エンジンのオーバーホールに向けて調べ物をしている中で「ダイナミックバランス」という単語に出会いました.クランクシャフトの加工で出てきた単語なのですが,どんな加工なのか知らないので,いつものように調べてみました.
まず,「ダイナミックバランス(動的バランス)」とは,回転体(クランクシャフト)の重心が,回転中心からズレた事によって生じるで不釣り合いを測定し,釣り合うように修正する加工の事だそうです.
そもそも,回転体の不釣り合いはなぜ起きるのか?というと,回転体の基となった材料の密度差によって生じる「回転中心と重心のズレ」が原因なのだそうです(↓).
(島津製作所:
バランサ豆知識 より)
例えば,不釣り合いが生じている円柱を転がした場合,一定の速度で回転せず,速く回る部分もあれば遅く回る部分もあったりして,グラングランと不規則な回転をすると思います.そして,最終的には重心に近い側(重い側)が下側に来た状態で止まると思います(↓).
(島津製作所:
バランサ豆知識 より)
この場合,下に来た部分の反対の位置(上側)にウェイトを貼り付けてやれば,上下でバランスが取れて重心が回転中心に近づき,キレイに回転するようになる訳です.
(この加工を「スタティックバランス(静的バランス)」と言うのだそうです)
単なる円柱でもこういった事が起こる訳ですから,偏心した構造をもつクランクシャフトであれば尚の事で,
偏心を打ち消すために付けられた「カウンターウェイト」の形状や厚み,加工精度の差等によって,どうしても重心がズレてしまうそうです.また,仮に高精度で加工が出来たとしても,元々の素材が持っている密度のバラつきや熱処理時の歪み,オイル穴位置の僅かなズレ等によって,やはり重心はズレてしまうようです.
この不釣り合いを修正するのが「ダイナミックバランス」なのだそうで,「スタティックバランス」が回転体を静止させた状態の上面を修正する(1面修正)であるのに対し,「ダイナミックバランス」は回転体を動かした状態(回転させた状態)で両端の2面を修正する(2面修正)という違いがあるそうです(↓).
(島津製作所:
バランサ豆知識 より)
これを聞いて,静的な状態でバランス取りが出来るのであれば,わざわざ動かしてバランス取りをする必要はないのでは?とも思ったのですが,静的なバランス取りだけでは,"すりこぎ運動"を打ち消せないのだそうです.
"すりこぎ運動"というのは,回転体が円を描くように振れる現象(歳差運動:さいさうんどう)の事だそうで(↓),
先端の1点を抑えているにも関わらず,中心部分が円を描くようなに振れる様子から,すり鉢で棒がすり潰す際の動きに似ている事から,"すりこぎ運動"と言うのだそうです.
この"すりこぎ運動"が振動の増大を招くのは何となくイメージ出来るかと思いますが,それ以外にも不均一な回転がフリクションを増加させたり,クランクシャフトを支えているベアリングを摩耗させたり,クランクシャフトを曲げ方向に力が加わったりする事に繋がるため,高回転型のエンジンであれば「ダイナミックバランス」はやった方が良い,という話のようです.
では,その「ダイナミックバランス」はどうやって行われるのか?と調べてみると,工程としてはざっくり5つだそうです.
1.計測器をクランクシャフトの両端(プーリー側・フライホイール側)に設置
2.クランクシャフトを回転させて両端の振動を計測
3.仮のウェイトを両端に付けて振動の変化を計測
4.影響係数法を用いて,各面の修正量・角度を算出
5.両端の修正面に穴あけ・削り・ウェイト追加等で修正を施す
YouTubeに動画があったので,見てみたところ実際の作業としてはこんな感じのようです(↓).
VIDEO
この動画では「カウンターウェイト」に穴を空けてバランスを取っていますが,本来の「2面修正」の意味合いとしては端部で行うようです(↓).
ただ,フライホイール側は固定用のフランジがあるので,これで調整する事も出来ますが,プーリー側にはそんなものはないので,結局「カウンターウェイト」で調整するのが手っ取り早いようです.
ちなみに動的なバランスと言う以上,クランクシャフト単体だけでなく,クランクシャフトの前後に付くプーリー,フライホイール,クラッチカバー,コンロッドまで付けた状態でバランスを取る「ダイナミックバランス」もあるそうです.
エンジンの最終出力がクランクシャフトである以上,それに繋がるモノを取付けた状態でバランスを取るのが一番良いに決まっていますが,フライホイールを取付けるのはどうなのかなー?と思いました.フライホイールって摩耗するので,使用過程でアンバランスな状態になりそうな気がします.フライホイールを付けない状態で「ダイナミックバランス」をとって,フライホイール分の不釣り合いは許容するのが無難な気もしますが,どうなんでしょうね・・・?
以上,ダイナミックバランスのお勉強でした.
【おまけ】
「ダイナミックバランス」を調べる過程で,こんな情報を見つけました(↓).
(RIZOIL:
96年・98年のクランクの違い より)
B18Cのクランクシャフトは96SPECと98SPECで材質と形状が異なる,という情報なのですが,96SPECのクランクシャフトは98SPECと比べて柔らかいのだそうです.力の掛かるクランクシャフトであれば,硬い方が良さそうにも思えるのですが,一概にそうとも言い切れないそうです.
というのも,クランクシャフトが柔らかいという事は「クランクシャフト自身で振動を吸収出来る」ため,微小な振動を吸収し,共振を抑えて,高回転での伸びがスムースになるという特性があるそうです.また,加工の側面でも,硬い材質より柔らかい材質の方が加工し易い=精度を出し易い,と考える事ができ,単純に「硬ければ良い」という訳でもないのが,なかなか面白いなーと思いました.
Posted at 2026/05/06 06:32:08 | |
トラックバック(0) |
チューニング(エンジン編) | 日記