最果ての地、というと思い浮かべるところは人や見方によって様々かと思う。
シンプルに大地の端っこの地なのか、はたまた辺境の地なのか。前者は地理的な意味で、後者は文明的な意味から見た最果ての地である。
本州の最果てというと、北ならば大間崎や竜飛崎がまず初めに思い浮かぶ。確かに地理的には津軽半島の北端は竜飛崎で、下北半島のそれは大間崎だ。しかし、私にとって本州の北の果てはそれだけではない。私にとっての本州の最果ての一つは下北半島の南西端、九艘泊なのである。
(この表現にお気を悪くされる方がいましたら申し訳ありませんが、ノスタルジーを誘うという良い意味で最果てと表現しています)
日本全国、津々浦々に道路は続いている。しかし、続いているといっても全てが環のように終わりのないわけではなく、ときどき道が果てるところがある。九艘泊はそんな道の果てるところの一つだ。九艘泊の奥にはもう何もない。人の住めない断崖絶壁である仏ヶ浦が数十kmに渡って続くだけだ。九艘泊そのものも小さな漁村だが、一番近い街である脇野沢の中心街から九艘泊に至るまでの数kmの道程も、また同じように小さな漁村が点在するだけなのだ。
地図上、脇野沢の中心街から北上する国道338号線は佐井村を経由して大間町へ繋がっている。しかし、この道は冬季閉鎖となることもあり佐井村の中心部へは川内から青森県道46号線あるいは253号線を経由するのがメインの行き方なのだろうか、国道338号線の交通量は非常に少ない。すなわち、川内の街で県道46号線が分岐して以降、九艘泊に向かってはひたすら辺縁の地を目指すようなものだ。そのおかげか、大湊より西だと量販店の類は川内の街にあるマエダストアとホーマックニコットしかない。
その土地々々が栄えるかどうかは、安定的に農耕ができる肥沃な土地があるか、豊富な天然資源があるか、良い港に恵まれているか等その土地自体の潜在力によって決まる場合のほかに、通過交通があるかどうかという要素もある。
例えば現在東北地方第二の都市として栄える福島県郡山市は、東西と南北を結ぶ街道の結節点として発展してきたし、逆に千葉県が埼玉県に対して人口や経済規模で劣るのも通過交通が無いという側面に起因するのは恐らく一つの解であると思われる。埼玉の背後には北関東や東北、果ては北海道まで控えるのに対し、千葉の奥には千葉しかないのだ。
九艘泊にはもうその先に続く何かはない(正確に言えば国道338号につながる細い市道のようなものはあるようだ)ので通過交通はなく、九艘泊には九艘泊を目指してきた人──すなわち釣り人か、十数件あると思われる集落の住人しかやってこない。文字通りの最果てなのだ。海が穏やかな時、この港町は本当に静かだ。ウミネコの声が美しく響くほかは、時折やってくる漁船や車の音しか聞こえない。
さて、そんな九艘泊を目指して横浜を発ったのは10月18日金曜日の早朝、まだ空が白み始める前。今回は即位礼正殿の儀の祝日に合わせ5連休が取れたので、陸奥湾の大型のマダイやサワラ、ブリをメインターゲットに、一人、本州の最果てを目指すことにした。一人旅は確かに寂しいが、それはそれで自由気ままに旅ができるので楽しい。特に今回は天気が目まぐるしく変化することが予想されたので、宿を取ることなく車中泊で済ませることにしたからなおさらだ。
ちなみにRS3はCセグメントハッチバックだが工夫次第で車中泊が可能だ。興味のある方は
こちらのブログをご覧いただきたい。
私は地方へ釣行に出向くときは、道中のドライブをのんびり楽しむことにしている。流石に今回は下北半島の九艘泊が目的地なので高速道路を使わざるを得ないが、それでも松尾八幡平ICで降りて「八幡平アスピーテライン」を経由して東北随一の高原道路を楽しむ。
ここは個人的に日本三大スカイラインに位置付けている道で、眺望抜群の2車線の快走路が続く。その後はそのまま下道を北上して秋田経由で青森に突入した。
私は一人旅をするときは食事は最低限のものしかとらないので、安く早く済む丸亀製麺やはなまるうどんを特によく利用している。この2ブランドは全国チェーンだけあって普段住まう横浜にもあるし、当然今回はるばるやってきた青森にもある。しかし、同じチェーンではあるけれども、横浜とこちらでは雰囲気が少々異なる。都市部の店舗と違って、地方ではだれもそこまで急いでいない。店員さんが一人一人にかける接客時間は当然長いし、お客もそれを急かすような雰囲気にはならない。
弘前の丸亀製麺の列に並ぶ間、ふとこの雰囲気に時間の流れの遅さを覚えた時、私は同時に生き急いでいたことを実感した。地方を流れる時間はゆっくりだ。青森に限らず三大都市圏から離れれば離れるほど時間の流れが遅くなって、みんなが余裕をもって生きている。私もかつてそんな時間の流れの中で生きていたことを思い出しただけでも、今回の旅は収穫があったと言える。
その後、途中で釣具の調達、睡眠、陸奥湾内の釣り場の下見をして最終目的地である九艘泊に着いたのは翌19日の夕方だった。途中、天候の良い北陸まで逃げることも考えたが、せっかく青森まで来たので下北半島で粘ることにした。
