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2022年11月27日 イイね!

物語A221:「アラモフヶ丘の攻防」

第2拠点:アラモフヶ丘の頂上でフロスト・ランカスター中尉はアーネム第7騎兵部隊を陣頭指揮して強豪の北方蛮族、つまりワシタ・ブラックケトル酋長が率いる第1高歌猟犬兵軍を相手に奮戦力闘、死闘に次ぐ死闘をしていた。(ランカスター中尉の報告書から)
アラモフヶ丘登頂後すぐに丘の天辺にランカスター中尉は自軍の陣を張ったのだが、その陣地が完成した明け方にはブラックケトル酋長に包囲され、とっても凄い襲撃を受けてしまったのである。
ランカスター中尉自身、こんなにも早く敵の襲撃を受けるとは思っていなかった。
当然部下の騎兵達も同じで全員がかなりの油断をしていた。

アーネム第7騎兵達は非常に疲れ切っていた。
グライダーの機体にしがみついての過酷な夜間飛行と過激な強行着陸を行った後、間髪も入れずにアラモフヶ丘頂上まで駆け足の進撃を行ったうえ、その頂上に達するや否や足の筋肉痛の回復も待たずににその痛みを我慢して慌ただしく陣の設営を行ったのである。
騎兵達はその間、一度も休む事が出来なかった。
筋肉痛は騎兵達の全身を犯していた。
その騎兵達が陣の完成でやっと休憩にありつけたのである。
その天国を貪るのは当たり前であった。

活動している間中は一睡も、一休みすらも出来ていなかった騎兵達はそのまま運んでいた荷物に寄りかかるなり、足を投げ出して座りこみ居眠りを始めた。
中にはその場で地面に倒れ込む騎兵も居た。
倒れるなり大の字になったり、横になったりと思い思いの格好で天国を貪る。
騎兵達は直ぐに熟睡してしまい、瞬く間に陣内での鼾の合唱が始まったのである。

従って、ブラックケトル酋長の針の落ちる音もしない襲撃は言葉の言葉の綾の通りに「寝耳に水」であった。
ランカスター中尉も部下の騎兵達もすっかり油断していたその時に陣の四方の外側から突然に次々と投げ縄が投げ込まれてきたのである。
それがいったい何を意味するのかも理解できないままに、むしろ宙を舞うその投げ縄を見る事も無しに味方の兵士や物資などに投げ先端の縄の輪が掛かってゆく。
投げ縄の輪に捕らわれた騎兵も物資もそのまま陣の外へと掻き消す様に瞬時に引きずり出されてしまった。
外へ引き摺り出されるまで、騎兵は投げ縄に捕らえられている事にすら気が付いていなかった。
側から見るとそれはまるで目の前で起こる神隠しの様であった。
この襲撃は投げ縄で敵を一本釣りするという、ブラックケトル酋長の「一本釣りだべ。大魚だ!大漁だよ。」作戦であった。

陣中のどこからともなく「敵襲!」と幾つもの火の付いたような警戒警報の叫び声が上がり、アーネム第7騎兵部隊は慌てずにでも大急ぎで攻撃に備え始めるのだが、その間にも次々と投げ縄が投げ込まれ、輪に捕らわれた騎兵や物資が次々と瞬く間に目の前からその姿を消していった。

アーネム第7騎兵部隊は歴戦の強者集団である。
状況判断も早く対応も早かった。
無意識に体が動くのである。
それ故にアーネム第7騎兵のその反撃も素早かった。
それは無意識の反撃と言っても良かった。
ただ、警戒警報の声に驚いて横に居た味方を敵と勘違いして張扇で引っ叩くという事故は多少あった。
それを無視しても、警報が陣内の隅々までに轟く頃には、投げ縄の輪に絡め捕られた騎兵達自らも反撃していた。
自身の体に巻き付いた輪に繋がる縄を握り締めて逆に力一杯引き返して抵抗したのである。
すでに投げ縄を手繰り寄せてしまった騎兵も居た。
抵抗されるとは思っていなかった投げ手が驚いた拍子に手を放してしまったのだ。
抵抗するも引き出されてしまいそうな騎兵には近くにいた味方の騎兵達がワラワラと駆け寄って来て縄を取るなり力を貸して引き、投げ縄を投げ込んだ敵を陣内に引きずり込もうした。

抵抗できない物資に巻き付いた投げ縄には騎兵達が包丁やディナーナイフを使い、それら道具が手元に無い場合は自らの歯で投げ縄を喰い千切り始めた。
ランカスター中尉は十徳ナイフでロープを次々と切った。
第7騎兵部隊の馬達も騎兵達と共にロープを歯で噛み切って行く。
戦場で敵方への咬みつき攻撃を効果的にする為に馬たちの歯は常に鑢で鋭く研いでいるのだ。
しかし、騎兵達は全ての歯を研ぐ事は出来なかった。
草食動物である馬が飼葉を食べる為には臼状の歯が必要不可欠であると「馬民権」運動を起こした過去の経緯があるのだ。
こうして逆に奪い取ったロープは破壊された陣の修復に利用された。
そして、アーネム第7騎兵部隊の戦闘が本格的に開始されていくのである。

