1990年に公開されたアメリカ映画。
ドイツの航空機生産工場を爆撃する戦争映画ですが、内容は爆撃機に乗っている10人の若者の青春映画だと思います。
メンフィス・ベル(Memphis Belle)は彼等が乗っていたボーイングB-17に付けられた愛称。
ベルは鐘とか鈴ではなくて、美人の意。
つまりテネシー州にあるメンフィスという街の美人という意味。
当時、アメリカ軍の爆撃隊では25回の爆撃任務を完遂すると、英雄として退役し帰国する事が出来た。
これまでの24回の任務を無傷で帰ってきたB-17爆撃機「メンフィス・ベル」。
彼等が最後の任務を無事に終了する姿を広報に使い、戦時債券を国民に買ってもらおうとアメリカ本国からは広報官まで基地に送られて来る。
最後の任務はフランスの田舎に進軍しているドイツ軍を爆撃するような軽い任務になるのではないか?
などとの憶測が飛び交う中、言い渡されたのは対空防御の厚いドイツ本国、ブレーメンの爆撃だった。
24機の大編隊を組んで、イギリスからドイツへ向かうB-17。
航続距離の短い味方戦闘機の護衛がいなくなると同時に、入れ替わるようにドイツ軍のメッサーシュミットが攻撃を仕掛けてくる。
集中的に狙われるのは、編隊の先頭を飛んでいる先導役のB-17。
第1波の攻撃で先導機が撃墜され、第2波攻撃で代わりの先導機も損傷を受けて編隊を離脱せざるを得なくなった。敵の空域で編隊を離脱するのは死を意味する。
そしてついにメンフィス・ベルが先導機の役割を担うことになる。
後続機は先導機の爆弾投下のタイミングに合わせて投下するので、爆撃時の先導機の役割は作戦の成果を左右するほど大きなものになる。
ブレーメンが近付き、激しい対空砲火の中、爆撃コースに編隊を乗せていくメンフィス・ベル。
しかし、目的地上空に到達しているのに目標が煙幕に覆われていて工場が視認できない。
周辺には病院や学校、公園などがあり、目標を間違って爆撃すれば罪の無い一般人に多大な被害が出る。しかも目標の工場が破壊できなければ、また代わりに誰かがこの作戦に送られる事になる…。
自分たちはこの攻撃の成果に関係なく帰国できるがそれでいいのか…?
悩んだ末に投下を見送り、もう一度初めから爆撃コースに乗せなおす事を選択する。
二度目の挑戦で奇跡的にも工場が見え、無事に爆撃を果たす事が出来るが、その後迎撃に上がってきた敵戦闘機の激しい攻撃と地上からの高射砲の攻撃にさらされて、クルーに重傷者が出てしまう。その後も執拗な敵機の攻撃にさらされてついにメンフィス・ベルの4番エンジンが出火する。自動消化装置も故障した彼等は先導機の役割を後続機に譲り、消火のために高度8000mから急降下を行なう。
限界速度を超えて急降下するメンフィス・ベルは何とか風圧で消火する事が出来たが、編隊からは大きく離れてしまった。
稼動しているエンジン3基で単機でイギリスを目指していたが、重傷のクルーのためにも早く基地へ帰りたい。しかしその後損傷を受けていた1番エンジンも黒煙を噴き出したため、燃料に引火する前にエンジン停止をしてしまい、飛行速度は落ちるばかり。
【この先ネタバレ注意!】
爆撃隊本隊はすでに帰還しており、その報告では4番エンジンから火を吹きながら急降下していくのを見たのが最後だったと聞いて、戦友や地上クルー、司令官をはじめ、先の広報官もメンフィス・ベルの帰還に絶望感が漂い始めた。いつまで待ってもその姿は見えず25回の任務完遂はしょせん無理な夢なのかとあきらめ始めた時に、滑走路の向こう側に満身創痍になったメンフィス・ベルが現れる。
まだ25回の任務完遂には程遠い彼らにとって希望の星でもあるメンフィス・ベルを見つけて一瞬沸き上がるが、片側の車輪が出ていない。
そのまま強引に着陸すれば前回の出撃帰還時に見た、やはり片輪しか出ないまま強行着陸をした仲間の機体のように火だるまになってしまうかもしれない。
一方メンフィス・ベルでは滑走路を目前にして3番エンジンも止まってしまい、残るは2番エンジン1基のみ。
速度が落ちて失速しそうな重い機体を必死で操るパイロット。
固唾を飲んで見守る地上クルー達の気持ちと同じで、メンフィス・ベルの中でも車輪を出そうとパイロット以外のクルー達が死にもの狂いで手動で車輪を出すギヤを回している。
失速で姿勢を保つのがやっとの機体の車輪が地面に着く寸前、ギリギリで間に合って無事に帰還を果たす事が出来て、基地は歓喜に包まれる。
全体に戦闘シーンなどは地味で、全てがメンフィス・ベルからの視点で描かれています。
また10人のクルーの個性も際立っており、それぞれの葛藤や不安、苦悩など、やはり戦争映画というよりは青春映画のような気がします。
映像では描ききれなかった、それぞれのクルーの想いなども小説版では掘り下げて描かれているので、ストーリーに興味の沸いた方は小説もお勧め。
実はこの映画、若いクルー達の葛藤や不安こそが話の本髄だと思います。
一瞬後には死んでるかもしれない恐怖と闘いながらも同じ機に乗った仲間と助け合い、信頼し合い、そして時にはケンカしながら成長していく姿が描かれています。
今回はあえてその辺には触れずに紹介しました。
また撮影に使われたB-17 は本物を5機も飛ばしたそうで、飛行機好きな人にとっては離陸直後に横風を受けて斜めを向いて上昇していく姿などを見ると、合成やCGではないのが分かって嬉しくなるんじゃないでしょうか?
ただ…
公開当時は史実に基づいたノンフィクション映画である事を売りにしていたような気がしますが、メンフィス・ベルは実在し、たしかに25回の任務を終えましたが、この映画のように満身創痍になる事もなく『無事に』帰還したんだと思いますが…。
さらに、病院や学校を誤爆したら一般市民に被害が出る、と一度爆撃をやめて自分達に被害が及ぶかもしれないのにもう一度危険な爆撃をやり直す判断をしたメンフィス・ベルの機長ですが、このあとアメリカに帰還して、戦時債券売り上げのために全米を回るツアーに参加した後、対日本戦争に参加して東京をB-29で爆撃しました。東京空襲がどういうものだったのかはご存知の通り。
ちょっと矛盾を感じます。
それとも『爆撃し直し』がフィクションなのかもしれませんね。
本当はB-17についても書きたかったんですが、長くなってしまったのでまたの機会に。
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Posted at
2010/02/11 18:51:28