響け!ユーフォニアムは、通常のアニメーションとは違った、ユーフォならではの音響構成があります。それは、
「劇伴&劇中音+演奏音」
劇伴・劇中音に加えて、演奏音があるのが特徴です。
部員一人ひとりに、楽器演奏の音が加わります。
演奏シーンは、楽器音響のクオリティを最大限に引き出すため、プレスコアリングという、音を先に録り、それに合わせて作画をするという手間のかかる方式をとっています。
響け!ユーフォニアムの臨場感ある演奏シーンは、こういった拘りで制作されています。
劇伴&劇中音+演奏音という音響演出のケースをみてみます。
校舎裏でユーフォソロパートを必死に練習する久美子。
ユーフォニアムなどの楽器の演奏音は、洗足音楽大学フレッシュマンオーケストラの方々です。
音楽プロデューサーの斎藤さんが演出意図や状況を奏者に説明した上で、演奏で演技してもらっています。
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劇伴は、シーンに合わせて鶴岡音響監督が作曲者・松田彬人さんに発注します。
久美子が人生で初めて挫折を味わい、心の底から「上手くなりたい」と悔し涙を流すというTV1期最大の山場のシーンがあります。
久美子という人物がこれからの人生の方向性を示すターニングポイントでもあり、初めて「主人公になった」と石原監督が語ったシーンです。
今回、このシーンに相応しい「青春の苦悩」という劇伴を特別に作りました。
鶴岡音響監督は、実景としての音響・心情としての音響も意識しています。
この作品の久美子はモノローグ(独白・心情)が非常に多いです。
鶴岡さんは対象のシーンが、久美子の主観なのか、心情なのかを常に意識しています。
府大会に向けての合奏中、久美子は滝先生にパートを外されてしまいます。
この時はまだ、劇伴はありません。
久美子を励ますみどりと葉月。
劇伴は、ピアノ「青春の苦悩」です。
励まされればされるほど、久美子は落ち込んでいきます。
久美子の心情は劇伴にある「青春の苦悩」そのものです。
黒沢ともよさんの演技と劇伴の相乗効果が発揮されているのですが、
「上手くなりたい」という言葉は、最初はモノローグです。
久美子の「悔しい」という感情がどんどん高まります。
とうとう、想いが飛び出て「上手くなりたい!」と叫んでしまいました。
アフレコとして難しいのが、「上手くなりたい」という文言はずっとモノローグなのですが、最後の一言だけセリフという所です。
ここは、最初はピアノでモノローグに寄り添い、最後は劇半を止めてセリフのみにして、黒沢さんの演技を浮き彫りにしています。
更に、このシーンを続けます。
久美子は欄干に体をぶつけ、縋り付いて「悔しい!」と叫びます。
ここで「地獄のオルフェ」がフェードインします。
「地獄のオルフェ」は久美子が中学最後のコンクールで演奏した曲です。
ダメ金だったのですが、久美子とは対照的に泣いて悔しがる麗奈の姿がありました。その時は、そんな麗奈の心が久美子には分かりませんでした。
麗奈の「悔しい」という思いを。
本気で物事に取り組んだ事のある者にしか分からない感情です。
久美子の”気付き”が深まるにつれ、効果音が無くなります。
この時の「地獄のオルフェ」を鶴岡さんは「天の啓示」と呼んでいます。
ただ単に麗奈の心が分かっただけでなく、久美子のこれからの人生のカギとなる”啓示”という意味を含んでいる、とても深い言葉です。
このシーンで「地獄のオルフェ」を入れるというのは、実は京アニの大ベテラン・三好さん(木上さん)のコンテに記述がありました。この回の絵コンテと演出は、三好さんが担当しています。
しかし、石原監督はここで「地獄のオルフェ」を入れる事にためらっていました。
この「地獄のオルフェ」は、劇伴でも無く、演奏でも無い、音楽としての位置付けが難しい、あるべきではない音楽です。通常こういった音楽をつけることは殆どありません。
しかしこの回の三好さんの絵コンテを哲学的だと感じた鶴岡さんは、石原監督に「コンテ通りにやりましょう」と説得したそうです。地獄のオルフェの位置付けは「天の啓示」とするしかないとしたそうです。
このシーンについて鶴岡さんは、
「音楽ものアニメなら、「音楽に打たれて」というのは物凄く意義がある。シーンの雰囲気にはそぐわないかもしれないけれど、雰囲気では無く「意味合い」としては全然おかしくない」と語っています。
確かに単純に見た場合、久美子が悔しがっているシーンで地獄のオルフェの劇伴はありえないかもしれませんが、意味合いとしては見事に合致していると思います。
「地獄のオルフェ」でとても記憶に残る印象的なシーンになりました。
部活だけでなく、音楽を「もっと上手くなりたい」。シンプルに音楽の本質を突いていると鶴岡さんは語っています。
これまで傍観者であった久美子が”本気になった”瞬間であり、響け!ユーフォニアムの主人公になった という名場面になりました。
演出を考えた三好さんは本当にすごい方ですし、その意図を汲んで音響演出した鶴岡さんの技が光りました。
結果的に、このシーンで地獄のオルフェを入れたのは正解だったと私も思いますし、この作品を見た殆どの方がそう思うに違いないと思います。
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Posted at 2020/09/29 00:03:42 | |
Sound! Euph. ~音響 | 音楽/映画/テレビ