抵抗が予想以上に早かった事に加え、思わぶ強力な抵抗に、投げ縄を投げ込む第1高歌猟犬兵軍はその辺での油断があった。
楽勝だぜと思っていた第1高歌猟犬兵軍が力強い引きにあって、陣内に逆に引きずり込まれてしまった。
まるで神隠しのように仲間の前から消えた。
陣内に引き摺り込まれた蛮族は「あれっ?」と不都合な真実に小首を傾げる中、騎兵達に取り囲まれて張扇や足蹴、さらに拳骨で袋叩にあった。

騎兵が陣内に投げ込まれる投げ縄の事ことごとくを掴まえて仲間と共に力を合わせて綱を強く引っ張り、その引きに大物を釣ったと勘違いした北方蛮族達もまた仲間を募って力を合わせて投げ縄を引き返す。
陣の内と外、つまり「アーネム第7騎兵部隊バーサス第1高歌猟犬兵軍の大綱引き合戦」がここに始まったのである。

アラモフヶ丘の全方位あらゆるところで綱引きが行われている。
負けて陣内に引き摺り込まれた蛮族は瞬く間に騎兵達に取り囲まれて張扇や足蹴に拳骨であったがエスカレートしてこれらに馬の咬みつきまで加わり、2度と戦意が起きない様に袋叩にされた。
袋叩きされた後は身ぐるみを剥がされて、蛮族達は陣外へとゴミ屑の様に放り出された。中には馬の後ろ足蹴りを喰らって放り出された蛮族もいた。逆に陣外へ引き摺り出された騎兵は、同じように袋叩きで、身ぐるみ剥がされたうえに2度と戻って来れない様に北方の彼方へ追いやられてしまった。彼方へ追いやられたアーネム第7騎兵はアラモフヶ丘へ戻る事が叶わず、A村の方に向かって北方地帯を彷徨い歩くだけであった。

このように陣地内に引きずり込まれた第1高歌猟犬兵軍の兵士は第7騎兵達に袋叩きにされて陣外に放り出されてしまうが、放り出された先、つまり陣外は味方である第1高歌猟犬兵軍の中である。
打たれ強いうえにそれなりに闘争本能が高い蛮族は、回復アイテムに回復祈祷や回復魔法で素早く回復してアラモフヶ丘への再攻撃に加わる事が可能であった。
北方蛮族側にはこのような回復アイテムも回復祈祷や回復魔法のポイントがふんだんにあった。
そして、北方蛮族達の大半が戦う事に生甲斐を求めている闘争本能の塊といえるので闘争心は超高く、回復アイテムや回復祈祷・回復魔法で回復するなり直ぐにほぼほぼ全員の蛮族が攻撃に再び参加した。

それでも、蛮族は陣地からの反撃で味方の蛮族が引き擦り込まれてしまう事態を防ぐ為に長い棒を用意してきた。
その先端にはトゲトゲ草や糞尿、不快感を催す悪臭を放つ物体などが付いている。
それを陣地内に差し込んで引っ張り手の騎兵達の顔や脇の下を強く突いたのである。
手からロープを離さざる負えなくなり、綱引きは劣勢となった。
これに「卑怯なり」と第7騎兵は相手を罵るもその棒を奪い取った第7騎兵はこれはこれで案外面白いのではと真似を始めた。
伝説の「アラモフヶ丘7本槍」の誕生への瞬間であった。

フロスト・ランカスター中尉にはこの闘いに悩みがあった。

第7騎兵が北方蛮族によって陣から引っ張り出されると、陣内に引きずり込まれた蛮族と同様に袋叩きにあい、身包みを剥がされてしまう。
ここまでは同じだった。
だが、第7騎兵は昏迷状態でアラモフヶ丘から北方の彼方へ追い立てられてしまうのである。
陣内に放り込む北方蛮族はまづ居なかった。
居るとすれば王者コナンに傾倒しすぎているワシタ・ブラックケトル酋長ぐらいである。
「回復し、さらに剛の者となって我に掛かってきなさい。」という訳からである。
その酋長はこの闘いにおいては後方で声を上げるだけであった。
従って、引き釣り出された第7騎兵のほとんどは再び陣地内に戻ってくる事はなかった。

なので、陣地内の味方は時間と共に減っていくだけで、アラモフヶ丘で戦うランカスター中尉にとっては兵の数に限りあるので非常に分の悪い戦いなのであった。
ランカスター中尉は残存兵力でどれだけ長く陣地を保てるかを考えていた。
丸太上陸部隊が来るまではなんとかアラモフヶ丘を守り抜かねばならないと思っていた。
これは絶対的な使命である。
もし、本隊である丸太上陸部隊が間に合わなければ、本体への補給が出来ないままD村へ万歳攻撃をするだけである。
武器が無いのでお手上げという訳だ。
そして、「マルケットベルト作戦」はほぼ間違いなく失敗するのである。
この最悪な第3次全村大戦を終わらせる為にはありえない事なのだ。

ちなみに、丸太上陸部隊がアイゼン・ブル・マクレン大佐の「ロン」部隊と、黒田大和猫ノ信大尉の「ヒホンコー」部隊に分離している事をこの時点ではランカスター中尉は知らなかった。

