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ちょっと前のこと。
久々に事務所に出勤したら、ナンバー３がボクの部屋を訪ねてきてこう言った。
「6/21なんですが、ここに名前のあるメンバーがお休み頂きます。後で出勤する子もいるみたいですが、基本お休みです。」
わざわざ言いにこなくても、うちの事務所は基本自由出勤でチーム毎のスケジュールで動いてるし、休みも各プロジェクトリーダーの采配による。
平日なのに何？って名前のリストの人数と顔ぶれを見て流石に驚いた。
「流石にこの人数なので一応把握してもらった方が良いのかと」と彼。

うちの事務所は建築設計の事務所としてはかなりの大人数。
CADや模型も含めて社外持ち出しが出来ず、下請けに出せないお仕事が全部なので
そういった専業スタッフも雇うし、香港、パリ、上海、LA、フロリダに数名づつ行ってる。
今回のリストに名前があるスタッフにも今上海に行ってるはずの子もいるし、22日からボクと一緒にフロリダに向かうスタッフの名前もあった。
全64人中28人の名前があった。43.8パーセント。

うちの事務所のビルの3階の一番奥に『LOVE』と書かれたプレートのかかるドアがある。
以前は中会議室と呼ばれた部屋だ。
ボクもその部屋の鍵は持っていない。
そこの部屋を管理してるのが先述のナンバー3、役職は部長ではないのにみんなからは部長と呼ばれる。
『LOVE』はラブとは読まず、『ロ部(ろぶ）』と読む。
部室です。『ハロプロ部』の。

部長はうちの事務所の初期メンバーの一人なんだが、ちょっと変わった入り方をしてる。
カムアウトするが、ボクは昔ハロプロヲタだった。
『ASAYAN』のモーニング娘。の最初の頃から欠かさず見てたし、そのうちFCに入りコンサートにも行くようになった。
推しは後藤真希でavexに移って大宮で活動中止になるまで追いかけていた。

部長はうちの面接に来た時、HMVの袋を持ってきていた。
気になったので、「何のCDを買った？」と聞いた。
モーニング娘。だった。
火曜日の面接だったから、発売日前日でいわゆるフラゲ日で相当ファンだとわかった。
彼はこの面札に落ちた。
数ヶ月後、5/5さいたまスーパーアリーナで保田圭の卒業コンサートがあった。
昼夜公演で5万人が観たコンサートだ。
昼公演が終わって外に出ると「社長！」と肩を叩かれた。そういう肩書きではないけどね。
「中で見かけてもしかしてと追いかけたらやっぱりでした。」
驚いた。
「あー、面接にHMVの袋を持ってきてた…どこに勤めることになった？」
「他に面接は受けてません。あの後は塾講師して生きてます。」
あの大人数のSSAでボクを見つけた。
面白いなと思ってもう１回事務所に連絡するようにと伝え、うちの事務所に来ることになった。
TVで仕事をした現場にモー娘。来てが歌ったりする度、彼と喜んだりした。
品川の仕事の時につんく♂ちゃんと会う機会があったりもした。
あれから20数年。

ボクはハロプロから離れたけど曲は聞いてる、彼はずっと現場にも行くハロプロファンだ。
今のビルに事務所を移して部屋がまだ埋まりきっていなかった頃、彼がLAに２年弱行くことになり荷物をしばらく預かって欲しいというので中会議室に置いた。
帰国後は知らないうちにその部屋が部室になった。
ボクのアシスタントのロボ子さんが苦言を言ったので、占有面積分の家賃と光熱費を払うことで折り合いがついた。
彼は自腹で防音設備を整え、デカいTVとプロジェクターシステムを入れた。
スタッフが増えるたび、少なくても１度は彼にハロプロのコンサートに連れて行かれる。
その中からハマった人間が 『ロ部』に参加している。
ボクの母校と講師をしてる大学の卒業生がほとんどだったのに東大の建築学科の子が入ることになり、ハロプロ研の子だったりした。
『ロ部』は上は51歳、下は22歳、女子も半数いる。

さて、話を戻そう。
6/21に横浜アリーナでアンジュルムの竹内朱莉が卒業するという。
そのコンサートに行く、もしくはライブビューイングに行くというから28人も休むという。
「久々に横アリ行きません？」と誘われたが翌日からフロリダなので体力が持ちそうにないので、CSで見るよと断った。
最後に横アリに行ったのはBIGBANGのファンイベントだから10年は行ってない。

