この戦功でケンメル・コナン元帥のD村での人気は鰻登りになり、逆にアフェト・ラ将軍様の
人気に影が差し始めたのである。
もとより、圧制者であるが故にその人気度がどこから来るのか不明なのである。
起きて当たり前であった。
浮浪者コナンを元帥に就任させた自分の統率者としての能力の鑑識眼が
高く評価されるだろうという読みの甘さに狼狽えた将軍様は村民達の尊敬を得るため、「パシリ大戦車作戦」の殊勲者達の勲章授与式を村民の前で盛大に行った。この殊勲者達への授与の草稿には「将軍様の偉大なる先見の明に基づき、ご立案されし驚異の作戦に多大な貢献をなし、将軍様の威をこの世に広める事に尽力を・・・・」といったようにアフェト・ラ将軍様を称える内容の文言が全てに必ずついていた。
その殊勲者の中には当然、
コナン元帥も居た。
将軍様は自らを称える言葉が散りばめられた殊勲の理由を朗々と述べて、コナン元帥に勲章を与える。
殊勲理由の文言の中にコナン元帥の人気が落ちるように味方を捕縛するという
失態の事実もそれとなく挟んでおいた。
村民達の前では胸に光り輝く勲章を付けたコナン元帥の肩を抱いてにこやかに演壇の上で村民達に手を振った。
村民達の壮大な拍手が沸き上がり、アフェト・ラ将軍様はその拍手に自己満足に浸ろうとするのだが、拍手に続いて
コナン元帥の名が沸き上がり大合唱となった。
この時、笑顔が凍り付いたアフェト・ラ将軍様はコナン元帥の飾りでしか過ぎない事を知った。
コナン元帥の胸の勲章よりも目立たない存在であった。
またもや思惑違いとなてしまった事で、将軍様の心中にはコナン元帥への
妬みが沸々と大きく湧き上がっていくのである。
人気沸騰のコナン元帥にも殊勲理由の中にあるように
確かに大失態があった。
「パシリ大戦車作戦」の時にその勢いのあまりにF村を突き抜け同盟のI村まで侵攻した。
挙句には、あろうことかI村のメインステージで踊りの狂っていたムウト・ソムリチネ酋長を不審人物として捕獲し、そのまま
精神病院に送り込むという事件が起こしていたのである。
しかし、D村村民の中にそれを揶揄する者は皆無といって良いほどに居なかった。
そもそもプライドの高いD村村民にとってムウト・ソムリチネ酋長は
属村の唯の班長程度としてしか見ていないのである。
従って、コナン元帥の働きを愚かな班長が自分の立場もわきまえづに
邪魔をしたのだと捉えていた。
しかるに捕まるのは当然であると村民達は考えていた。
それで「パシリ大戦車作戦」の華々しい大勝利のコナン人気は陰る事もなく、上昇一方であった。
そして、この行きすぎた行為に当事者のムウト・ソムリチネ酋長は人気者のコナン元帥を
追求する事はしなかった。
精神病院から無事に救出された時に、その出入口に立つコナン元帥が頭を垂れた事を受け入れ、ソムリチネ酋長はコナン元帥としっかりと握手を交わしてコナン元帥に失態に関しては
全てを終わらせてしまったのである。
むしろ、ソムリチネ酋長は事ある毎にアフェト・ラ将軍様にネチネチと嫌味を延べつつ、様々な
交渉事を優位に運ぼうとしたのである。
ムウト・ソムリチネ酋長はD村村民の人気者であるコナンを断罪するよりは交渉を優位に進めた方が良いと考えたのであった。
ダンス狂ではあるが酋長になるだけに
聡い考えを持ち行動するムウト・ソムリチネ酋長であった。
こうして、見下していたI村に足をすくわれ、交渉が思うように進まず、村内からそれら交渉結果についての批判が立つにつれ、アフェト・ラ将軍様のコナン元帥への
どす黒い心は次第に形作られていった。
コナン元帥の人気がD村だけでなく
F村でも上昇していた。
F村駐屯のD村統治部隊の間だけでならば納得するのだが、敵対するF村
レジスタンスの間でも人気が盛り上がっていた。
さらに、昼は要介護老人、夜は闇夜を跋扈する
妖怪御老人もコナン元帥に一目を置き始めたのである。
敵ながらにして
「あっぱれ」なのである。
