
はい。毎度お馴染みこのコーナー
「そんなオカルトありえません」が始まります。
え、初めて聞いたって?
ま、それは別に良いとして(爆)
今回の小難しい話は
エンジンブレーキについて。
エンジンブレーキについての正誤を解いてみましょう。
今回取り上げる巷の迷信(題材)はこの2つ↓
①エンジンブレーキはポンピングロスによるものである
②ディーゼルエンジンはエンジンブレーキが弱い。故に排気ブレーキ等がついている。
各々のあらまし↓
①に関しては、エンジンブレーキの大部分はポンピングロス(スロットル抵抗)によるものだという定説。
エンブレ中はスロットルが閉じているため、それによって吸気工程において抵抗が生じる(ピストンを下げるのに大きな力が必要)
それがエンブレの正体である、というもの。
※で、良く例えられるのが”注射器”。・・・注射器の先を塞ぐとピストンを引くのに大きな力が必要となる。それがエンジンブレーキである。
②に関しては、上記理論に基づきディーゼルはスロットルが無いためエンブレが生じない(弱い)というもの。
それを補うために排気ブレーキがあるのだ、というもの。
※上記①と同理論の逆パターンで、スロットルが無い=注射器の先が塞がれないのでエンブレが発生しない。
※排気ブレーキについては今回は詳しく説明しません。各自調べてね。
(ざっくり言うと排気のスロットルを閉めてしまい背圧を持たせるというものです。)
と、言うことでなんとなく理は適ってそうですね。
まぁ、普通にこう言われたら
「ふぅん。なるほど」と信じてしまいそうですね。
でも、信じません。だってオカシイじゃないですか。
(と思えるかどうかが分かれ道)
※大半の人はオカシイと思わないのが普通のようです。まぁ、Dラー行って「エンジンブレーキ付けて下さい」って言う人がいる世の中だからなぁ・・・。
さて、では
ここからが本番ですよ。
まず何がオカシイのか?
はっきり言ってポンピングロスだけで減速なんてまともにできないでしょ?
そんなにポンプングロスが大きいなら今頃はとうにガソリン車にスロットルはなくなってると思いません?
だってそんなに抵抗になるならスロットルを廃したほうが”
燃費”に貢献するじゃないですか。
今一番重視したいあの”燃費”に莫大に貢献するはずです。
企業がそれをわかっていてしないはずがない。
※一部車両ではスロットルを廃したモデルもあります(バルブマチック等)が普及してません。
とまぁこの説はちょっと穿った見方なんですがwww
では今度は
理論的にいきましょうか。
ポンピングロスについて、上記ではスロットル閉止状態では抵抗が増す事でエンブレとなるということですが。
冷静に考えましょう。4サイクルエンジンは吸気だけで成り立っている訳ではありません。
①吸気
②圧縮
③爆発(膨張)
④排気
の4工程で成り立っています。
それぞれの工程の圧力を見てみましょう(非爆発時=エンブレ)
※GDBインプレッサを例に進めます(EJ20 1994cc 圧縮比8.0)
バルブオーバーラップ等の誤差分は考えずにシンプルにいきます。
注)以下、分りやすい数字で書きます。実際はこの通りにはなりませんのであしからず。
圧縮比8.0なので8倍に空気を圧縮します(大気圧101.3kpa)
↓そのときの各工程の圧力↓
①吸気・・・101.3kpa → -810.4kpaへ減圧
②圧縮・・・-810.4kpa → 101.3kpaへ圧縮
③膨張・・・101.3kpa → -810.4kpaへ減圧
④排気・・・-810.4kpa → 101.3kpaへ戻る
どうでしょうか?
吸気で-810.4kpaまで減圧していますが
排気で元の圧力に戻ります。
吸気で抵抗があっても排気で相殺になります。
同じく、圧縮は膨張で相殺されます。
Q,つまり、どこに抵抗が生じるの?
A,生じません※どんぶり勘定
全工程におけるエネルギーの収支は±0なので吸気抵抗というものは発生しません。
※厳密に言えばありますが今件では無視できるレベル
イメージできたでしょうか?
圧力の動きを追うと収支はゼロなんですよ。これではエンブレには成り得ませんね。
ではコレを踏まえて一応こんなことも考えましょう↓
●エンブレ時にエンジンOFFしてスロットルを開けたらどうなるのか?
※条件的にスロットルの無いディーゼルエンジンと同じ条件となります
①吸気・・・101.3kpa → -810.4kpaへ減圧
これが減圧でなくなるのです。スロットルが開いているのでピストンが下がっても大気圧のまんま。
吸気工程の仕事は排気工程で相殺され、圧縮工程の仕事は膨張工程で相殺されます。よって収支がゼロ。
アクセルを開けてしまい、吸気工程の仕事をなくしたら、収支ゼロは崩れ、エンブレに影響を与えるのか?
↓その時の各工程の動きはこうなります↓
①吸気・・・101.3kpa → 101.3kpaのまま
②圧縮・・・101.3kpa → 810.4kpaへ圧縮
③膨張・・・810.4kpa → 101.3kpaへ減圧
④排気・・・101.3kpa → 101.3kpaのまま
※排気バルブが開いているためピストンが上昇しても圧縮にはならない。
スロットルを開けると収支のバランスが崩れるのかと思いますが、結局吸気が仕事をしなければ排気も仕事をしなくなるので
収支はゼロのまま。
つまり、
スロットルが開いてようが閉まってようが、エンブレには影響しない訳です。
さ、そろそろ
「机上の空論だろ。」なんて突っ込む輩が出てくる頃だと思います(爆)
ですので、実際に実験もしました。
普通のエンブレ(スロットル閉)はいいですね。問題はスロットル開のエンブレ。どうやるの?
