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#通貨について:この旅行記では、ニュー台湾ドル(新台幣)を“元”、日本円を“円”と表記しています。なおこの旅の段階での為替は1元≒2.6円を目安にしてください。
● 885系(?)「太魯閣号」に乗車
花蓮鉄道文化園区の訪問を終え、旧駅前に停まっていたタクシーを拾って、花蓮駅へと戻ってくると、既に列車の発車数分前。
それにしても今回乗ったタクシーはハズレ。まあぼったくられたとか、そういう話ではなく、運賃はメーター通りの適正運賃。
何がハズレかというと…まず車内が不潔。そして臭いが強烈。
そして汚らしい中年男性の運転手は悪い人ではないのだが、「オトーサン!」「オニーサン!」「エキ!」「デンシャ!」…と、自分の知っている日本語の単語を脈略無く連呼し(本人は歓迎しているつもりなのだろうが…)、しかも途中でビンロウ(咬みたばこ)を食べ始め…といった具合。
まあ短距離だったから良かったものの、長距離は乗りたくないタクシーである。
そういえば今朝、紅葉温泉から瑞穂駅まで乗ったタクシーの女性運転手はというと…こちらは至って清潔な車だったのだが、車内で強烈なお香を焚いており、日本人にはちょっと耐え難い香りだったりと…
台湾のタクシーで、ぼったくりなどの嫌な思いをしたことがなく安心して乗れる反面、こうした違った部分での当たり外れが凄いように思う。
さて、タクシーを降りて、慌てて改札を通り抜け、ホームへと急ぎ、台湾一周最後となる、台北行きの「太魯閣号」とご対面。
パッと見、JR九州の885系にも見えるのだが…それもその筈。このTEMU1000形電車は日立製作所製で、885系の台湾仕様の車両なのである。
ここ花蓮から台北までの路線は、台湾東北部を海岸近くの平野を三角形の二辺を走っていくような形になるのだが、近年高速道路がショットカットするルートで開通し、窮地に立たされた台湾鉄路管理局が、起死回生に振り子方式を搭載したこのTEMU1000形を導入したという次第。
また「太魯閣」は「タロコ」とよみ、中国語や台湾現地語だけでなく、日本語での発音のしやすさも意識して命名されているとのこと。
そして従来の自強号(特急相当)で2時間半~3時間を要していた花蓮-台北間を、わずか2時間という、驚異的なスピードで結んでおり、885系譲りのルックスも含め、大人気の列車になっている。
(細かいことを言うと、太魯閣号も列車種別上は自強号扱いで、厳密には「自強号太魯閣列車」となるのだが、今回は便宜的に「太魯閣号」という表記にしています)
そのため常に満席での運行が続いており、今回ももう少し遅い時間の列車に乗りたかったのだが…旅の途中で何度となく窓口で指定席を確保しようとしたものの、結局この14:30発の便だけが辛うじて購入できた次第。
(それでも最初は満席だったので、キャンセルが出て購入できたと思われる)
また台湾の優等列車は、日本のように「自由席」「指定席」に車両が分かれているわけではなく、基本的に欧州などで見られる「指定席券を持っている人に優先権があり、空いている席は自由席。」というシステム。
しかしこの太魯閣号と台湾高速鉄道(台湾新幹線)は例外的に、日本的な「指定席車」という概念で運行されており、指定席券を持っていないとその車両には乗車できないシステム。
更に太魯閣号の場合、「全車指定席」であり、指定券を確保できない限り、乗車すら出来ないのである。
駅にもこんな注意書きが張られている。
サービス品質や車内の余裕…と言ったことを理由に挙げているが、他にも台湾では馴染みがなかった振り子列車の導入に当たって、「揺れ」を警戒し、安全確保という意味合いもあるという話を聞いたことがある。
そして乗車
時間が無かったので、飲み物などは「車内販売で買えばいいや」と思っていたのだが…これは失敗。
2時間と所要時間が短いこともあってか、車内販売は乗車して居らず、台北まで飲まず食わずで過ごすことになってしまった。
花蓮で歩き回った後なので、水分補給くらいしたかったのだが…
車内とシート
