
EF8の先輩に遊んでもらった
先日のTC1000ですが,そろそろフロントタイヤを使い切るという事で,次に向けてのセッティングデータ集めも行っていました.
最優先で考えないといけないのは「低反発スプリングを続投するか否か」.低反発の
フィーリングがかなり良くないのは明らかですが,その一方で良い部分もあるのは間違いなく,トータルで考えた時にメリットがデメリットを上回るか?が焦点でした.
まずはデメリットの確認から.
これは「フィーリングが良くない(気持ち悪い)」という事なのですが,この表現では何が・どう悪いのか分からないので,今回テストしてここを明確にしました.その結果分かったのは「ブレーキリリース時にフロントの持ち上がり方が一定の速度ではない事」を私は気持ち悪いと感じていたようでした.
一番顕著だったのはTC1000の1コーナーで,130km/h台の車速からフルブレーキングしてフロントのスプリングを縮めた後(↓),
ブレーキをリリースしてフロントの荷重を抜きつつ(スプリングを伸ばしつつ),ステアリングを切ってタイヤのグリップを縦→横に移すシーンで問題が生じます(↓).
このシーンでは,一度力を加えて縮めたスプリングから力を抜き,スプリング自身の力で元の長さに戻ろうとする場面な訳なのですが(↓),
ダンパーの減衰を使って,元の長さに戻ろうとするスピードを遅らせています.
そうする事で,ブレーキペダルのリリース量と連動する形で(↓),
フロントが持ち上がるスピードをコントロールし,タイヤのグリップを縦→横へ移す量とタイミングを,ドライバーの思い通りにコントロールしている訳です.
しかし,低反発スプリングの場合は,ブレーキペダルの位置を一定にしているつもり(フロントが持ち上がる量を抑えているつもり)なのに,勝手にフロントが持ち上がったり・沈んだりするんです・・・.つまり,ドライバーの意思や操作と関係なく,クルマが勝手に動くので「気持ち悪い」「フラフラする」「コントロールが難しい」と感じた訳です.
では,なぜこんな事が起きるのか?というと,低反発スプリングの構造がそういう構造になっているためと思われます(↓).
低反発スプリングには「オープンエンド」と「バレルタイプ」という2つの特徴があります.
「オープンエンド」はスプリングの先端が浮いている事です(↓).
浮いているという事は,この部分が接触するまで(スプリングが縮むまで)規定のレートが出ない(=バネレートが変化する)という事を意味します.
もう1つの「バレルタイプ」というのは,スプリングの中間部分の内径が大きくなる(全体を見ると樽のように見える)形状の事です(↓).
スプリングは径が変わるとバネレートも変わりますので,こちらもスプリングが縮むとレートが変化する訳です.従って,低反発スプリングは縮む→伸びる過程でバネレートがコロコロと変わるため,ドライバーがスプリングに同じ力を掛けているつもりでも,スプリングの反力がコロコロと変わり,ドライバーの意思に反して,フロントが勝手に持ち上がったり・沈んだりしているのだと思われます.
「ドライバーの意思に反して動くスプリングなんて,使い物にならないじゃん!」と思われるかもしれませんが,それは地面が動かない(=ターマック)を前提にしているからで,ダートのように絶えず地面側が変化する状況では,ドライバーの意思に反してスプリングの方で勝手に動いてくれた方が,姿勢が安定してドライビングが楽なのだと思われます.
ここから察するに,低反発スプリングを活かす方法が「反発力(伸び側の過渡特性)」である事は間違いないと思うのですが,ここで言う「伸び」とは「2G→1G」みたいな強い力で地面に押しつけて戻すシーンではなく,「1G→0G」みたいな弱い力で地面からタイヤが離れるシーンを指すのではないかな?と思いました(↓).
だとすると,コーナリング中の外輪側はともかく,内輪側であれば低反発スプリングのメリットが何かしら得られそうな気がするのですが(↓),
私としては逆にデメリットの方を感じました.これは
フロントのスプリングを同じレートのまま中反発→低反発に変更した時に起きた現象なのですが,低反発だと内輪側が浮くんですよね・・・(荷重が抜けた後,スプリングが伸びるのが遅い).
反発力が低いのだから,伸びが遅いのは理屈としては合っているのですが,あまりにも内輪側が接地するのが遅過ぎて,トラクションが掛かっていない気がするんですよねぇ.昨シーズン,コーナーの立ち上がりでタイムロスが大きかったり,最高速が伸び悩んだりした原因は,このフロントタイヤの接地性の悪さが原因なんじゃないか?と訝しんでいます.
