「サウナブーム」なのに廃業が相次ぐ理由、業界が抱える“厳しい現実”
沼澤典史 によるストーリー • 4 時間前
今年3月31日に閉店したそしがや温泉21 Photo:PIXTA
今年3月31日に閉店したそしがや温泉21 Photo:PIXTA
© ダイヤモンド・オンライン
昨今のサウナブームに沸く温浴業界だが、それにもかかわらず銭湯やサウナの閉店は止まらない。その理由や業界が抱える課題について、サウナ王こと、温浴事業・温浴施設経営コンサルタントの太田広氏(楽楽ホールディングス代表取締役)に聞いた。(清談社 沼澤典史)
銭湯などの一般公衆浴場は
約30年で7000施設の減少
現在、日本ではサウナブームが巻き起こっている。サウナと水風呂に入り、イスなどに座って休憩する外気浴を交互に行うことによって得られるリラックス状態、通称「ととのう」ことが快感になると、多くの人がサウナ施設に訪れているのだ。
一般社団法人日本サウナ・温冷浴総合研究所によれば、「月に4回以上」サウナに入るというヘビーサウナーは287万人と推計されるという。実際、有名施設ではサウナ室の前に行列ができていることも珍しくない。
しかし、そんなブームとは裏腹にサウナ施設や銭湯の廃業が後を絶たない。昨年6月は「スパリゾートプレジデント」(東京・上野)、2020年には「湘南ひらつか天然温泉 太古の湯 by グリーンサウナ」(神奈川・平塚)といった人気施設が閉店。他にも銭湯を含め全国の施設の閉店が続いている。
実際、全国の公衆浴場(温湯、潮湯又は温泉その他を使用して、公衆を入浴させる施設)の数は2万3780施設(2021年度)と2017年度から1000施設以上減少し、長年右肩下がり傾向だ。そのうち一般公衆浴場(物価統制令で入浴料金が統制されている銭湯など)は1993年の1万388施設から、3120施設(2021年度)と7000施設以上の減少ぶりである(厚生労働省「衛生行政報告例」より)。
こうした温浴業界の厳しい現実を太田氏はこう話す。
「まず、マクロな観点でいうと、レジャーの多様化が影響しています。昔は温泉や銭湯などの温浴施設に行くことはレジャーのメインのひとつでしたが、現在はスマホやゲームの普及でレジャーが多様になり、かつ細分化されました。そのため、かつてより来場者も減少し、温浴施設の経営は打撃を受けています。同様に廃れた温泉地も増えています。サウナブームが起きても、そもそも温浴施設に行く習慣のある人は昔ほどはいないのです」
かつてレジャーとして温浴施設を訪れていた人たちの多くは現在高齢者になっている。そのため「体力的にも温浴施設に行くのが難しくなっている」(太田氏)という。
サウナブームは都市部だけ
地方の施設への恩恵はわずか
また、昨今のエネルギーコストの高騰も業界に大きなダメージを与えている。
「温浴業界におけるエネルギーコストの負担は桁違い。重油、電気、ガスを使ってお湯を沸かしたり、サウナを温めたりしますが、少しの値上げで1施設当たり月100万~300万円も負担が増えます。さらに人件費も上がっている状況なので、多くのお客さんが来ない限り、倒産、もしくは売却するしかない本当に厳しい状況になっています。今年は持ちこたえても来年どうか、という施設も多いと思います」
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温浴施設の中でも、銭湯は特に厳しい。銭湯は公衆衛生の観点から物価統制令によって料金が決められており、エネルギーコストが上がっても施設が任意で値上げすることができないからだ。
「銭湯は料金を変えられない代わりに、補助金や税金、水道代が優遇されていますが、それも現在の状況には焼け石に水。よほどの人気施設でない限り、1日のお客さんは数十人ですからね。仮に1日80人が来ても月の売り上げは大体120万円。そこからエネルギーコストなどを引いたら、ほとんど利益は出ません。そのため、アルバイトを雇いたくても雇えず、高齢の経営者が掃除などの力仕事までせざるを得ません。体力の限界や施設の老朽化とともに閉店してしまうケースも多いです」
このような経営的に厳しい状況であるから、後継者のなり手もなかなか見つからない。それゆえに、高齢でも働かざるを得ない……という状況になっているのだという。
しかし、昨今のサウナブームにより、待ち時間が発生するほどにぎわっている銭湯も見受けられるが……。
「そもそも、サウナブームは人口の多い都市部だけで、ほとんど地方へ波及していません。さらに、サウナがない銭湯やサウナが狭い施設、古い施設も恩恵は受けていないのです。人気があるのはスパなどのきれいで、休憩スペースも充実していて、コワーキングスペースなどもあるところです。設備のリニューアルで人気になる銭湯もありますが、多くの施設はそもそも改修やリニューアルするだけの資金がありません。一方、東京近県では銭湯において『サウナ料金』という別途の料金があるため、多少経営を助けてはいます。それは公衆浴場法に定められているでもなく慣習の上乗せ料金なのですが、サウナブームが波及していない地方にはほとんどありません。こうした中、苦境にあえぐ銭湯は、施設の取り壊し資金が残っているうちに閉めてしまうのです」
サウナブームは来年まで?
全国の温泉施設も危険水域
しかし、閉店する施設がある一方で、比較的小規模のサウナ施設が毎月のようにオープンしている。この理由を太田氏は次のように話す。
「2020年から事業再構築補助金が開始されたんです。要は新規事業をするとお金が出る。数千万円がもらえ、しかもそれは返済しなくてもいい。そこで、サウナブームが巻き起こる中、温浴業界以外の企業が小型のサウナ施設をオープンし始めました。とはいえ、ブームは都会だけなので地方の施設は苦労していると聞きます。ちなみに個室や会員制といったプライベートサウナも近年オープンしていますが、その需要は3年後にはかなり減少するとみています」
そう太田氏が語る背景には、サウナブームの陰りがあるという。
「グーグルにおけるサウナに関する検索数を調べると、近年ずっと右肩上がりだった検索数が昨年末から下がり始めています。これをひとつの指標とみれば、現在がブームのほぼピークとなる可能性もあります。とはいえ、今回のブームでサウナや温浴施設に行くことが習慣化した若い層は少なからずおり、彼らはブーム後も施設を訪れるでしょう」
では、温浴業界に寄与するためにそうした愛好家ができることはなんなのか。
「できることはかなり少ないですが、やはり施設に足を運ぶことでしょうね。施設を利用するだけではなく、ジュースでもタオルでもいいから買うことでお金を落とすことでしょう。クラウドファンディングでリニューアル資金を集めたり、投資家を探してきたりなどが一番有効なのですが、それはなかなか難しいですからね」
ただ、銭湯やサウナ施設以上に、太田氏が危惧している施設がある。それは全国の自治体にある温泉施設だ。
「1988年から始まったふるさと創生事業により、多くの自治体で温泉施設ができましたが、今はほとんどが赤字で、延々と税金で補填している状態です。民間に売却できるところはまだいいですが、それができない施設は運営をやめるしかありません。しかし、地元住民にとっては『おらが町の温泉』なわけで、反対意見も多く、票が欲しい首長は閉鎖に踏み切れません。人口減とコスト高により、地元住民がいくら訪れようと赤字を脱することはほぼ不可能な施設も多いです。そんな施設が全国に山ほどあることはあまり知られておらず、行政も放置しているのは大きな問題です」
さまざまな課題を抱える温浴業界。「ととのえる」施設がいつまでもあるとは限らない。
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Posted at
2023/05/07 10:21:14