
Monologue56 2003.9.8
ちょっと趣向を変えてこれまで読んだクルマ関係の本についてあれこれ。
バルブタイミング—エンジン性能の決め手
エンジンを弄ってる時に読んだ本です。理論的な話もさることながら実際にエンジンに手を入れる時の測定方法であったり、加工のコツが詳しく書かれており、とても実践的な内容になっています。
実機を見ながら読めばどこをどうすると良いか、悪いかがよく理解できます。本から得た知識は往々にして使えないものが多いですが、この本は実践派にお勧めできます。
レーシングエンジンの徹底研究
日産のCカー用エンジン設計をしていた林義正教授の本です。説明が明解かつ論理的で読みやすく、理想のエンジンとはこうあるべきだ、という話と、それに近付くためにはどうすべきか?をレースでの実践経験に基づいたノウハウとして書かれています。
実践といっても資金が潤沢にあるワークスでの話ですので、個人が弄るにおいては到底できない机上の話も多々あります。ただ、そういったものでも方針を見定めるためにはとても有効な話ですし、またそういう理想点に向けて手を加えていくことが技術開発やチューニングにとって最も重要なことなのだ、ということが書いてあります。
サスペンションの仕組みと走行性能
各種構造からアライメント、ジオメトリそのあたりまでを詳しく説明してる本です。大きく分けてストラット、Wウイッシュボーン、マルチリンクといった主要なサス形式のメリット/デメリットがわかりやすく解説してあります。
この本はちょっと理論寄りですが、自分のクルマやライバルの足がどの形式なのかをイメージしながら読むと理解が深まります。アライメントやジオメトリという言葉の意味を知っていれば読めるでしょう。
ロールやノーズダイブ、スクワットといった姿勢変化やフロントの操舵角によってアライメントは変化します。これはサス形式によってどう変化するかが違いますので、そのイメージが掴めるようになります。
そうなればアシのセットアップの方向性を決めやすくなりますので、そういうところまで踏み込みたい方にはいいでしょう。
車はなぜ曲がるか?—限界コーナリングのダイナミクス
これは難しいです。説明しようとしていることが非常に高度で精密ですので、上の本(「サスペンションの仕組みと走行性能」)を読んで納得できない人は辞めた方がいいです。いや、読んでみたけどあたりまえじゃんと思える人にだけ勧めますと言った方が良いくらい高度です。
#高度ですが、ちゃんと根気良く読めば理解できるようには書かれています。
摩擦円の概念とコーナリングダイナミクスの2輪のモデル、この2点を理解していることが必要です。いや、それについてもわかりやすく解説しているのですが、理解していないと何度も立ち返って読むことになり、おそらく挫折するでしょう。
ただ。この本はそれを乗り越えても読む価値はあります。説明の大半は「走りの四角形」と読んでいる図示モデルとそれを使った解説なのですが、これを使うと重量バランス、重心位置や、駆動方式、駆動配分方法などがクルマの挙動にどのように作用するかが非常に理論的に、すっきりと理解できます。
つまり、クルマの基本である重心位置の違い、駆動方式の違いは、走りにどう影響するのか?チューニングでハイグリップタイヤを変えたり、LSDを入れるということは走りをどう変えることなのか?ということが頭で理解できるようになるということです。
私がとても感銘したところは、特に説明の後半になりますが、左右輪での駆動配分(要はLSD)がコーナリングにおいてどのように作用するかとという点です。端的に言えばナゼ上手い人が速いクルマを走らせた時だけコーナー脱出でナナメになりながらもとにかく前に進むことができて、そうでないクルマや、そういうクルマでも上手くない人が運転するとできない理由が頭で理解できます。
また本全体の構成が構築的でわかりやすいつくりです。基本から応用に向かって一歩づつ理論を拡張していきますので、高度な話でもその前までの章を理解していれば理解できるようになっており、わからなくなったらいつでも戻って読み返せば必ず理解できます。(何度もくり返すのはうんざりする作業ではありますが)
というわけで誰にでもおすすめできるものではありませんが、上を見たい方には非常に良い助けになってくれる本でしょう。
クラッシュ—絶望を希望に変える瞬間
リバース—魂の戻る場所
この本は自叙伝です。不謹慎ですがやる気なくしてる人にはいい刺激でしょう。
落ち込んでる人にはいいきっかけになるかもしれません。
私は、事故の前までは太田哲也という人物を、フェラーリでレースしてるちょっとカッコイイ系、実力はどうなのかなー?系レーサーじゃないの?という程度にしか認識していませんでした。(失礼な話ですが)
じゃあ本を読んでその印象が変わっんですかと聞かれると、そうでもなかったりします。もしあの事故がなくて今もレーサーをやっていたらきっとそのままの認識でしょう。
じゃあ、クラッシュした後、過酷な運命と戦っている人だから尊敬したし、感動したんですかと聞かれてもそうでも無い気がします。
読後の印象は、なんかこう「普通」の人な感じです。人生が大きく変わるようなことがあったのに普通でいられるっていうのは尋常じゃないんですけど、文章に感じる印象はとにかく普通の人が書いてる感じですなんです。
文章が普通なんで、共感しやすいというべきでしょうか。作家だとプロの技術で文章を作るから、いろいろと演出が入るんでしょう「大火傷すると人間の心の動きってこんなふうになるんだよすごいだろ?」と思わせているのがどうしても出ます。それは作品としては面白いんだけど、読み手としてはどこか別世界の出来事に感じれるんですね。
この本はそういうウケ狙いがない文章です。洗練されていないので面白いものではないですが、すっと心の中に入ってきます。いつの間にか自分の間合いに入ってきているようなそれは、しかもリアルで身が詰まってるホンモノの体験です。
Posted at 2005/08/26 19:16:04 | |
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dialy | クルマ