
乗りませんか? 日産広報部から案内をもらったのは4月の上旬だった。
なんでも、高価なクルマ(1575万円)で1台しか広報車両として用意できない。よって、メディアへの貸出し以外に機会を設けることが難しい状態だ。それでも、そっち系のジャーナリストには乗っておいてほしいので、スケジュールを空けてください。
まだ走り屋系に入れてもらえて光栄とは思ったけれど、4月はNY、上海と予定が立て込んでいた。結果、連休明けの翌週末とあいなったわけです。
18日は亡母の三回忌。これで行くのも"らしく"ていいかと思ったけれど、Vスペはリアシートのクッションを省略した2シーター。結局この日は触れずだった。実質2日強の借用時間でどれだけ試すことができる?
でも、せっかくのチャンスなのでナイトドライブで東名~小田原厚木~箱根旧道~国道一号線……とほぼすべての走行条件を試すことにしたわけです。
そのインプレッションは、端的に言ってポリフォニーデジタル的。GT-Rそのものにはドイツでアウトバーンも経験している。右ハンドルで速度無制限に挑む感覚はかなりシュールなものだったけれど、100㎞/hの法定速度が施行されている東名で味わうVspecも現実感がないなあ。基準車よりもさらに……という触れ込みの1575万円をそれなりに試す行為は相当バーチャルな経験であるわけです。
近所の狭い路地をのしのしと押し出すVスペはどのように映ったか。もちろんふつうに走らせた時のGT-Rは、ふつうのクルマとして扱える。その点ではVスペもそう変わらない。
パワースペックは基準車と同じ。ただでさえ比較対象を見つけるのに苦労するスピードの持主だが、Vスペは過渡領域のトルクをより強くスムーズに提供するハイギャードブースト(+2kgf-mの最大トルク62kgf-m=608Nmを約80秒間作動)を装備する。その使用状況を公道上でイメージすることは現実的ではないだろう。
だってそのままでも100㎞/h巡行からフルスロットルを与えると、イチ、ニィ、サンぐらいの呼吸でリミッター作動領域に飛び込んでしまうんだから。
ビルシュタインのモノチューブダンパーに換装されたサスはガッチリ固められている。60㎏の軽量化の効果をリアルに実感することは難しい。世界最強と豪語するカーボン・セラミック(ディスクローター)ブレーキは強力だが、比較対象となるクルマとシチュエーション選びに苦労する。
今走らせている状況はリアルなのだが、それを評価するこっちの頭と身体がバーチャルにならざるを得ない。
去る4月23日に09モデル(標準車)がニュルブルクリンクで7分26秒70のレコードを樹立したというリリースが5月14日付けで配布された。このことを具体的なイメージとして捉えられる日本人は多分100人に満たないと思うが、多くの人がそれは凄いことだと頭から信じている。
たしかに凄いことではあるんだけど、わざわざ他国の人々が育んできた聖域に乗り込んで、ホームコースのアイツよりも俺のほうが速いと言うことで、やっと自らのポジションを見つけ出す。ポルシェがいなかったら何て言う? 自前のホームコースで鍛え上げて、これでどうだ!!というなら分かるけれど、自分では何も決められない。
中国メーカーが日本に足繁く通って、西仙台あたり(日産のホームコース?)でGT-Rより何秒速いなどと言いだしたら、どう思うだろう。
GT-Rが素晴らしいパフォーマンスを持ったスーパースポーツであることは誰でも知っている。楽しそうに開発に取り組む技術陣の活きいきとした姿の映像を目にするたびに、充実しているだろうなあ。現代のお伽話にも似た境遇を提供した開発責任者のロマンティックな取り組みには敬意を表したい。
でも、クルマの進む方向はこっちかね? 月産30台しかできません。平気で言うことを許されたマスプロメーカーのエンジニアはそうはいない。
GT-RもVspecもある意味で非常に魅力的なクルマだ。否定することが難しい。しかし、魅力的であるという事実が、それに変わり得る有力な価値観の提示を困難にしている。ここは重要なポイントだろう。
走らせると物凄く刺激的で、優越感が得られて、乗りこなした達成感の充実を覚えるのだが、うっかりすると片手の燃費がやっと。200㎞走って40ℓに迫る燃料を呑み込む現実は、プリウスが生活の一部に加わって6年近い身体には受け入れがたいものがあった。
折しも、返却の日はお台場のMEGA WEBで3代目プリウスの発表の日。Vspecの対極にいるプリウスの晴れの舞台にオラオラ感で乗り込む状況設定がおかしかったが、果たしてこのような幅広のブックエンド状況がいつまで続けられる?
答を持っている人、いますか。
撮影しながら何か唄ってますねぇ(笑い)↓
Posted at 2009/05/22 10:34:15 | |
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