照らせばもう少しキレのあるコーナーリングを期待したくなるシーンもあった。マイカーのトヨタ「ライズ」と比較し、同じコーナーだと10km/h位は速度を落としたくなるようなキャラクターだと思う。
とはいえ、以前2代目「シエンタ」をレンタカーで乗った際は、あまりにも退屈で眠い走りに辟易した記憶が有るから、その差は歴然。少なくとも乗っていて嫌になるようなことはない。
特にステアリング周辺の剛性感と、ステアリングを回したときの精緻なフィーリングはTNGA-B プラットフォームの美点だ。
「ヤリス」ではロードノイズ対策が貧弱で終始ゴーゴーと響くことに閉口したが、「シエンタ」はかなりの改善を感じた。「静寂」と書くにはまだ抵抗があるが、Bセグメントとしてこれくらいは実現してほしいところ。
私が勝手に評価コースと設定しているルートを走らせた結果も踏まえ、新型「シエンタ」を総括すると、車重に対してパワートレーンが非力で物足りない。このクルマの場合もっと高出力なモーターと、高レスポンスなバッテリーが必要になるだろう。そうでなければ、350万円に達する価格は許容できない。
数ヶ月前にテストした
トヨタ「カローラツーリング」HYBRID W×B (E-Four)が同一コースでかなり好印象だったのとは対照的だった。
「カローラ ツーリング」のトップグレード「HYBRID W×B(E-Four)」を見積しても350万円には達しないから、私が買うならコッチかな。
新型「シエンタ」の2列シート車を買って、車中泊しながら北海道一周の旅に出ようか...なんて妄想をしていたが、ソレの相棒はこのクルマではない(笑)事が判ったのは収穫だった。
↓初代「シエンタ」
↓2代目「シエンタ」