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イイね!
2017年08月09日

ハイオク教

先の日記「『車のため』的な添え言が為されなければいいのだが…(苦笑)」にて

> ディスクブレーキやハイオクの件はまた別記事ででも。

と書いたのを受けて、
より一般的な観点であるハイオクガソリンのネタを。


端的に言って、レギュラーガソリン仕様車にハイオクを入れて

「パワーが出た」

と感じるのはほぼプラセボ(又はプラシーボ)効果である。
或いは一種のカルト宗教みたいなものだな。

結果ありきで、
心理的に「ポジティブ差異を感じた」を求めたいがために、
よりスロットルを思い切って踏み込めたり
より都合の良い条件があったことに目を瞑ってみたり。

待ち行列に並んでまで見てもらった「よく当たる」占い師のコメント状態。
「あ、当たってる…」と思うことで投下コストを回収したい心理と同じ。


ハイオクもレギュラーも原油の蒸留分離において得られる
重質ナフサという種別の材料から製造されるが、
この層に含まれるのは
ベンゼン環を含めて一部炭素数6のものを含むが
主に炭素数7~8個の組成の炭化水素である。

因みに、この上の重い蒸留層は灯油で、炭素数が9~15のもの、
一つ下の蒸留層は軽質ナフサで炭素数が5~6、
更に軽いと常温気体のプロパンやブタンが主組成の天然ガスである。

プロパンとかブタンというのは中学理科や高校化学で耳にするであろう、
CnHm|m=2n+2の組成で、直線鎖状のものはn=1から順に

メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン…

云々と続く。

8番目に出てきた「オクタン」がまさに「オクタン価」の「オクタン」、
または「ハイオク」の「オク」の部分で、
重質ナフサを原料に更に加工して得られるガソリンが
ヘプタン(C7H16)を多く含むのか、オクタン(C8H18)を多く含むのかの
割合を示すための指数だったものである。
(実際は直鎖オクタンではなく、より安定的に燃焼するイソオクタンが基準)


まあ、蒸留精製で分子量も近いもので構成されることから
容易に想像できようが、
ヘプタンであろうがオクタンであろうが燃焼を完遂した場合に
単位質量あたりに得られる熱量はほぼ変わらない。

炭素数が大きく異るものを比べた場合には
同じ燃焼空間内で起こる炭素が二酸化炭素となる反応と
水素が水となる反応の割合が異なることからも
得られる熱量に差が出そうだなとその辺に明るくない人でも想像できようが、
蒸留後の同じ分離層内では大差はない。

※同じモル数ではない。同じ質量で比較しなければいけない。
 同じモル数での燃焼熱量(エンタルピー)は
 オクタンはヘプタンの凡そ8/7(ななぶんのはち)倍ある。
 てか、直鎖オクタンの異性体だとその方がこの倍率を下回り
 熱量が少ない場合もある。

つまり、まああくまでも原則的な話であるが、
同じ重質ナフサを主原料としているガソリンである以上
レギュラーであろうがハイオクであろうが
ちゃんと燃やせば同じ質量だと得られるエネルギーはほとんど一緒。

ハイオクの方が得られるパワー(熱量)が高いなどという一般則は無い。

※「原則的」というのは
 現在のオクタン価はオクタンの成分比率ではなく、
 添加剤によって得られたオクタン等価の燃焼速度比を示すもので
 混ぜ物の組成に寄っては熱量は仮定より多少は増減する場合もあり得る。
 それでも主たる燃焼エネルギー源ではない以上
 大幅には変わるものではないが。

じゃあ、何が違うのかというと、

「重いオクタンの方が燃えにくい」
※燃え「やすい」ではなくて燃え「にくい」である。

傾向があるところに違いがある。
オクタンの量が多い(オクタン価の高い)ガソリンほど
火が着いてからも燃え拡がりにくい。

エンジンの効率を上げるために燃焼ガスの膨張のエネルギーを
できるだけ沢山取り出すためには、圧縮時と膨張しきった際の容積比率を
開放空間での燃焼時膨張比率に
目一杯近づけるべきなのは容易に理解できるだろう。

