今回はいきなり引用から…
921大地震は、台湾時間の1999年9月21日1時47分18秒に、台湾中部の南投県集集鎮付近を震源として発生したモーメントマグニチュード(Mw)7.6の地震。921大地震のほか、台湾大地震、集集大地震、台湾中部大地震、921集集大地震、台湾大震災、集集大震災、台湾中部大震災などと呼ばれ、台湾では20世紀で一番大きな地震であった。
被害
死者:2,415人
負傷者:11,306人
行方不明者:29人(台湾行政当局の発表)
特に被害が甚大だったのは震源の南投県と、南投県に隣接する台中県だが、震源から比較的離れた台北市と台北県でもビルが倒壊し多くの死傷者が出た。台湾鉄路の集集駅駅舎は倒壊(2001年に修復再建された)。台湾の成長の原動力であるハイテク産業の中心、新竹も被害を受け、この年の経済成長を下方修正せねばならなかった。
九二一地震教育園区は、台湾の台中市霧峰区光復新村に位置し、旧光復国中跡地に、地震に関する資料の展示と住民への防災意識啓蒙を目的として建設された博物館である。
ここの地下を車籠埔断層が横断しているため、921大地震(台湾大地震)では校庭が隆起し、光復国中の校舎及び校庭は全壊の被害を受けた。専門家で協議を重ねた結果、光復国中跡地に地震博物館を建設し、震災跡を保存すると共に、関係資料、映像、図書を収集し地震に関する理解を深める教材として活用することが決定した。展示内容は地震科学に関する内容の他に、地震体験と防災教育施設を併設し、専門家の研究以外にも社会教育機関として利用される。
※Wikipediaの当該記事より抜粋・引用
で、今回はこの九二一地震教育園区を訪れた話。
日本統治時代の大正6年に建てられた駅舎の残る台中駅前から
九二一地震教育園区へ直接乗り入れるバス(台中市公車50系統)に乗車
しかしこのバス…
交通局の公式サイトでは「ラッシュ時以外は10~20分に一本の運行」といった程度の情報しかなく、詳細もわからないのでぶっつけ本番で乗ってみるしか無いという曲者。
序でに言うと、この系統以外にも九二一地震教育園区そのものへは乗り入れないものの、すぐ近くのバス停まで行く系統も多数有るのだが…
台中駅前のバス停がバラバラに離れているうえ、詳細な出発時刻表も無く「●●分に一本」程度の案内しか無いため狙いが定められず。
仕方が無いので50系統をひたすら待ったのだが、タイミングが悪かったようでたっぷり20分待った挙げ句に、すぐ後ろに同系統のバスが団子状に走っているという間の悪さ…
怪しさ抜群の誘導ロボット(?)など眺めつつ
結局、終点の九二一地震教育園区まで58分も掛けて到着。
しかも台中の運転マナーは…急加速・急ブレーキ・急な割り込み…となかなかダイナミック。そんな訳でちょっと気分が悪くなり始めて、「これ以上乗り続けるのは無理かも」と思い始めた頃にギリギリセーフで到着。
ちなみに台中市には「IC乗車券利用なら近距離のバス運賃は無料」という制度があるため、運賃は無料区間(系統毎に異なるが今回は10km)を超えた分だけ支払えば良いので今回は小一時間乗っても9元(≒31円)という驚異的な低価格。
(ちなみにこの制度は「地下鉄が無い台中市で公共交通機関利用を促進し渋滞緩和に繋げるため」あるいは「実は選挙対策のバラ撒き」など、色々な説を聞くのだが、本当のところどういう趣旨なのか知らない…)
いくら安くても、流石にこのルートは私にはちょっとキツいというのが正直な感想。そんな訳で帰路は別のルートを試してみることにしてみたい。
バスは九二一地震教育園区とは川を挟んだ対岸に設けられた大駐車場内のバス停へと到着
ここから橋を渡り
地面に描かれた揺れのグラフなどを眺めながら
エントランスへと到着
大人50元(≒168円)入場券を購入すると、英語で「どこから来たのか?」と聞かれ、日本からだと返すと「こんばんは(?)」という挨拶ともに日本語の館内案内を手渡される。