台湾で標準的な「カップホルダーが2個窓側にある」仕様なのだが、台湾では珍しく格納式のテーブルが装備されている。
また885系の兄弟車ではあるのだが…水戸岡デザインの885系と比べると、ちょっと味気なく、しかも車内のフリースペースなどもなく、何だか寂しい雰囲気。
そして満席で隣にも人が居る状態で、あまりウロウロする気にもならず、台北までじっと大人しく過ごすことに。
(正直、885系を知っていると味気なく感じてしまい、今回のように“わざわざ時間を合わせて”までして乗る価値があったのかは正直「?」。次回以降は「一回乗ったから、もう良いか…」とノーマルの自強号を利用しそうな予感。)
列車はまず1980年に開通した北廻線を走っていくのだが、この区間はトンネルが多く、あまり景色は良くない。
そして鉱石の積み出し施設などを横目に列車は走行
その後、日本統治時代からの宜蘭線に入ると、ようやく鉄道旅行の雰囲気が高まってくる。
しかし花蓮を出発し、次の停車駅は台北市内の松山駅。まあ東京駅に対する品川駅のような駅で、松山駅を出ると数分で台北駅へと到着。
これで5日ぶりに台北駅へと戻ってきて、鉄道での台湾一周を達成。
で、これで旅の報告もおしまい…という訳ではなく、今回を含めてあと2編ほどお付き合いの程を…
● 「台湾百年文物特展」を見学
そして台北駅へと戻ってきたのだが…
台北駅のホームは台湾高速鉄道(台湾新幹線)を含めて全て地下に位置しており、改札口なども基本的に地下にあるので、地上の立派な駅舎は一部にフードコートなどが設置されているものの、基本的には広い空間があるもののガラガラな雰囲気。
そんなだだっ広い空間で、「台湾百年文物特展」という鉄道関係の展示が行われているので、ちょっと覗いてみることに。
改札口を模した入り口。
入場は無料なのだが、係員から台鉄の乗車券を模した入場券が進呈されるのだが、係員の女性が「ニッポン?」「キップ ノ ウラ スタンプ オセル」と、記念スタンプを進めてくれた。
上の改札口風の他に踏み切り風の入り口もあり、踏切小屋に至るまでナカナカ凝った造り。
そして展示物
改札鋏や車掌用端末
往年の切符印刷用版木
発券窓口用端末(台湾版マルス?)
各種車両のシート
往年の制服
車両パーツや保線用車
信号制御板
今回の旅で訪問した高雄港駅の現役時代の図面
そしてこれから乗車予定の淡水線の図面
今回の旅でも何度か見かけた鉄道パーツで作ったロボット
更に屋外にも展示があるとのことで外へ出てみると…
前回のブログで紹介した東海岸の台東線(花東線)に関係して、ナローゲージだった時代(西海岸と鉄道路線が繋がっていない時代)に使われていたSLと気動車が展示されている。
SLのほうは日本車輌で1923年に製造されたLDK58という機関車。
何と台東線が改軌される1982年まで現役だったというから驚き。
機関車のボイラー
そして気動車の方はLDR2201という車両。
1957年製造で、「彷照日本国鐵湘南車型打像車身」との説明がついており、当時は「黄皮仔車」と呼ばれていたのだとか。
運転席(窓越しで撮影)
客席(窓越しで撮影)
どうしても言葉の問題があって、基本的に漢字でしか理解できないので、細かなニュアンスなどは掴みきれないものがあるものの…
非常に展示パネルなども丁寧に作られており、テーマも明快で、しかも実際に手に触れたり動かせたりする展示物もあって、非常にクオリティが高く、見応えのある展示だと言えるだろう。
そしていつもながら台湾の博物館やこうした展示のクオリティの高さには脱帽させられる。
● 淡水線で北投温泉へ
そして台北駅近くのホテルに荷物だけ置いて、先ほどちょっとだけ名前が出ていた「淡水線」に乗って北投温泉へ日帰り入浴に出向くことにする。
で、この淡水線だが、かつては台北駅と郊外の淡水駅を結ぶ台湾鉄路管理局の路線だったのだが、近年一旦廃線のうえ、MRT(地下鉄)路線として復活させたというユニークな路線。
淡水線の車両
そして北投温泉最寄りの新北投駅へは、途中の北投駅で1駅だけの支線に乗り換え。
何せMRTで1駅で、あっという間に着いてしまう支線なのだが…
