
21世紀もしばらく経った頃、地球温暖化とも何とも言い難い急激な気候変動により、全世界的に食糧及び飲料水不足に陥り、地球上のあらゆる国々の経済活動や基盤はたったの数年で瞬く間に壊れてしまった。
日本もその例外ではなく、基本的には食料自給率が低水準で推移していた為に輸入額過多となり、国富の流出は止まらず、東アジア圏に置いてのプレセンスは完全に失われ、今や一部の先端技術とたゆまない日本国民の努力により、なんとか中堅国としての立場を維持しているに過ぎない。
一時はロックフェラーセンターをも買収し、東京23区内の土地の価格とアメリカ全土の価格が同じであった時代は、夢のまた夢どころか、今や他国への国債累積が目立つような国になってしまった。
当然のことながら、自家用車は瞬く間にガソリン車は駆逐され、ハイブリッドはおろか内燃機関自体が法律により使用禁止となってしまった。一時は燃料電池や水素自動車等の環境をふまえた自家用車が普及したかのように思われたが、経済活動の衰退により貧富の格差は広がり、相対的に値上がりした自家用車は全く市民的なものではなくなってしまった。
今では一般的な市民は公共交通機関を頼り、パーソナルモビリティは一部の特権階級や官公庁のみが使用するだけとなってしまい、無論全国を網羅している道路網に渋滞という現象はおろか纏った台数の車が走る事も無くなってしまった。
車の誕生から100年と数十年で、その立場はあっさりと先祖がえりどころかさらに貴重なものになってしまったのだ。V12、ツインターボ・・・そんな言葉が深夜のファミレスで行きかう時代はとうに過ぎたのだ。
しかし、どんな時代でも例外はいる。
深夜2時の旧東名高速、現政府専用道1号高速線・・・数台の今は見慣れない形となった車達が猛スピードでランプウェイを駆け上がって行く・・・そう、盛大なエキゾーストノートと共に。今では嗅ぐことのない、香ばしいガソリンが燃える匂い、そう彼らは違法を知りながらも20世紀の偉大なる遺産を捨てずにいる、無法者どもだ。
数十年前のスポーツカーと呼ばれた快速の車、R35GT-Rを駆る、若い男が見慣れないインカムに話しかける。
「おい!!!俺のGT-RのECMは効いているのか???」
インカムの音声はV10エンジンを搭載するBMWのクーペ、M6を駆る初老の男に流れる。
「大丈夫だ!!!なんせハイテクな世の中!目視よりも液晶画面の監視システムを信じる時代だ!そのまま踏んで一気に御殿場まで行くぞ!」
その二台を先頭に、12気筒が自慢のフェラーリF12ベルリネッタ、軽量ながら滅法に速いポルシェ911GT3RS、ワゴンとはいえ尋常でない速さを誇るアウディRS6、日本が誇る至宝レクサスLFAが続いていく。
まるで、そのシーンは21世紀初頭の車番組の特大号のようだ。しかし、今は間違いない21世紀も半ばを過ぎた管理社会、まさしく違法行為そのものだ。
彼らは市販のインカムを改造し、傍受不能なものを使いコミュニケーションをとり、自前のシステムで構築したECMという電波妨害を行い、交通管理システムの網の目をかいくぐり、今日も真夜中の誰もいない高速道路を200キロを優に超える速度で走るのだ。
途中、政府関係者と思われる公用車を抜かすも、彼らは全く疑問を抱かない。そう、目視を信じることはなく、今は端末から来る情報だけが重要証拠となるのだ。
「っは!あいつらも本当はどう思ってるんだかな!しかし日本もこんなV10エンジンを作っていたんだから、大したもんだよなぁ」
「お前は爺さんに感謝しとけよ?遺産なんだしよ、畑に埋めてあったなんてキザもいいとこだ。俺のアウディは密輸に次ぐ密輸で死刑すれすれよ」
インカムから流れる声はみな、ハリが良く楽しそうだ。彼らはみな社会的立場もある人間なのだが、夜中は重犯罪者となって光の筋となって走っているのだ。まるで闇の中の一筋の光明のように、明日デフォルトに陥り最貧国になり得るこの国の閉塞感を打ち破るかの如く。
何よりも、走るの楽しさ、歓びを捨て去れないのだ。
その時、一台のセンチュリーが非常合流帯から猛スピードで駆け上がってきて、殿を務めるボクスタースパイダーに近づいた。
インカムに音声が入る「あとはいい、お前だけ止まってくれ」。
使い込まれたボクスターと、傷一つない、今ではV12を捨て去りFCVとなったセンチュリーが、今では廃墟となった鮎沢サービスエリアへ滑り込む。他の車はさらに速度を上げて走るさる。
二台の車から、随分と年を取ったであろう男が降り、ちょうど二台の車の中間地点で話を始めた。
「お前のボクスターのパルスは直ぐ分る。」
センチュリーから降りた男は、どうやら国家的な立場のある人間のようだ。
「ああ、それは良く解っている・・・このまま逮捕か、いや、今じゃ即座に射殺か」
ボクスターの男は笑って言う。
「冗談いうな、だから止めろと言っているんだ。いくら同級の俺でも限界がある・・・なんだ、それともあの時の仕返しなのか?まだ恨んでいるのか?」
咳き込みながら、国務大臣クラスの重鎮はスキャバルのスーツからハンカチを取り出しながら話しかける。
「いや、そうじゃない。走るしかないだけだ・・・それだけだ。」
それから数十分、一言二言しか話さず二人はただただボロボロになったサービスエリアを見つめていた。彼らが若かった頃、既に日本社会には閉塞感が渦巻き、格差社会などという言葉が生まれ始め、どうにもならない気持ちが多くの人間の心にうごめいていた。
しかし、今はどうだろう、そんなころよりも遥かに息苦しい、個人の自由や主張などという概念さえ消え去ってしまった世の中となってしまった。
彼ら老人の想いはどこへむかうのだろうか、そして若者たちはどのようにこれからを生きるのだろうか。
結論は出ない、その証拠を示すかのように、センチュリーは只管に無音に、そしてボクスターはまるで咳き込むかのようなフラットエンジンの音を奏でて、ボロボロの資本主義の夢の後を走り去っていく・・・
って感じの夢を酒飲んだ後に見ました。たまぁーに見るんですよね、長いリアルな夢。無論、ボクの将来みたいな人はいませんでしたけどね。
今後の自動車社会ってどうなるんでしょう?日本の社会と密接に関係していますから、それこそいい未来になってもらいたいもんです。雑文でございやした。
Posted at 2016/05/22 01:25:12 | |
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