
「コンクラーベ」今夜遅くから始まる 各国の関心高まる
2025年5月7日 19時14分
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次のローマ教皇を決める選挙、コンクラーベが日本時間の7日夜遅くにバチカンで始まります。
先月に亡くなったフランシスコ教皇のあとを誰が継ぐのか見届けようと、各国から大勢の人が訪れるなど関心が高まっています。
ローマ教皇を決める選挙 7日開始 改革の継続か 保守巻き返しか
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が先月21日に亡くなったことを受け、バチカンでは7日、日本時間の今夜11時半からコンクラーベが始まり、133人の枢機卿が投票する予定です。
それを前に、サンピエトロ大聖堂ではミサが行われ、枢機卿たちが次の教皇を選ぶための知恵や判断力で満たされるよう祈りました。
枢機卿たちはこのあとシスティーナ礼拝堂に入り、※投票総数の少なくとも3分の2を獲得する得票者が出るまで、外部との連絡を絶った状態で7日は1回、2日目と3日目は午前と午後に2回ずつ投票を行います。
※当初公開した記事で、教皇の選出には「総数の3分の2を超える得票が必要」とお伝えしましたが、正しくは「総数の少なくとも3分の2の獲得」でした。
今回のコンクラーベでは、同性カップルの祝福や女性の要職への登用など、教会の改革を推し進めたフランシスコ教皇の路線が引き継がれるのか、教義を厳格に守るべきだとする保守派が巻き返すのかが焦点です。
欧米のメディアは、有力な候補者としてフランシスコ教皇の側近など複数の枢機卿の名前を挙げていますが、これまでのコンクラーベでは1回目の投票で決まった例は極めて少なく、枢機卿たちの出身地がアジアや中南米、アフリカなどと多様化する中、どこの地域の出身者が選ばれるかも焦点です。
サンピエトロ広場には各国から大勢の信者や観光客が訪れるなど関心が高まっていて、アメリカから赤ちゃんを連れてきた男性は「新しい教皇が誕生する瞬間をこの子と一緒になるべく近くでみて祝福してもらいたい」と話していました。
また、フィリピン出身の女性は「アジア初の教皇が選ばれてほしい。9日に帰らないといけないので あすまでに決まってくれれば」と話していました。
コンクラーベとは
コンクラーベは、ミケランジェロのフレスコ画「最後の審判」で知られるシスティーナ礼拝堂で行われます。
「コンクラーベ」とはラテン語で「鍵がかかった」という意味で、13世紀に教皇の選出が紛糾しておよそ3年にわたって空位が続いた際に、怒った市民が枢機卿たちを閉じ込め、新しい教皇を選出させたことがその由来とされています。
新しい教皇は、教皇に次ぐ地位にある枢機卿たちによって選ばれます。投票総数の少なくとも3分の2を獲得することが必要で、要件を満たす人が出るまで繰り返されます。
初日を含めて3日間、教皇が選ばれない場合は、最長で1日祈りなどの期間を設けてから再び投票を始めます。
投票の結果、教皇が決まらない場合は礼拝堂の煙突から黒い煙があがることになっていて、新しい教皇が決まると白い煙があがり、鐘が鳴らされることになっています。
教皇が新しく選ばれると、大勢の信者たちが見守る中、サンピエトロ大聖堂のバルコニーに姿を見せ、世界に向けてメッセージを送ることになっています。
これまで7人の日本人が枢機卿に
枢機卿は、ローマ・カトリック教会で教皇に次ぐ地位の聖職者で、教皇に助言などを行います。
現在、世界94か国、252人の枢機卿がいて、このうち80歳未満の135人が新しい教皇を選ぶ「コンクラーベ」で投票する権利を持っています。地域別では、135人のうち、ヨーロッパが53人と最も多く、次いでアジアが23人、アフリカが18人などとなっています。
枢機卿は教皇が自由に任命し、任期は設けられていません。任命された枢機卿の顔ぶれは教皇の意向を反映するとも言われ、135人のうち108人はフランシスコ教皇によって直接、任命されています。
何世紀にもわたり、枢機卿の多くを占めるのはヨーロッパ出身の人々でしたが、フランシスコ教皇は、ルワンダやミャンマーといった発展途上国や、スウェーデンや日本などのカトリック教徒が少ない国からも枢機卿を任命しました。
また、2020年にはアメリカを中心に黒人差別への抗議活動が広がる中、初めてアフリカ系アメリカ人を枢機卿に任命し、注目を集めました。
日本人はこれまでに7人が枢機卿に就任していて、現在は大阪大司教の前田万葉氏と東京大司教の菊地功氏の2人が務めています。
徹底した秘密保持
コンクラーベの特徴は、投票期間中に外部との接触を断つ秘密投票であることです。
投票が始まる前に、ラテン語で「全員退出」という意味の「エクストラ・オムネス」という宣言が行われ、その後、投票に関わる枢機卿たちを除くすべての人が、システィーナ礼拝堂から退去を求められます。
投票権を持つ枢機卿たちも、期間中、専用の宿泊施設に寝泊まりし、礼拝堂や宿泊施設から外に出ることは原則として禁じられます。