陣地から騎兵が次々と引き釣り出されてゆき、そして誰も居なくなってしまう前に、まだ味方部隊が到着していなければ、残存部隊を中尉自ら率いてD村へ進撃する事をしばし考えた。
勇敢に戦う事を選ぶのであった。
北方蛮族の包囲網も、中尉にとっては唯の寄せ集め集団にしか見えないので、この最強の少数部隊で突破する事にランカスター中尉はさほどの難しさを感じていなかった。
難しいのはおびただしい敵から身を守る術である。

だがD村進撃は最後の手段である。
陣内では第7騎兵達が北方蛮族相手に果敢に綱引き合戦をして勝利を得ているのだ。
負けていても、引き摺り出されるその前にロープから手を放していた。
深追いをしない兵力を温存する為の判断である。
騎兵達も本能的に中尉の悩みを共有していたのである。
この騎兵達のこの逞しい戦いぶりを心で感じ、まだまだ望みはあるとランカスター中尉は自信満々に確信した。

むしろ、ランカスター中尉にとっての最大の関心事はまだ来ぬ丸太上陸部隊や陣地内の戦闘よりも後続して残してきたアイント・メー・ネム少尉とその部隊である。
ネム少尉率いる残存部隊の規模は包囲する北方蛮族よりその数で勝っているし、物資もまた豊富にあるのだ。
つまり、この不合理な戦いを打開するのはネム少尉だけである。
さらにこの部隊が持つ物資が無い限り、本隊「丸太部隊」への補給を任務とするアーネム第7騎兵部隊がこの補給地であるアラモフヶ丘を死守しても意味がないのだ。

ネム少尉がアラモフヶ丘のこの危急を察知して、敵の背後を突けば赤子を捻るかの如く簡単にこの不利な闘いを打開できるのである。
そのネム少尉が敵の背後をつくという絶好のこの機会に行動を起こさない事にランカスター中尉は焦りと不安を覚えていた。
戦略も無しにただ数で背後襲い掛かれば良いだけである。
そうすれば陣地からそれに呼応して北方蛮族に襲い掛かり挟撃できる。
さすれば、この陣地周辺から北方蛮族を尽く蹴散らす事が出来るのである。
追い討ちすらかけても良い絶好のタイミングなのである。
ランカスター中尉にはそれが分かり過ぎるほどに見えていた。
だが、そのネム少尉の行動が無い。
気配すらない。
それが焦りと怒りにつながりランカスター中尉を啄んだ。

ランカスター中尉はネム少尉となんとかして連絡を、むしろ命令を伝えたかったが、そのネム少尉が一体どこに居るのかがわからないランカスター中尉であった。
敵に見つからない様に静かに深く潜んだうえ、位置を特定できない様に常に動き、アラモフヶ丘を周回しているので、尚更ランカスター中尉は居場所がつかめなかった。

やむなく、北方蛮族の気絶体と共に第7騎兵部隊員を陣地外へ放り出した。
放り出されたのは北方蛮族に化け、ランカスター中尉に特命を与えられた第7騎兵部隊員の伝令であった。
伝令達は放り出されると北方蛮族の中に紛れ込み、ランカスター中尉の命令を伝える為にネム少尉を探して北方の地に方々に散っていった。

しかし、伝令達は巧妙に北方蛮族に化け過ぎた。
それが用心深さで他に類を見ないネム少尉の前で仇となったのである。
伝令達がどんなに訴えようが泣こうが叫ぼうが、ネム少尉は伝令の言葉に一切耳を傾けず、その変装した伝令達を北方蛮族と決めつけた。
作戦も何も無く無闇に総攻撃をかける命令など、安全な物資運搬をランカスター中尉から直々に命じられてネム少尉にとっては到底信じられない事であった。
ランカスター中尉が「マルケットベルト作戦」の命運を左右する重要な物資を手放してしまうような命令を発する筈は絶対に無いと固く信じていた。
無傷で物資を届けねばならないという強迫観念もそれを支持していた。
故に彼らは見かけ通りの北方蛮族であると決め付けて、言葉巧みに罠にはめようとする策謀であると断じ、伝令達を捕まえて簀巻きにしその辺に捨て去ってしまっていた。
ランカスター中尉の命運が切れた瞬間であった。

アラモフヶ丘がブラックケトル酋長に攻め込まれているこの時、アイント・メー・ネム少尉率いる後続隊は既にアラモフヶ丘に到着していたのである。
そして、ネム少尉はアラモフヶ丘を包囲し攻撃を計る第1高歌猟犬兵軍も現視していた。
ランカスター中尉に与えられたネム少尉への命令は「無事に後続部隊と共に全ての補給物資をアラモフヶ丘に到着させよ」である。
ネム少尉は異常な程に命令に忠実であった。

補給物資を守り、戦闘を避けてアラモフヶ丘のランカスター中尉に確実に届ける命令を完璧に実行する為、ネム少尉は包囲網の隙を探りながらアラモフヶ丘を密かに周回するのであった。
物資も部隊も傷一つ付けずにこの包囲網を掻い潜る隙はどこにも無いのだが、ネム少尉はそれを認めていなかった。
ネム少尉の考えていた。
戦闘が長引けば必ずやこの水も漏らさない包囲網にも必ず隙が出来ると信じ、周回を止めなかった。

