
日本の主力「H2A」ロケット あす最終号機 打ち上げへ
2025年6月28日 16時19分
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日本の主力ロケット、H2Aロケットは29日未明の50号機の打ち上げを最後に運用を終える計画です。過去の打ち上げの成功率はおよそ98%と高い水準に達していて、最終号機でも成功し、日本の主力ロケットの信頼性をさらに高めることができるか注目されます。
目次
科学・宇宙探査の進展に貢献してきたH2A
なぜ成功率が高いのか
目次
科学・宇宙探査の進展に貢献してきたH2A
なぜ成功率が高いのか
H2Aの課題と後継機
H2A 子どもたちに与えた影響も大きく
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H2Aロケットの最終号機となる50号機の機体は、28日午前に鹿児島県の種子島宇宙センターで組み立て棟から出され、およそ500メートル離れた発射地点に据え付けられました。
打ち上げ業務を担当する三菱重工業によりますと、最終的な準備作業が続けられていて、今後の天候などに問題がなければ、29日午前1時33分に打ち上げられる予定です。
50号機には、環境省やJAXA=宇宙航空研究開発機構などが開発した温室効果ガスなどを観測する人工衛星「いぶきGW」が搭載されています。
H2Aロケットは20年以上にわたり日本の主力ロケットとして数々の人工衛星を宇宙に運んできましたが、打ち上げ費用の高さなどから50号機で運用を終え、後継機のH3ロケットに完全に移行することになっています。
2003年に失敗した6号機を除いてすべての打ち上げに成功し、成功率はおよそ98%と高い水準に達していて、最終号機でも成功し、日本の主力ロケットの信頼性をさらに高めることができるか注目されます。
科学・宇宙探査の進展に貢献してきたH2A
H2Aロケットは、20年以上にわたって日本の主力ロケットとして運用され、数々の人工衛星や探査機を宇宙に運んできました。
例えば、小惑星リュウグウのサンプルを地球に持ち帰った「はやぶさ2」や、日本初の月面着陸に成功した「SLIM」などを打ち上げ、科学や宇宙探査の進展に貢献してきました。
「SLIM」
また、気象衛星「ひまわり」や地球観測衛星「だいち」、それに日本版GPS衛星「みちびき」など、日々の生活に役立つ情報やサービスの提供につながる衛星を打ち上げてきたほか、宇宙から温室効果ガスを観測する「いぶき」や北極の氷の変化や海面の温度などを観測する「しずく」など、気候変動の監視に活用される衛星も打ち上げてきました。
そして、安全保障や大規模災害への対応などを目的に、政府が開発・運用している事実上の偵察衛星「情報収集衛星」については、あわせて18の衛星を打ち上げてきました。
H2Aロケットは2007年の13号機から打ち上げ業務が民営化され、それまでJAXA=宇宙航空研究開発機構が担当していた打ち上げ業務がロケットの製造をとりまとめる三菱重工業に移管されました。
民営化はH2Aロケットで海外の人工衛星などを打ち上げる「衛星打ち上げビジネス」の展開を目指して行われ、三菱重工業を中心に民間主導の受注活動が進められました。
その結果、カナダの通信放送衛星やイギリスの通信衛星、それに韓国やUAE=アラブ首長国連邦の人工衛星など5つの海外衛星の打ち上げを受注し、宇宙に運ぶことに成功しています。
なぜ成功率が高いのか
H2Aロケットは、2001年から去年9月までに49回打ち上げられ、このうち失敗したのは2003年の6号機の1回のみで、成功率はおよそ98%と高い水準に達しています。
ロケットを組み立てる様子
高い成功率を実現してきた理由について、ロケットの製造をとりまとめる三菱重工業は、6号機の失敗をきっかけに始めた取り組みの成果が大きいとしています。
政府の情報収集衛星を搭載して打ち上げられた6号機は、補助ロケットのうち1本を切り離すことができずに飛行ルートを外れ、地上からの指令で破壊されて失敗しました。
燃焼ガスの噴き出し口に穴が開き、補助ロケットを切り離すための装置が故障したことが原因と特定されましたが、この時、打ち上げチームは失敗原因への対策にとどまらない新たな取り組みを始めました。
三菱重工業 矢花純プロジェクトマネージャー
三菱重工業の矢花純プロジェクトマネージャーによりますと、失敗後の打ち上げ再開、いわゆる「リターントゥフライト」を目指して行われたのが、失敗につながる兆候をすべての部署で洗い出すいわば“総点検”です。
ロケットの細部にわたる部品や部品のまとまりごとの検査が行われ、担当部署以外の責任者も加わり複眼的なチェックが進められた結果、失敗の1年3か月後に行われた7号機の打ち上げに成功しました。
その後、そうした評価方法は打ち上げチーム内で「品質評価」「トレンド評価」と名付けられて2つに体系化され、20年ほど続けられています。
