前回BMW「2シリーズアクティブツアラー」の市街地インプレッションを投稿したが、今回はその続編。やはり欧州車は長距離を共にしないと判らないことも多い。
前回の記事を投稿後、「先日は混雑した市街地の試乗でクルマの実力を発揮していない。改めて長距離を走ってみませんか?」と嬉しいご提案を頂いたので、急遽追加テストを実施した。コースは高速道路と峠道を含むワインディング・ロード中心の約300km。近年私が評価コースとして設定する定番ルートである。
今回テストしたモデルは「218d アクティブツアラー」でグレードは「スタンダード」。価格は384万円(税込)。これにプラスパッケージ(154,000円)+コンフォートパッケージ(162,000円)+パーキングサポートパッケージ(147,000円)の3点が追加され合計430.3万円にも達するから、心情的に「スタンダード」と呼ぶにはチト抵抗(笑)がある価格。
ボディ色は定番の「アルピンホワイトIII」。ズングリとしたスタイリングは一目惚れする様なイケメンではないが、見慣れてくると「悪くない」と思わせるものはある。
「218d アクティブツアラー」のサイズは全長4350mm全高1550mm全幅1800mmでホイルベース2670mm。車重は1500kg。個人的に身近なマツダ「アクセラ・スポーツ」と比較すると12cm短く、80mm背高で全幅は5mmワイド。道路上ではまぁ似たサイズ感だろうか。パッと見た印象より実寸はコンパクトで国内でもギリギリ実用的なサイズ。最小回転半径も5.5mだから、終始取り回しに困ることはなかった。
エンジンは2.0L直4ディーゼルターボ。150ps/4000rpm 33.7kg-m/1750-2750rpmに8ATを組み合わせる。ガソリンモデルは1.5L直3ターボエンジンで136ps/4400rpm 22.4kg-m/1250-4300rpmに6ATの組み合わせだから、スペック上ディーゼルのアドバンテージは大きい。更に言えば、ガソリン+21万円でディーゼルエンジン搭載車が買える。正直ガソリンモデルは買いづらい。
この日は台風の影響で気温37度を超える猛暑日だったせいもあるが、エアコンの効きが弱く感じた。
エンジン始動から約2時間MAXモードで車内を冷却したが、キンキンに冷えて来る印象がなかった。
直前まで乗っていた我が「デミオ」は直ぐに冷えていたから特にその差を感じた。エアコンの能力だけでなく、窓側の右腕が常にジリジリと熱く感じていたから、窓ガラスの断熱性が弱い可能性もある。
前回テストから日が浅いので、早速高速道路に。結論から言えば期待以上の「水を得た魚」。延々と高速道路を疾走する姿はこのクルマのハイライト。
ディーゼルエンジンはトルクに余裕があるから、100km/h巡航なんて朝飯前。ステアリングも市街地では軽めの印象だったが、高速では適度な手応えと落ち着いた反応で疲れないタイプ。高速レーンチェンジも背高クルマとして余計な揺り返しが少なく、スパッといなす様は流石。
市街地で硬めに感じた足回りも高速ではフラットな印象へ変化。ブレーキの効きも申し分ない。総じてドライバーに余計な緊張感を与えない。こういうクルマは長時間・長距離でも疲労感は少ない。
但し、個人的な好みを言えば、直進安定性はもう少しビシッと高いのが好み。FRが大半のBMW各車に似せた味付けかもしれないが。
残念なのは、最近流行の追従型アクティブ・クルーズ・コントロールは別オプション設定でテスト車は非装着。(アドバンスド・アクティブ・セーフティー・パッケージ+13万円)もはや常識的な安全装備だから、このクラスのクルマは標準装備とすべきだ。
高速道路の次はワインティングへ。ハイトの高いタイヤ(205/60R16)を装着し、全高も国内仕様は機械式立体駐車場を考慮し、ローダウン(Mスポーツサス)して1550mmである。まぁ見た目からワインディングを喜々として走り込む類で無いのは明らか。これを理解の上でコーナーに飛び込めば、そう期待を裏切られるモノではなかった。軽快なコーナリングとは言えないが、だらしなく腰砕けになる事は無く、結構限界は高い。CBC(コーナリング・ブレーキ・コントロール)が作用したかもしれないが、明確な体感は出来なかった。ブレーキも信頼出来るからソコソコ楽しめた。