もし、ネム少尉にこの戦闘の全体をそしてアラモフヶ丘の現状を俯瞰して把握する力があれば、物資を送り届ける為には多少の戦闘も回避する事は不可能である事に気が付く筈であった。
そして直ぐに部隊で全力を挙げて包囲網を突破しアラモフヶ丘に到着できたるのである。
しかし、慎重なネム少尉の重要課題は妥協が許されない「無事に後続部隊と共に全ての補給物資をアラモフヶ丘に到着させよ」であり、その信念に微塵の揺らぎはない。
従って、その物資の一部でも見捨てなければならない戦闘は言語道断であり、そいいった事態が付随する選択肢は頭の中に無い。
用心深く、命令に忠実な、ともすれば忠実過ぎて周囲の状況変化に対応できないのがネム少尉であった。
これが元で伝令達が葬られ、その命令は敵の浅はかな策謀と断定されてしまった。

物資を無事に送り込みたいそのネム少尉率いる後続部隊の後を、迷彩を施した姿で自然の中にその身を溶け込ませ、密かに追尾しているのがゲルフォン・ルント中佐率いるBB歩兵私団であった。
ルント中尉は追尾する後続部隊と自軍との間の戦力に大きく差がある事から攻撃をためらっていた。
ルント中佐がもし生粋の北方蛮族であったならば即攻撃するところであるが、ルント中佐には攻撃の決断は出来なかった。
北方蛮族から新参者と卑しまれるルント中佐である。
迷うルント中佐は追跡を続けながらも上官であるコナン元帥、今は王者ケンメル・コナンに指示を仰ぐために伝令を出したのである。
これは王者コナンに幸をもたらせた。

新たな強敵の出現に舌なめずりする王者コナンはその伝令に「我が到着するまで攻撃を待て」という命令を持たせてBB歩兵私団へと戻す。
もちろん王者コナンが到着するまでにその正体不明の部隊がブラックケトル酋長の背後から攻撃を開始しても、また、それでブラックケトル酋長が敗れても、絶対に手を出すなという但し書きがされていた。
強者を相手にする事が出来るのは王者ケンメル・コナンだけなのである。
根拠はないが新たな敵の一群に強者が必ずいると固く信じる王者コナンである。
自分以外が相手にする事は絶対に許せなかった。

ワンワンセブン高地では肩透かしを食らってしまった事が王者コナンの心の中で尾を引いていたのである。
その希望が真実となって形に成りつつ目の前にあるのだ。
アラモフヶ丘では強者達を相手に自らが中心となって攻略戦を行い、最後には敵の将である猛者と一対一の決闘をしたいという思いが次第に募ってくる王者コナンである。
そこで、ブラックケトル酋長にも攻撃に手心を加えて我が来るまで待てと伝令を送りたかった。
だが、BB歩兵私団のルント中尉ならばともかく、相手が生粋の北方蛮族であるブラックケトル酋長である。
生粋の北方蛮族がそもそも闘いに手を緩めるなど、荒唐無稽な芸当などできる筈がないと読み取ってその命令を諦めていた。
アラモフヶ丘が酋長に潰される前に着かねばならないと王者コナンはベンとハーを激しく鞭打つ。

兵の補充も武器の補給も無いランカスター中尉は耐え忍んでいた。
既に半数の兵士がロープに手繰り寄せられてアラモフヶ丘から毟り取られている。
だが、ランカスター中尉はこの不利な状況の中で手を拱いての防戦ばかりをしている訳では無かった。
時折、アーネム第7騎兵部隊の中でも接近戦を最も得意とする兵士を従えて、ブラックケトル酋長の包囲網を粉砕しようと攻撃を仕掛けていた。
この時のランカスター中尉の戦いは見方も恐れるほどに激しかった。
突撃するごとに包囲網を分断した。
勢い余って包囲網を突き抜けて行くこともあった。
ランカスター中尉が包囲網に一時だけでも穴を穿つ理由は、どこかに居るであろうネム少尉を誘い入れる為である。
ひと時暴れ回ったランカスター中尉がアラモフヶ丘に引き揚げると穿った包囲網の穴はすぐに埋められてしまった。
その後もランカスター中尉は何度も包囲網を攻撃しては分断し、分断された綻びは中尉達が引き返すのとほぼ同時に埋められた。
そこにはネム少尉に期待するが動きは無かった。

アイント・メー・ネム少尉はアラモフヶ丘を巡る闘いの全てを一部始終観察していたのだが、ランカスター中尉のこの誘いに乗らなかった。
我に託された補給物資の一個でも、更には種粒一つ・粉一つでも失う事は許されないのだという信念に固執するネム少尉である。
直ぐに敵に取り囲まれてしまうような危険を冒してでも、中尉の思惑どうりに包囲網に穿った穴をネム少尉が強行突破をするはずがない。
これはランカスター中尉の任命ミスであり、命令ミスでもある。
優秀な軍人ならば臨機応変の戦いも必要なのだ。
反撃のチャンスを黙って見過ごすのはなのである。

