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数年前からどうしても行きたい場所があった。

大して離れた場所でもないので
行こうと思えばいつでも行ける距離ではあったが
なかなか踏み出せなかったのには理由がある。

そこの周辺は現在住宅の密集地であり
知人や明確な対象物が無い者が不用意に訪れれば
生活している人たちにしてみればただの不審者である。
なので、いわゆる生活時間帯を外す必要があった。

行きたい理由が自分の想いだけであり
独りで気の済むように動きたいという事もあった。

訪れなければならない事を知ったのは数年前。

ふとした拍子に、ネット上の地図で大昔に住んでいた場所を見つけた。

20世帯が住める建物が16棟、全320世帯が住む団地だった場所。
優に50年は経過しているはずで、
すでに無くなっていても不思議ではなかった。
それが何故か2棟だけ現存していることが判明。
それ以外は全て新しい一戸建ての建つ住宅密集地になっていた。

あわてて訪れたのは5年前。

その時にはまだ1世帯か2世帯は住んでいたような形跡があったが
新たな住人を待っている様子は一切無かった。

その時は娘と一緒に早朝に行ったので周辺住民も普通におられ
車を停めて想い出に浸ることはできず、さっと通過しただけ。
恐らくは数年のうちには訪れる理由がなくなってしまうと思われた。

いつかもう一度行っておきたい・・・と思いながら5年が経過。

もしかしたらもう無いかもしれない。
それも覚悟の上で車を走らせた。

日付が変わってから出発し2時前に到着。



あった・・・

もはや居住の形跡は一切無く、
イタズラに侵入する事を拒むネットがあちこちに張ってある。
区画周辺には立ち入り禁止の札がありチェーンもかかっていたので
それを超えない範囲で最後のお別れをしてきました。

生後まもなくから5歳まで、
そして高校1年と2年の夏まで、
わずかな期間しか住んでいなかったのですが
3歳くらいの記憶に今でもはっきりしているものがあり
それらをなぞるように現在の記憶に上書きできました。

4時前に帰宅。
今の生活の幸せを実感しながら布団にもぐりこみ就寝。

これであの地に思い残すことはありません。
この先、生涯訪れる事が無くても大丈夫。

前を向いて必死に走り続けるためには
たまには一瞬後ろを振り返って
「現在」を確認する作業も必要だと思いました。