「初夏」というと言葉の定義上は5月初めから6月の初めくらいまでを指すようだけど、私にとっては初夏と言えばやっぱり6月。
田んぼを包み込んでいた蛙の合唱はとりあえず収まり、セミが鳴き始めるまで一瞬だけ静まる季節。アブラゼミやミンミンゼミの五月蠅さを思えば、嵐の前の静けさという表現は決して大げさなものではないと思う。野山の緑はというとまだわずかに若さを残しつつ、一気にその勢いを強くして夏本番を迎えようとする。
そうやって盛夏に向けて動植物たちが着々と力をため込んでいく様子が見られるのが6月。だから私にとって初夏とは6月なのだ。
そんな6月を代表する味覚、さくらんぼ。
山形へのさくらんぼ狩り旅行は、ここ5~6年ほどの6月のルーティン。
歳を食ってくるとどうも保守的になってしまってしょうがないが、さくらんぼは美味しいんだから仕方ない。それに山形県はさくらんぼだけじゃなく色んな美味しいものに溢れているから、食い意地の張った私はまるで昆虫のように自然と引き寄せられてしまう。
山形県はさくらんぼの産地だけあって、この梅雨時でも雨になることは少ない(雨が多いと裂果障害が起きるらしい)。これまで私がさくらんぼ狩りで訪れるときは雨が降っていたことが無いかもしれないくらい。だからこの梅雨時のドライブ先の候補としても山形県は魅力的。
ということで6月の半ば、今年も2泊3日の旅程でさくらんぼ狩り旅行へ出かけた。
1泊目は福島県裏磐梯のときどきお世話になっているペンション。
高速道路で直行するとすぐ着いてしまうから、いつも下道メインでドライブを楽しみながら北上する。7時くらいに出発したら、私にとっての毎度おなじみ常磐自動車道谷和原ICで下道に降りて、そこからはのんびり北上。
普段なら下道における最短ルートで北上してしまうのだけれど、今回は早々に東側にそれて桜川のあたりから改めて北へ進む。今回は素敵なお昼ごはんでもと思って、益子にあるカフェに目星をつけておいたからだ。
実は茨城県の筑波のあたりから栃木県南部にかけてはお洒落なパン屋さんやカフェがたくさんある。数字の裏付けがあるわけではないけど、たぶんほかの地域に比べても全然多いと思う。これまた裏付けがあるわけではないけど、なぜそうなるかを考えると茨城県南部は割と小麦の作付面積が多そうなことと、この一帯は里山が広がっていて古民家的な建築が多いこと、あとは益子焼の産地を包摂していることや人口集積地帯の首都圏が近いことが挙げられるように思う。
さて、今日のお昼ご飯はそんな素敵なパン屋さん&カフェ銀座にある「週末食場 SONO蜩」。益子焼の窯元さんが土日だけオープンしている素敵なカフェ。雑木林の中にあって、周りの雰囲気に溶けこみやすい木を多く使った建物。中も落ち着いた感じでアンティークな小物がたくさん。
ちょっと驚いたのがこのランプ。どこのランプでしょう?