ちなみにここの園区の7割程度の展示には日本語の説明も併記されており、日本人的には有り難いところ。(但しその日本語がやや堅苦しい表現が多いのはご愛敬だろうか。)
そして園内にある5館の展示施設と、点在する保存被災校舎を順路に従って見学していくことになる。
先ずは「車籠埔断層保存館」という施設からスタート
ここは主に地震のメカニズムをプレートテクトニクスと台湾島の成り立ちといった切り口から紹介している施設
子供の訪問を想定してか、模型などを実際に動かしながら地震のメカニズムについて学べるようになっており、なかなか丁寧で凝った展示が好印象。
またプレートテクトニクスという観点で言えば、我々は主に日本を例にした視点で学んでいることもあり、台湾を中心とした視点での解説がちょっと新鮮。
そしてこうした展示の他、「車籠埔断層保存館」という名の通り、断層そのものを現地保存している施設でもある
更に窓の外に目をやると、川の堤防に凄い段差ができているのだが、これも921地震による断層
そしてここの施設のメインはグラウンドの陸上トラックを横切った断層
元々のラインがハッキリ解る上、舗装されているため風化もしにくく、解りやすく断層の動きを感じ取ることが出来るのである。
詳しい説明は少々手抜きながら、展示パネルの写真で…
そして当時の写真も展示されている
実はこの断層…実はかなり長く続いており、その断層沿いの被害状況を解説した展示もあったのだが、今回は現地(この園区)で直接目にすることの出来る部分に関わる内容だけを抜粋して紹介していることをお断りしておきたい。
そしてその次は実際に被災した校舎(南側)を保存しているエリア
地震で被災した校舎を、補強材などを用いつつ、当時の状況を現場で保存している。
また一部区画はコンクリートのトンネル的な通路を設けて安全性を確保しつつ、建物内を見学出来るよう工夫されている。
そして地震により生じた短柱現象など、実際の被災状況を見ながら説明を加えることで、非常に解りやすく感じ取ることが出来る
被災した教室と往時の写真
また往時の学校建築の特徴と、地震による被害が大きくなった理由の考察など、実際の被災校舎を見ながらの説明で、理解しやすい
なお見ての通り、建物の被害は非常に大きいのだが、地震の発生時刻が深夜1時47分という時刻で会ったことから、学校内で人的な被害が発生していないのは不幸中の幸いと言えるだろう。これがもし日中の授業中の出来事なら…と考えると背筋が凍ってしまう。
そして順路は「地震工学教育館」へと進んでいく
「地震のメカニズム」から「地震の被害」と見てきて、今度は建築あるいは土木てきな視点から耐震工学について考えていく施設。
主に地震の揺れを再現する装置の上で、建物への揺れの伝わり方や建物の耐震性を模型を使って体験できるコーナーになっている。
液状化現象の再現
各種防振構造の効果についての実験
静止画では解りにくいのだが、実際に地震の揺れを起こして、建物の揺れ具合を観察しているシーンである。(左側の模型など歪みがみられ、実験中であることがわかるだろうか)
台北101(台北にある高層ビル)で見た耐震球の効果についても、他の構造の建築物を見比べながら体感出来、ようやく球の効果を理解した次第。(建築については全くの素人なもので…)
そして耐震性のある柱と壁の構造について考える実験
ちなみにこの実験、実験する度に模型が崩れてしまうため、その都度にスタッフがさっと現れて元に戻していくという、何とも手の掛かる展示なのである。
そして南側校舎と同様に当時の状況をそのまま保存している北側校舎を横目に(こちらの北側校舎は順路的に後からの見学となる)
ぱっと見、土手の切れ目のような所を通り抜けて次の「映像館」を目指すのだが…
実はこの土手のようにも見える構造物、よく見てみると…
