久留米弁から熊本弁を探る

図書館で「久留米方言考/樋口銅牛」という本を読んでいます。
昭和51年3月31日発行の本です。

久留米弁の単語がずらっと記載されています。
気になる単語を書き出してみます。

※久留米弁とは筑後方言の一種で筑後北部（矢部川以北）で使われる方言です。（旧久留米藩領域）


■カルウ
負ふことをカルフ（ハ行四段）といふ。皮甲の義たる韓語カハラの名詞の動詞となりたるものなるければ、随分古き語なり。

コメント：
「かるう」とは背負うの意味ですね。ただ、現在は「からう」に取って変わられたと思います。
「ランドセルをからう」「子供をからう」等。
熊本では標準語の「背負う」という言い方はメジャーではありません。普通は「からう」を使います。標準語と認識している人が多いと思います。
久留米でも今は「からう」でしょう。大分や中国・四国地方では「かるう」と言うと思います。
古い熊本方言の本でも「かるう」と記載されているものがあります。


■サデニゲタ
サデ逃げた、ツイ逃げた、ツツ走つた、サデ、ツイ、ツツは皆語勢上の前置詞にて、意味ある詞には非ず。

コメント：
接頭語は熊本方言にも、とても多いです。「さで」で言うと「さでこくる」「さで言う」「さで寄する」等。
後の単語を強調する意味で使います。
「こくる」は「転ぶ」の意味で、一回転んで「こけた」、再び転んで「さでこけた」や同じ事をしつこく何回でも言う事を「さで言う」のように使います。
接頭語は九州では熊本が一番多く、筑後南部、筑後北部、筑前と進むにつれて、少なくなっている印象です。
古くはどこも同じように使っていたのかもしれませんが、現在でも熊本には数多く残っています。


■ソリテチヤ
「其れでも」をソリテチヤといふ。「サリトテハ」の轉呼なるべきこと争ふべからず。

コメント：
意味は「そうだとしても」ですね。
「あれ、それ」をはっきり「あり、そり」と発音する人は少なくなってきましたね。
この場合、熊本では「そってちゃあ」という人が多いと思います。筑後西部だと佐賀方言の影響もあり、「そいてちゃあ」と言う人もいると思います。
熊本北部では「ある、そる」「あっ、そっ」が優勢ですが、県境に近い地域では「あり、そり」も使います。
「こりかっ曲がれ。（これから曲がれ。）」「そりや？（それか？）」等、菊池市出身の父はよく使います。


■シキラヂヤイ
■ヂヤアコテ
我も爲し得デヤハをヂヤイと發音す。其ればかりの事己れでも爲しデヤハといふべき場合に、ソレ（其）位の自己れでも爲し得ヂヤイをシキラヂヤイといふ。シキルは爲（シ）得る義なり。ヂヤイを又ヂヤアとも發音し、更にヂヤアコテともいふ。コテはコソなるべし。雅言ならば、爲し得でコソなり。

コメント：
久留米ではこれも「～やい」「～やこて」に取って変わられたと思います。「しきらやい（もちろんできるでしょう、できなければ）」「行かやこて（もちろん行くでしょう、行かなければ）」等。
熊本でもあまり使わなくなっていますが、「じゃこて」は残っています。「せじゃこて（もちろんするでしょう、しなくては）」等。「せにゃこて」とも言います。


■ヂヤケン
■ヂヤルケン
■ヂヤルケンデ
何うヂヤケン、斯うヂヤケンのヂヤケンはデアルカラの促呼轉音なり。デアルがヂヤルと促り、ヂヤルのルが省かれてヂヤとなり、カラ（故）がケンの轉音さらる。人によりては今猶ヂヤルケンといふものあり。或は又ヂヤケンデとデを添へてもいふ。デは「にて」の約呼なり。

コメント：
九州ではかなり古い用法です。年配にかろうじて「じゃけん」が残っていますが、現在は「やけん、やけんで」が主流です。
福岡県全体とその周辺部では元々「じゃん、じゃった、じゃろ、じゃか？（じゃろか？）、じゃけん（じゃるけん）」だったのが、ここ数十年で「やん、やった、やろ、やか？（やろか？）、やけん」に変化してきました。
代表的な熊本方言では「だん、だった、だろ、だろか？、だけん（だるけん）」ですが、県境に近い地域では福岡県と同じように変化しています。
おてもやんの歌詞に「ご亭どんが ぐじゃっぺだるけん」と古い用法が出てきます。「だるけん」も死語でしょう。熊本中部（旧下益城群、八代群周辺）に「だいけん」が残っています。

※肥筑方言で断定の「じゃ（や）、だ」はありません。（じゃん（やん）、だん）「じゃもん（やもん）、だもん」、もしくは「ばい、たい」を使います。


そろそろ帰るなり。
久留米方言も博多弁や標準語の影響を受けて変化していますね。
柳川方言も西鉄天神大牟田線が通ってから、博多弁の持ち込みも増えたと聞きます。

頑張れ、熊本！
博多弁勢力にに飲まれるな！