
https://alpina.co.jp/about/
写真はニコルの青山ショールーム
BMWアルピナ、人によってはアルピナと一言で言いますが、法人名はアルピナ・ブルカルト・ボーヘンジーペン有限合資会社らしいですが、元は事務器具メーカーと書いてあります。ブルカルト氏は二代目経営者のようで、自分で作ったBMW1500用のウェーバーツインキャブキットがバカ売れしたのが事の発端のようです。
1965年前後にBMWより公式チューナーとして認められ、そこから約10年間は欧州のツーリングカー選手権などで圧倒的な勝利を重ねたようです。ライバルが完全なメーカーのワークスだったのを考えると、それは凄い事です。
他のBMWチューナーが数あれど、今となってはほぼ消滅しているのは、これだけの戦績があるところがないからなんだろう、と思っています。
1977年を最後にレースから一時撤退(E30M3で一時復活し、ここ最近ではB6GT3で復帰)して、それまではほぼほぼワンオフ的なチューニングカー販売をしていた体制から本格的なチューニングカーメーカーに進出。40年以上前にネット300馬力を発揮し、250kmhで巡行出来る恐ろしいクルマ、初代B7ターボはここで登場しています。
80年代にドイツが国としてアルピナ社をカーメーカーに認定し、年産1000台とかそこらの小規模ながら世界が認めるカーメーカーになりました。この頃は、ボディ骨格とエンジンの一部などをBMWから仕入れて、あとは徹底的にハンドメイドしていたので、確かにそりゃメーカーと言ってもおかしくないな、という感じがします。
B7ターボに引き続き、E34型のB10ビターボも伝説的です。
なんせ、90年代初頭に370馬力で291kmh巡航可能という鬼のようなスペックですから、、、しかも不快じゃない乗り心地。圧倒的な性能と通常のBMW以上に快適な乗り味の両立、これこそがアルピナマジックそのものなのです。ちなみに、これと戦えるセダン、他に一台はあって、それはオペル・オメガ3000・24vのロータスチューンであるオメガカールトンでした。
個人的な衝撃は、前にも書いたE38型の7シリーズに存在した、B12・6.0でした。
750のシングルカム12気筒を6リッター化、NAながら440馬力という高馬力に7シリーズとは思えないアピアランス、、、完全なる非合法な世界へ圧倒的な快適性を以て突入していく様に、只管に驚愕。
乗った事は無いですが、E36にV8を突っ込んだB8も過激モデルでしたね。とにかく、伝説と圧倒的な性能に裏打ちされたアンダーステートメントな立ち位置に、このメーカーから興味が薄れることは免許を取って以降皆無でした。
そんなアルピナ、いつの間にかSUVも出して、XB7に関してはブルカルト氏は反対、息子のアンドレアスは賛成、という噂話が出たり。ミシュランがアルピナスペックを作り続けていたのがG20系前後からピレリ化されたり。B8グランクーペなんかはお馴染みのバッテン打刻+アルピナ打刻から、単一打刻に。
なんだか怪しい?と思ったら2025年で車両製造から完全撤退、、、ああ、、、何てことだ、、、と思ったのはつい最近の話です。
ただ、最近のアルピナは正直前ほど欲しいと思える内容では無かったのも事実で、例えばE60の5シリーズだと、標準はアクティブステア+ノンターボ+ランフラ+AT、Mがノンアクティブ+ノンターボ・ラジアル+SMG、アルピナはノンアクティブ+スーパーチャージ+ラジアルミシュラン+スウィッチトロニックと違いがありました。
これがG30系だと、、、あんまり変わらないんですよね。F10にしても差異はE60やE39ほどではない。
何となくですが、時代が変わってアルピナが出来ることが減ってしまった、そして標準モデルのBMWも電子機構で上級モデルになるとアルピナとの圧倒的差異が生れずらい状況であることが、辛いのかなぁとボクは感じていました。
なので、商標の譲渡、というのは何となく納得がいく感じがしました。