実はこれマツダのランプなのです!といっても車のマツダではなくランプのマツダ。由来はどちらもゾロアスター教のアフラ・マズダだけど作っている会社は別物。以上、世界史しかできなかった人間の豆知識でした。
ここで私が食べたのはハンバーグのトマト煮込みっていう名前だったかな。意外とボリュームがあって、しっかり手作りしてる感があって美味しい。器はもちろん窯元さんが作った益子焼で、見た目にもおいしい。
これらの器はカフェの外で販売もしているので、気に入った器があればその場で買うことができるのもこのカフェの良いところ。やっぱり料理を美味しくするのは味ももちろんだけど、器や雰囲気も同じくらい大事。せっかくなので今回はメインが乗せられるお皿を2枚いただいた。お料理も器も素敵なのでまた来よう。
昼食の後は一つ行きたいところがあって、妻にお願いして寄り道させてもらった。それがここ「いわむらかずお 絵本の丘美術館」。
いわむらかずお氏は14ひきシリーズが代表作の絵本作家。小さな頃、両親が揃えてくれたこの14ひきシリーズを私はよく読んでいた。この絵本には14匹のねずみたちが森の中で自然と共に暮らす様子が描かれていて、私はその美しく優しいタッチで描かれた動植物たちが大好きだった。
実家の周辺は暗い杉林ばかりで多様な生物の暮らす雑木林と言うのは珍しかったから、14匹の暮らす明るく豊かな森への憧憬のような思いがあったのだと思う。
森に囲まれた駐車場。やっぱりこの季節の緑は美しい。
近傍のクヌギは6月半ばながらすでに樹液を出すようになっており、洞にはコクワガタが潜んでいた。この手の甲虫が動き出すといよいよこれから来る夏の盛りを感じさせる。
ちょうどこの日は「14ひき」展の真っ最中。懐かしさを覚えながら見て回った。あいにく写真撮影ができないので様子をお伝えすることは出来ないのだけれど、14ひきシリーズが好きだった方はぜひ行ってみてほしい。ちなみに訪れてから気づいたけど、ここは展示室だけが美術館なのではなく、美術館の敷地全体が美術館そのものなのだそう。14ひきシリーズで描かれているような四季の移ろいと彼らの生活を体験できる、というコンセプトで作られているとのこと。今回は時間が無くてコクワガタを見つけた以外は建物内しか見ていないから、次回はもっとゆっくり絵本の丘全体を見て回ろう。
なお、この美術館までの道は割と狭く農道のようなところもあるので、最初は本当にこの道で合っているのか心配になるけど大丈夫です(笑)。ちゃんと美術館につきます。
美術館を出たらあとはペンションに行くだけ。
途中見つけた変な色のローソン。茶色のはたまに見るけどこれは何色?
国道294号をずっと進めば裏磐梯のふもと、猪苗代湖まで行ける。この道を通るのは1年ぶりだったけど、途中の白河市にはこの冬白河バイパスが開通していて、市街地を抜ける時間が一気に短縮されて便利に。また、小ぢんまりしていた道の駅季の里天栄はリニューアルオープンして中規模の道の駅に様変わり。国道294号の勢至堂峠手前の狭隘区間もいつのまにかバイパスされていて、この1年でいろいろ変わったみたいだ。もう夕方なので道の駅以外は特に寄り道せずペンションへ直行。
良くお世話になるペンションサッチモ。
森の中にある露天風呂とオーナーこだわりの料理が人気のペンション。
この日はお客さんがいっぱいでにぎやか。コロナ禍は終わったんだなあと改めて実感。
これはオーナーさんにお勧めされたお酒。
このペンションは日本酒が常時いくつか揃えてあってどれも美味しいのだけど、この日たまたまあった青森にある酒蔵の大吟醸はメロンみたいな香りで最高に美味しかった。酒嫌いでふだん1滴も飲まない妻でさえ美味しいと言うほど。
晩ご飯には早くもトウモロコシが。裏磐梯のトウモロコシは甘くて抜群にうまい。もう少し早い時期に行くと裏磐梯産のアスパラが出てきてこれまた抜群にうまい。裏磐梯は野菜が美味しいところ。
翌日はさくらんぼ狩り。
ペンションの美味しい朝ごはんを食べたら出発。
目的地はさくらんぼの一大産地、東根市。ここから山形方面へは白布峠を越えていくのが早い。白布峠は西吾妻スカイバレーが通る。この道は程よいワインディングと最高の景色でドライブにはもってこい。まずはペンション村を出たら桧原湖東岸の道。この道もコーナーが連続して楽しい。
白布峠に向けて登り始めたあたり。今日も緑が美しい。
たまにはクルマメインで1枚。彼方に見えるのは飯豊連峰かな?