卒業コンサートは前売り完売、ハロプロで横浜アリーナ完売は久しぶりだと彼は言う。
後藤真希のモー娘。卒業も横アリだった。
「終わったら事務所に帰ってくる子もいると思います。」
CSで生中継があるので録画してそれをコンサート後に観にくるらしい。
シャワーもあるし仮眠室もある。
恐らく翌日からフロリダに行く子も上海に戻る子も来るのだろう。
海外の仕事が多いから基本24時間誰かが事務所に居るので、これもその日常なのだろうか。

「ハロプロのおかげで自分はこの事務所に入れたので」ってお話は彼が『ロ部』に勧誘する決め台詞みたくなってるらしい。
てことは、ボクが後藤真希を推してたのはみんな知ってるわけか。

さっき自宅で卒業コンサートを観た。
「どうでした？すごく良いコンサートでしたね。」と彼からLINEが来てた。
『ロ部』には入らないよ。

商業建築の中でも変わった設計を生業にしてます。
40代半ばから週１で２枠、某大学で講師もしていて本業を50になったら引退、
講師で生計を立てるつもりでいたのに色んな災と柵でまだ兼業中。

ボルボを職員駐車場に停めたら、それを面識のない研究棟の先生が見てたらしく
「エモいですね」と声をかけられた。
エモいという言葉が使われ始めて数年経ってるが直接言われたのは初めてだ。
もちろん、語源が『エモーショナル』と『えも言われぬ』という同義語派生の心情表現なのはわかってる。

問１：彼が「エモいですね」と言ったのは何故か答えなさい。
*単純に良い車ですねと言いたかった。
*深い意味はなく「良い天気ですね」と見知らぬ人に声を掛けるように「あなたに敵意はないです」の表現。
などと考えながら、講義を始める。

見た目優先、視覚に訴えるエモーショナルな建物を作る生業なだけにそれにまつわる講義。
この日は別の話をするつもりが、先述の「エモいですね」に引っ張られて、違う話をしてしまった。
短くまとめると「物を作るにあたり何らかを参考にする、もしくは影響を受ける」みたいなお話。
何かに影響を受けてどこがが元のものに似る。似せないようにしてもどこかが似ている。
人に気づかれない物もあればわざと似せて親和性、先駆のブームなりお溢れを貰う。
オリジナルで何にも参考にしてない意識で作っても、「似てますね」「〜ぽい」って言われてしまう。
ものまね、模倣。
「誰々ちゃんの真似をしなさい」「見本を見て書きなさい」初等教育でロールモデルがある文化。
ガックリだ。

そのくらい色んなものに溢れているし、万人いれば低い確率で全く同じことを考えてる人もいるはず、それがたまたま似る可能性もある。
わざと似せるにしても「トリビュート」といえば聞こえよく「パクり」といえば悪く聞こえる。
こと、デジタルでデザインをする今の時代、似寄るを避けて通るのはバイオハザードのレーザートラップを避けるくらい厳しい。

完全オリジナルって発明に近く、ほんと難しい。
発明も知恵と工夫で上書きするのだから先駆の影響はないとはいえない。

ボクの友人に何人か装丁のお仕事をしている方がいる。
雑誌の表紙だったりコミックの装丁デザインだったり小説の装丁だったりCDジャケの装丁だったり。
そのうちの一人が「これ、どう思う？」といくつかサンプルを見せてくれた。
いずれも彼の仕事ではない。




彼曰く、「エモい感情を表現したら右上がりの手書き文字にするパターンが多い」
オリジナルは誰の何だったかはわからないが青春もの、アオハルの作品がこういった手書きフォントか手書きスキャンで表現されてると。
確かにもうこういう文字のタイトルを見ると作者はそれを伝えたいんだろうなと思ってしまう。
最初にこれをやった人は発明だと思う。
「〜風に仕上げてください」とオファーが来ると１回黙るそうだ。
作家さんにすごくこだわりがあれば話し合って装丁は決まるそうだが、商業デザインをしてる身としては作品は作者のもので自分のものではない。
芸術家ではないからそこは『〜風』でも受けるのが仕事。
自分のこだわりはあんまりないけど、虚しい気持ちもあると語った。
『〜風』はあくまでそれに似せた何かで偽物なのだ。
あとは作り手の気持ち。
わかりやすく直線的に感情をいざなうのにデザインは有効。
似せないことを意識しすぎると感覚や感情を伝えられないのも確か。

ボクもどこかに似せた偽物の景色を人工的に作るのがメインの本業。
割り切って作ってるけど、個性は埋め込みたいと昔は思っていた。
装丁のお仕事よりも長く大衆の目に触れる物を作るお仕事だから
こだわりを持つと景色ではなくなると思うようになってる。
万人受けとはそういうことなんだろう。
景色は見てて疲れない、眺めるくらい気持ち良いものを作るのがいい。
そう思ってるがうまくいってるかはわからない。

