
このスペシャルブログのページ、TMSの話題が溢れていて、それはもちろん素晴らしいと思いますが、へそ曲がりの僕としてはちょっと話題を替えて、「タルガ・フローリオ番外編」をお送りしましょう。
3日間のタフなドライビングステージが終了しても、タルガ・フローリオは終わったわけではありませんでした。
4日目、つまり10月2日、パレルモ郊外の山の上に建つクラシックな会館で、表彰式その他が執り行われたのです。
初日はPC=チェックポイントをことごとく無視して走った僕らTakumi Yoshida/Masaru Noguchi組の乗る1957Fiat1100TVが表彰に値するポジションにいたわけはなく、僕らの順位は不問にしていただきたいのですが、表彰式には押し掛けを手伝ってくれたあのアルトゥーロ・メルザリオさんに加えて、オランダからやってきたトイネ・ヘゼマンズさん、それに地元シチリアのニーノ・ヴァッカレッラさんという、タルガ・フローリオで大活躍したかつてのレーシングドライバーが3人、やってきていました。
で、表彰式の後のブッフェスタイルの昼食のとき、たまたまテーブルが一緒になったのがこのお2人、ニーノ・ヴァッカレッラ=Nino Vaccarella さんと、その姪のジーナ=Gina さんでした。
ヴァッカレッラさんは1933年3月4日生まれというから、現在78歳。生まれたのはシチリア島のパレルモというまさに地元の出身で、もともとの職業は学校の校長先生だったという人物なんですね。
1950年代末に、僕らのタルガにおけるマッキナだったフィアット1100でレースしたのがドライバーとしての始まりといいますから、僕らとは浅からぬ因縁があるわけですが、1960年代になるとF1でも数戦したの加えてスポーツカーレースの分野で目の覚めるような活躍を始め、地元のタルガ・フローリオにも1960年のマセラティ・バードケイジを皮切りに、本格的なレーシングスポーツで出撃し始めます。
そして1965年、同じくイタリア人のロレンツォ・バンディーニと組んでワークスのフェラーリ275P2を駆って見事タルガ・フローリオに優勝、地元の英雄 “ニーノ” の名は一躍世界に轟いたのでありました。
さらに1971年、今度はトイネ・ヘゼマンズとのコンビでT33/3を走らせ、アルファロメオにタルガ・フローリオにおける21年ぶりの勝利をもたらしたのも、地元の英雄、ニーノ・ヴァッカレッラなのでした。
それに加えて、タルガ・フローリオがワールドチャンピオンシップイベントでなくなった後の1975年にも彼は勝っていますから、地元の英雄は都合3回もこの過酷な公道レースに勝利しているわけです。
現在78歳のニーノ・ヴァッカレッラさん、近年はあまり具合のよろしくない奥様と二人暮らしとのことですが、生地も仕立てもいかにも上等そうなネイビーのジャケットのなかに着た白いシャツは、胸のボタンを当然のごとく3つ外して現役のイタリア男であることをさり気なく主張、その下には適度にブリーチアウトされたデニムを履くという年齢を感じさせぬダンディぶりに、僕は大いに感激したのでした。
昔のタルガ・フローリオの話を伺うと、乗ったマシーンやコンビを組んだドライバーのことなど、正確に記憶している事実を愉しそうに話してくれて、聞いている当方もついつい引き込まれてしまいます。
ニーノ・ヴァッカレッラさんがブッフェのディッシュを取りにいったときに、僕と同年の64歳とのことながら、笑顔が少女のようにチャーミングな姪のジーナさんに、ニーノさんは現在どんなクルマに乗っているのか教えてもらえますかと尋ねたら、彼女の口からはちょっと意外な答えが返ってきました。
「昔はフェラーリに乗っていたこともあったけれど、今はフィアット、フィアットのプントなの」とのこと。
タルガ・フローリオに3度も優勝したかつてのシチリアの英雄が、78歳の今フィアットのプントに乗っているという事実を耳にして、僕はヴァッカレッラさんがますますカッコいい男に思えてきたのです。
そりゃあフェラーリかアルファのスポーツモデルにでも乗っていたら、それはそれでカッコいいに違いないけれど、最も大衆的なフィアット・プントに乗りながら、かつてのシチリアの英雄レーサーの輝きを今も失っていない78歳のダンディなニーノ・ヴァッカレッラさんに、僕はすっかり参ったのでした。
ところが、表彰式後の昼食も終り、人々が麓のパレルモ目指して三々五々帰り始めるころ、街に下るバスの窓辺に座っていた僕の横に、偶然にもシルバーの先代プント3ドアがやってきたのです。
そのコクピットには、ジーナさんを助手席において小さなハッチバックのステアリングを握り、パレルモに向けていざ走り出すかつてのタルガ・フローリオ・ウィナーの姿があったのですが、それを目にして不覚にもちょっと泣けそうな気分になった、シチリア島最終日のスポーツカー親爺でありました・・・。
Posted at 2011/12/04 17:29:48 | |
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