そう、商標の譲渡なので、アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン社は残るんです。全株譲渡だと消滅ですが、商標のみの譲渡なので、アルピナ社は今後もビジネスをするそうです。
なんでも、クラシックレストア事業や、BMWに限らない車両開発のコンサルタントなどをするそうです。ワイン事業がわりと収支面の底支えをしているとも言われており、会社自体は次のビジョンを前向きにとらえて進んでいると聞いてます。
商標を譲られたBMWとしては、ロールスと標準車の間に入れるラグジュアリーブランドとしてアルピナを使うようです。Sクラスマイバッハと当てる感じでしょうか。
圧倒的業績に終焉を感じなくもないですが、商標が買われて残り、法人もきちんと残る、それを見届けてブルカルト氏は人生を全うし無くなったわけですが、、、なんてストーリーなんだ!!と驚きを覚えてしまいます。
若い頃、レースカーで席巻し、その業績を元に孤高のブランドを育て、自分が目の黒いうちに持ちうる財産をきちんと承継する・・・こんな経営はそうそう出来ることではないです。
例えば、今も有名なロールス・ロイス、創業者の一人は自己破産していたりしますし、マセラティ兄弟にしてもランチア家にしても創業家の承継は上手く行きませんでした。
アルピナほど美しく孤高を全うしたメーカーと経営者は他に類を見ない気がします。
さて、ここからは自分の車、、、
B10V8はE39型の540iベースの車です。M5がM62ベースの、8連電子制御スロットル搭載5リッターS62エンジンを搭載したマニュアル車だったのを考えると、B10は言ってみれば540ハイラインベースの車です。
5速ATをアルピナのお家芸である「アルピナスウィッチトロニック」化。ステアリングから手を離さずシフトできるATのハシリです。このミッション、それだけでないのはシフトチェンジや巡航時にロックアップクラッチを多用し、ダイレクト感や燃費を最大限向上させる嗜好があるわけでして、これは凄い。
なんせ、90年代半ばにやったわけですが、これ他のメーカーが目を付けるのは例えばレクサスだとIS-Fまで待たないとなりません。
エンジンは先代のE34が途中から搭載した4.0・4.6リッターのアルピナオリジナルV8エンジンを搭載。調べてみると、アルピナのノンターボV8(M60/62系)はどうやらV8sまで入れると5種類あるようで、340馬力、347馬力、355馬力、370馬力、、、となんだか細かく色々あるようです。
まぁ、、、手作りだし、、、よく分からん。蛇足ですが、エンジンカバーのプレートは120%脱落します、笑。うちのは治ってます。
そこに足回りがザックス製ダンパーにアイバッハスプリング。徹底的に公差を詰めた設計はここにも波及しており、最高巡航速度279kmhを軽く実証しつつ、快適性が標準車以上というアルピナワールドはこの足回りから来るものがデカいです。
価格は年式にもよりますが大体1270万円前後。これに各種オプション(色、ハンドル位置、あと事細かな内装の細工、シート内容、サンルーフの有り無し、さらに言えば日本仕様に無い二重ガラスなど、、、個体によっては1500万円くらいのもあったはず)で唯一無二の個体が仕上がるわけです。
ちなみに、ライバル?であるE39型のM5は確か1350万円だったか、あれにもダッシュ革張りOPとかあって、実はその後のV10積んだM5より高い車でした。そりゃ売れないわ、、、マニュアルだし(その後よりも遥かに孤高です)。
内容を考えると安いんじゃない?って今なら思えるんですが、当時は雲の上の何かでした。525iが500万円台だったし。あれでさえ、例えば当時の日本車の同クラスと比べると何ていい車なんだ・・・と思ったもんです。
で、乗ってみての感想、、、
いや、凄い昔に右ハンドルの青いV8は乗った事あったんですが、確かアレ後期型の4.6だったんですが、乗り心地良いなぁしか覚えてない。540iは前期型98モデルに乗った事があり、あれはなんだかモッサリしているなぁ・・・と思ったくらいで、、、
