本日もイタリアのフォーミュラカードライバーの養成訓練会社フォーミュラ・メディシンが関わるF1トップレーサーの脳についての論文です。昨日のは簡単な課題でしたが、今回のは実際のF1 レースの動画をみせて脳のどの部分が活性化するかを調べた研究です。
論文の題名は、
「すべてが貴方の車で起こることではありません: プロ・ドライバーにおける超絶ドライブ技術との機能的・構造的相関」
へんてこりんなこの題名は、最近流行りの本「
It's Not All in Your Head」のダジャレ的もじりだとおもいます。科学論文の題名にはよくダジャレが出るのです。
要約:
運転は複数の認知機能の統合が必要な複雑な行動である。異なる条件下での運転シミュレーションに関係する脳活動の研究は多数あるが、格別の運動・ナビゲーションスキルを要するプロフェッショナル・コンペティティブ・ドライビングにおける脳の形態学的、機能的構築についてはほとんど知られていない。この研究では、11名のプロ・レーシングカードライバーと素人のボランティアについて磁気共鳴画像(MRI)にて構造と機能を調べた。被験者は4つの公式サーキットにおけるフォーミュラ1カーレーシングの短い動画を見せられた。被験者間相関(ISC)法で局所的反応としての脳機能を、機能的結合性による局所間相互作用が評価された。加えて、ヴォクセル準拠形態測定(VBM)を用いて、両群間で特異的な構造上の差異と、ISC解析によって検出された機能的差異との可能な相互作用が検討された。経験のないドライバーに比べ、プロ・ドライバーでは、運動前野・運動野、線条体、前・後部帯状回、脳梁膨大後部皮質、前楔状部、中側頭回、海馬傍回などの運動コントロールおよび空間ナビゲーションに関連する領域がより一貫して用いられるのが観察された。さらに、脳梁膨大後部皮質などこれらの脳領域のいくつかでは、プロ・カードライバーで灰白質の密度が増加していた。さらに加えて、観察者非依存的な空間的地図を記憶するとされる脳梁膨大後部皮質の密度は個々のドライバーの公式競技における勝利率と特異的に相関していた。これらの観察結果は、高度に訓練されたレーシングカードライバーにおける脳の機能的、構造的組織化は通常の運転経験しかない被験者と異なることを示し、格別のドライビング・パフォーマンスの根底には特異的な解剖学的・機能的変化があることを示唆している。
原人解説: 今回も難しい内容ですみません。この研究は昨日の研究の発展形です。
フォーミュラカーレーサーではF1レースの動画を見たときに脳のいろいろなところの活性化がおこりますが、下の図でめだつところに番号を振っています。①は運動野すなわち体の筋肉を動かすための中枢でのうち足を動かす部分です。②は同じく運動野の手を動かす部分です。レースの動画をみると、ブレーキ・アクセルなどペダルを踏む足とステアを握る手に準備状態が生じているのでしょう。③は脳梁膨大後部皮質で、サーキットの地図を覚えるところです。次に来るコーナーがどのくらいで現われ、どのくらいのRなのかを思い浮かべながら次の瞬間に備えていると考えられます。
下の図は脳梁膨大後部皮質の活性化と皮質(灰白質)の密度の比較です。
図のBの青いバーは素人、赤いバーはレーサーで、活性化がこれだけ違うのを示しています。
図のCは同様に、灰白質つまり神経細胞の密度を比べています。レーサーのほうが高い密度です。
図のDは横軸がレースにおける勝率、縦軸が灰白質の密度で、レーサー11人についてプロットしたものです。勝率が高いレーサーでは灰白質の密度が高く、サーキットの地理的関係の記憶が優れている人ほどレースに勝てるということが示唆されます。
この研究から学べること:
皆さんがサーキットを走るときには、繰り返しのプラクティスと、頭の中でのシミュレーションでサーキットの空間地図を強く記憶することが重要であると思われます。そうすることで、次の瞬間にするべきブレーキング、ギアチェンジ、ステアリング、加速が事前に頭の中で準備され、スムーズに狙いどおりのラインでコーナリングできるようになると思われます。コーナーが来てから考えていては遅いのです。それが素人とF1レーサーの差のようです。
このことはアルペンスキーヤーにも同様にみられます。彼らは滑る前に歩いてコースを登り、旗門通過のラインをすべて頭に叩き込みます。
そうしたことは繰り返しの練習で可能となることでしょうが、世界のトップに昇りつめる選手でははじめから脳梁膨大後部皮質が「贈り物Gift」として常人より格段に優れているのかもしれません。
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Posted at
2017/01/18 04:57:30