
決闘に手慣れた人は、闘いの場にあっても恐れたりしない。自分の行動も相手の行動もはっきり認識しているからだ。ところが、一か八かに身をまかせると、相手の剣に刺される前に、待ちかまえていた不運が心に浮かんでしまう。この恐怖は実際に負傷するよりたちが悪い。 (エピクテトス)
F1のドライバーは
英雄である。 闘いに手慣れたギリシャの英雄のように恐れを抱かないのであろうか?
これに答える2つの論文があるのでご紹介しましょう。
最初の論文はフランスのル・マンにある FFSAアカデミー(
L'école des champions)の若きFormula 1レーサーの卵たちの訓練中の心拍数を記録したものです(
Beaune B, Durand S: Cardiac chronotropic adaptation to open-wheel racecar driving in young pilots. Int J Perform Analysis Sport 2011; 11: 326-235.)

これはある練習生(といっても一流)の心拍数を記録したものですが、
Driving boutと示されたプラクティス中は心拍数が最大180/分まで上昇しているのがわかります。
Debriefing+rest+lunchという、反省会+休憩+昼食時にも心拍数はかなり高く140/分まで達する時もあります。コース練習中だけではなく、休憩中にもかなりのストレスがかかっているのがよくわかります。 心拍数180というのは通常の人では体験できないほどの心拍数です。隣にミニスカートのかわいこちゃんが座っていたってまあせいぜい130/分程度までしかドキドキしないでしょう(笑)。
もう1つは古い記録にはなりますが、
ディディエ・ピローニ(
Didier Joseph-Louis Pironi) と
ジル・ヴィルヌーヴ(
Joseph Gilles Henri Villeneuve)というかつてのF1の英雄たちのコース練習中の心拍数を記録したものです(
Watkins ES: The physiology and pathology of Formula One Grand Prix motor racing. Clin Neurosurg. 2006; 53:145-52)
左上の図14.3はディディエ・ピローニが難コースで有名なモナコで練習中の心拍数です。なんと212/分という信じられないほどの心拍数に達しています。 若い人でも心拍数212なら失神を起こしかねないでしょうし、50才以上で動脈硬化のある人なら心筋虚血に陥り、心停止につながる不整脈を起こすかもしれない危険なレベルです。心拍数とともに血圧もかなり上昇していると推定されます。
左下の図14.4はジル・ヴィルヌーヴのものですが、最大心拍数は182に達しています。
右上の図14.5はディディエ・ピローニがル・マンのコースを周回中のもので、ストレートよりもコーナリングで心拍数の上昇が起こっています。
右下の図14.6はジル・ヴィルヌーヴがフィオラーノのコースを走っているときの心拍数の記録です。コーナリングでのGと心拍数の関係です。心拍数が170以上に達するところのみ示していますが、コーナリングの前後に心拍数が上昇しています。
このような危険とストレスの中でF1ドライバーはレースをしています。常人ではありえないほどのアドレナリン・サージの中で正確無比なコーナリングをしてのける彼らはやはり英雄なのです。
「F1入門」関連ページ:
Posted at 2017/01/04 06:58:28 | |
トラックバック(0) | 日記