っていうと車が限定されます。大前提として電子スロットル(バイワイヤ式)でないこと。
私のインプレッサはワイヤー式です。なのでエンジンを切ってもスロットルを開けられます。
とうことは、下り坂でエンジンを切ってアクセル踏めば良いだけ。
※アクセルを踏んでもスロットルが開くだけで爆発しない。
で、下り坂でパカパカスロットルを開けたり閉じたり・・・。
題材の説では、アクセルをあければポンピングロスが無くなり(ディーゼルのように)エンブレが効かなくなるはずですよね。
でもエンブレの強さは変わりません。
当然です。だって関係ないもの。
これで
「①エンジンブレーキはポンピングロスによるものである」という説が崩れました。
あとは
「②ディーゼルエンジンはエンジンブレーキが弱い。故に排気ブレーキ等がついている。」についてですね。
これは勘違いが元となった説と思われます。
上記より、スロットルがあろうがなかろうがエンブレは変わりません。よって
「ディーゼルエンジンはエンジンブレーキが弱い」の部分はウソだとわかります。
では何が勘違いなのかと言うと、排気ブレーキが付いていることが原因。
おそらく、「排気ブレーキをつけないとまともにエンブレが効かない。」という思い違いによるもの。
ディーゼルっていうとトラックやバスを思い浮かべますよね。それらには排気ブレーキが付いている。
しかしそれらは
エンジンに対して車体が大きく・重いため、単純なエンブレだけでは足りないから排気ブレーキがついているのです。
ディーゼルだからエンブレが弱い・・・という理由で付いているわけではないんです。
これで、
①②の説に説明が付きましたね。
さて、残る問題が実はあと一つあります。
③じゃあエンブレってなんなの?
はい、この疑問が残りましたね。
ポンピングロス(吸気抵抗)でもスロットルの有無でもない。じゃあなんなの?
一言で言うと
”機械損失”です。
その内容としてはエンジンそのものの回転抵抗、オイル抵抗、オイルポンプ・オルタネーター等補機類、駆動抵抗・損失などの
各種抵抗。
また回転数が上がれば抵抗も増えるのでエンブレが強くなるのも道理。
※まぁポンピングロスも機械損失の一因なのですけどね
ちなみにクラッチを切ったら一気にエンブレが減ります。なぜなら一番の抵抗であるエンジンを切り離すから。
あの状態の減速が足回り等の抵抗にみによる減速です。
※ATがエンブレが効かないのはトルコンによってエンジンと切り離されるからです。
以上、エンブレの正体は一説のポンピングロスではなく各種機械損失であること。
しかし、これだと”
ポンピングロスってものがまったく無い”っていう風に読んで取ってしまう人も出るでしょう。
なので、誤解は解いておきます。
ポンピングロスはあります。
あくまで、エンブレに効くほどのものではないってだけです。
知ってる人は見ればわかるPV線図です。
ポンピングロスってのは吸気-排気のときに生じるものです。
圧縮-膨張はロスにならない。
とまぁこの線図の意味が分かる人は話が早いのですが。
線図が分からなくても理解できるように計算して数値を出してみましょう。
※余計分からなくなるかもしれませんが
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
ボア×ストローク 92mm × 75mm
クランク長 37.5mm =0.00375m
圧縮比 8.0
・800kpa時のピストンにかかる力(大気圧から8倍に圧縮)
→ 800000pa * 0.046m * 0.0046m * 3.14 = 5315.4N
・モーメント(トルク)・・・クランクに掛かる力
→ 5153.4N * 0.0375m = 199.3Nm
(199.3Nm * 0.102 = 20.33kgm)
・PSに変換
1kgm/s = 9.8W
1W = 0.00136PS
1W = 1Nm/s
199.3Nm * 0.00136 =0.271PS (1圧縮に必要な力)
・3000rpm時のPS
0.271ps * (3000 / 60) = 13.55PS
3000rpm時の減速エネルギーは13.55PSという事に。
排気工程で回収される分を差し引きする
80%・・・13.55 * 0.2 = 2.71PS
90%・・・13.55 * 0.1 = 1.355PS
1~3PS程度が実際の減速エネルギー(ポンピングロス)
約1.5tあるインプレッサを減速させるのに1~4PSでは足りませんね。
※インプレッサをスーパーカブ50(3.5PS)で押すようなもんです。
仮にレブの8000rpmだっとしても、0.271*(8000/60)=36.13PS
排気工程回収率
80%・・・7.22PS
90%・・・3.61PS
となり
3~7PS程度しかない。
※これでようやくスーパーカブ110(8PS)級に昇格しました。
という訳で、ポンピングロスがエンブレに効くほどではないことがお分かり頂けたかと思います。
さて、今回はいつにも増して分かり難い内容だったでしょうかね。
一体このコーナーは誰得な内容なんでしょうか(爆)
オマケ)
2stは4stに比べてエンブレが弱い。
→単純に2stの方が機械損失が小さい為。
更にオマケ)
各社ポンピングロスを低減させ燃費を稼ごうとしているのは、そんなレベルの所も改善しようと努力してるって事ですからね。
そんなことより車両を軽量化するのが一番手っ取り早く一番効果のある事なのですが・・・
フレーム(プラットフォーム)はどんどん軽くなってるんですよ。ハイテン鋼を多用して薄肉化したりしてさ。
でも、インテリ担当に余計な内装や過剰な防振・静音材を貼り付けられ、折角軽くしたフレームを帳消しにされる始末。
アホは手を出さずに機械屋だけで車を作れば軽くて燃費の良い車ができるよきっと。
でもそうすると出来上がるのはロータスみたいなスパルタンな内装になってしまうか(私は好きだけど)