エンジンの仕様書では「圧縮比」という項目で示されているものに相当するが
所謂「ハイオク仕様」を謳っているような高圧縮比のエンジンや
そもそもの吸気温度が通常想定より高い状態にあると
これまた中学理科の気象か高校化学辺りで耳にする

「断熱圧縮」

の理屈で温度が圧縮率に従って上昇するためにより高温に至る。
実は自然発火温度自体はヘプタンもオクタンも大きな差ではないのだが、
(双方とも開放空間では摂氏約210度くらいで発火する)
燃焼伝搬性がオクタンの方が低い。

エンジンはクランクの回転角とともに常に動作状態が遷移しており
遷移の速度に沿った理想的な速度で燃焼伝搬すればいいのだが、
断熱圧縮などでより燃え出しやすい環境にあると
スパークプラグで点火した部分以外の混合気部分から
発火が発生してしまったり、
それが望まない位置に望まない速度で伝搬し、早期燃焼してしまったりする。

所謂「ノッキング」と呼ばれる症状だが、
故意に圧縮比を高く設計し混合気温の高くなるエンジンでは
自然発火によってプラグ点火より早くガソリンに火が入ってしまうと
圧縮行程中のシリンダを蹴り返そうとする現象が発生するので、
そういう場合において
ぱぁっと早期に燃え広がってしまうことのあるレギュラーガソリンではなく

「燃えにくい」

オクタン価の高いガソリンが適用される。

ハイオク仕様エンジンというのはオクタンの燃焼特徴を
意図して設計されているからこそ意味がある。

だからね、
ハイオクガソリンを使うことを前提に
圧縮比や燃焼室熱設計、混合気設計をしていない限り
原則的にはハイオクを使ったところで
逆に燃焼伝搬が遅い特徴のせいで
回転速度内に想定した燃焼拡がりが得られないまま
排気行程に移って無駄に捨てられる可能性まで発生してしまうわけ。

ストイキより希薄燃焼になっている場合は
混合気中で燃料が酸素と触れる機会が十分あるので
ハイオクの遅い伝搬でも燃焼し切れるかもしれないが、
当然、燃焼温度が想定よりも上がってしまうし(燃料冷却効果不足)、
希薄燃焼前提で設計されたエンジンでない限り
空気中の窒素までをも反応させて
窒素酸化物(NOxと言われる有害物)をバンバン吐き出すことになるし。


実際は、例えばノッキングセンサを備えて
燃料も電子制御で供給するようになり始めた頃の20世紀終盤の車を含め
その辺りまでは進角制御が理想的に働いていない場合も多く、
いきなりパッと燃え広がってしまわないハイオクの場合、
特定の回転数環境などに於いては
爆発行程にかけて時間をかけて燃焼が進んでくれて
エネルギーの取り出し効率が多少改善されやすい、ということも
期待できる場合も全く無いとまでは言えないのだが。

※進角制御も要説明かな?
 燃焼(伝搬)速度は燃料組成に依存するが
 回転数が上がると燃焼が行き届かないうちにクランクが回ってしまって
 排気行程に移ってしまったりするので、
 回転数の上昇に従ってプラグで火を放つタイミングを
 圧縮行程に食い込んで徐々に早めておこないまいましょう、という機構。
 進角制御がずれると、それはもう顕著にエンジンの出力低下や
 不安定不整脈を感じることが出来るよ(笑)。

しかし、それは限られた条件の場合であって、
そうでなく全般でハイオクの方が本当に出力が出てエンジンが安定する場合は、
むしろエンジンの整備・調整が適切に為されていない可能性が非常に高い。

「わたしは整備の適切でない車を愛用しています」

或いはその車の面倒を見ている主治医の技術はヘタレである
と公言してしまうようなものである。

メーカーの設計条件は総設計空間内の最適値にまでは
たどり着けていないにせよ、
試作解析要素に用い要られた有限要素の中では
少なくとも極大値を得るようになっているものだ。
これをちょっと調べれば分かる程度の原則すら知ろうとしない人の手で
メーカーの見出した極大値を越える条件が安易に手に入る訳がないよね。