かつては南側校舎と北側校舎を繋ぐ2階建てのオープン廊下だったものが倒壊しサンドイッチ状になってしまっているのである
元々壁が無く、オープンな廊下だったこともあり、床と天井が完全にペタンと重なってしまっているのである。
そして次はかつての体育館を改築したと思われる「映像館」へ。
その名の通り、映像シアターでプログラムが上映されている施設なのだが、2本のプログラムが時間的に交互になるよう上映されており、ほぼ待ち時間なしで見ることが出来るよう工夫されている。
先ずは3Dプログラム。3D眼鏡を受け取ってシアターへと入るのだが…
何故かプログラムは「北極熊」
地震とは何も関係が無いのだが、シリアスな展示が続く施設なので、中間でちょっとホッと出来るようなプログラムを選んでいるのかも知れない。
なおこのプログラムには日本語訳は無く、スクリーンに表示されている中国語字幕で内容を推測しながら見ていたので、間違いなど有っては困るので細かな内容の紹介は省略することにしたい。
そしてもう1カ所のシアターはこんな空間

※上映終了後に撮影
家庭のリビングに見立てた空間で、当時の地震の揺れを再現する装置が組み込まれており、当日の揺れがどのようなものであったのか体感出来るというシアター。
上映中に実際の地震の発生時刻にあわせ、真っ暗な中で地震の揺れを体験する事になる。
なお上の写真では本棚の中身が放り出され、TVも倒れているのだが…上映前にはその都度全て元に戻され、上映中に人工的に起こされる地震の揺れで飛び出てきてこうなっているのである。
もちろん床はクッション素材になっており、また本当に飛び出てはいけないものは固定され、飛び出てくる小道具も軽く角が丸いものになっているなど、安全に配慮されてはいるものの…体調の悪い人や恐怖症の人は見学しないようにといった注意書きがある。
こうしたシアターの他、日本統治時代を含めて過去に台湾で起きた地震についての解説などの展示コーナーも設けられている
また地震発生時の家族の絆、あるいは諸外国からの支援、といった「絆」をテーマにした展示もあるのだが、この部分は日本語や英語の説明を欠いている部分が多く、間違いがあっては困るので細かな紹介は省略したい。
そして次は先ほど横目に見てきた被災校舎(北側校舎)の見学
ぱっと見、二階建てかと思ってしまいそうなのだが…
三階建ての一階部分が押しつぶされてしまっているのである
かつての門柱と玄関
更に順路は見学用に設けられた歩道橋へと上がり、被災校舎を見下ろす形で見学することになる
そして今度は「防災教育館」という展示館へと進んでいく
地震に関する伝承や言い伝えを紹介するコーナーの他、西遊記の物語をアレンジし防災をテーマにした物語に沿ってゲームなどを取り入れて楽しく防災を学ぶ趣向のコーナーも設けられている。
とは言え、話のアレンジが露骨な事に加え、日本語訳が妙に堅苦しい事もあって子供向きでは無さそうな気も…(但しこれは日本語で見た場合の話)
何せストーリーがこの堅さなので…(一部抜粋)
そしてこのストーリーに沿って、デパートの屋上にありそうな乗り物や昭和の香りのするゲームセンター風のゲーム(モグラ叩きなど)、そしてムービーなどが組み合わせられている。
ここで有料ゾーンは終了なのだが、最後にもう1つ「重建記録館」という施設がある
「重建」とは“再建”あるいは“復興”といった意味合いのようで、震災後の復興に焦点を当てた展示なのだが、残念ながら日本語の説明は無し。
住宅や公共施設、コミュニティ、そして鉄道などのインフラの復旧・復興について取り上げられている
なおこの施設は有料ゾーン外のため、入場無料となっている。
そしてこの施設の屋上はこんな感じ
かつて陸上トラックに対応していたスタンド跡だろうか。それにしてもトラックと言い、このスタンドと言い、中学校にあった施設としては相当に立派で驚かされる。
