
ポルシェというと「うるさい、壊れる、維持費が高い、乗り心地が悪い」というのが世間で信じられているその印象だと思いますが、ポルシェを実際に3台乗ってきたぼくの印象はその真逆で「静か、壊れない、維持費が安い、乗り心地がいい」というもの。
それは国産サルーンに対しても勝るものと考えており、とにかく昨今のポルシェはお金がかからず(改造しない限り)、乗り心地の良い車です。
始動方式は従来と同じで車の形をしたキーをステアリング脇のキーホールに差し込み、キーをひねってエンジンを始動。
始動時の音は幾分マイルドになったようで、今までのような「いかにも水平対向」という音ではなく、腹にズドンとくる重低音。
ギアをDに入れて車をスタートさせますが、クリープで滑り出す感じは今までの911と変わらないように思います。
歩道から車道に出る段差を越えるときの感覚もいくぶんマイルドになったように感じられ、あわせてアイドリングストップからのエンジン再始動においてもより早くより静かに、より振動が少なくなっているようですね(このあたりは主観であり、実際そうなっているかどうかは不明)。
始動やアイドリング、段差を越える際の各部の動きや音についてはカドが取れ、雑味も無くなって非常にピュアな感じも。
いかにも精密機械が動いている、という印象ですね。
こういったところを考えると新しい911はより快適に、より反応が早くなったように思われ、GT的な性格を強めているとも言えるかもしれません。
実際に乗ってみるとその印象はますます強まり、ターボエンジンのおかげで得た太いトルクでより乗りやすくなっています。
街中を走っていてもすぐに7速へシフトアップしますが(燃費確保のため)、高いギアで走っている時でも追い越しが非常に容易。
たとえば急に前の車が車線変更をしてきてこちらも急に避けなくてはならない際でも、アクセルを踏むとぐっと加速するので非常に扱いやすいと感じます。
991前期だと普通に走っていて1700回転くらいでPDKのプログラムが勝手にシフトアップしていたように記憶していますが、新しいターボエンジン搭載モデルだと1500回転くらいでシフトアップする模様。
自然吸気モデルだとこういった際に一瞬車の動きが遅れる印象があり(常に勝手に高いギアに入っており、回転数が低いのでトルクが出ていない)、回転数が上がるのを待つかシフトダウンする必要があったのですが、むしろターボエンジンのほうが回転数が上がるラグを待つ必要がなく「大排気量エンジンのように」感じるのは非常に不思議。
正直なところターボエンジンのほうがNAっぽく、NAのほうがターボラグがあるかのように感じさせられるのはポルシェマジックとも言えるもので、まさに「最新のポルシェは最良のポルシェ」。
最新モデルに乗ると「やはりこちらのほうがいい」と思わせるポルシェの魔法ですね。
思いっきりアクセルを踏んでみるとわずかにノーズがリフトする感じがありますが、これはずいぶんと最新モデルでは抑えられているようです。
同時に加速時にステアリングがふわふわする印象も減っており、接地感が高まっていると感じます。
なお加速感も今までのNAエンジン同様で、ターボエンジンといえども「911ターボ」のような「加給キタ」というようなドカンという加速ではなく、ポルシェらしい息の長い加速。
上述の追い抜き時のトルク感ではないですが、加速についても「大排気量NA」のような感じで、これがダウンサイジングされたターボエンジンだとは誰も気づくまいと思ったりします。
ステアリングに関してはもしかするとちょっと軽くなったか?という感じですが、このあたりは不明(ただしVWアウディグループにおいて、モデルチェンジのたびにいずれの車もステアリングが軽くなっている傾向があるのは事実)。
コーナリング性能やブレーキ性能については不満があるはずもなく、試乗中まったく違和感や不安を感じなかったのは特筆すべき点。
なんどか記載しているとおり、ポルシェはなんでも「普通に」こなすので逆に何も気づかないという側面があります。
たとえば「わざとスポーティーな」雰囲気を出すために多くの車は一部ギアレシオをクイックにして加速を強めたり(しかし最高速は落ちる)、シートを硬くしたり、排気音を大きくしたり(ときには室内にスピーカーで音を流したり)、足回りを固めたり、ステアリングホイールを太くしたり、ステアリングレシオをクイックにしたり、ブレーキをガツンと効くようにしたりします。
そのほうが「ちょっと乗っただけ」では「おおスゲー、さすがスポーツカー」と感じるわけですね。
しかしポルシェではそれと逆に息の長い加速、柔らかく快適なシート、以外とスローなステアリングレシオ、マイルドな排気音、柔らかいサスペンション、ゆっくり効くブレーキ、というように一部のスポーティーカーとは真逆。
しかも年々その傾向が強くなっているのも特徴で、そのためにちょっと乗っただけだったりすると、「あまりに普通」に感じると思うのですね。なんだ、ポルシェはAMGやMよりも普通の車で遅いじゃないか、と。
しかしその普通さがポルシェの重要さであり、どの速度域においてもその「普通さ」が失われないのはポルシェだけだとぼくは考えています。
恐ろしい速度域になっていても「普通」に走れるのがどれだけ驚異的なことなのかを教えてくれる車がポルシェだとぼくは思うのですね。
ただし、その「普通さ」が祟ってか派手さが感じられず、そこに不満を感じる人が多いのも事実で、その普通さを魅力だと感じられない人がいるのもまた事実。
そのために近年ポルシェでは「PASM」「スポーツクロノ」を導入したり、スポーツエキゾーストの設定も行っていると考えています。
そして、ストック状態のポルシェがどんどん快適になるのにあわせ、そういったオプションとストック状態との乖離が大きくなっている(ノーマルモードとスポーツモードとの差が大きく、性格の差を楽しめるようになってきている)ようですね。
スポーツエキゾーストに関しても、初期はあまり「付けても変わらない」といった印象だったのですが、最近のものはけっこう音が変わるので、ポルシェとしてもそのあたり意識していると考えられます。
以前は「性能に関係のないことはしない」といった雰囲気だったポルシェが、最近は演出にもこだわるようになってきた、ということなのかもしれません。
なお「演出」といえば「スポーツ・プラス」モードで、これにするとマイルドになった911の性格が激変。
このモードに入れると、まずほとんどの人が「おお」と驚くかと思うほど(実際にぼくは声に出して驚いた)サウンドが大きく重くなり、エンジン回転数やレスポンスが急変。
サウンドに関しては耳をつんざく大音量というわけではないですが、容赦なく鼓膜を圧迫するほどの重低音。
普通に走っていると1500回転付近にとどまる回転数が一気に上がりますが、スポーツモードでは許容回転数が上がり、3000回転以上の気持ち良さは格別。
また回転数が上がると気づくのが「回転落ちの速さ」。
よくポルシェのタコメーターはチューニングしてある(それだけ針の動きが尋常でないほど速い)と言われますが、回転数を引っ張ってシフトチェンジした際の回転落ち(タコメーターの針の動き)がやたら速く、機械式クロノグラフの針が「バチン!」と戻るくらいの勢いで針が落ちてきます。
たぶん、今回のターボエンジン搭載991における針の動きは「歴代最速」なんじゃないかと思えるほど。
とにかく乗りやすく快適になり、ターボエンジン化によるデメリットはまず無いと考えられますが、マイルドさに満足できない人にもドライビングモードの変更という選択肢があり、ますますオールマイティになったなあ、という印象。