私は季節の移ろいを五感で感じることを何よりも大切にしており、その時々に伴った事象や事物を目的に出かけることが多い。
今回は毎年のイベントに位置付けている山形でのさくらんぼ狩りに加え、静かな森の中で緑の木々に囲まれたひと時を過ごそうということで、まずは新潟県胎内市へRS3を走らせた。
関越自動車道を長岡ICで下車、長岡駅前で昼食をとる。長岡のように歴史という下地のある街は、関東によくあるようなチェーン店ばかりの無機質な街とは違って温かみとかノスタルジーとか、なんとなく有機的な感じがするので私は好きだ。町中華と本格中華の境界にあるような、これまた個人的には好ましい中華料理屋「喜京屋」で美味しい海老そばをいただいた後、少しばかり駅前をふらふらしてから今晩の宿である奥胎内ヒュッテを目指す。
「喜京屋」のよだれどり。メニューは沢山あってどれも美味しそうです。
カーナビのおすすめルートでは関越道に乗りなおして暫く北上してから下道であったが、そこはせっかくこの長閑な下越まで来たのだから、幹線道路は通らずに下道で行くことにした。実は北陸や東北というのは北海道と肩を並べるほどのツーリング好適道路の宝庫で、幹線道路を避けるだけでも非常に気持ちよく走れる道がそこら中にある。
今回通った新潟県道14号線~新潟県道2020号線~北蒲原東部広域農道は良い道だった。新潟県道14号線は、新潟県五泉市から阿賀野川に沿って少し登ったところにある三川温泉から始まる(正式にはここが終点)。山越えが終わった後、右折すると県道202号に入り、さらに途中で右折すると広域農道に入る。ほぼ全線がセンターラインのある2車線道路で、程よいカーブと程よい直線にアップダウン混じりで運転に退屈しないし、路面状況も悪くない。
この時のルートはこちらをご覧ください
(みんカラってGoogle Mapの埋め込みできないんですね…)
胎内スキー場までいくと広域農道は終わりで、ここからは新潟県道53号線。胎内川に沿って飯豊連峰の主脈近くまで続く道だ。そして、一般車が到達できるその最奥部に奥胎内ヒュッテはある。なお、この道は路面がへたり気味なので、RS3のように硬い脚のクルマには少し辛い。
奥胎内ヒュッテは高級ホテルとかそのような類の宿泊施設ではないが、そのコンセプトから私はこの施設を応援している。県道が通じているとはいえ、飯豊連峰と胎内川の峡谷に抱かれたその立地は世間の喧騒から隔絶されていると言って良い。
ヒュッテ正面玄関
ヒュッテ駐車場にて(梅雨だからと洗車をさぼってしまいました…)
実際にヒュッテ周辺では携帯電話の電波は入らないし、登山者とわずかな工事車両を除けばこのあたりを通る車は皆無に等しい。そんな立地条件を活かして、電波だとか情報だとか、そういった世俗的なものをなるべく排除したシンプルな宿泊施設だ。インターネットはロビーにWi-Fiがあるだけで、部屋にテレビはない。その代わりこのヒュッテはのびのびと枝葉を伸ばす木々に囲まれ、葉のこすれる音や鳥のさえずり、虫の声、水の流れる音以外は聞こえてこない静かな環境にある。惜しむらくはそのような環境を楽しめる露天風呂が無いことだが、ここは自然が濃すぎて露天風呂を設けるとメンテナンスが大変なのかもしれず、宿泊料金を考えると仕方ないと思う。なお、ヒュッテといっても山小屋的な施設ではなく、宿泊施設としての設備は一通り揃っておりそのどれもが綺麗に保たれている。
ヒュッテの下を流れる渓流。歩いて河原まで下りられるみたいです。
この施設の売りは、なんと言ってもテラスでいただく朝食だ。空腹は最高のスパイスとよく言われるが、ここでは五感で感じる自然もまた最高のスパイスとなる(正確に言うと触感はテラスでは基本的に無いのでご安心ください)。因みに特に何も指定しなくとも朝食はテラス席でとることになっているので手続きは不要だ。
また、夕食もこの価格帯としては非常に充実しており、全体的なコストパフォーマンスは良いと思う。この奥胎内ヒュッテは経営母体が胎内リゾートという第三セクターで、ロイヤル胎内パークホテルという中規模のホテルも有していることからスケールメリットが働いているものと思われる。フォルクスワーゲンのクルマにおいてその車格以上に良い素材が見受けられるのと同じ原理かな。
夕食はちゃんとフルコース。スープがすごくおいしい。
さて、二日目はさくらんぼ狩りということで山形県東根市を目指す。ヒュッテから人里まで下ったのち、荒川に沿って米坂線と共に東進する。この道は国道113号線。山形南部と新潟北部を結ぶ動脈であるため交通量は比較的多いが、線型が良いため実勢速度は高くストレスなく走れる。
東根まではカーナビ上は国道13号線まで東進するルートが示されていたが、ここはやはりもっとローカルな道をということで名前の分からない広域農道チックな道をチョイス(後で調べたら置賜西部広域農道というらしい)。この道は広域農道らしい走りやすい道で非常に良かった。その後、国道287号線に合流して白鷹町、朝日町と経由すると東根市はすぐそこだ。
東根市は日本一のさくらんぼの街だ。国内最大の生産地である山形県の中でも東根市は生産量トップを誇っており、街中がさくらんぼだらけだ。特にさくらんぼ東根駅から奥羽山脈に向けて扇状地を上っていく山形県道122号線・29号線や、それに並行する296号線フルーツライン沿いは圧巻で、見渡す限りのさくらんぼ畑になっている。また、さくらんぼ東根駅は山形新幹線停車駅のため駅前が整備されているのだが、そこに植えられている街路樹はもちろん、さくらんぼである。6月中旬、まるで宝石のような果実が街路樹にたわわに実る様は、茨木のり子の詩「六月」の一節「食べられる実をつけた街路樹が どこまでも続き」という描写そのもので、訪れる者をとても幸せな気分にさせてくれる。
以前訪れた時に撮った駅前の写真。さくらんぼ実ってます。
さて、そんなさくらんぼに満ち溢れた東根市だから、その季節にはあたりを少し走るだけで直ぐさくらんぼ狩りのできる観光農園が見つかる。今回は少し時期を外していたのでもう終わってしまっている農園も多かったが、それでも佐藤錦の食べ放題のできる農園がすぐ見つかった。佐藤錦は中生種ではあるがもう終盤ということで若干実が緩くなっているとのことであったが、私たちにとっては十分美味しいものだった。ちなみに山形県ではどこでも関東周辺ではびっくりするような価格で食べ放題ができる。素人としてはその価格にちょっと心配になってしまうが、きっと農園にもメリットがあるからこそやっているのだろう。果物狩りというのは、生産者と消費者が直接結ばれる双方にとってうまみのある契約なのだと思う。
さくらんぼ狩りに訪れるといつも私を幸せな気分にさせてくれる東根市。来年はもう少し早い時期に来て色々な早生種・中生種を楽しんでみようという思いを胸に、今晩の宿のあるかみのやま温泉に向けてハンドルを握った。
了
Posted at 2019/07/15 19:03:39 | |
トラックバック(0) |
ドライブレポート | 旅行/地域