
やっと乗れました、スバルBRZ。通常のプレス試乗会は催されず、試乗機会を模索している内に86の試乗会から一月近く過ぎちゃった。巷ではトヨタ派とスバル派が血で血を洗う凄惨な抗争を繰り広げ、世論は真っ二つに割れているというもっぱらの噂……って本当? いや、仮にそうだとしても、関心ないなあ俺。
それぞれにファンが存在する異なるブランドが、画期的な共同開発を行なった。贔屓筋としては自らの拠って立つところが揺らぐ感じがして、相手を嫌悪の対象として受け取らざるを得ないのかもしれないけれど、その尻馬にメディアやジャーナリストが乗っちゃあまずいだろう。
winwinコラボを目指したとトヨタ/スバル両開発陣が言っているのに、直接参画していない人々が贔屓の引き倒しに回ってしまっている。両メーカーにもそういう人はいるし、メディアにもユーザーにも存在する。
僕は正式発表前の、初乗りからいわゆる事前試乗会までの間に得た印象と正式発表してからの評価評論とは最初から分けるつもりでいました。サーキットなどのクローズドコースにおけるダイナミックパフォーマンスを中心とする評価は、エンターテインメントとしては面白いし、FRスポーツカーというジャンルの性格上興味の焦点であることは間違いありませんが、そこだけがクローズアップされてもつまらない。
そんな理解から、あえて抽象的な表現で86とBRZの個性を端的に語ることにしました。その結果が、分かっているトヨタと分かっていないスバルという言葉遣いでした。FRの本質をどう捉えるか。ここは突き詰めると走りの自由度、コントロールの幅という枠組みの中にあるドリフトに行き着かないと、何のためのFRという問いに答えられなくなります。
FFやAWDの価値観を持ち込むなら、あえてFRなんかに手を出す必要なんかない。相対的な差異に価値を認め、それぞれの利点や美点を伸ばすという発想なしに、与えられた条件をパワーソースやアーキテクチャーが自前だからという理由だけでオリジナルの如く言い募るのはフェアではない。
そもそも富士重工スバルには、水平対向4気筒エンジンでFRを作るという発想自体が微塵もなかった。その事を知れば、企画が持ち込まれたので嫌々やってみたらこれが思った以上に良かったので、自分たちの手柄にしよう……みたいな話には簡単には乗れません。
誤解されると困るのですが、スバルの技術力、開発生産の力量、エンジニアの優秀性はかねてより高く評価してきました。限られた条件下でハードウェアをきっちりまとめ上げた実力は、これがスバル単独のオリジナルだったらコスト割れしたと思える部分を呑み込んでもなお、評価されると思います。
今回は新宿のスバル本社から甲州街道~環八~東名用賀~東名厚木~西湘バイパス~箱根旧道~ターンパイク~三島~新東名御殿場~246~東名厚木~用賀~環八~新宿と約300㎞をビュンと走り回ってきました。
モデルはSの6速AT。それしか空いていないというので手を打ちました。今回は17インチのセットアップが最大関心事。86で"う~ん"と思った点がBRZではどうなっているか?
上はBRZ・S17インチ6速AT、下は86・G16インチ6速MT
結論から言うと、ショールームストックの状態でそのまま乗り始め、しばらく手を加えないという前提ではスバルBRZのほうが幅広いユーザーに対応すると思う。
スタビリティのレベルは86もBRZも同等といえるが、86はブレーキングの荷重移動やスロットルコントロールとステアリングを連動させてヨーイングモーメントをハンドリングに取り込もうという、FRなら当然そう考えるべき思想を開発陣が共有して作りこんでいる。
これに対し、BRZはリアタイヤがスライドすることに対して慎重だ。前後荷重移動やステアリングの素早い切り込みによる影響が極力発生しないセットアップにこだわり、ステアリングを切ったなりにスムーズに曲がるリニアな応答性に注力している。
ステイブルなオンザラインのトレース性は、ワインディングを速く安定してスムーズに駆け抜ける能力という点で光る。洗練されたスピードを求めるならこっちだろう。
86は、たとえばTOYOタイヤ(箱根)ターンパイクのような屈指の高速ワインディングルートを、サーキットイメージで走らせると、ややリアタイヤのロードホールディング性がナーバスとなり、全開モードでは思いのほか緊張感の高い乗り味になった。
これはランニングインに約5000㎞を要し、そのあたりからダンパーがスムーズに機能するように調整されたセットアップの影響を考慮する必要がありそうだ。同じサイズのミシュラン・プライマシーHPを履くが、86の試乗会におけるテスト車はいずれも走行距離が3桁に留まる卸したて。縮み側のフリクションと伸び側のダンピング不足はヨー慣性モーメントをできるかぎり積極的にハンドリングに取り込もうという開発意図と衝突する。
ま、原因が特定できるものであり、向かう先と想定している速度レンジを考えれば納得は行く。イニシャルの走りのキャラクターがそこにあることを理解し、その個性を伸ばす方向でチューニングアップすることが86に貫かれたベースコンセプト。
この走りのキャラクターは消すと何処までも続くパワー競争の無間地獄に陥ってしまうもの。FRならではのスロットルコントロールを極めるためにも、ここは削ってはならない重要なポイントだ。
幅広いスピード領域で、単にパワーに依存せずに操る楽しさを追求し、他では得難いカタルシスを得るか。繰り返すが、その発想を持たないと、クルマはどうしても300㎞/hオーバーのバーチャルな領域に突っ込んで行ってしまう。
スピードは決定的ともいえる魅力の原点だが、そろそろリアルワールドでの楽しみという現実的な話に戻さないとクルマがどんどん身体から離れて行く。それに気づいた時、FRとドリフトの意味は身をもって理解できる。僕はずっとそう考えて生きてきた。
86とBRZ。プライドを掛けたようなブランドの意地の張り合いが、結果としてFRの魅力を再発見するきっかけになっている。やっと、語れるFRがひとつ加わった。もっと軽く小さく速くないクルマが出てくると、話しがもっともっと膨らむんだけどな。
ちなみに、今回のBRZの燃費。280.7㎞走行で23ℓ消費。12.20㎞/ℓはほぼJC0812.4㎞/ℓに相当する結果。スポーツカーが生き残るには、ECOカーが慌てるような高効率は最大限追求されていい。アイドリングストップやエコモードに対応する可変デバイスなども検討されてもいいと思った。全開走行を心置きなく楽しむセンスが、これからのスポーツカーには必要だ。
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2012/04/20 23:59:11