北米発エネルギー革命 「石油の世紀」ヤーギン氏に聞く
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C9381959FE0EAE2E39B8DE1E3E2E1E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2
ダニエル・ヤーギン氏は、民間のシンクタンク「IHSケンブリッジ・エナジー・リサーチ・アソシエーツ」会長。エネルギー問題の権威で、世界的ベストセラー「石油の世紀」ではピュリツァー賞を受賞した
「シェールガス革命」に象徴される北米の非在来型資源開発が、世界のエネルギー地図を塗り替えつつある。
世界最大のエネルギー消費国、米国が石油と天然ガス双方の自給を高めると、中東など世界のエネルギー情勢にどう影響するのか。石油研究の第一人者のダニエル・ヤーギン氏は日本経済新聞の取材に、石油の流れの東西から南北へのシフトや中国の中東との関係の深まりなどを予測した。
――イランの核開発問題を巡る緊張などから、原油価格は1バレル100ドルを突破。米国ではガソリン価格が1ガロン4ドルに近づいている。
「原油やガソリンの価格は米国の国内総生産(GDP)や消費に悪影響を及ぼしかねない水準に達しつつある。イラン制裁が発動される夏場に向けて、原油市場の緊張は一段と高まるだろう」
――北米では頁岩(けつがん)層に含まれる「シェールガス」や「シェールオイル」、石油を含む砂岩「オイルサンド」の開発が本格化。米エクソンモービルのレックス・ティラーソン最高経営責任者(CEO)は北米がエネルギーの大転換期を迎えたと指摘する。
「米国のエネルギー市場の状況は、天然ガスの供給過剰を生み出したシェールガスによって劇的に変わった。生産手法が確立するまで25年かかったとはいえ、物事がゆっくりと進むこの業界で、シェールガスがもたらした変化のスピードは注目に値する」
――北米で起きている変化は、世界のエネルギー需給にどう影響するのか。
「これから世界で起きるのは、石油の流れのリバランスだ。今後10年間で、東(中東)から西(米国)への石油の流れが減少する一方、北(カナダ)と南(ブラジル)から米国への石油の流入は増える。カナダのオイルサンドと、ブラジルの深海油田『プレサル』の生産が増える結果、米国の中東依存度は低下。その分、中東からアジアへの石油の流れが増えることになる」
――「リバランス」は中東情勢、特に米国と中東の関係にどう影響するのか。
「その質問はまさにこれからワシントンと北京で問われるものだ。中東が世界経済にとって極めて重要で、石油の市場が一つであることは変わらない。米国は中東の安定が世界の安定の基礎だと考え、深く関与してきた。だが、石油の流れが変化することによって、中国は中東との関係を深め、シーレーン(海上輸送路)について心配するだろう。10年後を完全に見通すことは難しいが、安全保障を含めた戦略的関係について、なんらかの新たな取り決めがあるとみている」
――ニクソン大統領以来、歴代政権が掲げてきた米国の「エネルギー自給」は実現するのか。
「石炭や天然ガス、原子力などあらゆるエネルギーを含めれば、米国の自給率はすでに約80%に達している。問題は石油だが、一時は60%あった輸入比率は45%まで減少した。完全な自給を達成することはないが、比率はさらに低下するだろう」
――米国には供給過剰の天然ガスを液化天然ガス(LNG)としてアジアなどに輸出する計画が相次いでいるが、反対論も根強い。
「米国はLNGをある程度は輸出することになるだろうが、大輸出国になる可能性は低い。エネルギーコストの低下は、米国の競争力を高めるという点で、通貨安と同じ効果がある。現に企業投資の国内回帰が始まり、多くの雇用を生み出しているからだ」
――新著「ザ・クエスト」では、世界の原油生産量が減退に向かう「ピークオイル論」について「世界で石油が枯渇するのは5回目だ」として否定している。
「石油の時代が始まって以来、人々が石油資源の枯渇を心配したことが何度かあった。1880年代、第1次世界大戦、第2次世界大戦、1970年代、そして最近では2005年から2010年にかけての時期がそれにあたる。議論の根底にあるのは石油を発見し、採掘する技術が限界に突き当たるという見方だ」
「しかし、現実に起きていることは、技術革新が人々を驚かせる歴史の繰り返しだ。北米や南米で起きたオイルサンドやシェールオイル、プレサルのような深海油田開発の技術革新がまさにそれにあたる」
――技術がハードルではないとすると、増え続ける世界の石油需要に応える上で何が課題か。
「石油が枯渇することはないと言っても、すべてが開発されるわけではない。政治的な理由や経済的な理由、環境問題など、リスクは地上に十分ある。イラクには多くの石油が眠っているが、政治的な理由でフル生産されたことは一度もない。スーダンやナイジェリア、シリアでは、日量50万~60万バレルの生産が止まっている。資源がそこにあるということと、供給できるということが別問題なのは、イランを巡る緊張を見ても明らかだ」
――東京電力福島第1原子力発電所の事故から1年。世界における原発の今後をどう見る。
「『パッチワーク』だろう。日本は事故に関する内省と将来のエネルギー・ミックスに関して議論を尽くすことになる。電力の50%を原子力でまかなうと言っていたのは、それほど昔のことではないが、もはやありえない。ドイツも脱原発を素早く決めた」
「一方でロシアや中国、インド、ベトナム、アラブ首長国連邦(UAE)などは原発建設を推進する。(34年ぶりの新設を決めた)米国も電力に占める原子力のシェアを維持するには、2020年以降に寿命を迎える原発の代替建設が今後さらに必要になる。原子力については、国によって事情が様々。パッチワークと言ったのはそういう意味だ」
■石油「生産限界」論、新技術が破る
「石油の新たな世界秩序」――。ヤーギン氏は昨年10月、米紙への寄稿で、北米で始まったエネルギー革命が、半世紀以上にわたり中東を中心に動いてきた世界のエネルギー地図にもたらしつつある変化をこう表現した。
革命の原動力は、たゆみない技術革新だ。高圧の水で硬い岩盤に亀裂を入れ、そこに含まれるガスや石油を効率よく回収する技術や、海面から3キロ下にある海底のさらに4キロ下の地層に眠る石油を発見・採掘する技術が次々と生まれている事実こそが「ピークオイル論」を否定する論拠となっている。
新たな資源開発には新たな環境問題が伴う。だが、ヤーギン氏はこうした課題も「新技術と適切な規制、最善の手法の浸透で解決できる」とみる。
新資源と並び、世界のエネルギー情勢に影響を及ぼすものとしてヤーギン氏が注目するのが省エネ技術の進歩だ。米国と日本で1970年代に比べエネルギー効率が2倍になった例を挙げ「もし中国のエネルギー効率が改善しなければ世界全体にとって大きな問題になる」と警告。「日本は多くの国のお手本だ」と述べ、リーダーシップに期待を示した。
---------
極めてまともで妥当な意見だと思うな。
で、これを読んでふと思いついたのは、日本のこの先の最大のリスクってのは「リスクテイクしても何かを得ようとする意思が減退する事」だろうな。要するに日本に貪欲さがなくなったのが最大のリスクなのかも知れない。私もそうなんだけど、なんかみんな微妙に満足してるよね。それって実は良い事じゃないと思う。
技術やコストって意欲があればかなりの部分は乗り越えられる。駄目だと思った時点が負けなんだけど、結構みんな諦めが早いよね。と言うか食い下がるのって面倒なんだもん。(爆)
でも、実はそれじゃ駄目なのさ。
Posted at 2012/04/03 00:08:46 | |
トラックバック(0) |
ニュース | 日記