第1高歌猟犬兵軍が始めた汚い戦略、棒による綱引きの引き手に対する直接的な妨害は、それを「卑怯なり」と断じたアーネム第7騎兵隊に受け入れられた挙句にさらに卑劣と効率が進化した。
棒より、槍の穂先に付ける方が良いとされたが、直ぐに槍より刺股の方が得物を取り付けやすい事が分かった。
刺股が広まる中、槍・棒も以前として使われ、騎兵達はそれらを器用に効果的に使い、北方蛮族の綱引きの邪魔だけに止まらず、攻撃にも転用していくのである。
そして、武器の種類とその巧みな使い方から次第に流派が発生し、その師匠が生まれた。
一夜陣の内部で奇跡が生まれた瞬間である。
今後の歴史に名を残す「伝説の七本槍」の出現であった。

穂先に排泄物をしみこませた濡れ雑巾を先端に巻き付けた刺股槍で第1高歌猟犬兵軍の綱を引く蛮族や綱引きの先鋒となって皆を鼓舞している中心的蛮族を高速で突いたり顔を撫で上げたりした。
一の槍、高速一点突き。

刺股先端の二つに分かれた穂先それぞれに生体流出不快性液状物質を浸み込ませた雑巾を取り付けてロープを引く為に集まっている蛮族達の中で刺股先端を高速回転させるという行為が行われた。
二の槍、焔月殺法。

刺股で蛮族の顔を挟み込むと、その中央根元にある粘液質の生体物体が仄かな臭いを立てながら顔に迫る恐怖に蛮族は後ろに跳ねる様に逃げるしかなかった。
三の槍、四魂固め

槍や刺股の穂先に胡椒瓶を結わえ付けて振り回し中の危険物を散布した。
胡椒瓶の中は胡椒だけとは限らなかった。
危ない物質から汚い物質まで嫌がられる物ならば何でも入れてあった。
四の槍、茶壷回し

刺股の先に黄色いケロケロちゃんバケツを取り付けて、トゲトゲで毒々しい毛虫を北方蛮族の背中に大量に放り込んだ。
五の槍、クレーンサンダーボルト。

気に入らない仲間の一人を刺股の先に付けた輩も出た。
もともとは強者が敵の中奥深くに切り込むために槍にぶら下がって攻撃する技であったが、時と共に内容が変わってしまったのである。
六の槍、肉切骨裁。

七の槍、一点穴付き。
説明は省く。

このように槍と刺股を使ってありとあらゆる汚い事を北方蛮族に仕掛けていった。
一時はこうした槍や刺股も10数本位に増えたが、弱肉強食の中で自然淘汰されて僅か7本が最後に残った。
そして、実際は刺股が主であるのだが、陣内では七本槍と称され敬われてしまうのである。

実に、七本槍の中には新米村民兵が開眼して師匠として加わる者も居た。
元わんこそば職人である。
北方蛮族がわんこ蕎麦(偽物)の食べ過ぎで、蕎麦魔人の悪夢にうなされながら累々と痙攣を起こす肉塊となって散らばっている。
すでにこの新米村民兵は新米とは言えない存在となり、古強者と並んでいた。
先程説明を省いた七の槍、「一点穴付き」、その辺にあるものを次々に掬い上げて敵の口の中に押し込むのだ。
ちなみに先の「説明は省く。」の文字を見て18禁の小説家への道が待っていると考えるが如何に?

ランカスター中尉と七本槍達を中心に闘いはいっそう激化していき、第1高歌猟犬兵軍から脱落していく者が次第に増えていった。
第1高歌猟犬兵軍の回復アイテムも魔法も酋長が考えていた以上に尽き始めたのである。
背水の陣のアーネム第7騎兵の壮絶な戦いに包囲した第1高歌猟犬兵軍が押され始めたのである。
総崩れも考えられる程であった。
朝飯前のつもりであった酋長にとって正に予想外である。

それでも、後続部隊隊長のネム少尉は丘でのこの壮絶な戦いを横目にして戦場を周回するだけで一向に第1高歌猟犬兵軍の背後からの攻撃を仕掛けなかった。
その周回はすでに・・・数えていなかった。

ブラックケトル酋長は必殺の隠し技を持っていた。

今朝方の自軍の優勢から始まり、一進一退の攻防へと戦局が徐々に変化し、そして、今になって自軍に劣勢の兆しが見え始めている。
この戦場の僅かな変化を酋長は心体で感じとっており、自軍の中でも特に際立つ自慢の強者達がその気勢を凹ませてしまうのではないかと恐れた。
それは自軍の崩壊に等しいのである。
酋長率いる第1高歌猟犬兵軍の強さを保証するのは個々の蛮族の腕力にある。
それ故にその主だった強者が疲労や喪失感で戦場に嫌気がさして背中を向けてしまうと、それに伴って小物の兵も強者に従って背を向けてしまうので自軍はあっという間に自然崩壊してしまう。
最悪、第1高歌猟犬兵軍の解散となる。
その事を酋長はよく知っていた。
それで、ブラックケトル酋長はこの必殺技を披露する事にしたのである。

「儂。とっておきの技。披露する。見せるの。お前達だけ。強者。儂。感服した。」と賞賛しながらも自信あり気に宣った。

敵を褒める余裕を持ちつつ強気の笑みを浮かばせながら、「覚悟するあるよろし。」とそれに付け足した。

酋長の合図で長く太いロープがボタ山のような形をしたアラモフヶ丘の半分を囲むようにその麓に半円状に敷かれた。
第1高歌猟犬兵軍によって敷かれたそのロープは1本ではなく数本あった。
どれもが太いロープで普通に切り付けても簡単には切れそうにない頑強でごっついロープである。
無限一刀流無双乃介の、一般に「兜割り」と言われる技の上を行く必殺必中の剣技「鉄骨縦割り!(ほれ、割りばしでござるよ)」でも立ち切る事は叶わない。