という事で,ここまでデメリットばかり述べてきた訳なのですが,「じゃあ,低反発スプリングのメリットは何なの?」と考えると,やはり「反発力の弱さ」になると思われます.
ダンパーの力を借りずにスプリングの力だけで縮む→伸びるのスピードを抑えられるため,フロント荷重をコーナーの出口までキープするのが容易では?と考えていました(↓).
しかし,今回テストしてみたところ(ヘアピンで何度か試して1回しか成功しなかった),フロントが沈んでいる時間の長さを活かして,エイペックス通過後までフロント荷重をキープし,そこからノーズが持ち上がる直前で意図的にアクセルを開けてみたのですが,アンダーステアが出て曲がりませんでした・・・.
ここから察するに,外輪側の伸びを遅くする事で荷重をキープする事は出来ているものの,内輪側の伸びがそれ以上に遅過ぎて実質片輪走行となり,左右両輪のトータルのグリップで考えると,落ちているという事なんじゃないかな?と思いました.
これらのテスト結果から,狙っていたメリットは得られず,逆にデメリットの方が多々ある事から,今回は「低反発スプリングはデメリットの方が大きい」という結論に至りました.なお,これはあくまで現在使っているダンパーを基準とした場合の話で,低反発スプリングに合わせた仕様にすれば,また違った見解になるとは思います(「低反発スプリング」という製品自体が悪い訳ではないです.スプリングというのはあくまでダンパーとの組合せなので・・・).
では,次どうするの?という話になるのですが,現在のレート(14キロ)のまま低反発→中反発に戻すと,プロに指摘頂いた「
転がし気味に入ると,戻り(反発)が強く,フロントが抜け気味になる」という症状が戻ってくる事になります.
これを回避するためには,「レートを落として反発そのものを弱める」という策を取る事になるのですが,そうすると今度は日光でプロに指摘頂いた「
フロントの限界が低い」という話が戻ってきます.
なので,レートを戻すならこの件をどうするか?を考えないといけませんね・・・.
まさに「アチラを立てれば,コチラが立たず」のセッティングのドツボにハマった状況な訳なのですが(苦笑),別な視点で考えると,14キロのハイレートにはいくつかデメリットがある気もしています.
1つ目が「乗り心地が悪い」.ま,当たり前の話ですね(笑).ただ,これは単純な街乗りの話だけでなく,路面の起伏に対する追従性という点でも結構悪化している気がしています.その証拠にEF8の先輩に追いかけられた際の車載を見ると(↓),
ストレートをただ真っ直ぐ走っているだけなのに,結構クルマがヒョコヒョコと上下動しています.これではトラクションがしっかり掛からないので,最高速の伸びも鈍るかなぁ~?という感じです.
2つ目は「タイヤの摩耗」.実はレートを14キロに上げて以降,タイヤの摩耗速度がかなり上がっています.
上の図は,A052のコース上での走行距離とタイムの推移を表したものです.レートが12キロだった頃は,概ね240km(TC1000だとまんま240周)前後くらいは走行可能だったのですが,レートを14キロに上げて以降は長くて200km前後,今回のセットが特に酷くて150kmで使い切る事態となってしまいました・・・.明らかにタイヤに厳しい側に進んでいる気がするので,14キロだとタイヤを上手く使いこなせないのでは?とも思っています.
なお,摩耗が早い直接の理由としては,タイヤの表面温度が高いせいな気がしていて,1回タイヤがタレると2度と戻って来ず(42秒台を切れなくなる),これはタイヤのピークグリップを超えた温度域が維持されているためではないか?と思っています.グリップレベルの低い状態が維持されるため,アベレージが落ちて「平均0.3秒落ち」となっていたりしないか?と考えています.
それ以外にも,「冬場のダンパーとのマッチングが悪い(オイルが固くなった時に減衰が合わない)」「フロントタイヤのウォームアップが遅い(タイヤを潰せず,表面で走っているせい?)」「フロントの制動力が低い(そのせいでリアがロックし易い)」等々,14キロのネガは結構あるので,一度12キロに戻して状況をリセットしてみた方が良いかな?と考えています.
以上,低反発スプリングの特性を紐解いて,導き出した結論でした.