緊急時を除いて外部との連絡は許されず、携帯電話やインターネットなども使えません。
さらに、地元メディアなどによりますと、礼拝堂周辺では、通信を遮断するため電波を妨害する装置も使用されるほか、枢機卿の滞在する建物などの窓にも、外部からのぞかれないよう措置がとられるということです。
秘密の保持を徹底する理由は、教皇を選ぶ過程において、外部の勢力から介入を受けることを防ぐためだとされています。
投票用紙は、集計が終わったあとに専用のストーブで焼却されます。
教皇が決まった場合は白い煙、決まらなかった場合は黒い煙が上げられますが、焼却する際は白黒をはっきりさせる薬品が加えられ、外にいる人たちに対して認識しやすくしているということです。
専門家「票が割れる可能性も」
日本大学の松本佐保教授(国際政治史)は、コンクラーベに合わせて訪れているイタリアのローマで6日、NHKの取材に応じました。
今回のコンクラーベについて、フランシスコ教皇による改革路線が続くのか、伝統を重んじる保守的な路線への転換がはかられるのかが注目されるとしています。
その一方で「次の教皇には誰がふさわしいかをめぐって、さまざまな情報交換や根回しが行われている。中道の立場の人も結構求められている」と述べ、改革派と保守派のバランスがとれる人物がふさわしいという意見もあると指摘しました。
また、松本教授は、アジアやアフリカなどヨーロッパ以外の出身の枢機卿が増えるなど多様化が進んでいる現状について、「票が割れる可能性もある」という見方を示しました。
注目される候補者としてはフランシスコ教皇に近いとされるイタリア出身のズッピ枢機卿、選ばれればアジアからは初めてとなるフィリピン出身のタグレ枢機卿、西アフリカ・ガーナ出身のタークソン枢機卿、そして保守派として知られるハンガリー出身のエルド枢機卿を挙げました。
一方、地元メディアが有力な候補者のひとりとして名前を挙げているイタリア出身のパロリン枢機卿については、中国でのカトリック教会の司教の任命方法をめぐって中国政府との交渉に尽力してきたことなど、中国との関係が近すぎると受け止められていて、厳しいのではないかという見方を示しました。
そして松本教授は、国際社会におけるローマ教皇の果たす役割に関して「アメリカのトランプ大統領による関税措置や安全保障への対応などで世界がとげとげしくなり、国際情勢が不安定になりかねないという状況のなかで、安定や理性を代表できるのがローマ教皇でフランシスコ教皇はそういう方だった。そのことを引き継げる人物が求められている」と述べました。
ネットに選挙結果を予想するゲームも
インターネット上では、選挙結果を予想するゲームや、生成AIによって作成されたとみられる「候補者紹介」の動画も拡散され、注目を集めています。
イタリア人のピエトロ・パーチェさんらが開発したゲームでは、「次の教皇になる可能性が高い」とみられる枢機卿を選抜し、架空のサッカーチームを編成します。ただし、ゴールキーパーには教皇に適さないとみられる枢機卿を選択します。
このほか、次の教皇が改革派か保守派か、何回目の投票で選出されるかといった要素を予想し、現実の結果と照らし合わせて、どれだけ正解したかポイントを競います。
当初は友人同士で楽しむためにゲームを開発したということですが、今月5日の時点で9万3000人がこのゲームに登録しているということです。
パーチェさんはゲームが注目された理由について「現代においてコンクラーベという秘密選挙は非常に特殊だ。だからこそ、謎に満ちた選挙についてより深く理解したいと思う人がいるのではないか」と話していました。
また、SNS上では、動画のクリエイターが生成AIで作成したとみられる、次期教皇の有力候補とされる複数の枢機卿を紹介する動画が公開され、話題を呼んでいます。
カトリック信者「教会は情報発信を強化すべき」
カトリック教会をめぐっては、ヨーロッパで若い世代を中心に教会に通う人や聖職者の担い手が減少するなどの「教会離れ」が指摘され、若者の関心をどう維持するかも課題となっています。
こうした中、今月4日にローマ市内の教会で行われたミサに参加していた、イタリア人の若いカトリック信者からは、教会のより開かれた姿勢を期待する声が聞かれました。
18歳の男性は「教会にあまり足を運ばない人とも交流し、情報を伝えることは非常に良いことだと思う。そのためには、教会はソーシャルメディアに積極的に関わっていくべきだと思う」と述べ、カトリック教会はSNSなどを使って若い世代への情報発信を強化すべきだと訴えました。
別の若い女性も、「次の教皇はフランシスコのように弱い人たちを守るとともに、教会から離れていく世代をつなぎ止める方法を知っている人物がよいと思う」と述べ、気さくな人柄で知られ、SNSでも積極的な発信を続けていたフランシスコ教皇のような姿勢が、次の教皇にも求められると話していました。
一方で、ローマ市内の教会の神父、アルフィオ・ティッロさんは、SNSなどで教会の情報を発信することについて、「情報を伝えることは非常に価値あることだが、一方で曖昧さや解釈のずれを生むリスクもある」と述べ、ネットへの過度の依存に懸念も示していました。