とかくケチョンケチョンに言われることが多い日産マーチですが、僕昨年のジュネーブでのワールドプレミア以来ずっと丹念に取材を継続していて、開発者の思いの丈をみっちり聞いていたこともあって、かなり肩入れする立場を取っているわけです。
生産拠点を、タイ(日本を含むASEAN諸国)、インド(対欧州輸出)、中国、メキシコ(北南米)と役割分担を最適仕向け地ベースで考え、現地調達率や入手可能な鋼材などの素材からデザインを構築し、価格競争力とクォリティのバランスを図りながら最適解を得る。国内の空洞化を危惧する声もあったが、実は合理化が徹底された日産の国内生産拠点は、これまでマーチの国内生産を受け持っていた追浜を含め現時点でフル操業の状態で、全世界で少なくとも年産40万台規模が想定されているマーチを受け入れる余地はない。
従来マイクラ(欧州マーチ)の生産拠点だった英国サンダーランド工場は、キャシュカイのヒットと新規導入のJUKEで手一杯。グローバルな競争力を考えた場合、国内に再投資するより新興国に生産拠点を移したほうが効果的。企画、開発は厚木のNTC、品質管理については日本の座間工場内にあるグローバル車両生産技術センター(GPEC)が強力にサポートする体制を構築し、総合力でサバイバルゲームに臨むという大方針の下に、Vプラットフォームという戦略的コンパクトカーのベースを開発。広州オートショーでワールドプレミアとなったサニー(中国名)や4月の上海ショーでデビューが予定される新型ハッチバック(note? tiida?)と合せて100万台を想定したグローバルに通用する一大コンパクトカーシリーズに仕立て上げる目標が立てられている。
まあ、メーカー目線にばかり立っていても仕方がないので、その結果としてのクルマはどうなのさ? であるが、僕のマーチ評は一貫してOKラインに収まっている。BセグメントにはRやGTIのタイトルを冠したホットハッチのマーケットは事実上存在しない(欧州でも数%未満)。冷静な市場分析から出た答えは、欧州仕様に存在するスーパーチャージャーにしても、あくまでも省燃費のためのデバイスであって、スポーツのための設定ではない…と加藤顕央セグメントCPSは明言していた。マーチは糧を得るためのクルマなのだ、と。
今回改めて都心部から箱根、富士裾野方面へと足を伸ばしてみましたが、動力性能に不足を覚えることはありません。これはドイツのアウトバーンで国産1.5ℓクラスを試した経験によるものだが、たとえばマツダ2(デミオ)の5速MTモデルなどは200㎞/hに迫るなかなかの駿足。スポーティという形容がしっくりする仕上がりを見せている。マーチの場合、タイヤ(165/70R14のファルケン)に十分なコストが支払われていないということもあって、上質感という視点での詰めは不十分といえるが、穏やかなステアリングと懐の深さを感じるハンドリングに齟齬は感じない。
ボディ剛性をコンパクトカーの常識を打ち破るほど高め、正確で手応え十分なステアリングとちょっと危うい部分を残しながらも何とかバランスを保つハンドリングで感嘆の声を挙げさせるVWポロの仕上がりには一瞬だじろぐが、冷静に考えればそれはオーバースペックを正当化するマッチポンプの結果とも言えるし、ベースモデルの1.2ℓTSIでも200万円の上を行く。
VWポロの仕上がりは素晴らしいし、バリューフォアマネーの視点からも十分納得できるという評価は下せるが、そこが世界的なホットコーナーかといえば、多分違う。少なくとも、日本メーカーの同クラスはベンチマークに置くことはあっても、それよりも大きな現実的なマーケットを見ている。積極的にVWポロを追いかけるメーカーのひとつぐらいはあってほしいとは思うが、それを目指さなければ許さぬかのごとき言説には経験の浅さと視野の狭さを感じる。 まあ、そこは僕も通ってきた道ではあるけれどね。それに気がついた時に状況がどうなっているか。問題はそこだ。
オーバースペック、オーバークォリティ、オーバーファンクション……現実的な使用環境に照らした上での過剰性に対する冷静な判断。時代の大転換点を迎えた今問われているのは、ここだろう。無限の成長を信じた右肩上がりの性能至上主義から脱却せずに、化石燃料を燃やすクルマの明るい未来を語ることができるだろうか? 押さえ込まれる感覚は忍びないけれど、リアルな身体感覚に則した速度での楽しさの再発見こそが先に進む数少ない進路のひとつではないかと僕は思うわけです。
Vitzとの比較(おもにアイドリングストップ)の兼ね合いで借りたマーチですが、最初に得た印象は大きく外れてはいませんでした。Vitzは、当面のライバルとして想定されたプジョー207超えという目標は達成したといいます。ただ、昨年登場のVWポロを見てビックリ…とは開発陣が率直に認めていたことでした。もっとも、プジョー207にしても、乗り換えた瞬間は、(ボディが剛性的に)緩いなぁと感じましたが、一晩おいて翌朝乗ると、これはこれでリズムのある乗り味に仕上がっている。
Vitzのシャシー開発担当者も言っていましたが、足回りのセットアップの要点はまずボディにある。ボディがしっかりしてることが基本ですね、と。その点においてVWポロには驚かされたということですが、乗り味や走りのキャラクターは必ずしもひとつに収斂するということではないようです。
FFでちまちましたセットアップに一喜一憂しているくらいなら、いっそFRに大転換して根本からクルマの走りや乗り味について本質を突いたらどう? スピード以外に高性能を表現しにくいレイアウトがICE(内燃機関)車の最終形だなんて、面白くない。下げても身体(からだ)に面白いFR。そろそろね、からだとクルマの意味に迫って行かないとね。現状追認だけの評価なんて、つまんないじゃない?
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2011/01/25 00:40:05