サーキット走行時のドライビング分析等で車速のデータをよく見るのですが,ふと「この車速の精度ってどんなもんなんだろう?」と気になったので,調べてみました.
まず,GPS(Global Positioning System)による速度の算出は,受信機(GPSロガー)が衛星からの信号(経度と緯度)を定期的に受取って位置を算出.現在と過去の位置の違い(=移動距離)と信号受信の間隔(=時間)から「速度」を算出しています.
速度 = 移動距離 / 通信間隔
これはクルマの外から計測した,言わば車速の「外部推定値」ですね.
次に,車速センサ.
これはトランスミッション内の回転軸の回転数をセンサで計測し,パルスの形でECU(Electronic Control Unit)に送信.ECU内でパルスの数を処理して車速に変換しています.言わば車速の「実測値」ですね.
センサを使って計測しているので最も精度が高いですが,タイヤの外径等はECUに登録されている純正の値に基づくため,タイヤ交換して外径が変わったりするとズレが生じたりしますね.
最後に,エンジン回転数.
こちらは車速ではないですが,以下の換算式を使う事で間接的に車速を求められます.
速度 = (エンジン回転数 × π × タイヤの半径) / (30 × ギヤ比 × ファイナル)
言わば車速の「内部推定値」ですね.
「外部推定値」はGPSロガーのデータから,「実測値」と「内部推定値」はLINK ECUのデータからそれぞれ手元にあるので,2025年11月にTC2000を走った際のデータ(↓)を使って比較してみました.
VIDEO
サンプルにしたのは,安定して長く車速を計測しているバックストレートの部分です.
抜き出してみるとこんな感じでした(↓).
赤線がGPSロガーの値,緑線が車速センサの実測値,青線がエンジン回転数から求めた推定値です.推定値(青線)は,途中でシフトチェンジを2回行っているので,駆動力が切れて大きく落ち込む部分がありますが,それを除けば3つとも概ね似たような波形となっていますね.
このデータを2速域,3速域,4速域の3つに分けて拡大してみると(↓),
【2速域】
3つとも似た波形とは言っても,実は微妙にズレているのが分かります.このデータだと2.0秒目付近のところで,GPSの値(赤線)は跳ね上がっており,計測値に誤差が含まれている様子が窺えます.一方,2.3秒目付近から推定値(青線)の誤差も徐々に大きくなっていますが,不思議と3.0秒目付近でGPSの値(赤線)に近い値となっており,実は実測値(緑線)が間違っているのか?と思いたくなります.
【3速域】
次に3速域で見てみると,こちらは3つともかなり似た波形となっています.計測条件がかなり安定していたという事なんでしょう,ただ,推定値(青線)だけは9.5秒目付近から跳ね上がり,10.0秒目付近ではかなりの誤差が生じている様子が窺えます.これを見ると,先程の2速域で最後にGPSの値(赤線)と推定値(青線)が一致したのは,偶然だったのかなぁ~?と思いたくなります(嘘側でたまたま一致したような印象).
【4速域】
最後に4速域.空気抵抗に負けて車速が頭打ちしているので,前2つと比べると変化が少ないですが,これを見るとGPSの値(赤線)はかなり嘘をついてますね.傾きが全然合ってないですし,12.0秒目くらいで合っていない事を補うかのようにポコン!と急に跳ね上がっています.14.5秒目以降の車速が落ちる部分でも反応遅れみたいなのが見えますし,かなり精度が低いですね.一方,推定値(青線)の方は計測値(緑線)に近い値を示していますが,上下の変動が大きく,絶対値で見るとダマされそうですね.
これらの比較結果から以下の事が分かりました.
①車速センサの計測値が安定していて,一番精度が高い(当たり前)
②エンジン回転数からの推測値も意外と精度が高い
③但し,高回転(7000rpm以上)になると,かなり大きな誤差が生じる
④逆に言えば,4速領域のように高回転に達しない領域で使えば精度は割と高い
⑤ただ,回転変動の影響を強く受けるため,上下の振幅は大きく,絶対値は信用出来ない
⑥GPSロガーの値は,やはり途中で嘘が含まれている
⑦この嘘にはパターンがなく,見分けづらい
⑧ただ,値が急変している部分はかなり怪しいので,そこは疑ってかかるべき
⑨GPSの計測周期が10Hzだと,140km/h以上の領域で精度が落ちる
(TC2000だともっと周波数を上げた方が良さそう)
これを見ると,当たり前の話ですが車速センサの値を信用するのが一番良いですね.ただ,車速センサの値を入手出来るECUデータには,ドライビング分析に必要な前後・左右の加速Gの値が含まれていないので,ECUにGセンサを付けたくなりました(苦笑).GPS計測より車載のGセンサの方が精度が高いのは間違いないので,金額は高いとは思いますけど,いつか付けたいですね.
あと,意外だったのが回転数から求めた車速推定値.シフトチェンジ前後と高回転域では使い物になりませんが,それ以外の領域ではそこそこの精度が出ているのが意外でした.上下変動をフィルタで上手く処理出来れば,疑似推定値として十分使えますね.
なお,今回推定値を算出するのに使った「タイヤの半径」は,JATMA(日本自動車タイヤ協会)の「動的負荷半径」を用いたのですが,これがピッタリでびっくりしました.
205/50R15のタイヤの半径を,単純に外径から求めると以下になるのですが(↓),
587 ÷ 2 = 293.5 [mm]
これだと全然合いませんでした.JATMAの「動的負荷半径(205/50R15だと283mm)」は規定の空気圧で,タイヤに指定の静的荷重を掛けた時の計測値から求めているのですが,60km/h相当の計測値なので100km/hオーバーの高速域だと合わないかなぁ~?と思っていたのですが(本来,回転の遠心力で引っ張られてタイヤの外径は車速が上がるほど大きくなるはず・・・),そこそこの精度が出るのがかなり意外でした.
以上,ふと思いついて調べてみた「車速の精度」に関するお話でした.