太いメインロープにワラワラと取り付いていった第1高歌猟犬兵軍はそれらロープの間を一定間隔で長目の少し細い紐で結わえてゆき、ロープ同士を繋げ始めた。
さらに、その結わえた細紐同士もさらに短い紐でもって一定間隔で繋げられる。
ここに、第1高歌猟犬兵軍はブラックケトル酋長の差配で大きな網を作り上げたのである。

メインロープの両端には第1高歌猟犬兵軍の蛮族兵が、特に剛腕で鳴らす蛮族を中心に配置される。
配置されたそれぞれの蛮族は持ち場の太いメインロープをこれまた太い腕で抱きかかえる。
こうして、酋長の合図があればいつでもロープを引いて走る準備が整えられた。
蛮族の引く準備が整うと、ロープで形作られた半円形の内部でアラモフヶ丘一夜陣から巨大網を隠す様にその視線を遮って包囲していた北方蛮族達が慌てて網の外へと走り出していく。
逃げ損ねたら網に捕らわれてしまうからだ。

ここに至って初めてランカスター中尉はその麓の異様な光景と異物体の全貌を見渡す事が出来た。
戸惑いもあったが丘の麓を囲むその巨大な長い物体を見定めると背筋に冷たい悪寒が走ってしまう中尉であった。
あれは一体何なのだと中尉は訝しんだ。
正体は分からないが、少なくとも味方にとって途轍もない程にろくでもない事が起きるだろうと中尉は予感し、闘争本能から自然と拳に力が入る。

ブラックケトル酋長の既に勝利をその両手に掴んだような破顔した顔の大口からの大音声の合図でロープ両端の蛮族が腕の筋肉がキリキリと金属音を奏でる程に力を篭めてロープを引き摺り、麓を勢いよく同じ方向に向かって駆ける。
蛮族兵に両端を引っ張られたロープはその中央で大きな網状に広がり、一夜陣に向かって何もかも根こそぎしながら滑る様にアラモフヶ丘を駆けあがった。
脇目も振らずまっしぐらに一夜陣を目指したのである。
ランカスター中尉がその意味をくみ取って自軍に突き付けられた鋭く冷たいナイフのような危機を認知した時、驚きのあまり顎が外れるほどに下顎が地に落ちて口をポッカリと開ける。
付近を周回していた特攻蠅がその口を目指し、草葉の蔭から高射蛙の長い舌が特攻蝿向かって空に線を描く。

中尉を驚かせたその光景は2艘のトロール船でもって獲物を根こそぎする底引網漁業の光景そのものであった。
これこそがブラックケトル酋長の裏技「何でもかんでも底から根こそぎだよ!えっさほいさ、よよいのよい作戦。儂。偉い。」である。
屈強な北方蛮族が地面に埃を立てながら麓を駆け走り、底引き網と化した中央のロープ網がアラモフヶ丘目掛けて滑り上がる。
それは、一夜陣共々丘の上の全てを攫ってしまおうとする悪意あるモンスターで、その凶悪な牙を剥いてランカスター中尉の一夜陣に襲い掛かっていった。
ブラックケトル酋長がその光景を見ながら指差し高笑いする。
無念の特攻蝿が蛙の大口の中に消え去る。

底引き網モンスターは一夜陣に飛びつくなり激しく咬み付いた。
その最初の強力な一撃で一夜陣を作っていた構造物の破片と共にアーネム第7騎兵が陣の外へ弾き飛ばされた。
メキメキと不気味な破砕音が一夜陣の中に響き渡り、破壊された破片が次々と飛散してゆく。
一夜陣は必死に抵抗をしつつも陣の網モンスターの破壊は情け容赦なく続き、麓へと徐々に滑り落ち始めて行く。
その中で轟く破壊音は一夜陣が最後まで足掻く悲鳴であった。

ランカスター中尉は崩壊してゆく一夜陣の中でこの光景にただ唖然と驚いているだけではなかった。
多くの戦場を潜り抜けて来た中尉である。
全滅を免れない風前の灯といった様々な危険を何度も経験してきていた。
それ程に経験豊富なだけあって、その僅かな間での中尉の反撃も早かった。
それは一夜陣の崩壊で運命を共にする事になるアーネム第7騎兵達も同じであった。
中尉に負けずに彼らの反撃も早かった。

中尉は近くのロープに齧りつき、十徳ナイフを振り回して太いロープにその刃を突き立て切り刻もうとした。
しかし、メインの太いロープには僅かな傷しか付けられずにいた。
無限一刀流無双乃介の必殺必中の剣技「鉄筋縦割り!(ほれ、割りばしでござるよ)」でも切れないのだから、中尉の十徳ナイフ技「ハチドリ」では尚更である。
だが、中尉は僅かな希望に縋り諦めない。
地味でもできる事から始めるのであった。