先も述べたように大湊を過ぎるとコンビニすらなくなり、釣りエサや物品の調達がままならなくなるので、21日まで釣りを満喫するため大方の買い物は下北半島の中核都市、むつ市の中心部(むつ市は広大で、九艘泊もむつ市になる)でさっさと済ませている。最果ての九艘泊まで来てしまうと、何かの買い物のためにむつ市中心部まで戻る羽目になると片道1時間は見ないといけないのだ。
肝心の釣りはというと、真鯛狙いの19日の晩は空振りに終わったが、20日早朝のショアジギングでは50cmを超える良型のイナダ(ブリの若魚)をキャッチ。その日の昼間の投げ釣りでは再び空振りに終わるも、21日早朝のショアジギングでやはり同サイズの良型のイナダを再びキャッチ。19日夜から21日朝まででイナダ7、サバ1、メガネカスベ1(リリース)、アイナメ1が主な釣果。
ブリは釣り上げたばかりだと美しいエメラルドグリーンの体色をしています。
九艘泊漁港から平舘海峡方面を望む。
目的3目のうち、大きさは足りないまでも鰤をキャッチすることができた。また、実はショアジギングでまともな獲物を上げたのは今回初めてで、ロッドの入魂も完了できたので私としては十分な成果だ。それ以外はまた次回の釣行にとっておくとしよう。
やはり地方での釣りは良い。ちょっと不便なところはあるが、自分だけのペースで釣りが出来てあれだけの魚が釣れる。まだこのゆっくりと時間の流れる地で釣り糸を垂れたい気持ちはあったが、目指す我が家は遥か南860km先にあるので、後ろ髪を引かれる思いで21日9時30分に九艘泊を後にした。
下北半島から陸奥湾東南部を望む。東京湾と違って陸奥湾は本当に広いです。
朝の時合に合わせた生活をすると夜は必然的に床に就かざるを得ないので、この日は車中泊と言え実に9時間睡眠を達成していた。Cセグメントハッチバックでも、ちゃんとベッドメイクすると意外と睡眠が捗る。ということで体力にはまだ余裕があったので、帰路はさらにのんびりと全部下道で帰ることにした。
もちろんただ延々と4号線を帰るだけではつまらない。せっかく青森まで来たので十和田湖を経由して帰ることにした。
単に十和田湖に行ったことが無かったのでその姿を拝みたかっただけなのだが、無知というのは恐ろしいもので、十和田湖を目指していたはずなのにいつの間にか奥入瀬渓流の横を走っていた。恥ずかしながら奥入瀬川が十和田湖を源流とすることを知らずに、ハイシーズンを迎えつつある国道102号線に突入してしまっていたのだ(完全にハイシーズンになるとマイカー規制になる)。景観は素晴らしいが人も車も非常に多い。しかし三大都市圏を遠く離れ、空港からもさして近くはないこの地でこの集客力は目を見張るものがある。
観光バスがそこら中に路駐する阿鼻叫喚な大渋滞を何とか抜け、紅葉の美しい十和田湖畔を走る。ここには写真映えしそうな場所がいくらでもありそうだが、それはまた今度誰かと来た時に堪能するとしよう。
あとはそのまま奥羽山脈西麓に沿って延々と南下を続け、万世大路を経て4号線へ。途中数時間仮眠をとったものの、そのすこぶる順調なペースのおかげで22日早朝には栃木県まで到達していた。
イナダ7匹は夫婦二人ではとても食べ切れないので、4号バイパスが終わったあたりで進路を東へとり、途中実家に寄ってイナダとアイナメをおすそ分けした。実家で少し仮眠した後、さすがに首都圏は下道を使う気にはならず、無難に首都高を使って22日15時過ぎには無事横浜の自宅に到着した。
本州の最果てから実に1日半。またこの生き急がされる地に戻ってきた。ここでの生活は自らの生命をぎりぎりと削っている気がしてならないが、一方現在の愛車に代表されるような物質的豊かさを享受してしまっている今の身としては我慢して受け入れねばならないのだ。
さて、その日の晩ご飯はイナダのお刺身。釣ってすぐ血抜きしているので鮮度は最高だ。お店では売っていない美味しい魚を食べられるのが釣りの醍醐味の一つ。イナダは時々スーパーの鮮魚売り場にも並ぶが、ここまでの鮮度のものはまず無い。
イナダサイズとなると、腹身にはサシが入るとはいえブリと違い脂はそこまで乗っておらず、青魚そのものの味を楽しめる。鮮度が良いので臭みは全くなく、僅かに感じる酸味のおかげでとても爽やかな味わい。脂ののったブリも美味しいが、このイナダも非常に美味しい。
以前の相棒であったGTI以上に、RS3と地方への釣行は相性がいい。
高速だろうが下道だろうが往復2,500kmの道のりも全く苦にしない。
高速道路を走れば矢のような直進性と意のままに加速するパワーで全く疲れ知らずだし、山道を走れば(ホットハッチとしては重量級だがそれでも)安定したコーナリングと絶大なストッピングパワーで颯爽と駆け抜ける。所詮はコンパクトカーだから入り組んだ港町もお手の物。でも、非舗装路だけは勘弁な。
さあ、次の釣行はどこへ行こうかな。