しかしこの区間は北投温泉への観光路線ということもあって、1駅だけながら専用車両が使用されている。
派手なラッピング
車内も特別仕様
往時の北投温泉の写真を掲示していたり、観光案内のシステムを搭載したりと、1.2kmだけの支線を折り返し運用するには勿体ないような特別仕様。
まあ逆に言えば、乗車時間が短いので、着席率が下がってもクレームが出にくいということもあって、ここまで思い切った特別仕様にすることが出来るのかも知れない。
そしてあっという間に新北投駅に到着。
北投温泉といえば、「北投石」でも有名な温泉地で、日本統治時代に開発された温泉街。
ちなみに新北投支線は日本統治時代の1916年に、1901年に開通していた淡水線と北投温泉を結ぶ観光路線として開業した路線である。
(淡水線自体は、港町である淡水港と台北を結ぶ目的で建設された路線)
そういった歴史もあって、温泉街の雰囲気は笑ってしまいそうなほど日本的。
石畳の道を歩き(温泉の排水が側溝に流れ込んで湯気が立っている)
更に右手には「加賀屋」まで見えてくる
近年、和倉温泉の老舗「加賀屋」がここ北投温泉に進出して作られた温泉旅館で、ちょっと泊まってみたい気もしたのだが…
お値段もそのまんま加賀屋価格で、私が調べた段階では日本円で二食付き3万円程。台湾の物価を考えると…あまりに高額すぎる気がしてならないのだが。
昨夜の紅葉温泉が朝食付き1300円程だったことを考えると…流石にこんな贅沢は出来ず、今回は断念。(同じ金額なら、北投ではなく和倉で泊まりたいかも)
そしてお目当ての北投公園露天温泉へと到着。
ここは40元(≒105円)で日帰り入浴が出来る露天温泉。
しかも5:30から22:00まで営業しているという、非常に有り難い施設。
しかし営業時間内に何度か清掃のための入れ替え時間が存在し、間が悪くちょうどその時間にぶつかってしまったので、他の客に混じって入り口前で待機。
で、その間の時間を使って、台北駅で買ってきた駅弁で夕食第一弾(!?)
台湾の駅弁といえば、ご飯の上にカツなどの肉類+野菜+煮卵という判で押したような弁当が多いのだが、今回はちょっと変わり種の菜食(ベジタリアン)をチョイス。
ふりかけご飯に野菜と昆布の煮物がのっている感じなのだが…煮物は至って日本的で馴染みのある味なのだが、肝心のふりかけご飯が強烈。
例えるならカツオふりかけのような食感なのだが、もちろんベジタリアンなのでカツオではないだろう。
しかし味が…「甘い!!」
カツオふりかけにシロップを和えて、一度乾燥させたような…正直、ちょっと拷問のような味で、お茶で流し込むように完食したものの、二度と買うことは無いだろう。
そして清掃時間が終了し、いよいよ入浴。
この先は撮影禁止なので、浴槽の画像などは無いのだが、温泉そのものは棚田状の浴槽で、自分の好みの温度の浴槽に浸かれる有り難いシステム。
但し脱衣場は野湯のような土足のまま入るシステムで、どうも清潔感が無い。(日本のように下足場→脱衣場→足ふき→浴室というクッションがなく、下足場がダイレクトに温泉のような感じ)
またコインロッカーは有料。
そして日本の温泉と同様に色々注意書きがあるのだが…
一番不思議なルールが「湯船に足だけ浸けてはいけない」というルール。つまり「湯船に入るなら肩まで浸かりなさい」ということ。
ついつい一休みするときに、浴槽の縁に座って、足だけを浸けてしまうのだが…これがNG。
しかも監視員が居て、常に目を光らせていて、湯船に立った状態で静止しているだけでも注意してくるほど。つまり歩くとき以外は立ち上がっても駄目なのである。
そうは言っても、ついついいつもの癖が出てしまう訳で…
湯船で暖まったあと、そんなルールを一瞬忘れて縁に腰掛けて「ふ~」と一息つきかけて、「あ…駄目だっけ」と気がついて足を上げたのだが…その一瞬の間に監視員が既に私の方を目掛けて歩き始めており、私が足を上げたのを確認してサッと引き返していった。
脱衣場の床が土足で汚いことと、この不思議なルールがあって、どうも落ち着かない北投温泉入浴となったのだった。
<つづく> 次回ようやく最終回です。