VW東京さんのご協力で新型のゴルフGTIをじっくりテストする事が出来た。やはり私の中でも「GTI」は憧れのブランドだし、実際販売のボリュームも大きい。大規模マイナーともいえるゴルフⅥをベースに構築された「GTI」がどの程度進化しているのか興味があった。テスト車は既に約7000kmを走行した固体で、慣らしも完了しており遠慮なくブン回せた。今回は約150km程走らせる事が出来た。色々考えさせられるクルマでもあるが、元祖ホットハッチ「GTI」にはもはやライバルは不在なのかもしれない。
まずはスタイリングから。誰が見ても納得のGTIルック。標準モデルに対し約20mmローダウンされるGTI専用のスポーツサスペンションを装着。クロームツインエキゾーストパイプや専用エアロパーツを纏う事で標準モデルとの違いを演出。タイヤは今となっては普通サイズの範疇とも言える「225/45 R17」で先代に引き続き、テレホンダイヤル型のアルミがセットされる。テスト車はセットOP設定されて話題の「アダプティブシャシーコントロール"DCC"」と「225/40R18タイヤ+アルミホイール」は装着されていない。(+21万円)私はあまり足回りに電子制御を持ち込むのは好みではないが、機会があれば体験したい。標準モデルと同様にあまり後姿が好きではないが、やはり「GTI」は漂うオーラがありますね。
室内は基本的にベースモデルに準じるが、トップスポーツシートと呼ぶスポーツ性の高いシート(GTI専用のチェック柄)やゴツゴツしたスポーツステアリング、GTI専用シフトノブ等が奢られる。個人的にはメーターの照明が「レッド」になる等もう少しスポーツモデルらしい味付けが欲しかった。それと、太くてD型に近いステアリングは好みが別れそう。
エンジンは最新型の2.0L直噴ターボ(TSI)で211ps/5,300-6,200rpm 28.6kg-m/1,700-5,200rpmを発揮。ボディサイズは全長4210mm全幅1790mm全高1460mmでホイールベース2575mm。車両重量は1400kg。10.15モード値は13.0km/L。ミッションはもはや熟成の域に達した湿式の6速DSGを組み合わせる。今回からMT車は日本に導入されていない。価格は366万円。これを安いと思うか否かはそれぞれの価値観に委ねる部分ではあるが、同じVWの「シロッコ2.0TSI」が457万円である事を考えると、カーナビなどの装備差を勘案しても安い。「GTI」は余程こだわりが無ければメーカーOPも不要だろう。つるしのままで充分に満足出来る内容だ。
走り出してまず「オヤッ」と思うのはやはり静粛性だろう。ベースモデルからガラスの厚みや遮音フィルムを挟んだフロントガラスを採用するなど静粛性にはこだわりを見せていたが、それは「GTI」でも有効。私としてはエンジンサウンドやエキゾーストノートをもう少し楽しみたい....という気持ちもあるので闇雲に静粛にしてしまうのはどうかと思うが、長距離の高速走行(文字通り"グランドツーリング")を前提に考えると静かな方が疲労度は少ないだろう。日本は走行距離も短く、平均車速も低いから視覚と聴覚でもう少し刺激が欲しくなってしまうのだろうか。そういう意味では先代(Ⅴ)のGTIの方がイメージに近かったかもしれない。
走りについては文句なしに素晴らしい車といえる。「スポーツモデル=ロールを否定しガチガチに固めたアシ」を連想してしまうが、「GTI」に限っては当てはまらない。むしろ積極的に足を動かし、トコトンいなしてしまう。非常に懐の深いアシ。何も知らないで乗ってしまうと、物足りなく感じてしまうかもしれない。コーナーではジワッとロールをしながらも路面をガッシリと捉える。コーナーの出口で必要以上にアクセルを開いても電子制御式ディファレンシャルロック"XDS"の働きもあって、トルクステアを感じる事も無く、スムーズかつ蹴飛ばされるな加速と共にクリアしてしまう。200psを超えるハイパワーFF車から連想させる気難しさは無縁。しかし人間とは贅沢な生き物で、あまりにもクルマの出来が良く洗練されてしまうと物足りなさを感じてしまう事もある。このあたりで「GTI」の評価が分かれるのではないだろうか。
