巷で人気のシリコン除電。私も手を出し始めましたが、結果は成功したり失敗したりと今ひとつで、シリコンという素材を使いこなせておりません。
シリコンに限らず道具は使い方次第で毒にも薬にもなるもの。シリコンの長所短所を整理し、より効果的な使い方をして行くための基礎知識をここに記します。
【シリコンの特性】
柔らかいとか肌に優しいとかの特性はさておき、除電において抑えておくポイントは以下2点です。
①マイナス帯電しやすい
シリコンは下記帯電列の通りマイナス電荷に帯電しやすい(相手から電子を奪いやすい)性質があります。
この性質がシリコン除電のキモとなります。そして場合によっては毒にもなります。
②基本的に絶縁体
シリコンはゴムや樹脂と同じく電気を通さない絶縁体です。シリコンは半導体の原料として知られているため電気を通すと誤解されがちですが、それは特殊な素材や特殊な加工を施したエリートシリコンであって、私たちの身の回りにあるシリコンは寧ろ高い絶縁性を持ちます。
身の回りの柔らかいヤツは正確にはシリコーンと発音し、半導体のシリコンとはスペルが1文字異なります。弊ブログでは面倒なのでシリコンと表記しますが。
ただ一口にシリコンと言っても素材に混ざってる成分により電気抵抗値は異なりますので、絶縁性が低い製品もあります。
【シリコン除電の原理】
特性①の通りシリコン君は電子を余分に保持しやすい小金持ちです。この特性を利用し、プラスに帯電している箇所(電子的貧困層)にシリコン部材を設置することで、不足している電子を補いプラス電荷を中和しようというのがシリコン除電の基本原理です。
【シリコン除電の留意事項】
上記の電子注入図には誤解を招く表現があります。それは特性②の通りシリコンは絶縁体であるという点です。
特性②を考慮すると、シリコンによるマイナス電荷移動は下記の図のようになります。
上図の通りシリコンに接している箇所は電子が移動して中和されますが、直接触れていない部分は電子が移動できず持ち腐れとなります。
とはいえ前回のブログの通り絶縁体表面を電荷が移動することはありますので、やがてはシリコンのマイナス電荷が伝わるでしょう、ご安心を。
ただしその伝播スピードは遅く非効率的である点を念頭に置いておく必要があります。
また、面で密着している箇所については、一度接触してプラス帯電箇所に電子を受け渡したらそれっきりです。それ以上は電子が外部から(空気から)供給されないので、2度と電子がシリコンの面接触箇所に付着することはなく、当然シリコンからプラス帯電パーツへ電子を供給することもありません。
【シリコン除電の長所】
一言で言うと、アルミテープ除電より強力な点です。
シリコン除電はアルミテープ除電と根本的に原理が異なります。
アルミテープの場合、一定以上の静電気が溜まらないとコロナ放電しないという性質上、車体の静電気を完全に無くすというのは難しく、どうしても若干の静電気が残ってしまいます。
対してシリコン除電は車体側の静電気事情に関係なく、シリコン自体が帯電していればどんどんマイナス電荷を車体に注入でき、理論上帯電ゼロにすることも可能です。
【シリコン除電の短所】
一言で言うと強力な点が短所です。長所短所は表裏一体の典型。
車体側の静電気事情に関係なくどんどんマイナス電荷を注入しますので、場合によっては車体側がマイナスに帯電する可能性があります。静電気はプラスもマイナスも車体性能に影響を及ぼします。過ぎたるは及ばざるが何たら。
もう一つの短所は、シリコン自体が強力にマイナス帯電する性質、電子を奪いやすい性質である点です。
空気がふんだんにある場所なら空気から電子を奪いますが、空気の流れがない密閉空間に施工すると、やがて車体から電子を奪うようになり、むしろ車体のプラス帯電を促す恐れがあります。
対してアルミテープであれば空気の供給がない場合は除電作用が働かなくなるだけで、車体をプラス帯電させてしまう心配はありません。
【シリコン除電効率化の提言】
先述の通りシリコンは絶縁体であるためマイナス電荷注入効率がそれほど高くありません。
そこでシリコンを使ってプラス帯電箇所に効率よく電子を注入する工夫をご紹介。
① シリコンを緩めに巻く
無から電子が発生することはありません(電荷量保存の法則)ので、シリコンから車体に継続的にマイナス電荷注入するためには電子を供給してくれる空気の存在が不可欠です。
しかし先述の通り密着している箇所は空気の供給源が絶たれ、接触面に限って言えばシリコンからの電子供給は施工直後の一回のみとなってしまいます。
かといって除電対象とシリコンの隙間を空けると電子を受け渡す事ができず本末転倒です。
その解決策として、シリコンバンドなどを巻く場合は緩めにシリコンを巻き付けるという手法が考えられます。緩めに巻く事で除電対象とシリコンの間に隙間ができ、空気が共有され、かつ、車の振動により断続的にシリコンと対象物が接触し電子を渡すという手法です。

