
例えていうならば、アナログが坂道なら、デジタルは階段、というのを聞いたことがあります。
上り坂に明確な角は見られませんが、登り階段には明確な角があります。
ただ、極端な話ですが階段も極端に一段を細かくしていくと、最終的には目に見えないほど小さな角になり、あたかも坂道に見えていくはずです。
これはデジタルカメラの画素数とも同じような感覚の話で、画素数が上がれば同じ面積の中で色の受け取り方がどんどん細かくなっていき、最初のデジカメだとあたかもプレステの鉄拳1くらいだったポリゴン感が強いものが、最終的には実際の写真の人間か差が付かないものまで細かくなる理論になるはずです。
デジカメの場合、画素数を上げると一個一個の画素の能力が落ちてしまうので、バランスが大変だったようですが、今ではそんな議論も無くなり、フィルムの実効画素数とデジカメの受像体はどこまで近くなれるんだ!みたいな話も聞かなくなりました。そもそも、デジカメがカメラになりましたもんね。凄い進化です。
クルマの場合はどうなのか。
過去、コンピューターが一切ないクルマは、アクセルはワイヤーがスロットルに繋がっていて、それがバラフライなどを物理的に開閉していたり、ステアリングは当然ですがシャフトと歯車の集合体。ブレーキだって倍力装置が無ければペダルのロッドがブレーキパッドを押し付けるだけ。
アナログであり、リニアであり、自分の操作と動的感触に実感が伴うわけです。リニアでない場合は、構造体を丈夫にしたり、設計しなおす事で改善がみられるわけです。
昔のクルマが工作技術の優秀な国から出てきたのは、そういう事があると思います。プジョーのコーヒーミルは優秀ですから、優秀な歯車がある事が当時のクルマを成立させることにどれほどのアドバンテージがあったのか、今ではちょっと想像が付き来ませんが、確実にあったのでしょう。
前置きが長くなりましたが、エレクトリックマカンはポルシェが出したバッテリーEVの新型マカンです。先代はICEモデルとして併売されるようですが、それもいつまでなのか解りません。このプランは多分エレクトリックマカンの開発が始まった当初にはなかったことだと思います。
開発当初はきっとポルシェも「リミテッドモデル以外は電動化またはフル電動でいこう」と思っていたはずです。ところが、カイエンにV8エンジンの採用が広がったり、718にしたってGTSが途中で4.0が登場したり、なんか違う雰囲気が出ているわけで、マカンにしても途中で作戦変更があったのは間違いなさそうです。
とはいえ、この新しいマカン、基本的に一部BEVユーザーの「BEVこそ正義」みたいな意見には賛同できないし、未だBEVは懐疑性が高いというのがボクの持論なのですが、、、、これは良い。
それまでのICEモデルを消し去る覚悟で作ったであろうエレクトリックマカンは、自動車としての理想の動き方を、しかも21世紀における最良を実現したような乗り物で、端的に素晴らしいものでした。
この車にはどこもアナログ要素がなくて、基本的に全てにおいてデジタルの制御しか存在しないはずですが、実感としてはアナログにほど近いというか、デジタルの違和感がない。
元々、タイカンの時点で、BEVにありがちな「どっかん加速」とか「回生急減速」みたいなものが無かったのですが、それを新しいマカンではさらに進ませていて、操る人間に実感を与え、違和感の先にある素直な操作感まで実現しているのが驚きです。
試乗車はマカン4Sで、エアサスとリアステアが付いたモデルでした。
ステアリングフィールはポルシェそのもの、そしてリアステアが積極的に作動するので鋭い。ところが、その動作に角が無い。
この手の最低の部類は、個人的にはE60型のBMW5シリーズで、初期のステアリング系は最低のフィーリングと違和感しかない切れ方に終始していました。ステアバイワイアのド初期はこれに限らず最低に実感がないものばかりで、そういえば現行スカイラインの初期モノも最悪でした。
デジタル性能は、「階段の一段」がデカければデカいほどに人間の感覚にはつらく、細かくなるごとに最終的には坂道のようにフィットしていくことになると思うのですが、エレクトリックマカンはもはや坂道レベルといって良いほどの、デジタルの根本性能が上がっているように思えました。
そのおかげで、搭載しているものは当代最新の足回りとステアリングなのに、違和感なく、こう曲がって欲しいな、とか、おとなしく曲がりたいな、とか、ここは思いっきりステアリングゲイン出したいな、というのが思った通りに出来る。
加えて加減速はタイカンの時点でナチュラルでしたが、さらに角がなくなり、とにかく非線形にリニアで気持ちいい。変な話、なんだこれ速くないじゃん、と初期は思えるくらいの自然さがあります。
逆を言えばBEVの不自然さに共感を覚えている場合、これ面白くないか、またはずっとスポーツプラスモードで爆走することになりそうです。
そう、これまで電気自動車は加速凄い!とか、ドドンパみたい!ってのは、違和感でしかないってのが解ったのです。ある種の非日常であって、異常事態をボルボのEVとかテスラのモデルSとか、あれはそういう事だったのか・・・と。
そして、これまでアナログにこそ正義があると思っていたリニアリティに対して、ついにフルデジタルが追い付いてきた・・・という驚き。ミラーレス一眼なんぞ違和感しかない、と思っていたのがソニーの最新ミラーレスで「もうこれじゃ勝てない」と思ったときと同じ感覚。
挙句、BEVの利点を生かしてトルクベクターするし、重量物の配置がより良いのかエアサスのおかげか、視点が高いタイカンか、それ以上のハンドリングを披露するので、驚きでしかないのです。
当然乗り心地も良いです。
一番ベーシックモデルは1000万円かろうじて切っていますが、エアサスやリアステアはあった方が良さそうなので、実質1200万、パワーが欲しい場合4Sなので1400万、というのが現実的な値段になるので、簡単に買えるものじゃないのが幸い中の不幸みたいな感じです。
ポルシェがICEを捨てる覚悟で作ったそれは、さすがと言わざる得ないものでした。うーん、これで見た目がもう少し好みだったら、、、
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2025/03/02 10:51:23