エンジンは踏み込んでいくと気持ち良いサウンドが聴こえて来るだけではなく、先代よりもスムーズに吹け上がるようになった。全般的にTSI系エンジンは低回転域での分厚いトルクが魅力ではあるが、回して行った時のフィーリングには欠ける傾向があるが、「GTI」はレッドゾーンの始まる6200rpmまで充分回す価値のあるユニットに仕上がっている。先代の「GTI」と比べると僅かにステアリングの切り始めが鈍感になったかな。その分、安定感が増している。
私が普段乗っている乾式7速DSGに比べて、熟成の進んだ湿式6速DSGはワンランク上の滑らかさを感じさせる。初期GTX(V)が搭載していた湿式6速DSGとは比較にならない進化である。特に、極低速域でAT車で言うところのクリープとアクセルON周辺を行き来する様なシチュエーションでは湿式6速DSGに分がある。1.4LのTSIエンジンに比べてエンジンブレーキも明確に強く利くからパドルシフトを駆使したシフトダウンも爽快。もう少しパドルが大きければ文句なしだ。
約150kmを走った後の燃費はインフォメーションディスプレイの値で8.2L/100km。日本風に言えば12.2km/Lである。ガンガンアクセルを踏んで走った後の数値だから立派。普段のお買い物や送迎から、スポーツ走行まで幅広く1台でこなせる懐の深いスポーツモデルとしては間違いの無い「鉄板」モデルと言って良い。先代に引き続いて、明確なウイークポイントを発見出来ないクルマである。もしこのクルマに欠点があるとすれば「出来過ぎているから面白くない」と感じる人が少なからずいるのではないか。まぁ一度「
トヨタ・ブレイド」でも試乗してから「GTI」に乗ってみる事をオススメします。「本物の自動車」と「自動車の様なモノ」の違いがハッキリ体験出来るハズ。
私見ではあるが、ゴルフは「ベースモデル」か「GTI」を買うのがクレバーと考えている。ゴルフⅤ初期の時代ならばベースモデルは「1.6E」。ゴルフⅥについては「1.4TSI Comfortline」もしくは、まもなく登場する「1.2TSI Trendline」だろう。ガッチリとした剛性感溢れるボディや安全装備についてはグレードの隔て無く備わるのがゴルフの魅力。廉価グレードになると平気でスタビライザーも省いてしまう様な恐ろしい事を平気でやってしまう日本メーカーとは根本的に違うところだ。本当に贅沢なクルマとは表面的な快適装備ではなく、目に見えない骨格部分にこそコストを割かれたクルマだろう。一方で、ゴルフと言えども「ベースモデルではどこか物足りない」「もっとパワーが欲しい」のであれば「GTI」まで行くべきだ。中間グレードを否定する気は無いが、払ったコスト以上の満足度を濃厚に得られるのは「GTI」だろう。数々の専用装備と「GTI」のネームバリューは数年後のリセールにも有利に働くからだ。
総じて、ゴルフⅤの頃と比べるとベースモデルと「GTI」の差は縮まって来たように思う。「1.6E」(2004年発売:240.4万円)は1320kgのボディで1.6L直噴(FSI)+6AT(116ps/6000rpm 15.8kg-m/4000rpm)だったのに対し、 「1.4TSI Comfortline」(278万円)は1290kgのボディに1.4L直噴ターボ(TSI)+7DSG(122ps/5000rpm 20.4kg-m/1500-4000rpm)を搭載する。1.4TSIエンジンは燃費も良いが、僅か1500rpmで最大トルク20.4kg-mを発揮するから、実は結構パワフルに走る。他社が未だ2004年のゴルフⅤ相当(直噴+6AT)にすら追いついていないのに...。個人的な嗜好を言えば「GTI」はもう少しスパイシーな味付けが有っても良かったと思う。「GTI is back.」をキャッチコピーに掲げ、華々しくデビューした先代に比べると各部が更に進化・洗練されたのと同時に、スポーツモデルとしての熱さ・情熱の様なものが少し感じにくくなったのかもしれぬ。この辺りは「GTI」に何を求めるのかで評価が変わってくる部分ではあるが....。まぁ出来すぎている事位しか「ウィークポイント」にならないクルマなんて世界広しと言えどもゴルフ位なものですけどね。やはり「鉄板のクルマ」でした。次回は「1.2TSI」もしくは「ゴルフR」に乗ってみたいですね。
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Posted at 2010/03/24 00:06:43 | |
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