
当然ながら仕上げは素晴らしく、Lパッケージならではのレザー仕上げも高級感あふれる仕上がりに。
部分的に使用されるアルカンターラもスポーティーさ、高級さの両方を演出するのに一役買っているようです。
なおベルトラインが高くセンターコンソールも大きいので「囲まれ感」が強い印象ですが、これもレクサスの客層を意識し、ロングノーズとともに「古典的スポーツカー」を感じさせる仕様としたのかもしれません。
ただしクラシカルなだけではなくあちこちに先進装備が見られ、液晶表示のメーターパネルや、モニターが埋め込まれたように見えるダッシュボードのデザインは秀逸。
ドアハンドルも立体的で金属を思わせる加工が施され、何かのオブジェであるかのような斬新さ(しかもドア内張りから直接生えるという、他では見られない構造)。
ダッシュボードは以外と低く前方の視認性にも優れ、Aピラーも細くドアミラーも視界を遮らない位置にあるので全体的な視界は良好。
斜め後方や真後ろにについてもまず問題の無いレベルで、運転時の司会の確保に気を使うことはなさそうです。
内装や外装ともに言えることですが、クラシカルとモダンを融合させた印象があり、これは現時点でLC500特有のデザインとも考えられます(他のレクサス車とはかなり異なる。ただし新型LSもこの流れを汲むと思われる)。
従来の客層にも訴求でき、しかし新しい客層にも訴求できるようにという配慮が背景にあると思われますが、これらのバランスが非常に良いようですね。
なおLC500は大変な人気ですが高額な車なので試乗車に余裕はなく(生産も逼迫しているのかもしれない)、試乗スケジュールはかなりタイト。
そのため試乗時には車をゆっくりと見る時間はなく、しかしこれは予め予想されていた事態であるようで、そのため各レクサスでは事前に顧客を招いてLC500をゆっくり見ておく機会を設けるなど戦略的な動きも見られます。
そんなわけで走り出してから細部を見ることとし、まずはブレーキペダルを踏んでプッシュボタンを押しエンジンスタート。
この時点では(ハイブリッドなので)エンジンは起動しておらず、電気系統が起動するのみ。
メーターはフルデジタルで、奇しくもアストンマーティンDB11と似たレイアウト。
ドライブモードをスポーツに変更するとレッド基調の表示に変わるのも似ています。
ジョイスティック形状のセレクターレバーを右に倒してDレンジに入れて車をスタートさせますが、軽いクリープを伴い車はスルスルと発進。
ちょっとアクセルを踏むとそこでガソリンエンジンが目覚めるものの、振動や音がかなり小さく、走行中のエンジン始動/停止はタコメーターの針を見ていないとわからないほど。
ディーラーから出る段差を越える際にもはっきりと(レクサスがLFA以上と謳う)ボディ剛性の高さが感じられ、21インチサイズという大きなタイヤ/ホイールにも関わらず非常に快適。
足回りは相当に固く締め上げられているようで、ストロークもかなり短め。
それでもメルセデスAMGやBMW Mシリーズのような突き上げ感がないのがLC500の足回りですが、これまでのレクサスというと、「柔らかいか硬いか」の両極端で、こう言った「硬いのにしなやかな」、異なる要素を両立させた足回りはなかったように思います。
例えば無理にスポーティー感を出そうとして足回りを固めると乗り心地が犠牲になり、乗り心地を優先するとコーナリング時に腰砕けになるといった感じが多かったと認識していますが、LC500はその両方(のいい部分だけ)を兼ね備えていると言えますね。
加えて横方向からの入力に対して弱いのがレクサスの特徴ではありましたが、このレクサスLC500はその辺り非常に高い剛性を持っており、これはホイールハウスの内側を覗くと巨大なリンクを持つアッパーアーム、(オフローダー並みの)頑強なストラットを見ることができ、「なるほどな」と納得できるところ。
一昔前だとスポーツカーの足回りは「ただただ固める」のが主流で、その後になると「初期のあたりを柔らかく設定し、ダンピングを強めて剛性を出す」方向になっており、しかしレクサスLC500は「その先」を行っていると考えても良さそうです。
とにかくボディ剛性の高さと足回りのしなやかさには驚くしかなく、ぼくの経験上だとこう言った足回りを持つのはポルシェくらいしか思いつかず、ただただ感心するばかりです。
