現流除電ブームの火付け役、開祖にして今なお主力のコロナ放電について学んだ事をここに記します。基本であるが故に奥深いコロナ放電を正しく理解する事でニコニコ除電ライフ!
【コロナ放電とは】
空気は絶縁体であり、基本的に電気を通しません。しかし物体の電圧が一定以上になると絶縁破壊が起こり、空気に電気が流れる現象「放電」が発生します。
電圧が弱いうちは暗電流と言う目に見えない微細な放電が起こりますが、電圧が上がると僅かな光と音を伴う放電になります。これがコロナ放電です。
落雷直後の木で発生するコロナ放電
さらに電圧を上げると火花を伴う放電になります。雷は大規模な火花放電といえます。
【コロナ放電の発生条件】
先程から電圧電圧と連呼していますが、コロナ放電にはもう一つ重要な発生条件があります。それは電界(電場)の強さです。
電界は電子を引きつけたり反発したりする力が働く領域です。磁石のN極S極の力が働く磁界(磁場)をイメージしていただければ概ね間違っていません。
同じ電圧でも電界が強いほど放電しやすくなります。どのような場合に電界が強くなるかというと、帯電物質に尖っている部分があるとその部分が突出して電界が強くなります。尖ってる箇所から火花を伴わず放電する、これがコロナ放電の特色です。
【放電索】
放電を目的とした、電界を強める突出構造を放電索と呼びます。アルミテープの場合どこが突出部分か。テープは一見平坦に見えますがテープの端っこ、つまり断面箇所は突出部分と言えます。さらに断面の角はより突出しており、強い電界が発生します。
アルミテープの場合、テープ周囲全てが放電索となります。ワイヤーなどを放電索とする場合は主に先端部断面の角から放電されます。
開けた野原に立っている人間は電界的突出物、雷にとって放電索となってしまいます。
以上を踏まえて、コロナ放電での除電の仕組みを解説していきます。
プラス電荷とマイナス電荷ではコロナ放電の挙動が異なります。車体の静電気はほとんどの場合プラス帯電しますので、ここではプラス電荷のコロナ放電の場合で説明します。
【コロナ放電による除電の仕組み1 電子を吸引】
車体にプラスの静電気が溜まりアルミテープにプラス電荷が帯電すると、テープ端っこの放電索に強いプラス電界が発生します。プラス電界は電子が不足したハングリーな状態です。飢えた放電索はなんとか電子を手に入れようとします。どこから手に入れるかというと、

通常、電子は何らかの原子にくっついていますが、空中にはどの原子にも属さないハグレ電子がごく微量ながら漂っています。(荷電粒子と言うそうです)
電子に飢えた放電索は自分のテリトリー(電界)に侵入した空中の電子を念力(クーロン力)で引き寄せます。
プラス放電の場合、放電ではなく吸電と言った方が実態に近いですね。
【コロナ放電による除電の仕組み2 空気のイオン化】
ここまで読んで「なるほど空中の電子を吸い寄せて静電気を中和するんだな」と思った貴方、それだけじゃありません。むしろ序章に過ぎません。
吸い寄せられた電子は凄まじい速度で放電索に向かいます。移動する間にある酸素や水など空中の分子を弾き飛ばしながら。
超特急電子に轢き逃げされた分子はプラスイオンとマイナスイオンに分離されます。
分離されたマイナスイオンはプラス帯電の放電索に引き寄せられ、これにより放電索がさらに中和されるってスンポーです。
空中の電子のみならず途中で犠牲になった者達までも吸い尽くす。コロナ放電は良く言えば効率的、悪く言えば強欲残虐な除電方法と言えます。
ちなみに分離されたプラスイオンは放電索のプラス電界と反発して遠くに行ってしまいます。
【コロナ放電の除電範囲】
電子の衝突によるイオン化は放電索から3mm以内の距離で起こる現象です。そこから離れると電界の力は急速に弱まり、0.01mmにつき1/10になってしまいます。想像よりずっと狭い範囲ですね。
コロナ放電で生成されたマイナスイオンの大部分はすぐにクーロン力により放電索に吸引され、周囲に散布される事はありません。
ただしタイヤハウスや車体下など風が強い場所、具体的には秒速2m以上の風が当たれば、それなりのマイナスイオンが周囲に散らばります。
対して車内やエンジンルーム内部程度の風速であればほとんどのマイナスイオンが放電索に吸引されますので、コロナ放電により中和されるのは基本的に放電索を備える導体(アルミテープ)のみとなります。
とは言え中和されたアルミテープと接している樹脂などの絶縁パーツも徐々にではありますが中和されますし、金属などの導電パーツに放電策を付けていれば金属全体が中和されます。
【マイナス放電の場合】
シリコーンなどを利用してマイナス電荷のコロナ放電を行う場合はプラスコロナ放電と逆の事が起こります。
導体内部を移動する電子は、放電索の強いマイナス電界に晒されると空中に飛び出します。これは放電という字面に相応しい挙動ですね。
飛び出した電子は空気中の分子とぶつかりイオン化させます。プラスイオンは放電索に吸収され、マイナスイオンは放電索と反発して周囲に飛び散ります。
プラスコロナ放電は自分自身にマイナス電荷を取り込むのを主とするのに対し、マイナスコロナ放電は周囲にマイナス電荷をばら撒くのが主という違いがあります。
【まとめ】
ツラツラと書きましたがコロナ放電による除電を1文でまとめると、
尖った場所で発生する放電で空気をイオン化し、そのイオンで静電気を中和する
という、たったそれだけの仕組みになります。
しかしながらコロナ放電の詳しい原理を知る事は、より効果的な施工箇所はどこか、放電索の形状や材質は何が最適か、応用工夫、それらを探求する上で役立つ基礎知識となるでしょう。
今回の基礎知識を踏まえ、次回は放電索の形状や材質を考察したいと思います。
以上、皆様のご参考になれば幸いです。
【雑記】
コロナ放電で吸収・放出する一匹狼な電子は荷電粒子に定義されます。
荷電粒子といえば荷電粒子砲。かつて米軍も研究し、実現は出来たが実用的ではない浪漫武器。
かのミノフスキー粒子も荷電粒子に分類されます。ミノフスキー粒子をメガ粒子に縮退させたエネルギーで打ち出すメガ粒子砲も荷電粒子砲の一種と言えますが、メガ粒子砲は荷電粒子砲ではないとする説が主流という謎定義。
百式が好きです。バウンドドッグはもっと好きです。
エヴァのヤシマ作戦で登場したポジトロンライフルや、その標的ラミエルが放つ加粒子砲も荷電粒子砲の一種と言えます。
除電マニア諸兄が日々貼り貼りするアルミテープやガトリングディスチャージャーもまた、高エネルギー電子により空中分子を攻撃するミクロな荷電粒子砲と言えるなぁ、なんてことをwikiで調べながら妄想する今日この頃。
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Posted at
2023/08/15 09:19:55