その攻撃の間も一夜陣は破壊が続き、徐々にその位置を変えていた。
「ハチドリ」を繰り出しつつ中尉は胸元から取り出したジョーズ入歯を上手に使ってもみたが、ロープは上手に咬み切れずかすり傷しか入らなかった。
噛みつき切断は困難であった。
だが中尉は諦めていない。
ここで諦めたら負けだと考えていた。

その中尉に呼応するかのように七本槍も本業の槍を捨て置いて網の切断に加わった。
ここに七本槍の中の元新米村民兵は得意にしていた槍を捨てる事に躊躇った。
まるで戦場の真っただ中でそれも敵に相対している最中に武器も防具も捨てて裸になるような気分だからだ。
他の七本槍達がロープを切断するべく飛びついたのを見て初めて、元新米村民兵も今はこの邪悪なロープを何とかしなければならないと感じ、始めて先輩を真似て槍を投げ捨てて無我夢中でロープに飛びついた。
時間差に新旧の経験の差があった。

残った第7騎兵達もそれぞれが爪切りやディナーナイフを振り回して、それぞれが網を切り裂こうと、またロープを切断しようとして襲い掛かった。
第7騎兵の馬達も同様に彼らの持つ凶悪な歯を存分に振るった。
彼らの行動力を掻き立てるかのように、歯が欠けて切れ味の衰えた十徳ナイフを中尉は鬼の形相で振りかざしてはロープに激しく突き立てる。
ロープと闘う第7騎兵達にはそれが後光が差している戦神に見えた。

元新米村民兵の七本槍は、成す統べなくロープにしがみ付いて振舞わされているだけであった。
ロープを断ち切る得物を持っていなかったのだ。
そこで、よくよしがみ付いているロープ全体を見てとると、2本のメインロープを蛮族達が引いているのが見て取れた。
新米の七本槍は今まで同様に唯の「綱引き」ではないかと気が付いた。
ならば、今までの綱引き合戦の要領で対抗できると新米の七本槍は考えたのである。
そこで、仲間に声を掛けてロープや網の一部、特にメインロープを掴むなり、仲間と共に思いっきりそれを引き戻そうと引っ張り始めた。
それに呼応し、もう一旦のロープにも騎兵達が集まり引き始めた。
リーダへの道を歩み始めた元新間村民兵の七本槍がそこに居た。

巨大な網の重さ。
一夜陣の思った以上の骨格の頑強さ。
第七騎兵達や騎馬によるロープの切断。
その上さらにロープを引き戻そうとする抵抗が始まって、ロープを引いていた数では勝る北方蛮族の足を鈍らせる。
底引き網モンスターも一夜陣の全てを引っ掛けてアラモフヶ丘から一掃しようと引き摺り落とす勢いがここで鈍る。

だが、こういういった事態に備えてブラックケトル酋長の作戦には一つのオプションがあった。
敵の抵抗が激しく自軍が負けそうになった時に使うオプションである。
酋長はそのオプションを迷う事なしに繰り出した。
それは底引き網の威力の総仕上げとして残った兵を使って網を背後から押す、つまり追い討ちの追い押し「これが最後だよ。押して、圧して、推しまくれ。」作戦であった。
ブラックケトル酋長の教養が見え隠れするオプション名ではあるが、ここではそれを追求することなく無視する。
むしろ、酋長の期待の通りにこのオプションが虚しく遂行されなかった事が重要であった。

一夜陣と網との間に割り込み、体を張って一夜陣からの視線を遮って網を隠すことに従事していた北方蛮族が居た。
そして、「何でもかんでも底・・(以下略)」作戦開始と共に網に巻き込まれない様にとその場から網の外へと慌てて逃げ去った。
逃げ去ったはずであった。

ここに、運悪く逃げ遅れた北方蛮族が居た。
蛮族は当然の様に底引き網モンスターに絡み取られて悲鳴を上げながらも網から逃れ出ようと必死に藻掻いた。
無事に避難した蛮族達が胸に手を当ててその命運を祈りつつも、胃や腹に手を当て苦しそうに笑いを必死に堪えながら逃げ遅れた犠牲者を眺めている。
しかし、この不埒な笑いもたったの一コマで恐怖へと変わるのである。

蛮族は絡み取られた網と一夜陣の残骸の山の間に挟みつけられて残骸表面に固定されている。
挟んで離さないのは屈強な北方蛮族が網をグイグイと引く力であった。
残骸の壁に練り込めと言わんばかりに押し付けられるので、その拘束を免れた片腕を除いてほぼ全身の動きが取れなかった。
さらに、屈強な北方蛮族はアラモフヶ丘を引き釣り落とそうとして力一杯に網を引き続けるのである。
強く押さえつけてくる網目が体にめり込んで喰い込みが際立つ程に蛮族の体をぐいぐい押さえている。
一介の、それも平均値でほぼほぼの普通の力ではその屈強な北方蛮族達の合力に抗える筈などど無い。
骨の折れるような軋み音を体中から立てながら、悲運な蛮族の意識は次第に遠のいていく。
悲劇の北方蛮族の自由な片腕が網目から真一文字に突き出され、助けを求めるかの様に何も無い空間を掻きむしって最後の足掻きをしていた。
そしてついに、その網の圧に堪りかねた蛮族は辺り一面に鼻血の雨を降らせながら意識を失ってしまうのである。

