
スペイン発の自動車メーカー、セアト。
地元スペインでの普段の足としてはもちろん、欧州ではVWグループの中でもスポーティ路線のポジショニングにて人気のあるブランドですよね。
かくゆう私わんどらもセアトは好きなブランドにて、日本で入手するのにはひと手間掛かるというのがまた憧れに拍車を掛けている気がしています。
さてそんなセアトのラインナップに、Miiというコンパクトカーがあります。
一目瞭然、VW up!の兄弟車として、同じく兄弟車のシュコダシティゴとの同型ラインナップの中では、どちらかというとファッショナブル路線で販売されている車種です(up!がスタンダードと仮定したら、シティゴはコンサバティブで、Miiはファッショナブルの方向づけができるのではと、そのマーケティング展開から想像しています)
時折、欧州のカジュアルファッションブランドとのコラボ車種が登場していますしね。
見た目は殆どup!だし、かつては世界中でこうした"バッジエンジニアリング(ほぼブランドマークの付け替えだけで多チャネルに展開する手法…国内トヨタが未だにやってるあの手法)的なものではあるのですが、きっと欧州の消費者はその微妙なバッジの差に選択をしているのでしょうね。
さて久々のセアトが気になる!は、そんなup!の兄弟車Miiに、電気自動車が登場したという話題です。
その名もMii electric。
そのまんま直球の名称を持つニューモデルは、なんとセアト初の電気自動車なんです。
あれ、up!には"e-up!"という電気自動車版があり、かつては日本でも販売されていた記憶がありますが、同じ兄弟車でも全てが同じというわけではなく、お膝元のup!は電気自動車含めた多彩なモデルラインナップで形成されているのに対し、セアトもシュコダもこれまでEV版を出していなかったんだそう。
今回の満を辞しての登場は、そのe-up!のフェイスリフトをきっかけとして、いよいよグループ会社にもお裾分けされたということになります(ちなみにシュコダシティゴについても、e-iVというシュコダ初の電気自動車を初夏にリリースしています)。

これは欧州の一部の国だけでなく、いよいよあちこちで電気自動車の機運が高まっているという証なのかもしれないと、ちょっと興味を持って調べてみました。
この3兄弟のお膝元である国間(ドイツ、スペイン、チェコ)でのEV販売を取り巻くあれこれをデータで見てみると…。
*イマドキEUマーケットを国別比較するなんてナンセンスかもですが、ここは企画ということで…。
ますは3国のEVの普及度を想定して、マーケットシェアを見てみます。
ドイツ:2.0%
チェコ:0.4%
スペイン:0.9%
やはりEV先進国ドイツに一日の長あり、早くからe-up!を必要とする土壌があるということですね。
(ちなみにトップはスウェーデンの8.0%!)
では、チェコやスペインが低い要因は何かを軸にさらに探ってみましょう。
こちら、HEV(いわゆるハイブリッド)車種のシェアを見てみると…。
ドイツ:2.9%
チェコ:1.7%
スペイン:5.7%
なんと、EVこれからのスペインにおけるHEVの受容度は高い!
ガソリン併用のエコカーなら購買のポテンシャルがあるということなんだと想定します。
ちなみに話はズレますが、2016年頃から始まった欧州でのディーゼル排除の動きにより、ディーゼルモデルのシェアは約50%から2018年には約35%に激減しています(欧州全体値)。
では代替に何が動いたか?
それはガソリン車への回帰だったのです。
具体的には欧州全体でのシェアが、2016年の約47%から2018年には57%とアップしています。
そのおかげか、自動車がもたらすCO2排出量はその2年の間に上昇しているのです(主要因はSUVが売れているから)。
そんな全体像を踏まえると、3カ国の購買実情も見えてきます。
例えば、国によるエコカーインセンティブ(金銭的優遇や減税)は、ドイツやスペインは実施していますが、チェコはやっていません。
要するに、ガソリン車に比べて高価なEVやHEVは敬遠されている可能性があります。
またインフラ(EVの充電スポット)を見ても、ドイツは約27,500基あるのに対し、スペインは約5200基、チェコに至っては約560基しかありません。
国土面積比や道路の総距離比などで見ないとイコールの比較にはなりませんが、EVは国によってはまだまだ遠い存在なのかも知れません。
しかしこうした各国の事情をよそに、VWがEVラインナップ攻勢をかけ、セアトやシュコダという、メイン市場がEV先進国ではないメーカーもこのタイミングで"初EV"を出すのかというと、他にもない"CAFE規制(corporate average fuel efficiency〜企業別平均燃費基準)"の欧州基準が2020年から厳しくなるという事情によるものと考察されます。
モデルごとの燃費性能ではなく、そのメーカーが販売する台数に合わせたCO2排出量平均値が設定され、その基準に達成できないと高額な罰金が科せられるという制度、既に欧州やアメリカでは採用されていますが、今年までは内燃機関モデルだけでもクリアできた基準値が、来年からは"EV専門メーカーでない限りクリアできない"とまで想定される厳しい基準となるとのことなのです。
今年やけに欧州メイクがEV付いてるなぁ…というのは、こんな"2020年対策"が要因のひとつでもあるのかと思いますが、それが今回ピックアップした(本題を忘れかけていた…)Mii electricが遅ればせながらe-up!から暖簾分けを受けたホントの理由なのかも知れません。
今回は何だかモデルよりもマーケットの話になってしまいましたね。
ということで改めてMiiを見てみると、やっぱり見た目はみんなが知ってるup!のスタイリングそのものにて、セアトであることの特徴は前述の"バッジエンジニアリング"による細かなブランド差異がある程度。

折角なんだしもうちょっと変えてブランドごとの特徴を出してもいいのに…とは思うのですが。
EVとしての能力は36.8kWhのバッテリーにて約260kmの走行距離となる、Aセグシティカーにて必要十分なユニットを積んでいるとのこと(兄弟車と同じ)。
さらにはイマドキらしく、”SEAT Connect"によってスマホで運転データの確認や室内機能操作ができちゃうという、実はもうひとつのセアト初の機能が選べるようになっている、新しさが凝縮されたモデルのようです。
そんなセアト初が詰まったスモールカーは、スペインのEV市場を変える大きなきっかけになるかもしれない楽しみな存在。
ファッショナブルで軽快、そしてエココンシャスという心地よい要素が揃っているだけに、きっと人気者になるのかと想像を膨らませつつ、いつか欧州を旅した際にはぜひ触れてみたい、気になるクルマです。
*文中データはMaking the Transition to Zero-Emission Mobility - 2019 progress report by ACEA、その他新聞記事などより引用しました。