人と同じだと安心する、でも個性は欲しい。
似ているのは悪いことなのか。
『エモい』感情は見たものが自分の中にもあるから『エモい』と感じる。
『エモい』と感じるものを作る、そうありたい。


後日談
先述の先生に今日会った。
単純に彼、赤いC40が納車されたばかりだった。
同じボルボ乗りが職場にいたのでエモいだそうだ。
考えすぎた。

〜前回までのあらすじ〜
歌舞伎町時代に知り合った光くんの思い出を語りたい。
誰にも話してない、誰も知らないお話。

光くんのお話の途中だけど、欠かせない男がもう一人。
名を松崎という。彼は光くんより後に入ってきた後輩。
北九州のヤンキーで小さい体にリーゼント。とにかく喧嘩っ早い。
酔っ払いの客は入店禁止なのに隠して入店して店の女の子とトラブル、そんな客とよく揉めた。
ヤのつくお仕事とは関わりの無いお店だったけど、店の横の公園で暴れてたから近所のヤのつくお仕事の方に目を付けられていた。
何度目かのそういう事があって、警察に被害届が来てると連絡が来た。
支配人は警察と関わりたくないとボクが対応を任されていた。
その後も何度かお客と揉め、支配人は彼を解雇した。
彼は歌舞伎町を離れず、ホストになるが他のホストと殴り合いになり怪我を負う。
警察沙汰になって、身元保証人がいないとのことで、ボクのところに以前対応した警察の方が連絡してきて彼を引き取りに行った。
しばらく春山病院に入院した後、彼は姿を見せなくなる。

数ヶ月後、また警察から連絡が来た。彼を引き取りに来て欲しいと。
表に出回らないAVを販売したという。彼はバイトで裏に組織があるのだろうが、彼は保釈。
「もう歌舞伎町から離れるなら身元引き受けをする」と約束して引き取ることに。
まともなバイトをさせるために、小滝橋の外車の雑誌の編集のバイトを紹介した。
それから数年、彼は真面目に働いた。
世の中にPCが普及して、PHOTOSHOPを使えるようになって映画の雑誌やらアイドル雑誌やら忙しく働いた。
が、また警察のお世話になる。
アイコラを作って販売した。罰金刑で済んだが会社には解雇された。
ボクは海外に出てたので、彼を光くんが引きとった。
前出の通り、光くんはAV会社を立ち上げたのでパッケージデザインを松崎にやらせることに。
技術はある。合成も上手い。
松崎は天職を得た。

それからかなりの年月が経って去年の夏、新宿伊勢丹の角で松崎に声をかけられる。
光くんの会社を辞めて独立、自分でAVパッケージのデザインをしているという。
光くんとは付き合いがあって、連絡して呼ぶから後日集まりましょうと別れた。

数日後、松崎から連絡があって会うことに。
１０年以上会っていなかった二人に会うのが楽しみで出かけたが、居たのは松崎ひとりだった。
寂しく思ったが、松崎と話すのも久しぶりだから時を忘れて語り合った。
「最近のAVタイトルが長くてラノベみたい」とか
「AV嬢は何度も名前を変える」とか
「整形は良しか悪しか」とか
「豊胸の子ばかりになったから、豊胸で勃つか、豊胸の子の作品しか見ない時期があった」とか
ほんとくだらないけど、笑いまくった。
そういえば、松崎は一緒の店の頃、豊胸してると噂の千歳さんって女の子に「整形なんですか？」とストレートに聞いたら
「稼ぐためには何でもやる」と堂々と返事された事があった。
確かに彼女は風俗雑誌に自ら連絡して取材してくれと頼んだり、獰猛な人だった。
光くんは来なかったけど、楽しい時間だった。






先週、松崎から電話が来た。
光くんが亡くなったと。

日曜、葬式に行ってきた。
数年前から膵臓をやられ入退院を繰り返してた。
光くんの母親にも３０年ぶりに会った。
昔の話をして欲しいと母親に言われたが、本当の話は何にも出来なかった。

ボク自身、心の整理がついていない。
前回のBLOGも思い出しながら鬱々と書いた。
文章も支離滅裂になってると思う。

アメリカに訪ねて来てくれる度、何日もプロレス興行を追いかけるように
二人でボロボロのフォードで旅をした。
いつもクロコダイルロックをかけて歌いながらドライブしたんだ。