これの難点はどれだけ隙間を空けるのが最も効果的か、経験則に基づく職人技が求められる点です。
②シリコン表面に導電性を付与する
シリコン自体が絶縁体なら、その表面を導電体で覆ってしまえばよい、という発想。
ただし空気の供給は必須なのでアルミテープなどで覆うのはNG。網目の細かい金網などが良いかと。

これの難点はシリコン表面と金網を上手に密着させる職人技が求められる点です。
この発想を実験するため、こんなアイテムを入手しました。導電性と通気性を兼ね備えた布です。
これでシリコンを覆う事で、シリコンの電子注入能力を爆上げできるのではと期待してます。ただこれ、プラス帯電しやすいナイロン製なんですよね。シリコンの長所を打ち消さないか心配です。施工結果は追ってご報告します
③エンジェルリング
偉大な先達により考案された通称エンジェルリングは、シリコンチューブの内部に導線を通したもの。エンジェルリングは上記①②の効果を得つつ、さらにアルミテープ除電同様にコロナ放電を行い、周辺の電荷を中和するという1石3鳥な、巷で大人気なのも納得の欲張りメニューです。
画像はちゃいみみさんより拝借
私も近いうちに試してその効果の程を体験してみたい所存です。
④薄いシリコンを使う
絶縁体といえども高い電圧がかかると絶縁破壊により電子が絶縁体内部を移動します。

また絶縁体の厚さが薄ければ薄いほど絶縁破壊が起こりやすくなります。
私が除電に使用しているシリコンテープの厚さは0.5mm、施工の際に引き伸ばすと0.2mm程度の厚みです。この薄さなら絶縁破壊で導通するのではと期待して調べてみました。
アルミテープでお馴染みNitto社製シリコンテープの絶縁破壊電圧は44kv/mmとのこと。
厚さ0.2mmなら8800vで絶縁破壊を起こし電気が通る計算です。
対して静電気の電圧は状況にもよりますが数千ボルト程度でしょう。・・・微妙なラインですが、シリコンテープの絶縁破壊は期待しない方が良さそうです。
⑤導電性シリコンを使う
今までの講釈は何だったのかというくらいド正解の手法ですが、もちろんデメリットもあります。単純に高い!A5サイズほどのシートでも1万円オーバー。
千円台の製品を何とか見つけて購入しましたが、いかんせん安物。あまり期待しない方が良いでしょう。効果の程は近日公開。
【むすび】
総じてシリコン除電はアルミテープ除電に比べて長所短所の振り幅が大きい中級者向けの除電方式と言えます。マリカーで例えるとクッパとまで言わないもののノコノコくらいですかね。
シリコンの特性を理解し適切な場所・方法で施工する事が肝要です。
まだまだ改善の余地があるため、今後さらなるアイデア創出が期待できます。
以上、皆様のご参考になれば幸いです。
【雑記】
高い電圧をかけると絶縁体でも電気が通るのは先述の通りですが、某ゴム人間が2億ボルトの雷を喰らってピンピンしていたのを思い出し、この電圧なら余裕で絶縁破壊するなぁと空想科学読本的に思ったり、
2億ボルトの放電にさらされた周囲の空気は高濃度オゾンとプラズマが発生し、とても生物が生存できる空間ではなく、下手したら核融合すら誘発するのではと思ったり。