●終わりの始まり
代車で距離浅の2008年式ヴィッツを借りたので記録に残したい。
「21世紀My car」のヴィッツは1999年にNBC-I(ニューベーシックカー)として世に出た新世代Bセグメントハッチバックである。
それまで陳腐化してしまっていたスターレット・ターセル・コルサ・カローラIIを一気に統合して二回り新しい思想を取り入れた渾身の傑作だとティーンエイジャーだった私は心酔した。
ディーラーで展示車を見たり乗ったりしているうちに気に入ってしまい、「いつか2ndカーとしてUユーロスポーツエディション・ペールローズバージョン(長い)に乗りたい!」とまで思うようになっていた。
実際に2010年~2011年まで色違いながら
Uユーロスポーツエディションを所有した。既に旧型のヴィッツだったが、私は大いに気に入って過走行ペースで共に暮らした。
当時は1992年デビューで既に旧くなりつつあったものの完成度の高いマーチと、質実剛健過ぎて華がないとされたロゴが競合であり、デミオは少しステーションワゴン寄りのキャラクターで廉売を続けていた。
欧州人スタイリストの手による凝縮感のあるフォルムやアップライトな新世代パッケージとVVT-iやイータビームサスに見られる新技術の大衆化によって当時は頭一つ抜けた新しい車に感じられた。
1Lでスタートしたヴィッツは1.3Lを追加し、バリエーションを拡大した。ファンカーゴやプラッツのようなボディバリエーション違いも追加して
世界的にもトヨタのプレゼンス向上に寄与した。
一方で国内では2000年に「思い立ったが吉日生活」のホンダフィットが登場。低価格なBセグハッチバックでありながらツインスパークによって燃焼を改善し、CVTのワイドレンジで23km/Lという低燃費と助手席に燃料タンクを配置することでRrにフラットな低床フロアを実現したことで空前のヒットを記録した。
当初トヨタは「フィットの競合はファンカーゴであり、荷室容積で勝る」などと意味の分からないことを言っていた。ヴィッツは正統な欧風リッターカーだったが、フィットの持つ高性能とユーティリティという飛び道具の面白さに負けてしまった。
結局、高級車からのダウンサイザー向けのイストの最廉価仕様の価格をフィットと揃えるという奇策にでたりして複数の派生車で包囲したが、ヴィッツも2002年のマイナーチェンジで新開発E/Gに変更し、更にCVTを採用するなどして10・15モードで23.5km/Lを達成、のちに追加されたアイドルストップ仕様は25.5km/Lとして対抗した。
今回試乗したヴィッツは2005年にデビューした2世代目のマイナーチェンジ版である。「水と、空気と、ヴィッツ。」の広告コピーからはヴィッツが人々の生活に無くてはならないものだ!という自負が感じられる。
ボディサイズはBセグサイズながら全面的に拡大され車幅は小型車枠いっぱいになった。革新的だった初代のP/Fを流用するかと思いきや、新開発のP/Fを採用してきたことには驚いた。それだけ当時のBセグメントは各社がしのぎを削っていたことが想像される。
ホイールベースが90mm延長されつつ前席ヒップポイントを590mm(先代比+15mm)としてアップライトに座らせて後席との感覚を880mm(先代比+45mm)とカローラ並を確保。
少し齧歯類を思わせる丸っこいスタイリングは恐らく歩行者保護性能やチッピング性能、或いは欧州で厳格化されたダメージャー(修理費用低減)など初代ヴィッツでは未対応だった性能への配慮から産まれたものだった。
メカニズム面の大きなニュースはベーシックな1.0L仕様が新開発の3気筒になったことである。シリンダー数を削減するメリットは大きい。例えば摩擦損失が小さく、冷却損失が減って熱効率も有利だ。さらに部品点数を減らしてコスト的に有利なだけでなく、E/G幅が狭くなることでタイヤ切れ角を確保できて小回り性能が上がり市街地での取り回しにも有利となる。開発陣も「燃費とトルクで3気筒に決めた」と発言していた。
他にも先代で追加された直4 1.3Lと直4 1.5Lも含め、3つのE/Gと2つの駆動方式、3種類の変速機というワイドバリエーションとなった。(更に海外向けにはディーゼル車もあった)
商品としての立ち位置は基本的に初代を引き継いだ。先代では6~7割が女性ユーザーだったため、ターゲットした女性ウケは良かったものの男性ユーザー、特にダウンサイザーにとっては少々丸過ぎると受け止められたようで、トヨタが期待したほど人気が得られなかったとみてマイナーチェンジでは少々シャープさを取り戻し、改良の度に燃費性能を磨いていった。
運転してみると、1.0Lとは思えない力強い出足や常用域のトルクフルな走りに満足出来た一方で、直3E/G由来の強烈な振動は、明らかに精彩を欠いていた。フロアもステアリングも揺れて揺れて今心が何も信じられないまま・・・という状況だった。
基本的には先代よりクオリティアップし、先代のネガに対する声に応えた点も多数見受けられ、どちらかというと攻めのFMCだったようにも思う。特に途中でカーテンエアバッグ標準化という英断を下した事は特にコンパクトカーにとっては正しい選択だったと信じている。きっとこの判断で何人かの命が救われただろう。
一方、モデルライフ後半になると分かり易いカタログ燃費争いが始まり、地味なコストダウンが始まった。LEDストップランプをバルブに戻し、カーテンシールドエアバッグを再びOPT化して見せた。
2010年には最後のヴィッツとなる3代目がデビューし、2代目はモデルライフを終えた。
こうしてヴィッツの3世代を見ていると、ベースの無い初代が一番跳んでいて、2代目以降は段々と大きくなり、競合に対するアドバンテージが無くなり、凡庸な車になっていく歴史だった。この感覚は、「面白4WD」だったスプリンターカリブが3世代で牙が抜かれていった歴史を追体験したかのようだ。現行型のネガをどんどん洗練させていき、共通化を進めて、お客さんが買換えを渋らない程度に原価を下げて本来の濃い魅力を水で薄め続けた・・・。
ヴィッツは初代の志を持ち続けて、帰国子女であり続けるべきだったのではないか!なんて正論は簡単に言えるが、激戦Bセグメントの主役とも言える存在であり、時代に翻弄された向きもあろう。実際に国内のネッツ店の最量販車種であり、パッソとの厳しい社内競合もあった。
初代に感銘を受けて所有していた私が2代目ヴィッツと共に暮らすと、その確実な進化と、致命的とも言える欠点、そしてその後の歴史を暗示するような「終わりの始まり」を感じざるを得なかった。
1.0L車は新車時から振動が酷く★2つとせざるを得ない。直4なら★3つ。