同じ車種を何台も見続けてきた経験蓄積のあるような工員・職人なら
法則理解まで届かなくても
観測値集合からの確率統計的な等価モデリングが可能なのでまだわかるけど。

まあ、燃え切らないガスを吐き出し続けるのは
本来は環境には良くなくても、
今は触媒による排気ガス浄化機構が燃焼後状態に変えて吐き出してくれるし
ハイオクの高い値段を払うのはオーナー本人の経済問題に過ぎないので
プラセボであろうが精神的満足を買っているんだと割り切るなら
それはオーナーの自由でもあるのだけどね。

似たような話は
以前、mixiで当時のマイミクさんのハイオクガソリンに関する質問に対して
わけの分からん解説を返した人の情報を是正するために
コミュニティに書き込んだことがある。
車デザイン論考4」の857番コメント以下の部分、865, 868, 872番辺り。


ただ、燃焼効率に係るオクタン価とは違う部分で
ハイオクには多少の恩恵が期待できる。
それは添加剤である。

レギュラーガソリンだけでなくハイオクも、
全く圧縮熱着火に依る爆轟現象が起こらないわけではない。

先の記事で

> 奇しくもマツダが圧縮発火エンジン技術を披露したが、

と書いたように、ディーゼル現象は燃料が軽油でなくても
ガソリン燃料でも意図的にも作り出せるものであり、
また意図せずとも起こってしまう。

その昔、これを抑制するために加えられていたのがアルキル鉛などの
有機鉛化合物である。

鉛添加剤はプラグ着火でない自然発火過程で発生する過酸化物を抑制して
意図しない発火伝搬を抑制してくれる。
レギュラーガソリンが無鉛化した後もハイオクだけは有鉛販売が続き、
それを前提として残った車種の市場向けに
ハイオクの無鉛化後には
レギュラーの無鉛化時以上に鉛代替のノッキング抑制剤が意識され、
その慣習が今のハイオクにも残り続けていて
凝ったノッキング抑制剤が奢られている、、、という噂も(笑)。

この辺は製油会社の上位セキュリティアクセス許可者でもない限り
成分を確認しようがないのだが、
ノックセンサなんてのがない70年代より前の製造車だと
ノッキングの発生頻度は低く抑えることが出来ることも
淡くでは望むことも。

飽くまでもアンチノック性を得る観点であって、出力向上ではない。


※これまた言うまでもないことだが、
 逆(つまり、ハイオク前提で設計された車に燃料代ケチってレギュラーを入れる)のは
 間違いなくやらないほうがいい。
 ノックセンサ+ECU燃調と電子進角のエンジンは
 ノッキングが発生すれば抑え込むように合わせてくれるので
 見た目は問題なく動作しているように見えても、
 想定外の汚い排ガスで触媒装置に負荷がかかったり、
 機械がストレスを耐え忍んで誤魔化してくれているだけなので。
 しかもECUプログラムも現象が観測されてからの事後対応が基本なので
 ノッキングが起こす異常振動はしなーっとクランクの摺動軸受のメタルを痛めたり
 ダメージが見えないところでどんどん蓄積されていくと考えるべきだな。


余談だが、有鉛の影響ってのはアンチノックだけでなく、
有機鉛自体からなる燃焼カスがバルブエッジやバルブガイド、タペットに回り
エンジンオイルだけで潤滑しきれていなかった部分の
潤滑を助けていた、といった見解もある。
実際、機種によっては有鉛ハイオクエンジンに無鉛を入れると、
タペットシートを打ち直さないと異常摩耗してしまうのは
よく聞く話だから、まんざら根拠のない話でもなかろうな。

一方、このスラッジは鉛からなるために導電性を持つので、
点火プラグ回りにも堆積してプラグギャップを狭めたり、
中心電極の陶器絶縁体を越えてしまうブリッジを形成してしまい
リーク電流が発生して点火力を下げてしまったり、とかいう悪影響も。

