TC1000でまずまずの感触が得られた
フロントのバネレートダウン.
HYPERCOの14.3キロ(800ポンド)からHAL springsの中反発12.0キロへ変更した訳なのですが,フィーリング的にはかなり良くなった印象でクルマの挙動もドライバーの意図通りの動きになったのですが,実際のタイムゲインは0.07秒に留まりました.従って,良い点もあれば悪い点も確実にあるという事なので,乗った時に感じた事をロガーデータで検証してみたいと思います.
まずは,乗った時に感じた事は以下の6点.
①1コーナーの動きが自然になった(フロントが入らず,リアが押し出されるようなチグハグな動きがない)
②2コーナーがアンダーステア気味になった(クルマが外に膨らみ続け,舵を戻せない)
③ヘアピン進入のブレーキングで良く止まるようになった
④フルブレーキング時に若干フロントタイヤがロック気味?
⑤インフィールドが非常に良く曲がるようになった
⑥最終コーナーは相変わらず向きが変わらず,ここは効果なし・・・?
比較検証するデータは共に新品のA052を履いた最初の1周目.
【14キロ:41.213】
【12キロ:41.142】
この際のそれぞれのコンディションは以下の通り.
14キロ ・・・ 気温:25.1℃ 湿度:74% 路温:30.1℃ 気圧:1011.4hPa
12キロ ・・・ 気温:21.0℃ 湿度:63% 路温:29.9℃ 気圧:1017.9hPa
気温・気圧共に,12キロの方が有利な条件だったようです.
そして,両者を比較したLAP+のデータは以下となりました(青:14キロ 緑:12キロ).
分析素材が揃ったところで1つ1つ見ていきましょう.
①1コーナーの動きが自然
1コーナーの進入速度はほぼ同等なので,気温・気圧の差はそれほど有意に働いていないようです.違いが出るのはそこからのブレーキングで,やはり12キロ(緑)の方が14キロ(緑)よりも短時間で減速しています.2キロ柔らかくなった事でフロントへの荷重移動が早まったという事なのでしょう.
ドライバー的にはこれまでよりも早く減速するので,制動距離が短くなったように感じ,今までよりもワンテンポ早くブレーキをリリースしているのも読み取れます.この結果,ボトムスピードが90km/hキープとなんだか凄い事になっているのですが,これは恐らく自己新記録じゃないでしょうか? 空力と足回りのバランスがぴったり取れた事で,自然な動きをクルマがしてくれ,実現出来た高い旋回速度だと思います.
その一方で,この高いボトムスピードのせいだと思いますが,1コーナーを抜けた先の再加速は14キロ(青)よりも12キロ(緑)の方が大幅に遅れています.車載で確認してみると,
アクセルONのタイミングは14キロの時と変わっていないのですが,踏んだ直後に失速している(加速していない)事が分かりました.これは恐らく,ボトムスピードが高いせいでタイヤのグリップを横に使い過ぎてしまい,縦に使える余力が残っておらず,前に進まなかったという事なんじゃないかと思われます.この結果,高い旋回速度を活かせず,タイム的には0.06秒,12キロの方が遅い結果となりました.
フィーリングが良ければ,ボトムが高ければ=速いと必ずしもならないのが難しいところですね・・・.
②2コーナーがアンダー気味
これはライン取りを見れば一目瞭然でした(↓).
青が14キロ,赤が12キロですが,1コーナーを抜けた時点では両者は一致しているのに,2コーナーのイン側の縁石付近から12キロ(赤)の方が徐々に外側に膨らんでいるのが分かります.やはり2キロ柔らかくなっているのでロールが大きくなり,外側のタイヤが辛くなっているのでしょうね・・・.
ただ,ライン的には膨らんでいるものの,車速の伸びとしては14キロとさほど変わらず,遅れは0.02秒程度と少ないので,気にするほどではないのかもしれません.
③ヘアピン進入のブレーキングで良く止まるようになった
これは,1コーナーの進入時と同じですね.2キロ柔らかくなった事でフロントへの荷重移動が早まり,高い減速度を出せたようです.LAP+の比較結果からも12キロ(緑)の方は1Gを超えていた事が確認出来ます(↓).
