
話は前後して2週間前のこと。その数日前に突如長野の八千穂レイクでテスラ(TESLA)モデルSに乗りませんか? Doiさんからメールが届いた。「行きます、行きます、乗りたいです」即返信を送り、約束を取り付けた。
長野県佐久郡佐久穂町にある冬季凍結湖の八千穂レイクは氷上試乗コースとしては名のあるところで、これまでに何度か訪れたことがある。今回はこのモデルSの国内デリバリーを6月に控え、予約受注好調とのことで、本社から冬用タイヤの予算が下りてEVで冬の低μ路を堪能するという楽しい企画が実現したという。
試乗に供されたのは85kWhパフォーマンスという、大容量のリチウムイオンバッテリーパックをホイールベース内フロア下に収めたハイエンドモデルである。テスラのEVの最大の特徴は、18650という単三電池よりひと回り大きい円筒形のバッテリーパック(7000個ともいわれるが、正確な個数は公表されていない)をセル状にして搭載。モデルSはリアアクスルにモーターやドライブトレインを集約した非常に効率的な2WDレイアウトを採用している。

フロントフードの下は、ポルシェ911のような空洞でトランクスペースとして機能する。比較的低いボンネットフードから流れるように走るルーフラインが織りなすプロポーションは、ロングノーズ/ショートデッキの3ボックス/6ライト調だが、リアにはバックドアを設けた5ドアハッチバックスタイルを採用し、リアカーゴスペースにはオプションで35㎏までの子供2人が着座可能な折り畳み式シートを備えることも出来る。
全長4978㎜、全幅1964㎜(サイドミラー格納時)、全高1435㎜、ホイールベース2959㎜。空力を意識したロー&ワイドのセダンルックは一見そんなに大きなクルマには見えないが、間近に見る姿には大陸的な感覚がほとばしる。内外装のディテール/意匠は、いわゆる従来型のアメリカ車に共通する味わいというよりも、appleの製品や最先端の航空機などに共通する先を行くアメリカのプロダクトに共通する匂いがある。
公表されているパフォーマンスを知るだけでも、何か今までとは違うと感じさせる。例えば後続距離は、日本向けのベーシックとなる60kWhで375㎞。85kWhでは502㎞とさらに伸び、0→100㎞/hは6.2秒、5.6秒と必要十分以上。さらに85kWhパフォーマンスだと4.4秒というスーパースポーツ顔負けの瞬発力を備える。最高速度は60kWhが190㎞/h、85kWh200㎞/hで、同パフォーマンスが210㎞/hとなる。

僕は一昨年末のLAショー取材の際にサンタモニカで行なわれた現地試乗会に参加。その未体験ゾーンの速さと乗り味と上質な乗り心地に度肝を抜かれている。インフラやエネルギーの安定供給などにまだまだ課題の多いEVだが、その衝撃的な走りを知ってしまうと膨らむ希望が必ずや問題は克服すると思えてくる。
マウス状のキーレスエントリーツールをポケットに入れておきさえすれば、普段はボディパネル面に段差なく埋め込まれているドアハンドルが近づけば現れ、シートに収まりベルトを締めフットブレーキを踏んでシフトをDにセットすれば即動き出せる。まるで雲の上を滑るジェット旅客機や現時点で地上最速の上海リニアモーターカーに似た感覚でドォ~んとすっ飛んで行く。低重心で比較的重量が多めなことも乗り心地の上質に貢献している。
とまあ、とにかくトンカチで頭をがぁ~んとやられた思いで短い試乗を終えた。あの時期のサンタモニカには珍しい雨模様ということもあって、シーンが未だ新鮮に蘇える。

八千穂レイクに着くや否や、「はいそれではフシキさん、すでにLAで乗って勝手が分かっているでしょうから」と促されて試乗になだれ込んだ。ピレリのSOTTOZEROを履くとは言っても後輪2WDである。当然ESC標準装備であり、制御を任せておけば速くは走れないが破綻もない。
コーナーに対してアウト側前輪にブレーキを効かせる制御の際にザザァ~ンという聞き慣れない摩擦音がするのは気になった。スタビリティ/トラコン制御を外してもアウト側前輪をブレーキがつまんだりして、トラクションがスムーズに伝わらないなど、リスクを背負いすぎてFUN to DRIVEまで手が回っていない感じ? まだまだ進歩発展のノリシロを多く含んでいるし、EVならではの密な制御の未来を思うと先が楽しみというのが率直なところ。

僕は必ずしもEVやhybrid plugin hybrid、FCVなどといった次期エネルギー車推進派ではなく、どちらかといえば内燃機関に郷愁を覚える旧世代に属する者だと思っている。もちろんクルマの未来には興味があるので、非内燃機関のクルマがもたらすモビリティの可能性は見守りたい。これからの基本はエネルギーミックスだからね。どれが一番かという従来型のチャンピオンシップ型評価体系はあまり意味がないと感じている。
しかしね、テスラモデルSはまだまだ良くなる余地が非常に広く残されていることが実感出来るクルマだ。スタイリングが、内燃機関では難しくなった内燃機関で走るクルマの理想形に近いのと同じように、走りの面でもこれまでの知見を活かしながら「乗って面白い」を相当追求できるという手応えがある。
来週火曜日からプレスデイが開幕するジュネーブショーでは、出展車両の8%がグリーンカー……いわゆるCO2規制への対応に向き合ったエコカーになると言われている。

一昨日のランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4からこのテスラ・モデルS85kWhパフォーマンスにトヨタ/ホンダが先行するFCV(燃料電池車)までの幅。いわゆるbookendの端から端までのクルマ全体でいかに自由に面白く……が21世紀のモビリティのテーマだろう。
話が急にすっ飛ぶが、今年も世界のモーターショーでもっとも華やかで幸せな気分に浸れるジュネーブのPALEXPOに繰り出す予定でいる。さすがに自腹の旅の継続は苦しくなりつつあるが、今回は遂に30年ぶりのドバイ経由南回りヨーロッパ行きで馳せ参じる。エミレーツ航空ってどうなの? という素朴な質問に答えられる日は近い(笑)。ジュネーブ通いは、確かこれで12回目になるのではなかろーか?
Posted at 2014/02/28 00:13:46 | |
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