あれから随分経って今乗ってみて、さてB10どんななのよ、と思ったのですが、これは不思議。
記憶上の標準540iに近い、なんだか530i何かと比べてスパンと行かない感じ、これは実はE39のそもそもに起因するものが原因で、E39は4・6気筒がスタリングがラックアンドピニオンなのですが8気筒車はE38の740i系が使うボールナット機構を採用しています。
なので、なんだかネットリスッキリというか、非常に独特な、メルセデスのそれとも違う味わいがあります。
とはいえ、前期540iが16インチのタイヤに対してアルピナは18インチの40・35タイヤですから、切っていくとこれが実にイイ。少な目のロール、標準車以上に正確なキレ、まさにスポーツツアラーとして世界最高の実力を未だに有する事に気が付きます。
コーナーをシャカリキに攻めるのは得手じゃない、というかそれ面白くないよ、というもんなんですが、でも中速コーナーをぐっと腰を沈めてハイスピードで回っていくことに快感を覚えてしまう、そんな感じです。
直線に関しては、これが一番驚き。
メルセデスより矢のように進みます。
いや、これボールナットのステアリングギアボックスも作用しているとは思うのですが、他のアルピナオーナー氏と話していて原因はこれじゃない?と言うのが、エアロパーツです。
昔、E24のM6はハイスピード怖い、と聞いたのですが、それより派手なエアロパーツのB7は怖くない、という話がありまして。もしかするとアルピナはレースで鍛えた技術の中に、空力というのがデカいファクターとしてある気がします。
B10V8のパーツは普通の540に上からぺちょっと?付けた今となっては地味なフロントスポイラーに、トランクに乗ったスポイラーなのですが、これ意外に効いている?足回りのトーイン数値とか見ても直進性重視とは言えない感じなので、これエアロかもなぁ・・・と。B10でも3.2とか3.3の直6モデルだとまた違うのかも知れません。
そういえば、レースで鍛えた、という部分に関して言えば、乗り心地もある気がします。
先代のM3がニュルアタックをする時、足回りはハードじゃなくてコンフォートだったことがあるようです。ツーリングカーのレースだと、いたずらに足を固めることが良くない事もあるようで、もしかするとレースで勝つ事が今あるアルピナの独特な足回りのセッティングに関与している気がします。
よく、柔らかいとか、意外に傾く、とか言われることがあるのですが、それは相当誤解というか、一体どんな運転するんだ?と思う事ありますね。スペック自体はそんなソフトじゃないんですよね、シート見てみると。たまにアルピナの足を変えている個体ありますが、、、何してんだか、、、と思っちゃいます。
公道における最高を見つめた結果がこれ、なんでしょう。
あと、最後に全てをまとめ上げる為の技術の結晶は出来るだけ公差を無くす、でしょう。
これまで書いてきたことに、もし標準BMWの公差をあてはめたら、何もかもが崩れてしまう気がします。公差を極限まで減らす(標準BMWの100分の1が最低目標で、場合によっては1000分の1だとか)ことが最高を実現する最後のキモなのでしょう。
まぁ、、、それが今後出来なくなるから、やめたのかな、、、とも思えるのですが。なんせ、E65辺りのアルピナ、足回りが意外なことに標準車のEDCベースでさほど差異が無い(確かプログラムとスプリングだけ違う)、なんて感じでしたし。
奇跡的にうちの個体は、多少の時間による劣化あれど、それを体感できるわけで、、、、この全てをどう維持するか、、、これはDB9以上のストーリーになる、そう感じます。
B12のような12気筒という輝きや、B7やB10ビターボのようなカリスマがあるわけではないのですが、5シリーズという3とも7違うポジションのクルマがアルピナを表現している様は実にいいものです。
さて、まずは生まれたであろう姿と微妙に違う場所があるので、そこからですかね。なんかしっくりきますね、アルピナは。