ただ,早く止まり過ぎてしまった事により絶対値が低くなってしまうので,コーナー全体で見ると12キロの方は0.06秒ほど遅くなっています.この辺りはもう少しアジャストしてブレーキングを遅らせるようにしないとダメですね.
なお,ヘアピンを過ぎた時点までのトータルでは,14キロより12キロの方が0.14秒遅れる結果となっています.
④フルブレーキング時に若干フロントタイヤがロック気味?
これも同じくヘアピンのブレーキングで感じた事ですが,こちらはスプリングではなく,ブレーキパッドが原因のようです.パッドを交換して初の走行だったので,最初の1~2回はロック気味で焦げ臭かったですが,その後の周回ではロックしませんでした(臭いもなくなった).これは次回以降気にしなくて良いでしょう.
⑤インフィールドが非常に良く曲がるようになった
ここは感じた通りの結果ですね.LAP+で見てみると(↓),
12キロ(緑)の方が早く減速して・早く加速する,非常に鋭角なV字波形を描いています.この早い加速タイミングによって次のバックストレッチで車速を伸ばす事に成功し,洗濯板の進入までに3.2km/h,14キロ(青)よりも車速が伸びています.この結果,ヘアピンまでの遅れ0.14秒を,この区間だけで取り返す事が出来ました.やっぱりインフィールドの立ち上がりって重要ですね.
⑥最終コーナーは相変わらず向きが変わらず
乗っていた時の印象としては変わらずでしたが,LAP+で比較してみると,微妙な違いがあるようです.
洗濯板手前のブレーキングでは,やはり12キロ(緑)の方が減速が早い事が分かります.このため,1コーナーと同様にドライバーは早めにブレーキをリリースしており,14キロ(青)よりも高い速度で旋回しています.そこから向きが変わるのを待っているのですが,早めにブレーキングが終わった事でドライバー側に余裕が出来てしまい,「余裕=車速を落とし過ぎ」と判断してアクセルを踏み足しにいっています.
この踏み足しが最終的に0.07秒のゲインに繋がってはいるのですが,タイヤのグリップを縦にも横にも目一杯使ってしまう事になり,最終コーナーの立ち上がりでは,12キロ(赤)の方が外側に膨らんでしまっています(↓).
この膨らみで0.03秒ほどロスしているので,最終コーナー手前でもう少し向きを変えられれば,12キロの方が0.1秒以上は速かったかな?とも思います.
じゃあ,アクセルを踏み足さなければ良かったのか?というと,それも微妙で,乗っている時は向きが変わる気配を全く感じなかったので,単純にボトムが落ちて遅くなるだけじゃないかな?とも思います.この辺り,最終の複合はホント難しいですね・・・.
以上,14キロ vs 12キロの比較結果でした.
纏めると,2キロレートダウンした分,やはり高速コーナーではタイムが落ちているようです.特にエイペックスを抜けた先の立ち上がり部分が苦しくなっています.一方,低速コーナーは大幅に改善しており,制動距離も短くなっていますし,ブレーキングで向きを変え易くもなっています.トータルで見ると,TC1000においては高速コーナーで失った分を低速コーナーで取り返しており,タイム的には「両者が相殺されて変わらない」という感じです.
レートダウンによって,最終の複合の向きの変わり方をもう少し改善出来るかと思ったのですが,ここが狙ったほどではなかった点が残念です.恐らく向きが変わるポイントが手前過ぎるのだと思うので,ここはライン取りを変えて是正出来ないか試してみたいと思います.
なお,レートダウンによって縁石の走破性は確実に良くなりました.フロントタイヤが弾かれる事が少なくなり,14キロの時よりもインカットし易くなっています.その一方で,ステアリングレスポンスは悪化しており,タイヤ1本分くらい狙ったラインの外側を通っている点が気になりました.恐らくドライバーの操作を調整していけば修正出来る範囲だとは思いますが,同じレートのままスプリングを高反発化する事で改善する事が出来るかもしれません.折角HAL springsにしたんですし,この辺りは奥の手として取っておこうと思います(笑).
結論としては,今回のレート変更はタイム短縮には繋がっていないが,フィーリング的には大幅に良くなった(乗ってて気持ち良くなった♪)ので,成功と見なして良いと思います.