ピッチングやロールも高いレベルでコントロールされており、加減速やコーナリング時の姿勢変化は最小限。
ブレーキは非常に利きが良く、効き始めから停止まで安定した制動力を発揮し、かつコントロールが容易なタッチを持っており、特に街中では使いやすく、これも乗り心地の良さに貢献していると言って良いでしょう。
もちろんガツンとブレーキを踏んでもノーズダイブはほぼ感じられず、車体全体がぐっと沈む感じですね。
加速性能については「0-100キロ加速”4.7秒”」が示す通りですが、「普通に速い」レベル。
この数字はポルシェ718ボクスターSと同等で、まさに体感上もそんな印象であり、びっくりするほど速くはないものの「コントロールするにはちょうどいい」速さだと思います。
いわゆる「シャシーが勝る」車だと考えるとわかりやすく、気を使わずに扱え楽しめるシャシーとパワーとのバランスを持っており、結構な速度やアクセル開度でカーブに突っ込んでも「まず不安例な挙動に陥ることはない」セッティング、そしてポテンシャル。
「これ以上はヤバいんじゃないか」と思う速度域でも難なくカーブを曲がり、そこからさらにアクセルを踏み込んでもテールが流れる気配はなく、相当に実力は高い、と思います。
これにはおそらく良くできた電子制御も貢献していると思われますが、ドライブモードはカスタム、エコ、コンフォート、ノーマル、スポーツS、スポーツS+の六つ。
なお、このドライブモードはアクセルペダルに対するレスポンスとシフトプログラム、サスペンション、エキゾーストシステムなどが統合されるもので、アウディやポルシェ、メルセデス・ベンツ、BMWなどと同じようなもの。
ただしレクサスLC500hの場合はその車の性格、および元もとのエンジンパワーの関係もあり(もちろん出力が大きい方が各モード間での差異も大きくなる)、そこまで「劇的に」変化はなく、エキゾーストサウンドに関しても大きな変化はないように感じます。
パワー感や味付けに関してはガソリン5リッターエンジン搭載のLC500だとまた状況が違うと思われ(こちらの方がかなり凶暴だと思う)、さらにはこれから登場するであろう「F」モデルが違う世界を見せてくれるのでしょうね。
総合して考えると、高い質感の内装と外装を持ち、誰もが安心して走らせることができる許容範囲の広いシャシーや運転支援デバイスを持っていて、スタイルに優れ、高級素材がふんだんに用いられて、さらにはハイブリッドで経済性が高い、という「いいことづくめ」の車と言えます。
しかも「レクサス」という高いブランドバリューを誇り、あちこちに日本のメーカーらしい「おもてなし精神」の見える車となれば、向かうところ敵なしなのかもしれません。
価格は1350万円とかなり高価で、オプションをつけると乗り出しでは1500万円近くにはなりますが、それでも「安い」と思わせる車であることは間違いない、と考えています。
試乗前に抱いていた印象だともっとハードな車を予想していましたが、実際は非常にしなやかで優雅な車であり、「購入するならば」と考えていた仕様、グレードについてはラグジュアリー路線に見直しの必要があると感じるほど(この車は優雅に乗るのが似合っている)。
加えて異なる要素を高い次元でミックスさせた車だと考えており、足回りだと強靭さとしなやかさ、外観だとアグレッシブさと優雅さ、内装では先進性と伝統を兼ね備え、誰がどのように乗ってもまず期待を裏切らない(期待に応えてくれる)車だと言えそうです。
簡潔に言うならば「知的で優しい細マッチョ」という感じで、アメリカンマッスルのように筋肉モリモリでもなく、欧州スポーツカーのように敷居も高くはなく、イタリア製スポーツカーのように何かを犠牲にすることもない、という車ですね。
なお最低地上高は14センチ、最小回転半径は5.4メートル。
これもスポーツカーやこのサイズの車としては異例に「使い勝手が良く」、まさに日常的に乗れるスポーツカーだと言えます。
おそらく5リッターエンジン搭載モデルはLC500hとは全く異なる性格を持つと考えられますが、かなりパンチの効いたスポーティーな性質を持つものと思われ、こちらも機会があれば一度試乗をしてみたいと思います。