特にぶん回すからって意気込んで
熱価の高い(=放熱して冷め易い)プラグを入れていると、
プラグは冷え性だからスラッジが冷却されて付着しやすい上に
中心電極とねじ込み環の間の溝が浅く
ブリッジがギャップをよりのり越えやすくショートリークして
余計に出力が下がる、などというバカな状態に陥ったり、ね。


理解を行う途中に誤りを含んでしまうことは避けられないことだが、
今も昔も、思い込みや格好やメンツの維持ばかりにこだわり
常に誤り部分を適切に修正しつづけて向上しようという気のない人の車は
不幸な道を辿るわけだ(笑)。


まあ、その鉛スラッジの悪影響を取り除く添加剤を由来とする混ぜもの
上記の過程を経てハイオクガソリンには適用されているという噂もあり、
スラッジの発生量は同じでも付着が抑制されていたり、とかいう噂も(再笑)。

堆積抑制剤ってのは有鉛時代には確かに考慮されていたので
多少の期待は出来るかもね。

ただ、飽くまでも堆積抑制剤であって
既にたまったスラッジの清浄除去効果ではないため、
新車からハイオクってのでない限り、
中途からハイオクを入れ始めた車のエンジンが
綺麗になるとかいうマジックを期待するのは無理ね。
いつしかのシェル石油のハイオクガソリンの売り文句も
最初からシェル石油のハイオクのみを使い続けた場合という条件だったと思う。


有鉛の余談はさておき、
S600世代の車に於いてはハイオクの扱いはビミョウである。

ハイオクの規格自体が数値固定されずに何度か変更されており、
ホンダSシリーズが設計過程と初期生産にあった60年代前半は
ハイオクのオクタン価が90以上、レギュラーが80以上だった。
これが1965年にそれぞれ95以上、85以上に改訂され、
現在のハイオクのオクタン価が96以上、レギュラーが89以上に決まったのは
80年代である。

つまり、設計当初のハイオクは今のレギュラーと大差がない

、、、ハズなのだが、
わたしの所有個体に於いては、レギュラーガソリンを入れると
どーしてもパイロットジェットを相当開けてアイドリングが2000rpm近くでない限り
不意にエンストしてしまうのである。

進角装置が流石に手動ではなく
ディストリビュータ内のローター軸に遠心進角器が組み込まれているタイプだが、
メインジェットに併せてオフセット調整を行っても
パイロットでは明らかに遅角不足になるのかカラカラノッキングしまくる。

当時はどういう調整をすればピタッと合わせ込んでいたのだろうか、謎。

この辺が有鉛でなくなったガソリンの悪しき影響なのかも知れない。

※可換な特性を持つ代替非鉛材でも100%有機鉛材と同じ振る舞いは
 再現できないと考えられる。

最初から無鉛世代の車だと、同じ機械式進角の気化器エンジン車でも
こういう問題は起こらないように配慮して設計されていただろうと思われる。
現に、1972年式のライフEAエンジンはレギュラーガスで何の問題もなく
安定して動作していた。

幸い、S600くらいの上記のようなローテク…もといプリミティブ、あい、いや、
黎明期には最高だったハズの(苦笑)の技術の車だと
遠心進角器のオフセット調整で燃料のオクタン価に
機械の方を合わせ込むことが出来るので
高いガソリンを買わされることさえ耐え忍べば
現行ハイオクに合わせて調整すると
アイドリングでも安定させることは出来るし、
なんとか使える状態を維持できているんだけどねえ(泣)。

わたしは根がケチなので(笑)
安価なレギュラーで済ませられるに越したことはないのだけど。

逆に今のセンサ+ECU制御車でなんでも最適値に合わせこんでくれる車は
やっぱり便利でいいものだなあと思うわ。
ブログ一覧 | 徒然 | 日記
Posted at 2017/08/10 02:14:04

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わ!です。よろしくお願いします。 奔流には流されないようにしていたいですね。 Hello, enjoy yourself.
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