意識が完全に失った後も、突き出された蛮族の腕はまるでそれ自体が意識のあるかの如く網の揺れと共にゆっくりと上下し、手首もそれに合わせて上下する。
まるで仲間を手招いているようにゆっくりと上下に揺れているのだ。
蛮族達にとってその姿は白鯨の巨体に貼り付いたエイハブ船長が捕鯨船ピークォド号の船員を手招きするかのようであった。
北方蛮族達にとっては、船長がゾンビと入れ替わっており、生きた血まみれの脳みそ(鼻から鼻血と共に流れ落ちた鼻糞の塊であるが)を啜りながらも新鮮な脳みそを求めて仲間を呼ぶ姿という風に見えていた。

「これが最後だ・・(以下略)」作戦で待機していた第1高歌猟犬兵軍の蛮族兵はこの怖ろしい光景に二の足を踏みその場から身動きできない。
アラモフヶ丘一夜陣の残骸の揺れに応じてゾンビの灰色がかった白目が不気味に蛮族兵を睨ら見回してゆく。
ゾンビの呼ぶ腕のゆっくりした手招きに蛮族兵は心底から震えあがってその場を動けないのだ。
その場から前に出ない代わりに蛮族同士で一番乗りを静かに体で押し合い一番乗りの名誉を押し付け合っていた。
ブラックケトル酋長ですら巨体の蛮族兵の影に隠れ、「行け~、行け~。行くのだ。」と小声で第1高歌猟犬兵軍に指図をしているだけであった。

アラモフヶ丘でモンスター網と奮戦するランカスター中尉にとってはこのゾンビ出現は幸運であった。
ここで、酋長の思惑通りに「これが最後だ・・(以下略)」作戦が始まっていたら、ほぼ確実に一夜陣の最後になっていたに違いなかったのだ。
その為に「マルケットベルト作戦」も風前の灯となり、最終的には第3次全村大戦は終わらないのである。

「これが最後だ・・(以下略)」作戦が使えないと知ったブラックケトル酋長はこれで決着をつけるとばかりに次のオプションを繰り出した。
一部隊を統率するだけの事はあって、ブラックケトル酋長はメインとする作戦に様々なオプションを準備しているのだ。
「儂、偉い。」というだけの実力派なのである。

ブラックケトル酋長は網を引く北方蛮族に熱い応援する為の準備を始めた。
チアガール(実はチアボーイ)を第1高歌猟犬兵軍から選抜収集して、チアガールに仮想したうえ化粧までして盛大な応援に当たらせたのである。
チアガールに扮した北方蛮族が剥き足でドスドスドスっと地を響かせながら踊りを始め、だみ声の黄色い声援を揚げる。
真っ赤に塗りたくった唇を窄めて綱を引く仲間に熱いウィンクを送る姿はある意味で壮観であった。

しかし、これは逆効果であった。
小刻みに震える顔面蒼白の北方蛮族が身を硬直してメインロープに掴まったままアラモフヶ丘に引き戻されていく。
引き摺られた後には震えだけでは済まされなかった無意識体が点々と転がっていた。
本能的にメインロープを手放して逃げ去って行く北方蛮族も多数出た。
北方蛮族側の戦意喪失と戦力激減、加えて第7騎兵達の粘り勝ちで何本かのメインロープが引き戻されてゆく。
意識の無い巨体の後ろに隠れ、酋長は何とか意識を保つ事が出来ていた。
気を取り直すにはかなりの時間を要してしまい、「即刻、中止」命令は出せずにいた。

ブラックケトル酋長の不幸は続き、ランカスター中尉の幸運が続く結果となった。
嵐が吹き荒れたかのような「これが最後だ・・(以下略)」作戦が終わったのである。

作戦終了後、嵐が過ぎ去った後、破壊された一夜陣は残されたロープで補強された。
そして、歪な形となってはしまったがアラモフヶ丘には一夜陣が残ったのである。
アーネム第7騎兵隊も半分以上は戦力を失ったが、ランカスター中尉ともどもまだ健在であった。
対する第1高歌猟犬兵軍も回復アイテムでは回復不可能となった蛮族兵が累々とアラモフヶ丘麓に転がり、その戦力は半分となっていた。

アラモフヶ丘のアーネム第7騎兵隊の熾烈な戦いは続くのである。

-- 灰色猫の大劇場 その28 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
再び参上した金色の長い鎖が付いた黒縁の片眼鏡を付けた狐が柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前に放火兎が居た。

放火兎は高級ライター「イム・コロナ」の炎を点けたり消したりしている。
目が虚ろで尋常でない。口端から溢れた涎が尾を引いて床に向かって垂れている。
かなり「やばい奴」と心の中で舌打ちする灰色猫。
放火兎がおもむろに前進し、「イム・コロナ」の炎を点けた。
灰色猫も「ジッポー」の炎を灯して対抗する。
炎と炎が重なり合い、炎上する。
狐が葉巻にその炎を使って灯し、うまそうに一服する。
「いや~。君たち、ご苦労であった。」
そう宣って満足げに立ち去る狐。

その揺れるふさふさの尻尾に二つの火炎が滑るように追っていく。

--続く
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
この物語の著作権はFreedog(ブロガーネーム)にあります。
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Posted at 2022/11/27 11:37:33 | 物語A | 日記

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