その人気の結果、B村のノルサンデー上陸作戦を退けたのは裏でコナン元帥が采配を振るっていたと噂されるほどになった。
実際はノルサンデー上陸作戦を退けたのは「ザ眼´ズ・オブ・ナハロネ」の通名で通っている
ナハロネ舎監による臨機応変な活躍によるものである。
その噂の概略はこうであった。
D村村民はアフェト・ラ将軍様がその上陸作戦に全く気が付いていなかったと断じた。
コナン元帥がその超越した第六感で上陸作戦を察知して進言するのだがアフェト・ラ将軍はそれを
取り上げずに一笑して無視したのである。
そこで、コナン元帥はこっそりとナハロネ舎監に上陸作戦の情報と共に必殺必中の戦略を授けたのだ。
その助言で、ナハロネ舎監がこの大規模な上陸作戦を撃退できたというわけである。
当然、その噂の裏の意味はD村村民のアフェト・ラ将軍様の
無能差を非難する意味であった。
そして、当のナハロネ舎監はこの噂に関して何故か黙して語らなかった。
I村でも似たような噂が湧いていた。
アフェト・ラ将軍様とは全く関係の無い
「ニューポーク1999の大脱走」の件でそれは沸き上がっていた。
「ニューポーク1999」、洞窟名は「煩悩寺」(他多数で正式名は不明)は大脱走事件が発生した時は完全にI村の管理下にあった。
しかし、D村村民はこの独立村である筈のI村を完全支配しており、属村であると思い込んでいるプライドの高い村民であった。
従って、「ニューポーク1999」は
D村の官僚による管理下であると考えられていた。
D村の官僚の一部もそのように思い込んでいる者もいた。
事件後、D村村民はその官僚達の管理能力の無能差を嘆き、官僚たちへの指示を怠った上級官僚を無能と揶揄し、最終的には官庁の
頂点に居座るアフェト・ラ将軍様を非難した。
これもまた、アフェト・ラ将軍様を非難する噂でしか過ぎなかった。
-- 灰色猫の大劇場 その4 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
陸亀が柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前に小遣いに釣られた蜻蛉の最強の天敵である
洟垂れガキが居た。
水を入れたバケツをニヤリと笑いながら持ち上げる。
灰色猫はその水と洟垂れガキを見て、思わず逃げる体制になった。
洟垂れガキとバケツの水に来るのは
万物の摂理で決まっているのだ。
洟垂れガキは王様である灰色猫に「天誅だぁー」と叫ぶ。
奇声と共に放たれたバケツの中の水が灰色猫を襲った。
灰色猫は間一髪でバケツの水をかいくぐり、第2弾を恐れて
その場を逃げ出す。
水は猫にとって天敵なのだ。
さらに洟垂れガキがそれに加わると尋常なものでは無くなる。
そして、
王座が空っぽになった。
陸亀が柱の影から抜け出て、空になった王座に向かって闊歩し始める。
チャンスだった。
その間にも
事が続いた。
洟垂れガキは空いた王座の席に自分が座れる事を改めて知る。
小遣いも大事だが王座も放し難い。
そこで、王座に座り込んだ。
お山のガキ大将の地位をつかんだのである。
だが、一旦は逃げた灰色猫はそれを認めない。
すぐさま引き返し、背後から洟垂れガキを襲った。
洟垂れガキ単独ならば灰色猫の敵ではなかった。
顔に引っかき傷を付けて泣きながら
王座を明け渡して逃げ帰る洟垂れガキに灰色猫は中指の爪を立てた。
灰色猫が王座に再び座る。そして、ゆっくりと王座の前の床を見下ろすと、一生懸命歩む陸亀と目が合った。
「王様ぁ~。高級珈琲をお持ちしましたぁ~♪」
珈琲はすっかり冷めており、
灰色猫の目も冷ややかであった。
ここに、
陸亀の野望は霧散霧消してしまった。
Posted at 2018/11/18 13:59:59 |
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