なお敷地内の駐車場や通路も陸上トラックをイメージしたデザインになっている
こうして園区の見学を終了。駐車場のバス停へは戻らず北側の出口から退出し、光復新村の集落を抜けて帰路につくことにしたい。
最後にこの園区全体の感想なのだが…「(台湾に居る限り)地震は避けられないが、地震について知り、備えることが大切である」という考え方が一貫しており、同じ地震を避けられない国に住むものとして共感することが多く、凝った展示は勿論のこと、その背景にある考え方からも感じさせられることの多い施設だったと言えるだろう。
また明文化されている訳では無いのだが、ここの展示の作り手の意図として、同じ地震を避けられない国である日本からの見学者も想定し、日本人へ向けてのメッセージ性も含んでいるように感じられた。
例えば場所が場所だけに日本からの訪問者の絶対数は限られているにも関わらず、(全てではないのものの)きちんとした丁寧な日本語の案内が用意されていることなど、その意図が現れている一旦なのかも知れない。
こうして園区の見学を終え、敷地外へ出たものの、しばらくは先ほど順路として通ってきた北側校舎沿いに道路を歩くことになる。
先ほど紹介した北側玄関付近。地震により現れた断層で道路が波打っている
そして静かな光復新村の集落を眺めながら歩き
10分も歩けば光復新村の中心に位置するロータリーへと到着
ロータリー沿いには飲食店を中心とした道の駅的な施設もあり賑わっている
日中に限り、往路に乗ってきた50系統のバスがこのロータリーまで乗り入れているのだが…今回は更に5分ほど歩いた大通り沿いのバス停まで歩くことにしたい。
しかしバスの時間まで余裕があったので…
ロータリー沿いに牛肉麺の店があり、繁盛しているようなので食べていくことに
ローカルな店なので、英語は通じないと思い、片言の中国語で「ニーロータンメン、バイトォ」(牛肉湯麺、拝托→牛肉湯麺を下さい)とオーダーすると…店員さんから流暢な英語が返ってきて驚き。と言うか、座席にオーダーシートがあったので、無理に言葉を喋る必要も無かったのだが(汗
そして明らかに道路なスペースで牛肉麺を味わう
そして時間を見計らい、大通り沿いの光復新村バス停まで移動
ここのバス停は幹線道路沿いという事もあり、多数の系統が通過しており台中駅行きのバスは山手線なみの頻度(ちょっと大げさな表現かも…)で来るのだが、こうしたバスを3本ほど見送ってお目当てのバスを待つことに。
そしてお目当てのバスに乗り込む
実はこのバス…1日5本だけ運行される高鐵台中駅(台湾新幹線の駅、日本風に言えば“新台中”に相当する駅)方面へ向かう
151副という系統のバス。
このバスなら高速道経由で街外れの高鐵台中駅へ向かうため、加減速を繰り返す台中市内直行のバスより快適なのではという判断。
で、この判断は正解だったようで、バスは高速道路を快走
複雑奇怪な高鐵台中駅付近のジャンクションを抜け
20分程で高鐵台中駅へと到着
ちなみに運賃はICカード割引で18元(≒61円)とちょっと高め。高速道路経由だったのであまり距離感は感じなかったのだが、距離的には長かった模様。
(もしかすると、高速のジャンクションをぐるぐる走っている距離が意外と長いのかも。更に高速道路から高鐵台中駅へ入るのに大分と遠回りをしており、一瞬「乗り越したか!?」と心配になったほど。)
そして駅構内のテナントが「どこの国なのやら」と思わせられる高鐵台中駅構内を通り抜け
連絡通路で繋がっている在来線の新烏日駅から電車で台中駅へと帰還
ちなみに在来線のお値段はICカード割引で14元(≒47円)
バス代と合計すると32元(≒107円)となり、往路の9元(≒31円)よりは随分と高くなってしまったが…まあ快適さを考えるとこれくらいの差は構わないだろう。(とは言え、日本円で考えると76円差でしかないのだが)
オマケ…電車の車内で妙に気配を感じたと思ったら…