歳をとって涙脆くなったのか胸が痛くて涙が止まらない。

今日は光くんのことを書いてみる。
自分的には忘備録。思い出を整理な感じ。
書いておかなくっちゃ忘れちゃう。
車の話とか全然出てこないし長くなるから読みたくない人はそっと閉じてヨシ。


彼と出会ったのは留学から帰って大学編入が時期が合わず、歌舞伎町で働いてた頃。
ライブハウス→ゲームセンター→風俗店員。
バブル時期もあって歌舞伎町のバイトはとにかく稼げた。
風俗店の後輩で入って来たのが1つ年下の光くんだ。

彼のそれまでのバイト経歴は雑誌の配送倉庫の仕分けのみ。
なのに突然女性が水着で歩き回る性を売る仕事のボーイになった。
今でいういわゆるコミュ障。実家暮らしで童貞。
コミュ障ゆえ接客経験がなく、客対応は挨拶もまともにできない。
そこをボクが指導担当になった。
風営法の関係で０時までが客の入店可能な時間。
最後のお客が帰って女の子を送って閉店作業が終わるのは深夜１時半くらい。
その後、居酒屋で朝まで過ごすか、店の控え室で始発を待つか、がスタッフの大半。
晴れていたら居酒屋で軽く飲んで、歩いて自宅に帰るパターン。
当時のボクのアパートは西落合。
小滝橋通りから早稲田通りを抜けて東西線の落合駅の脇の坂を下って目白学園のある５の坂を上がって帰る。
光くんの家は東中野。帰宅ルートは早稲田通りまではおんなじ。
ほろ酔い気分で話しながら帰るにはちょうどいい。
色んな話をしたが、大概は映画かアメリカのプロレス、当時はWWF、WCWのお話。
のちにボクが再留学、そのまま就職してからも訪ねて来てくれて一緒にプロレスと見て回った。
光くんは隠れた素養があったのか、ハキハキ喋れるようになり接客も慣れていった。

ボクの働いてたお店は系列が吉原にあり、光くんの入店から7ヶ月目に彼は吉原勤務になった。
連絡は取ってたけど、携帯もなかった時代なので疎遠にはなってた。

ボクが歌舞伎町の店を辞めてしばらくして、池袋に引っ越したので遊びに来ませんかと誘いを受ける。
池袋から要町に行く途中のアパートに行くと小柄なショートカットの女性が待っていた。
年は８つだか１０だか上。当時のボクらから見たらおばさん。
「結婚するんです。」
驚いた。ちょっと前まで童貞だったのに。
彼は吉原で店長になってた。
店の女の子で映画を見にいってそのまま付き合うことになったと。
心の中では「あー、純粋な光くんが風俗嬢のテクニックにやられたか」と思ったけど、友人の嫁。
悪くは思いたくない。
結婚したいと光くんが彼女を実家に連れていった時、歳が離れすぎてるので父親は息子が騙されてると思い激怒。
押し切ろうとする光くんと口論、出ていけとなったそう。
追い出されるように家を出る際、彼女に「おめでとう、光をよろしくお願いね。」と晴れ着を１枚渡してくれた母。
彼女の実家は東北の農家で光くんは挨拶に行ったと。
彼女曰く、光くんはちゃんと自分は風俗の店長をしていると話して彼女とは映画館で会ったとだけ話した。
彼女が風俗嬢だったとは一言も言わずに。
田舎の家では光くんが彼女を騙してるとなって、家には帰ってくるなと勘当同然になった。
そんな話を聞いて頑張ろうとする二人を祝福せずにはいられなかった。
その足で池袋西武に行き羽毛布団を二人に贈った。


数年連絡が途絶えて、六本木歩いてたら彼に偶然会った。
「今、AVのスカウトの会社やってるんです。一緒にやりませんか？女の子の面接担当だったでしょ、得意ですよね？」
風俗の店にAVスカウトが来るのはすごく多い。
実際にうちの店からも何人もAVに行ったし、引退後ストリッパーになった子も居た。
久々の再会が嬉しくてその日食事に行こうとなった。
お互いの近況報告、スカウトになった経緯、そして離婚してたこと。
そうか、そうか。
「これから女の子来るんで会っていきません？」
ボクらのテーブルに来た女の子は整形してでも売れたいと言う。豊胸もするという。
お金は無いので光くんの会社が整形代を立て替え、AVデビュー後ギャラで返済だとか。
この子、アイドルそっくりを売りにして後に大ヒットを飛ばす。
光くんはこの１年後、AVメーカーの社長になる。

つづく…