ステアリングはこのジャンル中ではクイックな部類。シフトレバー前方のドライビング・パフォーマンス・コントロールを「スポーツモード」にすると、アクセルレスポンスが鋭くなり、シフトタイミングがやや高回転側へ変化。残念なのはパドルシフトが無いことだ。
このクルマの最も残念なポイントは欧州車にしては小振りなシート。ワインディングではシートのサイドサポートが不足で真っ先に音を上げる。グレードが「Mスポーツ」になるとスポーツシートが奢られるから少しは印象が変わるだろうか。
このクルマは四方の視界が割と開けていて運転し易いのは美点。ドアミラーもサイズこそ小振りだが可視範囲に不満はなかった。バックモニターが鮮明でとても見易い事も特記しておく。一方、ETC内臓のルームミラーはもう少しミラー面積が大型だと良い。社外品のワイドミラーは取付けに苦労しそうな形状なだけに尚更だ。
燃費はトータルで17.1km/Lを記録。かなりアクティブに走り込んだ結果としては立派。単価の安い軽油でこれだけのパフォーマンスを発揮するのだから、ランニングコストに文句はない。
これまでの経験からティーゼルエンジンはアイドリングストップ(停止・再始動)時の振動やノイズが大きいと感じていたが、このエンジンは静かに停止・再始動するのは流石バイエルンエンジン製造。市街地走行時は終始繰り返される動作なだけに、マツダはこの点について更なる改善の余地があるのは否めない。
このクルマの「売り」であり、FFを採用した最大のメリットである室内空間について少しだけ。標準状態でも充分に広い荷室を備えるが、後席の前後スライドに加え、40:20:40の分割可倒式も可能。段差のないフラットな荷室が自由自在に作れるから、状況に応じ多様な使い方が出来る。過去のBMW車とは隔世の感すら感じる部分。
惜しいのは荷室優先の結果、前席同様に後席座面の前後長が短く、床から座面までの高さも不足気味。このあたりは「駆けぬける歓び」を追い続けたBMWとして経験不足を感じさせるところ。荷室より後席居住性重視の方は要確認である。
細かい話で恐縮だが、前席カップホルダー(シフトレバー後方)が浅いのか500mlのペットボトルがしっかりホールドされない。ペットボトルが倒れることは無かったが、今後早めの改良を期待したい。
さて。そろそろ結論を。
前回の市街地テストに比べ、長距離テスト後の印象は予想以上に好転した。週末になるとキャンプ・BBQ・釣り・自転車等のアウトドアグッズを満載し遠方へ移動する様なアクティブなライフスタイルを楽しみながら、クルマとしての品質感も重視する方には貴重な選択肢。我が家も含めクルマ選びに意外と苦労する子供のいない夫婦世帯(DINKS?)にも割とハマる気がする。
一方、おおよそ必須となるメーカーオプションを加えると400万円を簡単に超える車両価格に対し、垢抜けしないスタイリングや改善の余地があるシート等に加え、既に市場で結果の出ている壊滅的なリセールを考えると、手放しで「買い」とは正直言い難い。個人的な評価だが、このクルマのベースラインが300万円位ならば、もっと評価されるクルマになりそう。それ故、現状の乖離幅は小さくない印象だ。
残念ながら、BMWの高級・スポーティなブランドイメージから連想される判りやすい価値観はこのクルマにはあまり有効に働いておらず、価格の相対評価を厳しくさせるのではないだろうか。現状では相場が大暴落している認定中古車が間違いなくお買い得。長く乗るつもりなら面白い選択肢だ。
ある意味、国内では最も難しいジャンルにBMWは挑戦したと言える。過去VWも同ジャンルに「ゴルフ・プラス」を導入したが、セールスは惨敗。現在は輸入中止している。(本国ではフルモデルチェンジし「ゴルフ・スポーツバン」として販売中)是非、BMWには今後も改良を続け、価格との整合性を高めて欲しい。
国内ではメルセデス・ベンツ「Bクラス」とシトロエン「C4ピカソ(5名乗り)」が数少ないライバルになる。機会を見てこれらもテストしてみたい。
