
空冷ポルシェが大好きだ。自分は今は水冷モデルに乗っているが、空冷のあのガサつきながらもシャープなフィールとメカには今でもシビれる。考えてみれば、名だたる超一流スポーツカーメーカーが、前時代的ともいえる空冷OHCのエンジンをつい最近まで造っていたことは感慨深い。ヘタをすると危ない車にもなってしまうRRレイアウトをポルシェ独自の設計と技術で手なずけ、熱的に明らかに不利な空冷エンジンを磨いてきた。だからこそ、超一流メーカーなのだけど。
ドゥカティの空冷モデルが大好きだ。今は国産の水冷モタードに乗っているが、空冷Lツインのあの唸って弾けるようなフィールとカミソリのようなハンドリングにはシビれる。ドゥカもやはり一見古くさい空冷OHCツインエンジンを造り続けてきた。しかも、新車ラインナップの中に今でも存在する。ドゥカのLツインエンジンは前側シリンダーが水平に寝ているため、クランク軸が前輪から遠ざかり、前輪荷重を稼ぎにくく、ヘタをすると危険なバイクになってしまうという構造上の弱点がある。しかし、独自の設計と技術で名車を次々に生み出してきた。
20年以上の付き合いがある、つーかお世話になってる千葉県君津市の「
SilverBird(シルヴァバード)」は、主にドゥカティを扱うこだわりのバイクショップ。代表者の牧野功氏は、バイクやクルマでは自分の師匠的な存在。なぜかお互いとても志向が似ていて、バイクとクルマ、そして音楽の話を一緒にするのが楽しいオジサンだ。時として頑固オヤジっぽいところもあるが、基本的には永遠のバイク小僧でクルマ小僧的な楽しいオッサン。まあ、自分も充分にオッサンなのだけど。もちろん牧野氏はただのオッサンではなく、すごいメカニックでもありビルダーでもあるスーパーオッサンだ。
そんなSilverBird牧野氏が昨年造ったオリジナルマシンが、この「ISM-07R」だ。ドゥカの現行1000cc空冷OHCエンジンを用い、その軽さとコンパクトさを最大限に活かすディメンジョンを編み出し、試行錯誤を重ねてクロモリパイプでオリジナルフレームを組上げた。国産4気筒モデルのアルミツインスパーフレームとは異なり、ドゥカのLツインはスチールパイプのダイヤモンドフレームのしなやかさとコンパクトさが似合う。似合うだけでなく、運動性もアルミツインスパーよりも高められるというのが持論だ。ISM-07Rのクロモリ製オリジナルフレームは単体で僅か6.9kg(!)で、バイクの総重量も140kgというリッターマシンとしては驚異的な軽さ。フロント周りはキャスター23°/トレール94mmというかなり過激なディメンジョンなのだが、軽さとしなやかさで非常に扱い易い(らしい)。残念ながらまだ乗ったことはないけど。
牧野氏オリジナルデザインの外装とカウリングは、昨今のバイクのCADで設計した造形とは違い、どこか懐かしいカフェレーサーの香り漂うラウンドフォルム。そこには“日本”をイメージさせる紅白の矢羽根模様がデザインされており、相当カッコいい。開発評価ライダーは、元WGPトッププライベーターの超人こと新垣敏之氏。
ミラノショーにこのISM-07Rを出展すると聞いて、それならショー会場やYouTubeで流すプロモビデオを作ろう!ということになり、動画制作を引き受けさせていただいた。急なことだったので動画素材も制作時間もほとんどなく、エイヤの作業となってしまったけど、置き撮りのスチールカットを活用し、自分のオリジナル曲をBGMとして全体的にスピード感を出してみた。
後日ミラノショーでの評判を聞いてみたところ、非常に上々でこのバイクをイタリアを中心とするヨーロッパでキット販売することを検討中らしい。それを日本に逆輸入して保安部品を付けた公道仕様にすることは、製造者責任法等でかなりハードルが高いのだが、いつかは日本のワインディングで乗ってみたい。ミラノショー会場では、現地のマスコミやジャーナリストだけでなく、美大生らに大人気だったそうだけど、若い学生は現代のCADでデザインされたデジタルな造形に慣れていて、ISM-07Rの手でさすって創り出したアナログな曲線による造形が新鮮に映ったのではないか。
つい先日SilverBirdを訪ねたところ、たまたま乗っていったCaymanに牧野氏がムチャクチャ興味津々。コンパクトで操安性に優れたマシンが好みで、ちょうどCaymanが欲しいのだそうだ。過去にも何台かポルシェを所有していじっていただけに、かつてのナローを連想させる軽快なCaymanが気になっているそう。牧野氏がバイクやクルマをいじる上で最も重要視するのは「安全性」。どんなにパワーがあるマシンでも、それが危険を伴うようでは、高性能とは本末転倒という考えだ。それには激しく同意。安全性や操る楽しさを重視しているので、絶対的なパワーの最新水冷ドゥカや最新911よりも、むしろ少し古いぐらいの空冷ドゥカやCaymanが、乗っていてもいじっていてもジャスト的で楽しいとのこと。うーむ、なんだかとてもよく分かるし、自分も志向が近いのだ。でも勿論、新しい911や
Panigaleは素晴らしい!
空冷ドゥカも空冷ポルシェも過去に何台か乗ったことがあるが、どちらも今でも欲しいことには変わりない。常に新しいモデルを追いかけていると疲れてしまうし、最新モデルも買った瞬間に中古車になってしまうので、どうせなら少し前のモデルを買っていじるという手も充分にアリかと。古いモデルは最初から古いので、新型が出ても全然悔しくないし、いたずらなハイパワーやハイテクに振り回されることもない。低燃費の新型ハイブリッドに乗るのもエコだが、古いモデルを大切に使い続けることだって充分にエコだろう。とはいっても、最新モデルは常に気になってしまうんだけど。
こんな20年以上の長い付き合いのSilverBirdなのに、ここでバイクを買ったのはたった2台だけなことに気付いてしまった!全然商売に貢献してなくてすんまへん…
Posted at 2013/02/22 16:21:15 | |
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モーターサイクル | 日記