検査項目はおよそ5000に上り、検査結果をまとめたファイルは、ロケット1機当たり100冊近くに上るということです。
打ち上げのたびに検査データを蓄積していくことで、過去のデータの傾向との比較が可能になり、ふだんと異なるデータが出た際、打ち上げチームはその理由の解析や検証を徹底してきました。
三菱重工業 矢花プロジェクトマネージャー
「実際に検証できるものと、解析しかできないものを識別して対応していくことで、失敗につながる危ういところがわかる勘どころが芽生えた。過去と同じような失敗をすることは、少なくともないだろうという自信が持てた」
長年H2Aロケットの運用を行うなかでは、メーカーの撤退などにより部品が枯渇することもあったということです。
「設計を変えたために他で問題が出る経験を何回もしてきた。1つの部品を変えるたびに、他の部品への影響はないか細かく検討してきた」
H2Aの課題と後継機
H2Aロケット(2023年9月)
H2Aロケットは、20年以上にわたる長期的な運用のなかで、打ち上げの成功を積み重ねてきた一方で、課題も指摘されてきました。
そのひとつが打ち上げ費用の高さです。1回当たり、およそ100億円の打ち上げ費用はアメリカの宇宙開発企業、スペースXが打ち上げる「ファルコン9」など海外のロケットに比べて割高だとされ、衛星打ち上げビジネスの価格競争が激化するなか、より低価格での打ち上げが求められてきました。
また、発射場のある種子島宇宙センターの設備の老朽化が進み、保守や維持管理にかかるコストの増大も課題となってきました。こうした中で、後継機として開発されたのがH3ロケットです。
これまで築いてきた日本のロケットへの高い信頼性を維持しながら、打ち上げ能力の向上とコストダウンを両立させることを目指して開発されました。
特にコスト面では、打ち上げ費用をおよそ50億円と、H2Aの半分程度に抑えることを目指しています。
H3ロケットは2023年に1号機の打ち上げに失敗し対策を講じたあと、ことし2月の5号機まで4機連続で成功していて、今年度中には価格を低く抑えた新たな形態での打ち上げが計画されています。
H3ロケットがH2Aロケットで指摘された課題を乗り越え、日本の主力ロケットの国際的な存在感をさらに高めていけるか、注目されています。
「H3」ロケット3号機 打ち上げ成功 だいち4号 予定軌道に投入
【特集】H3ロケット 失敗からの再起 技術者たちの348日
専門家「信頼性の次はコストが鍵」
専門家は、H2Aロケットは非常に意義のあるロケットだったと話します。
宇宙工学に詳しい大同大学 澤岡昭名誉学長
「今回打ち上げに成功すれば、50回中49回成功という大変立派な成績となり、その信頼性は世界的にも高い。日本が宇宙開発先進国として世界から認知され、お墨付きを得られたという意味で、非常に意義のあるロケットだった」
「同じロケットが長期間、継続的に打ち上げられ、ロケットエンジニアの育成に果たした役割も大きい。継続的な打ち上げがないと、関係する企業はトップ級のエンジニアを他の部署に移さざるを得ず技術が途絶えてしまう。技術は紙に書いたものではなく人から人へ伝わるもので、生の情報が伝わる必要がある。その鎖をつなげたことは、将来の日本の宇宙開発にとって非常に重要なことだった」
ー後継機となるH3ロケットについては。
「ライバルとなるアメリカのスペースXのファルコン9ロケットに負けないコストまで下げられるかというと非常に難しい壁にぶつかってくる。それをどうやって突破するか、信頼性の次はコストが鍵だ」
H2A 子どもたちに与えた影響も大きく
H2Aロケットの発射場がある鹿児島県の種子島には、打ち上げを一目見ようと、全国から多くの子どもたちが訪れてきました。
東京都内に住む橋本龍之介さん(16)もその1人で、8年前に小学3年生の時に種子島を訪れ、H2Aロケット37号機の打ち上げを見守りました。ごう音とともに飛び立っていくロケットに目を奪われたといいます。
橋本龍之介さん
「地上にあったロケットがすごい速度で見えなくなり、宇宙に一直線に飛んでいく姿に非常に感動しました。迫力に圧倒され、人生を変えるターニングポイントでした」
その後、都内の中高一貫校に入学した橋本さんは、モデルロケットを製作して打ち上げる部活動を自ら立ち上げます。
3年前、モデルロケットの性能を競う大会に初めて出場した際は、紙と粘土で作ったロケットがうまく飛ばず「制御不能のミサイル」と酷評されたといいます。
フランスで開かれた世界大会
その後、モデルロケットに詳しい専門家を訪ねて助言を受け、専用のソフトを使って設計を見直すなど改良を重ねた結果、2025年に国内の中高生が競う大会で優勝し、フランスで開かれた世界大会にも出場しました。
「大きさもH2Aにはほど遠いですが、自分たちでいちから作り上げたロケットが飛んでいる姿を見るのはすごく楽しくて、少しずつ近づけているような気がします。将来的には、より多くの人が宇宙にアクセスできる未来がくると思うので、宇宙開発に関われるような人になりたい」