自転車チェーンに高級品は必要か？

シマノのチェーンが今月から値上げしましたが、世の中にはそれより高いチェーンも存在します。

おそらくもっとも多くのバリエーションを売っていると思われる台湾のKMC社。写真のチェーンは私が試しに購入したゴールドチェーン。まだ使ってないけど。
これは窒化チタン(TiN)コーティングといってエンドミルなど刃物によくおこなわれる処理の色。

さらにKMCチェーンの高級モデルにはダイアモンドライクカーボンコーティング、いわゆるDLC処理したものまである。

正直言って私は呆れますね。

チェーンというのはスプロケットとセットで相性を考えなければならない。TiNやDLCという処理の表面硬さは硬質クロームメッキ以上でとても硬い。当然スプロケットの歯に施してあるニッケルメッキよりはるかに硬い。
これではチェーンは長持ちするだろうが硬すぎるため逆にスプロケットの歯を削ってしまうのでチェーンの寿命が伸びる代わりにスプロケットやチェーンリングの寿命を縮めてしまうだけで本末転倒です。
摩擦というのは相手があってのことですから、どちらを守りどちらが犠牲になるかを考えなければならない。いたずらに硬くして磨耗しないようにすればいいってもんじゃない。かといって双方ともに硬くすれば逆に磨耗が促進したり、かじり付きが発生する。エンジン内部で言えばクランクシャフトが硬いのに対してメタルは柔らかくしてある。結果として双方ともに磨耗に強い。相性が一番大事だ。
私も機械設計を行うが、例えばシャフトと軸受メタルの硬度差は最低でもHRcで10以上はつける。

消耗品として頻繁に交換するならスプロケットやチェーンリングではなくチェーンのほうですから、チェーンには過剰な品質など必要なく、そのぶん安く提供することが求められると私は考える。
そういう意味ではシマノはよくわかっていて、最上級グレードのDURA-ACEチェーンでも摩擦抵抗を抑えるシルテックコーティング以外は無駄に硬さを上げるような無用な高額な表面処理はしていない。まさに質実剛健だ。

それとDLCってのは本来エンジン内部など流体潤滑状態が維持される部位で効果を発揮するもので、チェーンのようなオープン状態で摩擦を受けるような場所では油膜が維持できないため早期にコーティングが剥がれてしまってあまり適さない。実際このKMCのDLCも剥がれやすいとのこと。
まっとうなDLC業者であればDLCの密着性をあげるために下地としてWPCを行うのだがはたしてKMCチェーンはそこまでやってあるのだろうか？