赤ちゃんの白い軽 最終回です。
白い軽がどんどん私の車に近づいていきます。
どう見ても絶対抜けないのに、全く減速する気配はありません。
ゆっくり、ゆっくりと私の車の間近まで近づきました。
そして、あっ!ぶつかった!!
そう思いました。
そこで信じられない光景を目の当たりにしたのです。
白い軽はまるで私の車がそこにないような感じで進み続け、そしてすうっと私の車と重なるようにすり抜けたのです。
は、はぁ???
私は状況が読み込めず、暫く茫然と立ち尽くしました。
あの軽、私の車を通り抜けて行った・・・
少しして我に返り、「いやいやいやいや、そんなアホな、それはないやろ~」と一人で突っ込みながら、何度も車と周囲を見渡しましたが、どう考えても軽が通り抜けられるわけがない。
とにかくこんなネタは滅多にないと、友人達に話す為、友人達のところに戻りました。
ちょうど食い込んでいたフロントスポイラーを引っぺがし終わり、自走できる状態になったところでした。
私が友人達に、「白い軽が私の車をすり抜けて行った」と話すと、「なに当たり前のことを言ってんの?そら、すり抜けていくやろ!」とかえってきました。
「いやいや、横を通り抜けて行ったんじゃなく、私の車に重なって抜けて行った」と言ったら、「いや~さすがにそれはウソやろ~」と、信じてもらえません。
「ウソだと思うなら、オレの車のところまできてみろよ!!」
友人2人は私の車のところまで車を動かし、私の車を眺めます。
「車、動かしてないの?」「ずっとこのまま?」
友人達が口々にそう言います。
私が車は動かさずずっとこのままだというと、「これ、絶対ムリやろ~」「もしかして出たんちゃうんか!?」と言い出しました。
なぜならその峠は、昔から出るとウワサされていたからです。
いつまでもここにいても仕方がないので、とりあえず私達は峠を下りることにしました。
峠を下りきったところにコンビニがあり、私達はそこでコーヒーを飲みながら、先ほどの出来事を振り返りました。
軽が延々とノロノロ走っていたこと、突然猛スピードで走り出したこと、途中で止まったので抜いたこと、急に砂利道になりフロントスポイラーが木っ端みじんになったこと、そしてあの軽が私の車に重なるようにすり抜けて行ったこと・・・
そこまで、話してみんな無言になりました。
もし本当にあの状態で私の車を抜いていったのなら、いったいあの軽はなに?
やっぱりあの軽は幽霊だったんだろうか・・・
いくら話しても埒が明かないので、私達は帰ることにしました。
怖くて寝れないというよりも、夜も白みかけてきてそろそろ眠くて限界でした.
そこから家まで車を走らせ、着いた頃にはすっかり夜が明けていました.
眠さの限界で、すぐに熟睡してしまいました。
2週間ほど経った頃、先日の友人達とは別の友人が、私の家に遊びに来ました。
色々話していると、友人がとても恐ろしい体験をしたと話し始めました。
その日友人は自宅に帰る為、真夜中にバイクを走らせていました。
そして私達が先日通った峠道を帰っていたらしいのです。
その峠道は私達にとっては遠回りの道でしたが、友人が自宅に帰るのには最短ルートでした。
深夜の峠道、行き交う車はありません・
友人はバイクだったこともあり、気持ちよく快走していたようです。
暫く走っていると、前方に車が。
とても遅いのかすぐに追いつきました。
ちょうど狭隘区間に入るところだったので、バイクでも抜けない。
仕方なく後ろについて走りました。
メーターを見ると時速20㎞。
勘弁してくれと思っていたようです。
私が「車はなに?」と聞くと、「白の○○」
私達が先日遭遇したのと同じ車でした。
暫く後ろを走っていてしびれを切らした頃、バイクでなら抜ける道幅の直線になったそうです。
えいっ!とばかりにアクセルをひねり、白い軽に並びました。
そしてこんな真夜中にちんたら走ってどんなやつだ?と車内を覗きこみました。
そしたら・・・
運転席で運転していたのは赤ちゃんだったと言うのです。
私達も不思議な体験をしていたはずが、思わず「いやいやそれはないやろ~赤ちゃんが運転席で抱っこされてたんと違う?」と言ってしまいました。
友人も最初はそう思ったのらしいのですが、何度見ても運転席も助手席も他に誰も乗っていない、赤ちゃんだけだったと言うのです。
赤ちゃんがどうやって運転していたんだと聞くと、運転席に立って笑いながらハンドルを握っていたと。
薄気味悪くなった私は、「そんなんアクセルに足届いてないやん、どうやって進むん!!」と真面目に突っ込みを入れてしまいました。
暫く並走していると、それまで前を向いていた赤ちゃんが、突然こちらを向いてニヤニヤと笑いかけてきたと言うのです。
恐ろしくなった友人は、アクセルを全開にして逃げるように追い抜きました。
ホッとしたのも束の間、今度はその軽がものすごいスピードで追いかけてきたらしいのです。
いくら振り切ろうとしても、どんどん近づいてくる軽。
友人はお世辞にも運転は上手くなく、人並みですが、乗っているバイクは当時最速といわれたぶっちぎりに速いバイク。
いくらなんでも本気で走っているのに追いつくわけがありません。
友人は半分パニックになったようでした。
走っても走っても、テールツーノーズでピッタリついてくる軽。
今にも後ろから追突されそうな間隔だったみたいでした。
途中で私達が停まった工事で砂利道になっているところで転倒しそうになりながらも必死で立て直し、一目散で峠を駆け下りてきました。
気がつけば峠を下りきっていて、後ろを振り返ってみてももう軽はいませんでした。
これが私と友人が体験したことの全てです。
一切脚色はしておらず、ありのままの実話です。
因みに私はこの友人に、私達が遭遇したことをまだ話していませんでした。
その後、私達はその峠を走るのを避け、バイクの友人も隣県への最短ルートだったのに、この道を通るのをやめ、わざわざ遠回りすることにしたようです。
月日は経ち、この峠道もバイパスができ、随分低い所からトンネルで一直線で通り抜けられるようになりました。
それにしてもいったいあの白い軽はなんだったのでしょうか?
バイパスが完成した後も、現在も旧道は閉鎖されず走ることができます。
もしかしたら今も、夜はもう誰も走らなくなったであろうあの道を、あの白い軽はひとりで走り続けているのかもしれません。
毎日暑い日が続くなか、少しは涼んで頂けたでしょうか。
フィクションならもっと怖い要素を取り入れられたと思うのですが、実話を誇張せず、できるだけ詳細にありのままを綴りました。
もしかしたら今度貴方が走ろうと思っている旧道は、この道なのかもしれませんよ!!
どうぞお気をつけて。
最後までご覧くださり、ありがとうございました。