ヘアピンカーブもあって楽しい。
開通記念碑のある駐車場ではなんと新型RS3とご対面。
写真で見るとちょっといかついなあと思ったけど、実物はめちゃくちゃカッコイイ!これまたホイールがお洒落でよい。まるで社外品みたいな凝ったデザイン。
今回通った桧原湖東岸から西吾妻スカイバレーにかけては路面状態が良いので、ドライブモードをダイナミックにしても大丈夫。交通量も多くないので自分のペースで気持ちよく走れる。
米沢まで下りてきたらそこからは高速。東根市まで一気に。
普段なら下道を通りたいところだけど、お宿に早めにチェックインしたいので時間を節約したいのと、米沢から東根まで下道&時間優先で行こうとすると国道13号をずーっと北上することになり、ちょっと退屈なので高速道路を使ってしまう。もちろん時間があれば西側の長井市から北上するルートもありだし、マツタケぶどうラインを使って東側から北上するルートもあり(あと県道5号線使うルートもあるけどこれは良く知らないです)。道の駅に寄りたいなら西側ルート、走りを楽しみたいなら東側ルートかな。
今年の東根のさくらんぼは不作だそうで。
たしか農園のご主人は低温?晩霜?にあてられたせいと言っていたような。
言われてみると同じ佐藤錦でも前年以前の写真より実付きは悪い。逆に実の数が少なくなったおかげか実の大きさ自体は例年より大粒なように感じられ、満足感のあるさくらんぼ狩りが出来た。
東根市の農産物直売所「よってけポポラ」では、山形県産さくらんぼの最新品種「やまがた紅王」が店頭にならんでいた。昨年から先行販売が開始され、本格的に市場に流通し始めたのは今年からという超高級品種。なんと1粒100円くらいします…。
このあとすぐ宿へ行きたいところだったけど、時間が少し早すぎるのでちょっと寄り道することに。東根のさくらんぼ畑からちょっと南に下って山を登ったところにある天童高原へ。時間をつぶすことになる可能性を見越して事前に調べておいた景色が良さそうな場所。
眺めは素晴らしいけど残念ながらちょっと霞んでるなあ。
適当に写真を撮ったら山を下りる。
さて、今晩の宿は天童温泉。なかなか雰囲気の良い温泉街。
我が家では年に1、2回だけ、ちょっといいお宿に泊まることにしている。
二十四節気のおもてなし「天童荘」。
このお宿、なんとポルシェの急速充電器?が設置されていた。街中では初めて見たかもしれない。これならタイカンでも安心。
天童温泉は国道13号線沿いにあり、東根市からもすぐのところにあるのでさくらんぼ狩りとの相性が良い温泉街。あくまで個人的な印象ではあるけど、山形は県の規模に反して素敵な旅館が多い。ここ天童温泉にも高評価な宿が多くあり、県下には他にもかみのやま温泉や銀山温泉といった温泉街を中心に魅力的な宿が多くあるように思う。
温泉旅館だから夜ごはんは懐石料理。やっぱり和食は地のものや季節のものがふんだんに使われていて嬉しい。茄子、とうもろこし、枝豆(だだちゃ豆?)など、早くも夏の野菜が多く並ぶ。
翌朝、目が覚めるとこの日は快晴。最終日は帰るだけにしようと思っていたのだけど、これだけ空が澄んでいるなら昨日の天童高原にリベンジしなければ。ということで再びやってきた天童高原。そこには期待を裏切らない最高の眺望が広がっていた。
山形県と言うと、こういう眼下に広がるっていう感じの景色にはあまり恵まれない県だと思っていたけど、いやいや全然そうではない。今回は午前中の撮影だけど、ここなら夕景や夜景もいけるでしょう。
何度も言うけど6月の緑は最高。そしてPENTAXの寒色系の描写も最高。
天童高原はこんなところ。
夏を感じさせる1枚。
634の松とお花畑。
あまりに天気が良いので麓に降りてからもう1枚撮ってしまった。
高・中・低の山々が重なり合う東北らしい1枚になったかな。
せっかく天気が良いので蔵王を通って帰りたいところではあるが、あまりゆっくりしすぎると翌日に響くのでこの後は大人しく帰ることにした。
今回の旅ではちょうどよく梅雨の晴れ間に恵まれ、南東北の初夏を十二分に満喫することが出来た。最近は仕事が忙しくて長期の連休でもない限りゆったり出かけることがなくなってしまったけど、今回は久しぶりに季節感を味わう旅が出来た。
14ひきシリーズに描かれているような季節感のある生活はなかなか難しいけれど、これからもこうやって時々はゆったり出かけて四季を愉しむようにしたい。
おわり
あとがき
奮発して自宅用にちょっとだけやまがた紅王を買いました。あと山形美人も。右が「やまがた紅王」、左は「山形美人」。全然大きさが違いますね。紅王は高級品だけあってもちろん美味しいですが、個人的には「山形美人」が好きです。
「山形美人」はここ最近出回るようになったらしいややマイナーな早生種なのですが、甘みも酸味も強くてさくらんぼそのものの味が濃く、私好みなのです。