アフェト・ラ将軍様はこれら事態によって、自らの地位に真っ黒い影が差し込み、
進退が危ぶまれてきた事に焦り始めた。
村民に反旗を翻された独裁者の衰退は尋常ではないのだ。
D村門前に晒され、D村村民特有の陰湿でネチッこい突きまわしの
迫害を考えるとアフェト・ラ将軍様は鳥肌が立ち、悪夢に苛まれた。
そして、D村記念行事が開催され、この
閲兵式を覆いつくすように湧き上がったコナン元帥への大合唱にアフェト・ラ将軍様の我慢の緒が切れてしまい、その日を境に将軍様の黒い触手が暗闇で蠢いたのである。
その後、コナン元帥は悪い噂を流され、あらゆる奸計にあい、瞬く間にD村の未開拓地である
北方へ左遷されることのなるのである。
だが、渦中のケンメル・コナン元帥は「パシリ大戦車作戦」以降、闘争心を刺激するようなこれといった大きな戦いもなくD村で燻っていた。
アフェト・ラ将軍様の流す噂や奸計などコナン元帥とっては
どこ吹く風である。
むしろ、今までの武者修行と同様に強者の居ないこのD村から、そろそろ
腰を上げる潮時かと考えていたのである。
そこへ
北方討伐の噂である。
強者を望む本能がこの「北方討伐」という言葉に反応し、北方蛮族の荒っぽい闘いとその
尋常ではない強さの噂を聞くに至っては、俄然とその「北方」へ興味を示した。
このコナン元帥を立ち上がらせた北方蛮族の噂は以前からあったが、コナン元帥が興味を引くほどの大きな脅威としてではなかった。
だが、アフェト・ラ将軍様は北方蛮族の討伐にはコナン元帥を派遣しなければならない程の手強さであると印象付ける為に、この噂に幾つもの輪をかけて流していたのである。
その結果、アフェト・ラ将軍様の目論見通りにこの命令への反対の発言は無く、むしろ誰もが北方討伐の強者はコナン元帥以外にはいないとされたのである。
D村村民はコナン元帥の
活躍を再び聞きたかったのである。
こうして、アフェト・ラ将軍様が実質上の左遷となる命令書を携えてコナン元帥の
豪邸の前に立った。
豪邸の真っ黒い影がアフェト・ラ将軍様を意味深に覆っている。
今の地位から追い落としたうえ名声をも無情に剥ぎ取る為の左遷としか受け止められないこの命令書を前にして、愕然とし落胆し嗚咽で破顔するコナンの
姿を想像してニヤニヤと笑いながら館の重厚な扉をアフェト・ラ将軍様は圧し開けた。
豪邸なのにドアマンすら置いていないとは、これだから田舎者の成り上がりなのだ。
と、アフェト・ラ将軍様は内心で
卑下する。
そう思いつつも、足に縋り付いて命令の撤回を求める哀れなコナン元帥を想像してニヤニヤ笑いは果て無く続いた。
しかし、そのドアマンどころか豪邸の中は全くの
もぬけの殻であった。
既に北方にケンメル・コナンが
旅立った後であった。
あらゆるトレーニング器械がいっぱい詰まっているコナンの部屋で、その事実を知った唯一人アフェト・ラ将軍様の苦渋に歪んだ顔がいつまでも残されていた。
その左遷された北方においてコナンはD村の元帥としてではなく、武者修行ケンメル・コナンとして目覚しい活躍をするのである。
つまり、北方蛮族の強者を次々と倒し、その結果として北方蛮族らに崇められるようになっていたのである。
この闘争の過程で、どこそこの蛮族をいかにして倒したかなどという
強者物語が尾鰭を追加した噂となってD村へ一つ一つと流れてきた。
D村村民はそれらの噂に耳を傾け
有頂天になった。
進まないB村攻略に相反し、次々ともたらせるコナンの北方での勝利が、アフェト・ラ将軍様の人気は再び下降線に変わった。
噂があるレベルを超えた時、D村村民は北方地帯はすでにコナン元帥によって平定されていると思い始めた。
それならば北方の憂いも消えたのだから
コナン元帥を呼び戻してB村攻略に充てるべきではないかという意見をD村村民は口々に語り始め、声を上げ始めたのである。
アフェト・ラ将軍様は自らの権力を押し潰すこれら北方からの噂を断ち切る手立てが無いかと深く悩んでいた。
そこへ、ドナール・ド・ランプの甘い言葉で北方との間の
「壁」の提案がなされたのである。
その計画を聞いたアフェト・ラ将軍様は直ぐに飛びつき、ドナール・ド・ランプの掲げた
「テラ里の長城作戦」を直ぐに承認したのである。
壁の建築費は北方蛮族から徴収すれば良いので、費用に関する反発の声は上がらない。
さらにそれはある意味、
日常業務の一環として勝手に処理できるのだ。
当然、議会の審議は必要なく
秘密裏に行うことができる。
そして、
「テラ里の長城」完成の暁には北方との交流は将軍様に管理された形となる。
断絶も交流も思いのままである。
こうなると、必然的に
都合の悪い噂は流れてこなくなる。
後は、目の前の瘤であるコナンが北方蛮族の反撃にあい、その負けっぷりを恥じて北方からどこか遠くの見知らぬ地へ尻尾を撒いて逃げていったという自らが流した噂だけが残る。
その結果、村民の目は再びアフェト・ラ将軍様に向けられ、その威光に平伏すことになるのだと、アフェト・ラ将軍様はニヤついていた。
だが、・・・・。
-- 灰色猫の大劇場 その5 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
通りすがりの神様が柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前に床に額を擦りつけて土下座した
稲葉のバニーガールが居た。
灰色猫の目は稲葉のバニーガールから離れない。
通りすがりの神様が袂に隠し持った
吹き戻しを取り出し、口に咥える。
吹き戻し、いわゆるぴろぴろ笛や巻き笛と呼ばれるもので、とぐろを巻いた先端が息を吹き込むことによって音を立てながら
真っ直ぐ伸びる構造になった笛である。
そして、通りすがりの神様の取り出したぴろぴろ笛の先端には
麻痺薬がたっぷり塗られた針が仕込まれている。
息を吹き込み、先端が稲葉のバニーガールに気を取られている灰色猫に向かって延びる。
だが、そのぴろぴろ笛は10cmしか伸びなかった。
届くはずがないが、神様だけに準備の怠りはない。
背負った
全長5mの第2のぴろぴろ笛を抜き出して通りすがりの神様は口に咥えて構えた。
距離良し。心内で念を押す。
一気に息を吹き込み、先端の針が灰色猫めがけて突き進む。
だが、通りすがりの神様は
肺活量が無かった。
ぴろぴろ笛は柳の枝の様にだらしなく撓垂れてしまった。
やっと通りすがりの神様に気がついた灰色猫が同様の長さのぴろぴろ笛を玉座の裏から取り出す。
灰色猫のそれの先端には針ではなく丸い鉄球が嵌め込まれていた。
そして、息を吹き込む。
その後、鉄球に額を打ち据えられた通りすがりの神様が柱の影で
大の字に倒れていた。
ふん!未熟者め。灰色猫の目が語っていた。
--続く
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